音楽ナタリー Power Push - 岸田教団&THE明星ロケッツ

今をどう生き抜くか、3rdアルバムに込めたメッセージ

少なくとも自由に、あわよくば楽しく生きたい

──岸田さんは「超ワガママな歌詞」とおっしゃいましたが、その身勝手さは共感できるものでもあります。

ichigo やっぱり、「人生を思い通りに生きられてる人のほうが少ないな」っていうのが感覚としてあるんで。それは私たちも同じで、現状を憂いたり先行きに不安を抱いたりしてるんですよ。それを伝えることで、聴いてくれる人たちも「こんな脳天気に生きてそうな人たちも、不安とか感じてるんだ」って……。

左から岸田(B)、ichigo(Vo)。

岸田 いや、俺は特に感じてないけどね。

ichigo 君はそうなのかもね。ちょっとは感じたほうがいいよ?

岸田 でも、俺は歌詞からも感じないよ。ストレートに能天気だよ、この歌詞は。

ichigo うっそ!? でも、どうしてもあるじゃないですか、まあ岸田にはないらいしんですけど、ふと不安になる瞬間とか……。

岸田 ないわけじゃないけど、それをサビでひっくり返してるじゃん、自分で。

ichigo 聞けよ!(笑) とにかくですね、私は不安だし、上等に生きてないし……というか別に上等に生きたいとも思ってないんですけど、少なくとも自由に、あわよくば楽しく生きたい。だからこの曲のミュージックビデオみたいに、ガーリーな格好をしたけりゃするし、「やっぱ違うな」と思ったらウィッグ脱ぎ捨てるし。そうやって好きなように生きていく。まあ、時が経てば考え方も変わっていくかもしれないんですけど、将来的な矛盾を怖がらずに言っておきたかった。

岸田 手のひら返しは重要だよね。時代を経れば手のひらも返る。

ichigo そうそう。“今は”こう思ってるし、こんなふうに生きていきたいと願ってるって。

気が付いたら聖戦を呼びかける檄文みたいになってた

──リード曲の歌詞にも表れているように、このアルバムは、まず「この世界はままならない」という前提があって、それに対する「世界を変えようとはしないけれど、自分も変わらないよ」みたいなメッセージに貫かれていると僕は解釈したのですが。

ichigo 正しく伝わってるね。

岸田(B)

岸田 そうだね。ひと言で言えば「今をどう生き抜くか」、もうひと言付け加えるなら「戦って勝てばだいたいのことは通る」ですね(笑)。ままならない世界で生き抜くために小さな勝利を積み重ねていきましょうみたいな。そりゃ世の中を大きく変えようと思ったら凄まじいエネルギーとか信念とか犠牲とかが必要ですけど、そこに自分1人分のスペースを確保する程度ならさしたるものは必要ないという意識のもとに書かれてますね、すべては。だから勝ちましょう。我々から何かを奪っていくやつを倒しましょう。

ichigo だんだん物騒になってきた。

──具体的に想定している敵はいるんですか?

岸田 俺と同じサーバーにいるゲームプレーヤーたちです。そのレベルだったら勝てないことないでしょ?

──勝てそうです(笑)。まさに1曲目「希望の歌」は、戦いを想起させる歌ですね。その曲調も、今までの岸田教団&THE明星ロケッツのイメージからすると、「おや?」って。

岸田 そう思われるかもしれません。ストレートなビートじゃない曲をやろうと思って。イメージとしてはBring Me The Horizonみたいな、ちょっとオルタナティブメタル的な要素を入れてみました。

──シンセの使い方も今までとはちょっと違いますよね。

岸田 あのシンセのフレーズを思い付いたんで、この曲を作ろうと思いました(笑)。最近、「EDMっぽいシンセの音って、どうやって作ってんだろ?」って思って、自分でちょっとやってみたら意外とそれっぽいのができたんで「よし、じゃあ使ってみよう」と。

──この曲の作詞は岸田さんですが、「希望の歌」といっても希望に満ちあふれた歌ではありませんね。

岸田 現状が希望に満ちあふれていないことを前提に「さあ、これからどう戦うか?」みたいな歌ですね。要は、現状に満足している人に希望なんて必要ないわけですよ。だからこの歌は、現状に何かしら不満を抱いてる人に対して聖戦を呼びかける檄文に限りなく近い。

ichigo(Vo)

ichigo また物騒な話に。

岸田 いや、最初はそんなつもりは全然なかったんだけど、気が付いたらそんな歌詞になってて。なんか、サビのあとに流れてくるシンセのフレーズがそれっぽく聞こえたんですよね。すげえ勇ましいなって。

ichigo うん、勇ましい。私はサッカーの応援っぽいなって思った。とにかく高揚感を煽ってくるから、「うおおおお!」ってなる。

岸田 もう、こうだよね(両手で旗を大きく振るジェスチャー)。あのフレーズが流れた瞬間にすべてが変わってしまう(笑)。俺は最初、この曲はいい曲だけど、めちゃくちゃいいってほどではないと思ってたの。でも、あのフレーズができた瞬間にすごい手応えを感じた。「いける!」って。

ichigoさんが幸福になった分だけ、俺は不幸になる

──このアルバムは全12曲中、1曲目から11曲目まで新曲と既発シングル曲が交互に並んでいますが、これは意図的に?

