音楽ナタリー Power Push - カフカ

憧れの街「東京」での生活、ここで生きていく決意

カフカが5枚目のアルバム「Tokyo 9 Stories」をリリースした。UK.PROJECT移籍第1弾となる本作のテーマは東京。都会で暮らす人々を主人公にしながら、他者との曖昧な関係性、繊細な自意識、未来に対する不安と希望などを描いた本作からは、カネココウタ(Vo, G)のソングライティングの幅がさらに広がっていることが伝わってくる。シューゲイザー、エレクトロ、ファンクなどを奔放に取り入れたバンドサウンドも魅力的だ。

今回音楽ナタリーではカネコへの単独インタビューを実施。2014年2月発売の前作「Rebirth」以降、「一時は音楽を辞めようと思った」というシリアスな状況を経て、カフカの新境地とも言える「Tokyo 9 Stories」完成に至る経緯を語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 中野敬久

みんな、よく生きてるなって思うんですよ

──ニューアルバム「Tokyo 9 Stories」は“東京を舞台にした9つのストーリー”を軸にした作品です。このコンセプトは制作当初から決めていたんですか?

いや、最初はなかったですね。曲を作り続けて「結局、何が言いたいのかな?」と考えてみたら、「生活を歌ってるんだな」と思って。それは全部東京で起こっていることだったし、9曲あった。「ナイン・ストーリーズ」(J.D.サリンジャーの短編集)が好きなので、タイトルは「Tokyo 9 Stories」でいこうと。“9 Stories”と謳いながら、10曲入りなのは最後に「東京」という曲ができて、これを入れないわけにはいかないと思ったからなんです。

──最後に「東京」という曲があることで、アルバムが1つにまとまってますね。

「9つの物語がある」というだけではなくて「俺はこういうふうに思う」という自分なりの結論を出したくて。そういう気持ちを直接言ってるアーティストって今、そんなにいないと思うんですよね。「自由に受け取ってくれればいい」という人のほうが多いと思うし、以前は俺もそうだったんですけど。でも今回のアルバムは聴き手に委ねるのではなくて「こう届いてほしい」という思いが自分の中に強くあったので。

──このアルバムに対してそこまで強い気持ちが生まれたのには、何かきっかけがあったんですか?

カネココウタ(Vo, G)

そうですね……。アルバムの制作に入る前に、1回、音楽を辞めようと思ったことがあったんですよ。誰とも連絡を取らず、音信不通の状態にして、逃げてたんですよね。それがけっこう長い間続いて「もう音楽を作れない」という感じになって。人間関係のこととかスランプが重なって、プツッと切れてしまったというか。メンバーにも「俺はもうやれないから、別のボーカルを入れて続けるか、解散するか。どっちかだ」という話をしました。それに対してメンバーはめちゃくちゃ怒ってたし、お互い泣きながら話をすることが続いていて。

──そんなシリアスな状況があったんですね。

そんなときに事務所の社長に「曲は作らないでいい。ただ生活をしていればいいから」って言われたんです。そこで気持ちがスーッとしたんですよね。「曲を作らないと自分には価値がない」っていうのがなんとなく染み付いてたんですよ、いつの間にか。こういう世界にいると「いかにいい曲を書くか」というところでほかのアーティストと競い合ってる気がしてたし。親でもない人から「ただ生活してればいい」と言われて……。

──気持ちが少し楽になった、と。そういう言葉って、なかなか言ってもらえないですよね。逆にダメ出しとか「もっとがんばれ」と言われることのほうが圧倒的に多いような気がします。

そうですよね。「みんな、よく生きてるな」って思うんですよ、たまに。みんな「イヤだ」「つまんねえな」と思いながらも楽しそうに笑って、周りの輪に入って本当によくやってるなって。でも僕は曲を通して「みんながつらいことも全部わかってるよ」ということを言いたいんですよね。「おせっかいだよ」とか「何をわかってるって言うんだ」って言われるかもしれないけど、この世の中に参加しているだけで誇るべきだと思うんです。いくら堕落しても、病んでいても、死んでないならそれだけで素晴らしいんだよって。

人生の中にドラマチックなことなんてほとんどない

──カネコさん自身は「生活してるだけでいい」という言葉によってどんなふうに変われたんですか?

