Linked Horizon×石川由依|「進撃の巨人」と愚直に向き合った10年間

テレビアニメ「進撃の巨人」シリーズが、11月4日放送の「『進撃の巨人』The Final Season完結編(後編)」をもって10年の歴史に幕を下ろした。

壮大なドラマの結末に音楽で華を添えたのは、Season 1前期のオープニングテーマ「紅蓮の弓矢」以来、「進撃の巨人」に数多くの楽曲を提供してきたLinked Horizon。完結編(後編)の主題歌「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ・・・」、さらには完結編(各話版)のオープニングテーマと、Linked Horizonはアニメの完結にあたり2つの新曲を書き下ろした。魂を揺さぶるシンフォニックなサウンド、レクイエムのように沁み入る歌声。唯一無二の“リンホラ節”は、きっと長年の「進撃」ファンに大きなカタルシスを与えただろう。

音楽ナタリーではLinked Horizon のRevo 、そして「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ・・・」にボーカルとして参加しているミカサ・アッカーマン役の石川由依にインタビュー。最終回を迎えた感慨や、作品に込めてきた熱量を語ってもらった。

取材・文 / 冨田明宏撮影 / 藤木裕之

「進撃の巨人」と過ごした10年間

──テレビアニメ「進撃の巨人」がついに完結を迎えました。10年以上の長きにわたり作品に携わってきたお二人に伺いますが、今はどのような感想をお持ちでしょうか?

Revo やはり感慨深いものがありますね。僕は原作ファンとして、先にマンガが完結するという一大イベントを経てここにいるわけだけれど、どんな形でもアニメが完結するまで応援したいと思っていました。終わってみて改めて思うのは、命を散らした作品だったなということです。

石川由依 本当にそう思います。すべてにおいて命を散らしている、というか。

Revo 作中の登場人物たちもそうだし、それを演じる声優の皆さんもね。

石川 現実世界でアニメを動かす、いわゆる“作画兵団”の皆さんも、命を削るような思いで取り組まれていましたし、もちろん主題歌を手がけたRevoさんも同じだったと思います。

左からRevo(Linked Horizon)、石川由依。

左からRevo(Linked Horizon)、石川由依。

──作品を通して観ると、石川さんはミカサを最後まで生き抜いたような印象もありますが、いかがでしょうか。

石川 実際にアフレコをするときまで、どんな気持ちになるのかわからなかったんです。最終回の収録日の直前になっても「あれ、私って意外と平気なのかな?」みたいな気持ちもあったりはしたんですけど、実際に収録日を迎えると、やっぱりこみ上げてくるものがあって。特に完結編の後半は梶裕貴(エレン・イェーガー役を担当)さん、井上麻里奈(アルミン・アルレルト役を担当)さんと3人で収録することができたのですが、なんかもう……ミカサの気持ちでいなければならないし、ミカサが泣いていないのなら私が泣いてはいけないんですけど、どうしても10年間やってきた自分の気持ちがちょっと混ざってしまって。涙をこらえるのが大変でしたね。

──そうですよね。

石川 気付いたら涙が流れていた、そんな感じでした。アフレコが終わったあともこらえられず、言葉も出ないみたいな状況になって。それだけ一生懸命、10年間やってきた重みというか、自分でも無意識にミカサやエレンからいろんなものをきっと受け取っていて、その喪失感というか、寂しさがあふれたんでしょうね。

Revo 僕も長年にわたり生活の一部にもなっていたものが終わってしまうという寂しさはもちろんありましたが、それと同時に「ついに完結を見届けた」という気持ちが強くありました。ようやくここまでたどり着いたのかと。エンタメの消費スピードが速い昨今、長期間にわたり1つの作品を原作通り最後までアニメで完結させることって、とても尊いことだと僕は思っていて。やっぱり「進撃の巨人」の完結を見届けさせてもらえたのは、ファンにとって最大のプレゼントだったと思います。

ミカサとして、石川由依として

──お二人がおそろいですので、やはり完結編(後編)の主題歌「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ・・・」のお話から聞かせてください。

Revo この曲にはいろいろな思いを込めているのですが……この曲に関しては、まずあのラストシーンの映像が先にあって、そこに音楽やエンドロールを重ねていくという順番だったので尺がはっきり決まっていたんですよ。

──なるほど。いわゆるフィルムスコアリング的な制作の方法で?

Revo そうです。従来の主題歌とは作り方が全然違う。通常は我々が作る曲が先で、それに映像を付けてもらっていたわけですけど、今回は逆なんです。過去にも一度だけ「自由の代償」という曲をその手法で作ったのですが、そのときの経験が確実に糧になっているなと感じました。それも「進撃の巨人」が内包する歴史の一部です。持てる力のすべてを注ぎ込み、より高い精度で映像と物語に寄り添える音楽を目指しました。そしてあのラストシーンに「どういう曲を付けるか」という、音楽的な演出の裁量を任されていたわけなんですが。シーンの前半はミカサがフォーカスされているので、僕としては以前に石川さんに歌っていただいた「13の冬」という曲……まあ、この曲は僕が勝手に「ミカサ・アッカーマン」をイメージして書いた非公式ソングではあったんだけど(笑)、すさまじい情緒で彼女に寄り添える曲だと思っていたので、このメロディを持ってきたいなと。そうすると、歌ってもらうのはやはり石川さんしかいない。この純度でミカサの歌を歌えるのは世界にたった1人、彼女しかいないので。

