音楽ナタリー Power Push - LILI LIMIT
フロントマンが語る“練習曲”ができるまで
アイロンがけで思い出した昔のこと
──ちょっと背中を押せる曲っておっしゃいましたけど、「at good mountain」がまさにそれですよね。歌い出しはネガティブだけど、最後の4行の歌詞(「シワのついたシャツを伸ばす / 伸びためた前髪を切る / すると視界は広がって / ほんの少し悩みは消えた」)に救われます。
実は最後の4行は出てくるまでにけっこう時間がかかって。この最後の4行だけ歌詞がずっと出てこなくて、でもここの部分を大事にしていきたいなとは思ってて、だからか書いても書いてもいいのが出なかったんです。
──どうやって出てきたんですか?
まさにこの歌詞の状況になったんです。僕、普段アイロンがけとかあんまりしないんですけど、シャツを着るタイミングがあって取り出したらしわくちゃだったんで、アイロンで伸ばしてたら、過去のことを思い出したんです。昔、前髪を伸ばしてた時期があったんですけど、当時の自分はネガティブすぎて、家出とかもしてて。そのときに母が言ってくれたんですよ。「髪には邪気が溜まってるから、前髪を少しでも切ってみたら何か視界が広がっていろいろ見える世界も変わるかもしれないよ。1回お母さんの言うことを聞いてみてくれない?」って。そういう言い方で言われたのは初めてだったんで、ちょっと聞いてみるかと前髪を切ってみたんです。そしたらモヤっとしたものが全部晴れたんです。アイロンでシャツのしわを伸ばしてるときに、そのことを思い出して。で、そのまま歌詞にしてみました。
──まさにほんの少し背中を押してくれるエピソードですね。
はい、母はすごいなと思いました。
──サウンド面では中盤からコーラスが分厚くなって、どんどん壮大になっていきます。
曲の構成は土器が考えているんですけど、僕もそこは好きです。
──この曲に限らず、LILI LIMITの曲は女声含めたコーラスワークが特徴的ですよね。
LILI LIMITは女性が2人いるので、そこを武器にやっていこうっていうのはずっと前から決めてて。なので美しく聞こえるようには常に考えています。
──「zine line」は妙に具体的に状況が描かれていて、映画を観ているような感覚になりました。
この曲は弾き語りで作った曲で。「Girls like Chagall」のライブ会場限定CDに隠しトラックとしてこの曲を入れたんです。今回はバンドアレンジにしました。
──これはどうやってできた曲ですか?
友達にお互いに文句を言ってる同棲カップルがいて。僕は2人とも友達だから、彼女から「彼氏が家事をしない」っていう愚痴を聞いて、彼氏からは「そんなの聞いてない。言ってくれたらやるのに」って言われてたんですよ。彼女いわく、彼氏がくせ毛なんですけど、出かけるときにヘアアイロンでくせ毛を伸ばしてるんですって。で、彼女が「私がいるのに、ほかの人の前でオシャレする必要ある?」って言ってて。なんかその内容も面白かったし、僕が2人から愚痴を聞かされてるっていう状況も面白いから歌にしてみました。
小学5年生が口ずさめる曲を
──牧野さんの歌詞って、難しい言葉が出てこないですよね。選び方、並べ方は独特ですが。
歌詞では日常生活で人が話してる言葉をピックアップしてます。小学5年生くらいの子でもわかる言葉を使おうって思ってるんですよ。いろんな人に聴いてほしいし、小学5年生が僕らの曲を聴いて歌ってくれたらそれは理想的だと思って。SEKAI NO OWARIの「Dragon Night」とかみんな口ずさんでるじゃないですか。それがうらやましくて。
──英語詞から日本語詞にしたのも、その理由ですか?
それもありますね。日本人の8割くらいは英語がわからないじゃないですか。だったら8割に届く歌を歌おうと。
──カッコつけて英語で歌ってた人が、みんなに届くように日本語で歌おうって思うのって劇的な変化ですよね。そう思うようになったきっかけはなんだったんですか?
