寿美菜子|“私の世界”守るための逃避行へ

いつか、全部のお洋服をハンガーにかけたい

──僕は、2番のサビの「逆さまの地図 抱きしめて」という表現が面白いなと思いまして。

うれしいです。そこは、やっぱりこの曲の中でどうやって逃避感を出すかをずっと考えていて。早い話、「逃げてもいいんだよ」ということを言いたいんですけど、そうじゃない言葉で表現したいって考えたとき……最近、私は家の中で地球儀型のクッションをよく抱いてるんですよ。

──かわいいですね。

今年の自分用の誕生日プレゼントとして買ったんですけど、それを見ながら「あ、ここ行きたいな」って思ったときに、「地図」というワードがこの曲に合いそうだと思ったんです。でも、ただの地図だとあらかじめルートが決められてしまう感じがして。そうじゃなくて、別にルート通りじゃなくてもいいし、行き先も含めて「自由でいいんだよ」と伝えたいっていう発想から生まれたフレーズです。

──定石通りじゃなくていいということですね。

そうですそうです。「逆さまの地図」は比喩表現でもあるので、何事も自由に、好きな角度から見ていいんだよって。

寿美菜子

──アルバム「emotion」に収録された「Ambitious map」のお話と重なりますね。「Ambitious map」の歌詞も寿さんが突発的に、かつノープランでロサンゼルスで一人旅をした経験がもとになっていました。

そうでしたね。そう思うと「Ambitious map」をよりストイックに見つめた曲が「save my world」なのかもしれないです。逃げることで自分の世界を守るっていう。

──「Ambitious map」にしても「save my world」にしても、今いる場所から飛び出すことについて歌っています。寿さんは、普段から「飛び出したい」という願望があるんですか?

あはは(笑)。確かに、いつでもチャンスをうかがってるかもしれない。私は1人で旅を何回かするようになって、いわゆる旅行記を読むようになったんですよ。で、これはある方の著作にも書かれていたことなんですけど、旅行って、やっぱりある程度の下調べや心の準備がないと行けないじゃないですか。特に私たちみたいに急遽スケジュールが空くようなお仕事だと「明日お休みだー!」ってなっても、結局1日何もせずに終わっちゃったり。

──僕もフリーランスなのでその感じはわかります。

そこで「よし、スケジュール空いた。明日から旅に出よう」って行動できるかできないかの差って、長縄跳びの予備動作に近いのかもしれないなと。つまり長縄跳びって、いきなり「入って」って言われても入れないですよね。タイミングを計らないといけないので。そういう意味では、私はぐるぐる回る縄の前で常にスタンバイしてるタイプかもしれません。あと私、2018年に初めて「人生でやりたいことリスト100」を書いたんですよ。

──そのお話も面白そうですね。

ちょっと失礼な言い方になってしまうかもしれないんですけど、今まで「やりたいことリスト」って、主に何をやればいいのかわからなかったり目標が見つけられなかったりする方のものであって、自分には必要ないと思ってたんです。でも、実際に書き出してみるといろいろと気付かされることもあって。実はまだ90個しか書いてないのであと10個書かないといけないんですけど、その90個の中には些細なやりたいこともたくさんあるんですよね。例えば、私はお洋服の一部をハンガーにかけて、それ以外は畳んでクローゼットにしまっているんですけど、「いつか、全部のお洋服をハンガーにかけたい」とか(笑)。

──ははは(笑)。ウオークインクローゼットみたいな?

そう、憧れちゃいますね。でも、ウオークインクローゼットまでいかなくても、ハンガーラックを買い足したりして工夫すれば、今の部屋でもやろうと思えばすぐできるんですよ。それなのにやらないっていうことは、ほかに優先したいことがあるのかもしれないし、実はそこまで「やりたい」と思ってないのかもしれない。そうやって、1個ずつ書き出してみることによってやりたいことが研ぎ澄まされていく感覚があったし、その結果、ホントに時間は限られてるんだなって思っちゃったんですよね。だから、いつでも逃避行できる準備しておこうみたいな(笑)。

後輩の前で、カッコいいところを見せなくちゃ

──「save my world」のレコーディングについてもお話を聞かせてください。

「save my world」では、事務所の後輩の夏川椎菜ちゃんとhalcaちゃんがレコーディングを見学しに来てくれたんですよ。スタッフさん以外の人に見守られながらのレコーディングは初めての経験だったし、先輩としては、とにかくカッコいいところを見せなくちゃいけないなと(笑)。

──そうなりますよね(笑)。

おかげでいつも以上の集中力でレコーディングに臨めたし、すごく気持ちよく歌うこともできたので、2人には感謝したいですね。「いつもどんな感じで録ってるの?」とか「どういうのが苦手?」みたいな話もできて、私としても勉強になりましたし。

──寿さんはレコーディングに際して、事前にボーカルプランを立てるタイプですか?それともノープランで、現場で探っていくタイプですか?

