ナタリー PowerPush - 片平実
やついいちろう迎えてDJ談義
本当は1曲まるまる全部かけたい
──ミックスCDって作品として形で残りますけど、その点で制作時に何か留意したことはありましたか?
やつい ミックスCDを作る際は、まずルールがありますからね。
──ルールとは?
やつい レコード会社同士の貸し借りのルールがあるみたいで。僕の場合だと、収録曲の一部はビクターエンタテインメントの音源にしなければならないとか。
片平 はははは(笑)。具体的(笑)。
やつい あとは、ピッチをいじっちゃいけないとかね。
片平 俺はもともとピッチをあまりいじらないなあ。お客さんが聴いたときに、もともとの音源を聴いたときと極力同じほうがわかりやすいかなって思うんですよね。だからピッチをいじらないっていうのは、自分の中の決まりにしていますね。
やつい 偉いですね。
片平 でもこの作品は各曲尺をカットはしてる。自分の中で“これは作品”と位置付けてるというか。
やつい でも片平さんって、本当は1曲まるまる全部かけたいんですよね?
片平 本当はね。普段DJするときはそういうスタイルだし。だからこれは作品そのものってことで聴いてほしいです。聴いてくれた人にとっての音楽の入口だったり、新しい音楽との出会いのきっかけになればもっと最高ですね。
──収録曲はどう選定していったんですか?
片平 有名な曲だとかそういうことは関係なく、好きな曲をピースにパズルを組み立てるような感覚でミックスしていって。ほかとのつながりとかも考えながら、最終的に名画として仕上がったらいいなあっていう気持ちで作っていきましたね。
──曲をただ素材として扱うわけではなく、自身とバンドとのつながりも考慮しながら曲を決めていったんですね。
片平 そうですね。何度も聴き直しながら。
やつい 片平さんのオリジナルの曲も入っているよね? すごくよかったですよ。
片平 ありがとうございます。オリジナルの曲は前作にも入ってて。前作はストレイテナーのホリエ(アツシ)くんとかthe telephonesの石毛(輝)くんに手伝ってもらったんですけど、今回の「Days」はavengers in sci-fiの木幡太郎くんに手伝ってもらって、ボーカルは前作のオリジナル曲と同じく元OCEANLANEの武居創くんです。4つ打ちで夏にピッタリな楽曲になっていますよ。やっつんのミックスCDにもオリジナル入ってるよね? あれ自分で歌ってんの?
やつい 「♪てんけてんけてん……」っていうあれ? そう。
カッコいいことなんて、たいてい楽しいことじゃないから
──やついさんのミックスCDは、どういう基準で選曲をしたんですか?
やつい 僕は作品ということを意識するよりも、自分のテンションが上がるようにということを意識してます。基準としては、まずは自分がいいと思う曲。あとは、人と人をつなぐような曲。もともとは、個人的な音楽が好きだったんですけど、DJを始めて現場で個人的な音楽をかけてもお客さんはそんなに楽しくなさそうなんですよね。でも逆に、人と人とがつながると、みんな楽しそうだと。その“人と人がつながる”というのが一番わかりやすいのは、かかっている曲をお互いが知っているってことだと思うんですよね。例えばアメリカに行って、日本の曲が流れてわーっとなったときに、それに反応した同士は仲良くなれるじゃないですか。それとまったく一緒で、「この曲知ってる」って感覚が他人同士をつなげると思うんです。だからDJを始めたら、そういう音楽が好きになりました。それで「そういう音楽ってなんだろう?」っていうのをずっと考えているかもしれませんね。
──なるほど。
やつい そういう視点で選曲を考えているから、ダサいとかダサくないっていうのはどうでもよくて。“ダサくても楽しい”っていうものはいっぱいあるし、そもそも楽しいっていうのはたいていダサいものだと思うんですよ。カッコいいことなんて、たいてい楽しいことじゃないからって思う。例えば中高生からしたら盆踊りとかはカッコいいものじゃないでしょ? でも祭りとかって参加したら楽しい。そういうものってけっこうあると思うんです。
──独特な視点でとても興味深いです。
やつい とは言えやっぱりダサすぎるのはいやなんで、そのバランスを整える。それが僕のやり方。例えば料理でも、ボンッと伊勢エビが出てくると見栄えはカッコいいけど、実はその前に出てきたお吸い物みたいなもののほうが仕事がしてあるかもしれない。でも、やっぱりみんな伊勢エビを見たいんですよね。だからそのバランスを。どこかに、「この人、ちゃんとロック好きなんだな」っていうのがわかるようなものにしたいと思ってミックスCDを作っていますね。あとは、「これダサいでしょ? 面白いでしょ?」みたいなのは嫌だな。そういう“あえてこの曲を入れてます”みたいなのじゃなくて、あくまで好きな曲だけを入れることにしていますね。
ロックのDJってまだまだ認められていない
──本作が完成して、手応えはいかがですか?
片平 本作が完成したとき、個人的にだいぶ「いける」って思って。この作品がリリースされることで、何かが変わるんじゃないかなって。
──何かというのは、「シーン」のような大きなもののことですか?