性格が変わったんですよ。昔はだいぶ尖ってたんですけど、上京するちょっと前くらいに、友人関係でいろいろあって、悪い部分がそぎ落とされたんです。僕のダークな部分がずいぶんなくなった。そのタイミングで今までの自分ってなんだったんだろうって思って、それを見つめ直したときに素直に生きようと思いました。
──曲を作る上で、ダークな部分がなくなると、それはそれで困るんじゃないですか?
そうですね。人から「ダークな部分は出したほうがいいよ」って言われて、心を痛めながら「Tokyo city club」とか書きました(笑)。「Girls like Chagall」みたいな、くすっと笑える曲を作ってるほうが楽しくていいですけどね。
アルバムに「練習曲」と付けた理由
──今作ではほとんどの楽曲がつながっていますね。
土器くんが曲をつなぐのがすごくうまいっていうのは知ってたんで、そこも僕らの武器の1つなのかなって思って、アルバム通してつなげようって切り出しました。ダイジェストも彼が作りました。
──アルバム曲がほぼつながっているっていうのはなかなかないですよね。
僕知らなかったんですけど、iTunes Storeとかでも1曲単位での販売になるので、曲の切り分けが面倒臭そうですよね(笑)。
──ははは(笑)。アルバムタイトル「Etudes」にはどういう意味があるんでしょうか?
「Etudes」っていうブランドがあるんですけど、ちょうどアルバムのタイトルを考えてるときに、Instagramにそのブランドのアカウントが出てきて「なんかいいな」と。「Etudes」には“練習曲”とかそういう意味があるじゃないですか。僕らだけで完成されてるものが誰かに届いたときに、お客さんがまた完成させてくれる、っていう意味になったらいいなと。今回のタイミングで僕らを知るお客さんが増えていくだろうし、増えていってほしいなっていう願いもあります。
──お客さんが完成させてくれるというのは?
音楽っていうのは誰かが聴かないと完成されないと思うんです。誰も聴かなかったら僕らのただのエゴなので。リスナーの声を聴いて、ああこういう答えもあったのかって受け止めて、ようやく1枚のアルバムとして命が宿ると思ってます。
──真っ白なジャケットもインパクトがありますね。
この真っ白なアルバムが、何色になっていくんだろうなって思ってます。可能性はいくらでもあるので。
──リリース後の目標はありますか?
とりあえずたくさんの方に聴いてもらいたいです。じゃないといいのか悪いのかもわからないですし。僕は自分の曲がすごく好きでいいと思ってますけど、いいって言ってくれる人がどんどん増えていったらいいな。長渕剛さんが富士山で10万人ライブやるじゃないですか(参照:「長渕剛、来年夏に富士山麓夜通し10万人ライブ」)。僕、あれを超えたいんですよ。で、考えたんですけど海にお客さんを乗せた船が何艘も並んでて、波に揺られながら僕らがライブをするっていうライブを1回してみたい。30万人くらいの規模で(笑)。
──それは山口県で?
山口でやりたいですね。琵琶湖一面でもいいですね。花火大会的な感じでできたらいいですね。あ、人の家にライブをしに行くのもいいな。そういうツアーもやってみたいですね。
収録曲
- Open
- h.e.w.
- Girls like Chagall
- at good mountain
- Tokyo city club
- in your site
- zine line
LILI LIMIT presents Etudes release tour 2015
- 2015年9月11日(金)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
<出演者>
LILI LIMIT / MAGIC FEELING / Lucky Kilimanjaro / palitextdestroy - 2015年9月13日(日)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
<出演者>
LILI LIMIT / asobius / and more - 2015年9月19日(土)東京都 WWW
<出演者>
LILI LIMIT / Suck a Stew Dry - 2015年9月26日(土)福岡県 Queblick
<出演者>
LILI LIMIT / QOOLAND / Suck a Stew Dry / about a ROOM
LILI LIMIT(リリリミット)
2012年に山口県で結成されたバンド。メンバーチェンジを経て現在は牧野純平(Vo)、土器大洋(G)、黒瀬莉世(B)、志水美日(Key)、丸谷誠治(Dr)の5人で活動している。自主制作CD「A-E」「modular」が残響shopで販売され、全国にその名を広めた。2015年4月にタワーレコード限定シングル「Girls like Chagall / RIP」を発売。同年7月8日に1stミニアルバム「Etudes」をリリースする。