片平里菜|“伝える”という壁を越えて生まれた新しい自分

つながっていることを実感できた配信ライブ

──今作の制作自体はコロナ禍の影響を受けなかったとのことですが、今の状況下で改めて“伝える”ということを考えると、どうですか?

人と気軽に会うことができなくて、声に出して何かを直接伝えることや、同じ空間にいて「言わなくてもわかり合える」と思うことがなくなってしまっているからこそ、伝えることをあきらめたくないなと思います。こうやって文字にして伝えることもできるし、電波に乗せて伝えることもできる。もちろん感染予防は第一だけど、人に会ったり旅に出たりライブをしたり、そういう根っこにある動物的な欲求や人間らしさはなくさないようにしたいなと思います。

──ライブができなかったり、思うように生活ができなかったりする中で、どんなことを考えていましたか?

これまでは定期的にライブがあることで精神的に元気でいられたところがあったと思うんです。デトックスみたいな感じで。でもそれがなくなってしまったので寂しさや虚しさを感じましたね。今まで突っ走ってきてたんだなということにも気付きました。

──これまでに比べたら回数は少ないですが、片平さんは5月から毎月1回、東京・青山 月見ル君想フで弾き語りの配信ライブを行っています。このライブの手応えはいかがですか?

もともと私のライブは弾き語りが多いんですけど、そのわりにはファンの方のシンガロングやコール&レスポンスが多いので、それがないのはすごく寂しいなと思いました。でも画面の向こうでみんな楽しんでくれているはずだと思ってやっています。

──SNSでリクエストを募ったり、ライブ中にZoomを使ってファンの方と交流したりと、視聴者も一緒に楽しめる企画も取り入れていますね。

「HEY! Darling EP」のテーマが“伝える”だということもあって、ライブも“伝える”や“つながる”をテーマにしてみたいなと思ったんです。リクエストや質問にライブで答えていく形は、多少のタイムラグはあれど、観てくれている方とつながってるという安心感を持てますね。やってるときは1人でしゃべってる感じもしちゃうんですけど、「質問に答えてるよー! 観てるー?」と思いながら答えることで、画面の向こうにファンの方の存在を感じられます。

──7月のZoomを使った企画では、実際にファンの顔を見ながら会話していましたね。

以前はラジオのレギュラー番組を持っていたんですけど、今はSNSしかファンの方とつながるツールがないので、ひさしぶりに直接話をしてすごく元気が出ました。自粛期間中って、いろんな人とSNSなどでつながっているとは言え、家では1人だったりして、みんな孤独を感じやすい時期だったと思うんです。その矢先のZoom企画だったので、わかっていたけど「こうやって応援してくれる子がいるんだ」という実感が持てました。

片平里菜

「私のことが伝わってる!」

──ライブでカバーしている曲はジャズのスタンダードナンバーからJ-POPまで幅広いですが、ファンからのリクエストはどんなものが多いんですか?

女性のシンガーソングライターの曲だったり、ロックバンドの曲だったり、ポップスだったり、幅広いリクエストが来ます。私の好きなアーティストの曲をリクエストしてもらえることも増えて、「以前より私のことが伝わってる!」と思いました。

──というと?

「こういうジャンルがルーツ」とか「こういうものが好き」というのを、この1年くらい積極的に発信してきたつもりなんです。例えば今作のジャケットはパティ・スミスの「Horses」のビジュアルに寄せているし。自分が何を好きで、何に影響を受けて、どういう音楽をしたいかというのを、前よりも伝えられるようになってるんじゃないかなって。

──「勇気を出して何かを伝えるのが壁」とおっしゃっていましたが、片平さんはファンにご自身のことを“伝えて”いたんですね。

本当だ! すでに!

──さらには伝わる喜びも味わっていて。

そうですね。私の発信したことをみんなが受け取って、興味を持ってくれているんだなと実感できてうれしかったです。

──9月26日には「HEY! Darling EP」のリリースパーティが控えています。このライブはYouTubeで配信されるほか、会場に45名の観客が招待されるとのことで、ひさしぶりの有観客ライブですね。

私がやることは無観客ライブと変わらないですが、お客さんの前でやるのはひさしぶりなので楽しみですね。会場のお客さんには音を肌で感じてもらえるようなライブにしたいですし、YouTubeで観ている方にも一緒に楽しんでもらえるようなライブにできればと思っています。

片平里菜