音楽ナタリー Power Push - 舞台「怪獣の教え」特集
豊田利晃×中村達也×太田莉菜
映像×演劇×音楽が生み出す三位一体のセッション
ここだ!っていうシーンでヤマジくんが寝てた
──先ほどセッションしてる感じという話が出てきましたが、毎公演違うものを作っていく中でハプニングもあったりしたんですか?
太田 私はハプニングだらけです。
中村 そうだったんだ。
太田 もう人生のどこからやり直すべきかって落ち込んで、楽屋から出られない感じでした。
豊田 それはハプニングじゃないよ(笑)。
──客席から観ているとそんな雰囲気は一切ありませんでしたが。
太田 受け取る側と演じる側の感覚は絶対違うだろうから、よくわからないですが……でも、そのときの自分の感情がどうだったかということが一番大切であって。人からいいとか言われてもなかなか覆らないんです。でもある意味それは想定もできていて。それで落ち込みましたし、今までの仕事にはない感覚も味わえました。
──ミュージシャン陣は何かハプニングはありましたか?
中村 そんなに面白いことないですよ。ここだ!っていうクライマックスシーンでヤマジカズヒデ(G)くんが寝てたとかね。
一同 あははははは(笑)。
──そんなことありえるんですか!?
中村 あるある。俺たちは声を出せないから、青木ケイタ(Sax、Flute)が合図係になって合わせてるんだけど、「いつ始まんのかな?」と思ってずっとヤマジのほうを見てたら、ハッと気付いたみたいで。演技している後ろでそういうことがあったんですよ。で、ミュージシャン同士でコミュニケーションできるマイクがあるんだけど、そこの演奏が終わったあとヤマジくんが小声で「怒られるかなあ?」って(笑)。俺らも「大丈夫、わかんないから」とか言って。表でどうだったかは知らない、10秒もないぐらいだったから。
豊田 いや、バレバレですよ(笑)。でもそういったハプニングまで楽しむのも舞台のだいご味というか。セリフをとちったり間違えたりしても、なんとかやり切るっていうのが面白い。
太田 確かにいろいろありましたけど、死にはしないんだなって思いました!(笑)
豊田 まあでも千秋楽はすべてうまくいったから。そのうまくいった記憶を持ちながら次を迎えるほうがいいよ。失敗した記憶を引きずるより。
太田 本当にそうです。最終日に手応えがあったので、すごいよかった。でも私、全部ネガティブだからあんまりしゃべんないほうがいいですよね(笑)。
豊田 人生ネガティブタイフーン!
中村 いいねえ、ネガティブタイフーン!
太田 あはは(笑)。本当は小笠原に行きたかったんですよね。私だけ小笠原に行ったことがなくて。再演の稽古が始まる前に行く予定だったんですけど。
豊田 台風10号が来ちゃったからねえ。
──小笠原に行ったら何か変わりそうでしたか?
太田 うーん。ただ小笠原の空気を感じたかったんです。行った人たちはみんな何かを食らって帰ってくるので、それにも期待してました。
──小笠原のリアルなイメージを思い描きながら舞台に立てたでしょうね。
太田 そうなんです。クッキーを演じていて、私だけ“都会の嘘つき”という感覚があったんです。
豊田 でも、芝居ってそういうもんですからね。嘘をつくのが役者ですから。
レゲエの窪塚、ロカビリーのKEE、テクノの莉菜
──中村さんは小笠原にいつ頃行かれたんですか?
中村 その昔、1980年代に。あと今年の3月にも(豊田監督に)連れていってもらった。
豊田 すごかったですね、クジラが。
中村 クジラは出るわ、イルカは出るわ、マンタは出るわ、ご機嫌な船長さんに会うわ(笑)。
豊田 お土産は亀のしゃれこうべでしたよね。
太田 え、海に落ちてたのを持ってきたんですか?
中村 いや、帰りにもらったんだけど(笑)。あと着いた日に海を見てたら、なんか黒いものが動いてて。全然沈まないし、なんだろう?って思っていたら、ウミガメの交尾でした(笑)。
豊田 2段に重なってますからね。
中村 3段だもん、俺が見たの!
豊田 そこに達也さんも乗っかってほしかったですよね。
中村 あー、俺はちょっと奥手なんで(笑)。
──和気あいあいとされていますが、バックステージはどんな雰囲気でしたか?
豊田 役者たちはセリフがあるんで、本番前は自分の世界に入ってますね。ミュージシャンチームは不良のたまり場みたいな。
中村 そんなことないですよ! どんな不良なのかはわからないけど。
豊田 なんか、イメージ的にはみかん食ってる不良。
中村 それは……いい子だな。不良じゃない。
──本番前はそれぞれのチームに分かれて控えている感じですか?