まず「生活をしよう」と思って生活をしたことってなかったんですよ、今まで。「生活しろ」って言われたときは「してるよ!」と思ったくらいでしたし(笑)。でも「毎日、何をやってたかな」と改めて意識してみると、今までは見向きもしなかった、当たり前だけど大切なことに気付けたんですよね。日々の中にもいろいろなことがあるし、周りの人たちの会話や思考も少しずつ耳に入ってくるようになって。それをきっかけにして自分の考えを見つめ直せて、すごく視野が広がったんです。「曲は作らなくてもいい」と言われると、「じゃあ、自分は日々感じたことをどこで吐き出せばいんだろう?」とも思ったし。

──曲を書くという行為について根本から考え直すきっかけになった、と。

カネココウタ(Vo, G)

そうですね。曲が生まれてくるきっかけはいろいろあると思うんですけど、今まではショッキングな出来事とか感動的なこと、ドラマチックなことをトピックにすることが多かったんです。でも、何もしていなかった時期に自問自答を繰り返して「変わり映えのない日々を歌にするしかないな」と思って。大きい出来事なんてなかなか起きないし、人生の中にドラマチックことなんてほとんどないんですよね、実は。でも、みんな一生懸命に生きているし、それは本当にすごいことだなって。そこから「“それでいいんだ”って言いたい。そんな人間をまずほめてあげたい」という気持ちにつながったというか。

──実際の曲作りはどんなふうに始まったんですか?

最初は簡単にはいかないなって思ってました。まずメンバーに謝って「何も考えないで、スタジオに入らせてください」と頼んで。でも、最初の音をダーン!と鳴らしたら、いきなり曲ができたんですよ。その日のリハだけで3曲くらいできて、そのあとの1、2週間くらいでアルバムの曲もほとんどそろって。すごく早くて、どんなふうに作ったか覚えてないくらいでした。

──新たなクリエイティブに向かうために、悩む時期が必要だったのかもしれないですね。

そうですね。落ち込んでる時期がなかったら、今回のアルバムは全然違ったものになっただろうし、もしかしたらできてなかったかもしれない。「急がば回れ」みたいなことだったのかもしれないですね。ずっと余裕がなくて、浮足立ってるような状態だったし……。でも曲ができるようになってからは、そこまで深く悩まなかったんです。「気持ちいいか、気持ちよくないか」「これを伝えたいか、そうじゃないか」だけがあったというか。

ニューアルバム「Tokyo 9 Stories」2015年9月9日発売 / 2700円 / UK.PROJECT / UKCD-1158 / Amazon.co.jp
「Tokyo 9 Stories」
収録曲
  1. She's like Sofia Coppola
  2. Night Circus
  3. サンカショウ
  4. 残飯処理
  5. ニンゲンフシン
  6. 月の裏側
  7. ティファニーで晩餐を
  8. bananafish story
  9. 愛していると言ってくれ
  10. 東京
カフカ「Tokyo 9 Stories」Release Tour【LIVE 9 CITIES】
2015年10月1日(木)
新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
カフカ / asobius / CHERRY NADE 169 / phonon / Chic Sick
2015年10月2日(金)
宮城県 enn 2nd
カフカ / asobius / ソライロブランケット / and more
2015年10月9日(金)
香川県 DIME
カフカ / asobius / and more
2015年10月11日(日)
福岡県 graf
カフカ / 空白器官 / SHOT KING PINKs / Living Book / Martens / チューベローズ
2015年10月12日(月・祝)
広島県 HIROSHIMA 4.14
カフカ / asobius / カナタ / mira nemus / 空腹絶倒
2015年10月23日(金)
北海道 COLONY
カフカ / Vianka / THEサラダ三昧 / and more
2015年11月12日(木)
愛知県 ell. SIZE(ワンマンライブ)
2015年11月14日(土)
大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE(ワンマンライブ)
2015年11月22日(日)
東京都 UNIT(ワンマンライブ)
カフカ

カフカ

2008年東京にて結成。現在はカネココウタ(Vo, G)、ヨシミナオヤ(B)、フジイダイシ(Dr)、ミウラウチュウ(G)の4人編成で活動中。2008年に1stアルバム「Memento.」、2010年に2ndアルバム「cinema」、2011年に3rdアルバム「fantasy」をリリースし、“どこにも存在しない世界の物語”をテーマにした3部作を完成させる。2013年にミウラが加入し「呼吸 -inhale-」「呼吸 -exhale-」という2枚のミニアルバムを発表する。2014年2月に4thアルバム「Rebirth」をリリース。同作はこれまで提示してきたギターロックにエレクトロサウンドを大胆に導入した意欲作で、ミックスは森川裕之(organic stereo)、マスタリングは益子樹(ROVO、DUB SQUAD、ASLN)が手がけている。2015年9月にUK.PROJECTに移籍し、5thアルバム「Tokyo 9 Stories」を発表。10月より全国ツアー「LIVE 9 CITIES」を行う。