岸田 そうしといたほうがバレにくいかなと。シングル曲がいっぱい入ってるっていう印象を避けるために散らそうと思って。

ichigo ぜんぜん意味ないと思うけどね。みんな知ってるし(笑)。

岸田 まあシングル曲は、「シングル」って言うくらいだから単体で完成してるわけじゃないですか。そいつらをなんとかアルバムに収めようという意識のもとに作られたっていう側面もあるから、新曲は意図的に、シングルではなかなか出ないような要素を出していこうと思って書きました。

──リード曲「LIVE MY LIFE」のお話と重なりますね。あるいは、例えばコース料理で、肉料理ばかり出されてもつらいよねっていう。

左から岸田(B)、ichigo(Vo)。

岸田 その通りです。ただ、例外的に3曲目の「zero-sum game」はいつも通りの、シングルに近いノリの曲ですね。こういうのも1曲ぐらいやっとこうって思ってパパッと作ったんですけど、作詞をする時間がどうしてもとれなくて。それでichigoさんにやらせようとしたら、「伊勢丹の領収書な」って言われまして。

──作詞への対価として。

岸田 そう。歌詞を書かせるなら、その代わりにichigoさんが伊勢丹で買ったものを奢れって。俺が書いても奢ってもらえないのに。そのときに、ichigoさんが幸福になった分だけ俺は不幸になるんだなあって思ったんです。結局のところ世の中の幸福の総量は一定であるっていうのを感じた瞬間に、自分で歌詞が書けました。

3rdアルバム「LIVE YOUR LIFE」2017年3月22日発売 / ワーナー・ホーム・ビデオ
「LIVE YOUR LIFE」
初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / 品番:1000640261
通常盤 [CD] / 3024円 / 品番:1000640260
「LIVE YOUR LIFE」アナログ盤
アナログ盤 / メロンブックス限定 / 3456円 / 品番:1000642675
CD / アナログ盤 収録曲
  1. 希望の歌
  2. GATE~それは暁のように~
  3. zero-sum game
  4. GATE II ~世界を超えて~
  5. nameless survivor
  6. 天鏡のアルデラミン
  7. life logistics
  8. EGOISTIC HERO
  9. Ruler
  10. Blood on the EDGE
  11. vivid snow
  12. LIVE MY LIFE
アーティスト盤 DVD収録内容
  • LIVE MY LIFE Music Video
  • Blood on the EDGE Music Video
  • 天鏡のアルデラミン Music Video
  • GATE II ~世界を超えて~Music Video
  • GATE~それは暁のように~Music Video
  • LIVE YOUR LIFE TV-SPOT
岸田教団&THE明星ロケッツ ワンマンツアー2017
  • 2017年7月28日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2017年7月30日(日)愛知県 ElectricLadyLand
  • 2017年8月4日(金)東京都 TSUTAYA O-EAST
  • 2017年8月5日(土)東京都 TSUTAYA O-EAST
岸田教団&THE明星ロケッツ
(キシダキョウダンアンドジアケボシロケッツ)

岸田(B)、ichigo(Vo)、はやぴ~(G)、みっちゃん(Dr)からなる4人組のロックバンド。同人ゲーム「東方Project」のアレンジCDやオリジナル楽曲を制作して活動していたリーダーの岸田が、ライブイベントに出演するため2007年に結成した。2010年にテレビアニメ「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」の主題歌を含むシングル「HIGHSCHOOL OF THE DEAD」でメジャーデビュー。2011年6月に1stアルバム「POPSENSE」、2014年12月に2ndアルバム「hack/SLASH」を発売した。2015年3月に東京・Zepp Tokyoにてワンマンライブを開催したのち、2016年1月に「GATE II ~世界を超えて~」、7月に「天鏡のアルデラミン」とコンスタントにシングルを発表。同月には東京・日比谷野外大音楽堂にて単独公演を成功させた。2017年3月に3枚目のオリジナルフルアルバム「LIVE YOUR LIFE」をリリースする。