ハッピーソングの職人

──ところで、今回の12組は過半数がフレッシュな若手アーティスト。結果的にそうなったのか、何かしらの意図があったのか、どちらだったのでしょうか？

宣伝力重視のテーマソングを作るなら、正直、知名度やプロモーション力というスペック上での“結婚”もあるじゃないですか？ もちろん、クリエイティブ的なシンクロもあるとは思うんですが。でも今回はそういうことを一旦度外視して、この映画の持ってるクリスピーな部分や新鮮な香りを表現してくれるアーティストを選んでいったら、結果、今の世代の方が多くなったということですね。ただ、世代を超えて伝えていきたいものも当然出てきますので、そこはキャリアのあるアーティストにお願いして……という流れもありました。

──制作中、アーティストの新たな魅力や可能性を発見したエピソードはありますか？

最後に発注させてもらったMAY'Sさんには、多幸感の極みというか、キラキラした幸せの極地のようなシーンをお願いしたんです。それは単純に多幸感あふれる（片桐）舞子さんのボーカルや歌い方が魅力的だったからなんですけど、実は「それだ！」って思ったときに僕の中にもうMAY'Sの別の既成曲が鳴ってたんです。で、これはエチケットとして絶対やっちゃいけないことなんですけど、彼らにはその曲を挙げてお願いしたんです。スタッフの中でもガイド曲として共有し合ってて、すごくいいねって話になってたので。

──なるほど。

でも、そこでMAY'Sさんのすごさを改めて実感することがあって。普通は自分の過去曲を言われちゃうと、それを超えるのが一番難儀なハードルになっちゃうんですね。ただ彼らはすごく短時間で、その過去曲を難なくクリアするものを仕上げてくださって。本当にその道のプロというか、ハッピーソングの職人だなっていうのをしみじみ思いましたね。

映画を超えて、楽曲単体としても長く愛されてほしい

──音楽が全部入って完成した映画を観たときは、いかがでしたか？

改めてポップスの力って偉大だなと思いました。僕は普段、インストゥルメンタルを使った映像の音楽表現もやってるんですけど、言葉や歌声、アーティストのキャラクターといった、いわゆる人間の力を改めて感じました。これは諸刃の剣で、映像と全然違えばケンカしちゃうんですけど、本当に魅力的なセンスを持った皆さんが素晴らしい曲を書いてくださったので。まずはその感謝を申し上げたい気持ちなのと、おかげ様で、普通にインストゥルメンタルで仕上げたものには到底及ばない説得力というか、パワーが生まれたなっていうのは強く実感してます。決して形だけのタイアップではないものになったなって（笑）。

──そんな映画を彩る曲たちが1枚に収まったアルバムには、今、どんな思いを抱いていますか？

今回に関しては、アーティスト側が皆さんに聴かれて歌われて一人歩きしてくれるような力のある曲を生み出すための動機や導火線にしてもらえたら、という願いや夢みたいなものも仕掛けた側としてはあって。それぞれに発注したシーンから、各アーティストが自分たちのポテンシャルをどこまで引き出してくれるか、僕がその水先案内をできたらいいなとも思ってました。だから、もちろん映画とフィットさせて楽しんでもらってもいいんですけど、楽曲単体としても長く愛されるようなものになってほしくて。ちょっと風呂敷を広げた言い方ですが、僕らもイチから形のないものを想像して、一生懸命考えたり、プロとしてありとあらゆる検証を重ねた中でお願いしたアーティストと曲なので。この映画をきっかけに生まれた楽曲群がずっと残って育っていって、J-POPシーンの宝なり財産のようになってくれたら、こんなにうれしいことはないですね。