音楽ナタリー Power Push - 久保ユリカ

「ありがとう」の言葉に浮かぶ顔

スムルースの曲なのに、久保ユリカの曲

──その「記憶コロコロ」の作詞作曲はスムルースの徳田憲治さん、編曲はスムルースで、今回の表題曲「ありがとうの時間」もまったく同じ布陣です。これは「記憶コロコロ」で手応えを感じたから?

私から「3rdシングルもスムルースさんでお願いします!」と言ったわけではないんですけど、「記憶コロコロ」のメロディラインが自分の声質にとても合うものだったので、久保ユリカのソロプロジェクトのチームの皆さんが「次もスムルースさんがいいんじゃないか」っていうふうになっていたんだったらいいですね。

久保ユリカ

──なんだか他人事みたいですね。

今回は「次もスムルースさんに決まったよ」とだけしか聞いていなかったので。

──「今回は」ということは、これまで久保さんは楽曲制作にどのような関わり方をしているんですか?

1stと2ndのときはプロジェクトの皆さんと一緒に、いわゆるコンペというか、あるコンセプトに沿った楽曲をいろいろ聴かせていただいて、皆さんと話し合いながら曲を決めていたんですけど、3rdシングルに関しては完全にできあがったものをいただきました。丸投げって言ったら変ですけど、そこはもう信頼して、委ねて、ただワクワクしていた感じですね。

──完成した「ありがとうの記憶」を初めて聴いたときの印象は?

「ああ、スムルースさんの曲だなあ!」と思いつつ、スムルースさんの曲なのに私の曲になるように作ってくださっていて、とても不思議な気持ちになりました。自分が学生時代から憧れていたバンドの方が私のために曲を作ってくれるってなかなかないことだし、当時の自分には想像もできなかったことなので。

──まさに「ありがとう」と言いたい。

ホントに。感謝の気持ちがあふれてきましたね。

「ありがとう」の相手

──この曲を歌っているときは、実際に「ありがとう」という言葉を特定の誰かに向けていたんですか?

レコーディングに臨むまでは、母親の顔がずっと浮かんでいました。私は、中学生の頃からお仕事を始めて、いろんなことを経験して辛いことも楽しいこともあったんですけど、どんなときでも味方になって支えてくれたのが母だったので。でも歌い終わって、マスタリングも済んだ音源を聴かせてもらったときにはもう母の顔は浮かばなくて。

久保ユリカ

──別の誰かに変わった?

この歌を歌うことができる自分にまで育ててくれた、この場所まで導いてくれたファンの方々の顔というか、表情が浮かぶ気がして。なので、意識してたわけじゃないんですけど、結果としてファンの皆さんに宛てた手紙みたいな歌にもなったと思います。

──「ありがとうの時間」発売記念のニコニコ生放送で、久保さんはレコーディングにとても時間がかかったとおっしゃっていましたが、具体的にどういった点で苦労したんですか?

どの歌い方がこの曲に一番合うのかという部分でかなり悩みましたね。例えば「記憶コロコロ」に近い、あまり感情を込めすぎない透明感のある歌い方が正解なのか、逆に少しかわいらしく歌ったほうがいいのかとか。また歌詞の波もあるから、それに合わせて感情を乗せていくべきなのかとか。ホントに微妙にニュアンスの違う歌い方を何テイクも試して、ディレクションしてくださってる皆さんと相談していたら、いつの間にか5、6時間ぐらい経っていて。

──そのかいがあってか、曲に対する距離感が絶妙だと思いました。歌い方次第では過剰にセンチメンタルなバラードにもなりえたと思うのですが、あくまで自然体でメッセージを伝えてらっしゃるというか。

ありがとうございます。時間はかかりましたけど、私にとってはそれもまたありがたい時間だったんですよ。この曲にもっともマッチする歌い方を皆さんが一緒に探ってくれたことも、そのための時間を割いてもらえたこともすごくうれしかったので。「ありがとうの時間」にぴったりな時間でしたし、曲を聴いていただければ「記憶コロコロ」以上に素の私を感じてもらえるんじゃないかなと。

──テクニカルな部分で言うとサビの「ありがとう」をファルセットで歌われていますが、久保さんにしては珍しいですよね?

久保ユリカ

実は私、ファルセットがすごく苦手というか、むしろできないに近いくらいで……。

──そうなんですか? キレイに出ていると思いましたし、どちらかというとフラットな曲調の中でとてもいいアクセントになっているなと。

奇跡が起こりました(笑)。もちろん、ボイストレーニングに通わせていただいたりしたんですけど、もっともっと自分になじませていきたいなと。

メソメソした反抗期

──「ありがとうの時間」のMVは母子家庭を舞台にしたドラマ仕立てになっています。この中で女子高生時代の桐島咲(MVで久保が演じる主人公)がお母さんと衝突するシーンがあり、現実の久保さんにも反抗期はありましたか?

もちろんあったんですけど、さっき言ったように私は中学生のときに仕事を始めて、中学生時代は奈良から東京まで通っていたので、たぶん普通の反抗期とはちょっと種類が違ったと思うんですよ。その時期に自分の性格が変わったというか、少し暗い部分が出てきたので(笑)。

──具体的には?

久保ユリカ

早い時期から大人とたくさん接するようになったことで、「こういうときはこれを言っちゃいけない」とか、人の顔色をうかがうようになったのかなって。外で顔色をうかがわなきゃいけないから、家では逆に甘えるようになったり。もちろん、母とケンカすることもあったんですけど「クソババア!」みたいに暴力的になるんじゃなくて、「どうせ私なんて……」みたいな、怒りよりは悲しみのほうに振れた、メソメソした反抗期だった気がします。

──当時から声優になりたいという思いはあったわけですよね?

そうなんですよ。当時はモデルとしてスタートしたので、漠然と「このままモデルの仕事をするのかなあ」とか「まあ楽しければなんでもいいや!」みたいな感じで、声優というのもいくつかあるやりたいことの1つだったんだと思います。でも、いろんな経験をしていろんなことに悩んだりした結果、今こうして声優として楽しくお仕事させてもらえているので、本当に人生わからないことばっかりだなと思います。

ニューシングル「ありがとうの時間」 / 2016年12月7日発売 / ポニーキャニオン
初回限定盤 [CD+DVD] / 1900円 / PCCG-1561
通常盤 [CD] / 1350円 / PCCG-70357
CD収録曲
  1. ありがとうの時間
    [作詞・作曲:徳田憲治 / 編曲:スムルース]
  2. Happy Cuty My Snow Man
    [作詞:hotaru / 作曲・編曲:Tom-H@ck]
  3. ありがとうの時間 -instrumental-
  4. Happy Cuty My Snow Man -instrumental-
初回限定盤DVD収録内容
  • ミュージックビデオDVD
久保ユリカ クリスマスイベント2016
2016年12月25日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI
[昼の部]OPEN 13:30 / START 14:30
[夜の部]OPEN 17:30 / START 18:30
久保ユリカ(クボユリカ)
久保ユリカ

5月19日生まれ、奈良県出身の声優・アーティスト。2002年の「第6回二コラモデルオーディション」でグランプリを受賞する。2010年、「ラブライブ!」シリーズの小泉花陽役で声優活動をスタートさせ、「Lostorage incited WIXOSS」「あまんちゅ!」などに出演。テレビではBS11「アニゲー☆イレブン!」のメインMCを務めている。2016年2月にシングル「Lovely Lovely Strawberry」でソロデビュー。8月には2枚目のシングル「SUMMER CHANCE!!」をリリースした。12月には3rdシングル「ありがとうの時間」を発表した。