ナタリー PowerPush - KEI

人気ボカロPとサニーデイ田中貴が共闘する理由

バンドマンなりのボカロシーンの盛り上げ方

──それはやっぱりルーツにロックバンドがあるから?

KEI たぶんそうなんでしょうね。「ボカロネイティブ」なんて言葉があるように、今の若い子にとってはボカロってごく当たり前の存在で「ボカロ曲を聴いて音楽を始めました」っていう人もいるくらいなんですけど、自分はやっぱり違う。ホントにただロックミュージックが好きで、たまたまボカロっていうツールがあったから使わせてもらったっていう立場ですから。もちろんボカロネイティブを否定するわけじゃなくて、中には素晴らしい曲ももちろんあるんですけど、どこか若者の流行になかなかついていけないというか「自分は古くさいんだろうなあ」っていう気持ちはありますね(笑)。

──ただ、もはやボカロシーンのみならず、世間でもボカロ、特に初音ミクって1つのキャラクターとして認知されている向きがあるじゃないですか。でもKEIさんにとってはあくまで楽器やシーケンスソフト上の音色の1つという認識なんですか?

KEI

KEI 楽器っていうほど淡泊でもないですね。「ボカロや初音ミクって何?」って聞かれたなら「いろんな人を結びつけるシーンの総称です」って答えるようにはしていますから。ボーカロイドや初音ミクを使うだけで、ボカロシーンやボカロクラスタに容易に所属できるというか(笑)。自分自身はボカロ曲らしいボカロ曲が得意じゃないこともあって、動画も作っていないんですけど、それでもボカロを使えば新しいリスナーはもちろん、絵を描く人や動画を作る人と比較的簡単につながることはできる。そういう通行手形なんだとは思っています。

──とはいえ過度にアイドル視もしていない?

KEI 確かにバーチャルアイドル的な見方はあんまりしてませんね。でも、当然ボカロや初音ミクが嫌いなわけでない。むしろ大好きなので、アイドル的な盛り上がりとはまた別、自分なりの盛り上げ方をしたいな、とは思ってます。今ってボカロシーンと邦楽シーンがそれぞれ独立したものとして存在しているような気がするんですけど、自分にはその意味がぜんぜんわからないんですよ。ボカロネイティブの中にはボカロ曲しか聴かない子も多いし、ロック畑、J-POP畑の人もロック畑、J-POP畑の人でボカロにぜんぜん興味を持っていない。なんならボカロネイティブの中には「AKBが国民的なんて言われているけど、ミクちゃんのほうが国民的だし」って、J-POPとボカロとの対立構造を作るような発言も見られるんですけど、それってすごくもったいないですよね。自分は「いやオレ、AKBもミクちゃんも好きなんだけど……」っていう感じで両方のファンではあるし、実際にその両方のシーンに片足ずつ突っ込んで、両方で楽しいことをやっているので「だったらオレが架け橋になれたらいいな」とは思ってます。偉そうな話ではあるんですけど(笑)。

メジャーレーベルでCDを制作する意味

──今回のメジャーデビュー盤「dialogue」制作にあたって、ボカロP=プロデューサーでありながら、サニーデイ・サービスの田中さんというまた別のプロデューサーを立てたのも、そういう思いからだったりします?

KEI もちろん田中さんや参加してもらったプレーヤーの方々に興味を持った邦楽ロック畑の人に聴いてもらえたらうれしいっていう気持ちはありました。ただ、やっぱり「架け橋に」っていうほど偉そうにはなれないというか(笑)。そもそも自分のことをP=プロデューサーだとは思ってないんですよ。あくまで曲を作る人、ソングライターっていう意識で活動しているので、自分のできないことや知らないことをできる人、知っている人に助けてもらいたいというか、プロ中のプロに自分の曲を預けてみたいっていう気持ちのほうが大きかったですね。で、レーベルに「こういう人を紹介できるよ」って挙げていただいたミュージシャンの中でも一番自分のやりたいロックサウンドを実現してくれそうなのが田中さんだったんです。

──ニコ動で発表している楽曲をそのままパッケージしたアルバムを作るっていうアイデアは?

KEI まったく考えてなかったですね。これまで自主制作でバンドのCDやボカロ曲のCDを作ってきてはいましたから。「せっかくメジャーでやるなら自分のできることの延長線上にあることはしたくない」「それをやるのであればインディーズや同人でやります」っていうことは最初からレーベルに伝えていました。

──もう1つ「NO LEAF CLOVERと一緒に」っていうアイデアは? 実際「ボカニコナイト」では今回収録のボカロ曲もセルフカバーしていたわけですし。

KEI それもやっぱり自分でできることの延長なんですよ。せっかくのメジャーなんだから自主制作ではできないことをやりかった。今回参加してくれたミュージシャンの方々は田中さんが連れてきてくださったんですけど、自分でメンバー選びをするよりも田中さんがするほうが正しいに決まっているっていう判断があったので、完全にお任せさせていただいていて。そういう預け方をしてみたかったんです。

──その「プロ中のプロ」田中さんってどんな方でした?

KEI お会いする前は「怖い人だったらどうしよう?」みたいなことを思っていたんですけど、ぜんぜんそんなことはなくて。緊張してガチガチになっている自分に気さくに話しかけてくださったのがうれしかったですね。初日はラーメンの話しかしてなかったし(笑)。

──パブリックイメージ通りの田中さんが現れた、と(笑)。

KEI はい(笑)。田中さんに限らず、参加してくれたミュージシャン、皆さんがラフに接してくれたのですごく助かりました。

ニューアルバム「dialogue」 / 2013年2月20日発売 / GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT
初回限定盤 [CD+DVD] / 2625円 / GNCA-1346
通常盤 [CD] / 2100円 / GNCA-1347
CD収録曲
  1. dialogue
  2. タワー
  3. 走れ
  4. 隔離病棟
  5. 声で言葉で
  6. アイラビユーアイニジュー
  7. Hello, Worker
  8. ピエロ
  9. mercy
  10. Neverland
  11. ユートピア
  12. エコー
初回限定盤DVD収録内容
  • Dialogue PV
  • Interview about "dialogue"
KEI(けい)

ロックバンド・NO LEAF CLOVERのハヤシケイ(G, Vo)のソロ名義。2008年2月、ニコニコ動画にボーカロイドナンバー「スターシップ」を投稿したところ、瞬く間に注目を集め、以来、ギターロックを基調としたアップリフティングながらもどこかシニカルな楽曲を立て続けに発表。ニコニコ動画ユーザーを中心に高い人気を獲得する。2013年2月にアルバム「dialogue」にてメジャーデビュー。

田中貴(たなかたかし)

1994年、メジャーデビューの3ピースバンド、サニーデイ・サービスのベーシストとして活動する傍ら、タルトタタンのサポートベーシストや、声優ユニット・ワンリルキスのプロデュースなども手がける。また2013年2月にはボーカロイドプロデューサー・KEIのメジャー1stアルバム「dialogue」のプロデューサーも務めた。