──「暁の鎮魂歌」「紅蓮の弓矢」など、過去にRevoさんが手がけていた「進撃の巨人」楽曲のフレーズが登場するのも感動的でした。

Revo 僕の裁量に任されたラストシーンで、最重要人物の死がやってきた。それなら“鎮魂歌”を捧げるべきだと思いました。「13の冬」もそうだけど、僕なりの伏線回収というか、種は蒔いてきたからね。最初から最後まで新しいメロディで終わらせることもできたけど、今まで自分たちが作ってきた、「進撃の巨人」と歩んできた歴史などのすべてを大事にして最後を迎えたかったんです。あまり語りすぎると曲と向き合って発見する楽しみを奪ってしまうかもしれないからこれくらいにしておくけど、僕なりの思いはこの1曲の中に込めてあります。

Revo(Linked Horizon)

Revo(Linked Horizon)

──石川さんはRevoさんからのオファーをどのように受け止めましたか?

石川 まず純粋にうれしかったです。「13の冬」のときもそうでしたが、Linked Horizonに参加できる喜びもありますし、今回は特に最後の最後を飾る曲ですからね。しかも自分にとって本当にミカサとしてのラストになる大切なシーンにピッタリと寄り添う曲でしたから。その分勝手にプレッシャーも感じていました。「失敗できないぞ……!」って。自分の中でベストな状態で臨みたいという気持ちがあってレコーディング当日を迎えましたけど、Revoさんがすべてディレクションしてくださったので、お任せするような気持ちでいましたね。ラストシーンではもちろんセリフも入るけど分量としてはすごく少なく、いわば行間がたくさんあるシーンで。「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ・・・」はその情景を少し俯瞰して説明してくれているような曲。ズバリ言うと、Revoさんはこの曲で泣かせにいっているわけですよ。

Revo すごく率直に言ってくれたけど、その通りだよね(笑)。あのシーンを観ている人の心にダイレクトアタックしてやろうという気持ち。本来ならば映像とセリフの行間だけで成立するシーンなのかもしれないけど、「ここに曲を入れてください」というオファーをもらったからにはね。

石川 それが絶妙にうまくハマっているというか。劇中でミカサは直接その言葉を言っていないんだけど、そう思っていても不思議ではないっていう。最初に歌詞を受け取ったときは「こう来たか」と思いました。「これは泣いちゃうよ」って。

──すべてをミカサの手で終わらせたあとですからね。

石川 はい。「悲しいけれど、やったのは私だから」って。あのラストシーンとピッタリ重なる時間というより、時間が経てば気持ちの整理もついてくるけど、それでもやっぱり整理が追いつかない……みたいな、そういう要素を歌詞から感じ取りました。だから感情をダイレクトに出すほうがいいのか、あえて引いたほうがいいのか、自分の中でその距離を探っていくような感じで。昔の出来事として思い浮かべながら、少し心に蓋をしているような歌い方のほうがいいのかな……とか、レコーディング前はかなり考えていましたね。

──まるでアフレコに臨むような?

石川 そうかもしれませんね。最終話のアフレコのときに井上(麻里奈)さんとも話していたんですけど、「ここまで来るともう正解がわからないね」って。いくら練習しても「これが正解だ」って自信を持って言えるものもなくて。だからもう、あえてあまり練習をしないでアフレコに臨んだりもしていて。そのときに感じた気持ちに寄り添うようなイメージで演じようと思ってやっていましたけど、レコーディングも自分の中で正解が見つかるものではないので、あとはRevoさんにお任せしようと思いました。

石川由依

石川由依

──Revoさんは石川さんの歌をどのように受け取りましたか?

Revo やっぱりミカサの気持ちが乗っていたように感じました。ただ、その感情を聴く人にどれくらい押し付けるのか、その距離感の難しさはありました。僕なりに正解を導き出したつもりではいるけど、そこはすごく難しい。歌として、芝居よりはもちろん引いた表現なんだけど、いわゆるJ-POPと比べたら激しく感情が入っているし、そのさじ加減については、Sound Horizonで“物語音楽”を作り続けてきた僕なりの方程式で正解を導き出しました。映像本編の物語にとっても、楽曲にとっても一番ちょうどいいストーリー性が生まれるバランスを狙っていきましたね。

──ミカサの歌でもあり、ミカサを演じてきた石川さんの歌でもある、という絶妙な表現の差を個人的には感じました。

Revo そうかもしれないね。石川由依は世界で一番ミカサ・アッカーマンのことを理解している人であり、「二千年… 若しくは… 二万年後の君へ・・・」はその石川由依があのラストシーンに向けて歌った歌。紛れもない物語音楽。愛を持ってキャラソンと呼んでもらってもかまわないのですが、ひと言でラベリングするのは乱暴になるような文芸性を彼女の歌に感じます。