中村 ほとんどはね。でも、GOMA(Didgeridoo)くんはあっちこっち行ってたね。
太田 そうなんですよ。私はGOMAさんに助けられたというか、癒されたというか。GOMAさんが全公演に入ってくれたことが幸せでした。本当は初日と千秋楽だけ参加してもらう予定だったので。他愛もない話しかしていなんですけど、GOMAさんの佇まいにはとても癒されるんです。
──同じ役者陣の窪塚さんや渋川さんとはどのような感じでしたか?
太田 稽古中も本番もずいぶん助けられましたね。「そんな力まずに、思った通りにやればいいんだよ」ってアドバイスをいただいたり。2人が「怪獣の教え」の世界をガチッと作り上げていくのを間近で見ながら、「私もがんばろ!」って思ってました。
──豊田さんは窪塚さんも渋川さんも何度も組まれているのでよくご存知だと思いますが、太田さん含むこの3名をどうご覧になっていましたか?
豊田 まず窪塚とKEE(渋川)は相性がいいだろうなとは思っていたけれど、やっぱりよくて。そこにまったく異質のリズムを持っている莉菜ちゃんが入って。組み合わせ的にはバッチリだなと思いましたね。レゲエの窪塚、ロカビリーのKEE、うーん……テクノの莉菜!みたいな。
中村 ははははは(笑)。
豊田 で、音楽はロックンロール!
太田 でも、最初の稽古では映像も音楽も入っていなかったんですよ。音楽が入ったらまた全然変わりましたけど。
──音楽が入ったことで演技にも変化が?
太田 ありましたね。それがライブシネマのだいご味なのかなって思いました。音楽によって変化を付けられるというか、生のセッションだし一度として同じものがない。そもそも舞台とはそういうものだと思いますけど、その“生”の感じが普通の舞台を上回っている気がする。おのおの好き勝手やっても難しいし、かといって決め切っても難しいんだろうなあと思いながら、音楽と自分たちの芝居のバランスを決めていきましたね。
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舞台「怪獣の教え」
ストーリー
国家秘密を暴露する事件を起こして政府から追われる天作(窪塚洋介)は、従兄弟である島育ちのサーファー・大観(渋川清彦)を頼り東京から小笠原諸島へやって来た。しかし天作には、祖父から教えられた「怪獣」をよみがえらせるという別の目的が。一隻の船に乗り込み海へ出た2人は前夜、1人の女性と出会っていた。その女性は、世界の島を転々としながら暮らすアイランドホッパーのクッキー(太田莉菜)。クッキーは“怪獣の教え”の秘密を知っていると言うが……。
スタッフ
演出・脚本・映像:豊田利晃
音楽:TWIN TAIL 怪獣の教えVersion [中村達也(Dr) / ヤマジカズヒデ(G) / 青木ケイタ(Sax、Flute)]、GOMA(Didgeridoo)
音響:zAk
照明:高田政義
衣装:伊賀大介
怪獣デザイン:ピュ~ぴる
サウンドアドバイザー:堀江博久
キャスト
天作:窪塚洋介
大観:渋川清彦
クッキー:太田莉菜
公演日程:2016年9月21日(水)~25日(日)
会場:東京都 Zepp ブルーシアター六本木
料金:7800円(全席指定・税込)
豊田利晃(トヨダトシアキ)
1969年3月生まれ、大阪府出身の映画監督。1998年、千原浩史(千原ジュニア)主演「ポルノスター」で監督デビューを果たす。2002年には松本大洋のマンガを映像化した「青い春」を発表。そのほか主な監督作に「ナイン・ソウルズ」「空中庭園」「モンスターズクラブ」「クローズEXPLODE」などがある。2006年に中村達也、勝井祐二、照井利幸とインストユニット・TWIN TAILを結成した。
中村達也(ナカムラタツヤ)
1965年生まれ、富山県出身のドラマー。浅井健一、照井利幸と結成したBlankey Jet Cityでメジャーデビューし、その後もソロプロジェクトのLOSALIOS、FRICTIONやMANNISH BOYSなど、さまざまな形で音楽活動を展開。役者としても活躍しており、豊田が監督した2009年公開の映画「蘇りの血」では主演を務めた。そのほかにも「バレット・バレエ」「涙そうそう」「I'M FLASH!」「野火」などに出演している。
太田莉菜(オオタリナ)
1988年、千葉県生まれのモデル、女優。2001年、雑誌「ニコラ」の読者モデルオーディションでグランプリを獲得したのち、ファッション誌やCMに出演し、2004年に出演した映画「69 sixty nine」を機に女優としての活動を開始する。近年の出演作には「海月姫」「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」「テラフォーマーズ」など。2017年に出演作「君と100回目の恋」の公開を控えている。