今回は2人が見に来てくれるということもあったので、めっちゃプランを練っていきましたね。でも、普段からレコーディング前に完成形のビジョンはわりと明確にしていて、本番でもそこに届くように歌うし、ディレクターさんもそれを手助けするようにディレクションしてくださるんです。なので、基本的にはプランを立てて臨むことが多い気がします。

──「save my world」はこれまでのダンス曲と比較して、サウンドだけでなくボーカルも明らかに強いですよね。

やっぱり曲調に合わせるという意味でも、どちらかというと“叫び”に近い感じにはしたくて。歌詞にもそれは反映されているので、おっしゃる通り強いボーカルを目指しました。そしてありがたいことに、その強いイメージを、ジャケットやミュージックビデオで和らげていただくような格好に。

──MVも洒落ていますよね。雲の上でダンスするという。

監督さんも「ダンスだけをフィーチャーしたら、カッコいいけど無機質になっちゃうかも」っていうのを心配されて「ちょっといいバランス考えますね」とおっしゃってくださって。その結果、「逃避行しましょ」みたいなイメージの素敵なMVに仕上げてくださいました。空の色味も女の子が好きなパステル調だったり。あとDメロの雲をペンダントライトに見立てているシーンは監督さんの遊び心で入れくださって、予想だにしていなかったんですけど、個人的にすごくお気に入りのシーンになりました。

──しかもダンスはダンスでキレキレですし。

今回はMiu Ideさんという、三浦大知くんやBoAさんのバックダンサーを務められているダンサーさんに初めて振り付けをお願いしたんです。Miuさんはすごく丁寧で「こんな方向の振り付けで大丈夫ですか?」みたいな案を小まめに送ってくださって。それに対して私からも「サビはもう少し音にハメた感じの動きがほしいです」といった要望を出したら、それもきちんとすくい上げてくださったり。そのダンスシーンと、今言った雲のライトみたいなイメージシーンがスムーズにテンポよくミックスされているので、ぜひ観ていただきたいです。

「fu」なのか、「fu-」なのか、「fu~」なのか

──カップリングの「Take off with me」も同じくダンサブルな曲ですが、また雰囲気が違う。よりファンキーでリラックスしたナンバーですね。

最初のほうで言ったように、今回のシングルは1枚を通して「逃避行」をテーマにしたいとディレクターさんにお伝えしていて。ただ、カップリングに関しては特にダンスにこだわることなく、「ゆったり歌えるシティポップ感のある曲」という提案もしていたんです。アルバム「emotion」で歌った「I wanted to do」をちょっと大人っぽくしたような印象を受けて、単純に「いいなあ」と思って。ダンスとシティポップのジャンル、両方の要素を取り入れました。

寿美菜子

──いいですよ。

ありがとうございます。あと私のシングルって、わりとカップリング人気が高くて。ライブで盛り上がる「カラフルダイアリー」(2011年発売の3rdシングル「Dear my…」のカップリング曲)や「girly highester!」(2013年発売の6thシングル「pretty fever」のカップリング曲)、「Another Wonderland」(2015年発売の8thシングル「black hole」のカップリング曲)もみんなカップリングなんですよね。だから今回も大事に選びたいなって。

──「Take off with me」の作詞はどのように?

私の中で「Take off with me」は、ティンカー・ベルみたいな妖精がいて、その子に手を引かれてどこかへ連れて行ってもらうイメージなんですよ。だからある種ファンタジーもありつつ、「Take off」することで楽しめたらいいなという思いを込めました。で、やっぱりこちらも1コーラス目に書いたフレーズを後半に持ってくるケースがちょいちょいあって。例えばラスサビの「夜が明けても 夢は醒めない 自分だけの魔法かけて」もその1つなんですけど、これを最初に書いたときに赤ペン先生から「夜が明けるのはラストでもいいんじゃないの?」って言われました(笑)。

──確かに(笑)。

あと、英語の歌詞を考えるのが難しかったですね。同じワードを繰り返すけど、極力意味のあるものにしたかったので。

──具体的にはサビ頭の「Let me know something something something what you like」などですね。

そうです。やっぱり日本語だとハマりにくいし、英語のほうがこの曲のラフな雰囲気に合うのかなって。それから細かい表記にしても、Aメロの「fu~」は、ただの「fu」がいいのか、それとも「fu-」なのか。結果的に、そのあとに続く「深呼吸しよう」という歌詞に一番マッチするのは「fu~」だなって。

──だいぶ細かいですね。

自分で作詞をするまでは、そういう細部まで見えてなかったんですよね。でも、歌詞カードを手に取ってもらって目でも楽しんでもらいたいし、私自身この「fu~」みたいにかわいらしいニュアンスを付けて歌うことはあまりないので、じゃあどの「fu」がふさわしいのか、みんなで真剣に悩みましたね。