片平 個人的な捉え方ですけど、ロックのDJってまだまだ認められていないと思っているんです。でもこの作品が出ることで、そういった感じが少し解消されるんじゃないかって。
──認められていないというのは、ほかのジャンルのDJに比べてあまりDJとして認められていないということですか? それとも「ロックのDJ」というもの自体があまり知られていないということ?
片平 そうですね……ちょっと一言では言えませんが、常に悔しさみたいなものは感じているんです。だから、いつか認めてほしいって。そんな日を夢見ながらやってるところはありますね。
やつい パンキッシュですね。
片平 さっきの話であった通り、“何か”に勝ちたいんだよね。「出た瞬間に世の中が変わるんじゃないか?」ってくらい自信があるので、本当に聴いてもらいたいですね。
やつい リスナーに響くんじゃないですかね。
──お2人はこの夏もDJとしてあちこちに出演されると思うんですけど。今年の夏フェスやツアーではどんなDJプレイを届けたいですか?
片平 さっきやっつんから料理の例えが出たけど、僕も今回のミックスCDが完成して、ごちそうができたと思っているんです。だからツアーはそのごちそうを振る舞いに行くっていう感じですね。そのうまさをみんなで分けあうというか……イメージ通りになったらいいなあ。
やつい 僕はTシャツを買ってもらいたいなあ(笑)。DJとしては、集まってくれた人が楽しんでくれたらいいです。
片平 あ、あと2人でやる仙台のパーティがんばります。
やつい ああ。実はその日、仙台でエレキコミックのライブをやった後に片平さんのイベントなんですよね。たまたまですけど。また片平さんモテるだろうなあ。
片平 モテる? そう?
やつい いや、DJ終わった後の時間がモテタイムだと思うんだけど、僕はDJ終わったあとってクタクタですぐ帰っちゃうんです。でも片平さんはDJ終わっても現場にいるから、モテタイムがある。
片平 自分が主催してるから、帰るわけにはいかないからね(笑)。
収録曲
- It's Alright To Dance(Yes!!! Happy Monday!!!) / the telephones
- Psycho Monday / avengers in sci-fi
- 喜怒哀楽 plus 愛 / 木村カエラ
- ハートに火をつけて / 9mm Parabellum Bullet
- CARVE WITH THE SENSE / ACIDMAN
- 1sec. / 10-FEET
- Blah Blah Blah / SiM
- Deeper Deeper / ONE OK ROCK
- DAY 1 / MIYAVI vs YUKSEK
- Bubble of Life / MAN WITH A MISSION
- NICE DAY / RYUKYUDISKO Feat. BEAT CRUSADERS
- BEAT SURF / Dragon Ash Feat. PES, VERBAL
- Hale no sola sita~LA YELLOW SAMBA~(NICO NICO Ver.) / PE'Z
- アイデンティティ / サカナクション
- Sugar!! / フジファブリック
- PERFECT BLUE / Base Ball Bear
- エントランス / ASIAN KUNG-FU GENERATION
- 荒狂曲“シンセカイ” / BIGMAMA
- Dear Enemies / [Champagne]
- Paranoia / WHITE ASH
- S.T.A.Y. / The Mirraz
- Dancing Zombiez / a flood of circle
- 修羅 / DOES
- ロメオ / Blankey Jet City
- STILL ALIVE / 布袋寅泰
- You & Me Song / 氣志團
- FINAL COUNTDOWN / YOSHII LOVINSON
- 交渉 No.1 / GREAT3
- スロウライダー / サニーデイ・サービス
- 能動的三分間 / 東京事変
<ボーナストラック>
- Days/Garas
片平実(かたひらみのる)
DJ。イベントオーガナイザー。1996年より東京・下北沢Club Queにてレギュラーパーティ「Getting Better」を開始する。2001年に「ROCK IN JAPAN FESTlVAL」初出演。2003年には「COUNTDOWN JAPAN」でもDJを務める。2009年には邦楽ロックのみで構成したミックスCD「ROCK THE MIX」をビクターエンタテインメントからリリース。その後は他アーティストの作品へのリミックス提供や映画「ソラニン」の公開記念コンピレーションアルバムの監修など、幅広い音楽の知識を生かしてさまざまな活動を展開している。2012年にはEMI Records Japan移籍後初のミックスCD「ROCK ON ROCK」を発売。2013年7月には自身のソロプロジェクト「Garas」の楽曲も収録したミックスCD「ROCK ON PARADE」を発表した。
DJやついいちろう
1997年に今立進とエレキコミック結成。お笑い芸人として舞台やテレビで活躍する傍ら、ライブハウスや音楽フェスでDJを開始。DJやついいちろう名義でミックスCDをリリースするなど幅広い音楽活動を展開している。2011年6月にはIMALUとのユニットSUSHI PIZZAを結成し「マイティDISCO」を、2012年7月には松本伊代 feat. やついいちろう名義で配信シングル「センチメンタル・ジャーニー 激ファン MIX」を配信リリースした。2013年6月には5thミックスCDとなる「YATSUI FESTIVAL!」を発表。またアーティストやお笑い芸人が多数出演する音楽イベント「YATSUI FESTIVAL」を2012年より主催している。