ナタリー PowerPush - 石月努

「生きてる限り、続けます」7年半の休止期間を経て復活

制限は全然ない

──8月14日にはアコースティックテイストのアルバム「UNPROUD」もリリースされます。

「プテラノサウルス」に収録しなかった曲がけっこうあったんですよ。色味がちょっと違うっていうのかな。ジャズ、ビバップのテイストだったり、アコースティックな手触りだったり。アコースティックツアーでは、そういう曲を中心にやろうと思ってるんですけど、このギリギリのタイミングで「アコースティックテイストのアルバムを作ろう」ということになり、レコーディングを始めて。やるからには中途半端なことはイヤだし、絶対にいいものにしようって……まあ、自分で自分の首を絞めてるようなところもありますけどね(笑)。そういうアルバムも今までリリースしたことがなかったし。

──まさに今の年齢だから似合う企画ですよね。

そうですね。バンドのときはメンバー各々のキャラクターだったり、バンド全体のイメージもありましたからね。今はソロならではの方向性に沿ったライブもできるというか。これからもいろいろな表現を見てもらえるんじゃないかなって思います。

──「プテラノサウルス」というアルバムも、非常に多岐にわたっていますよね。ロックはもちろん、ソウル、ラテンの要素も含まれていて。音楽的な制限もなくなってるんじゃないですか?

石月努

うん、そういう制限は全然ないです。バンド時代からいろいろなタイプの曲を作ってたんだけど、今はさらに広がっているというか。もちろん“僕が歌っている”という意味では一貫しているところがあると思いますが、あとは本当に自由なんですよね。もともと音楽的には雑食だし、ジャズはもちろん、テクノやトランス、ハウスミュージックなんかも聴くので。

──歌詞のメッセージ性についてはどうですか? 例えば「僕に残された時間が明日までとしたら / 君にあいたい。君にあやまりたい。君にさわりたい」(「プテラノサウルス」より)もそうですが、人生の奥深さを感じさせるフレーズが増えてるんじゃないかな、と。

そうかもしれないですね。楽曲はこの1年の間にできたものばかりなんですけど、その中にはバンド解散から7年半の思いが込められているというか。出会った人たち、そこで感じたことが、今の僕を作ってくれてると思うんですよ。ずっとバンドだけをやっていたから、社会のこともほとんど知らなかったし。もちろん、「自分はどんな人間か?」ということもすごく考えたし、たくさんの経験を含めて、今の音楽につながってるんじゃないかなって。

──そこにはファンに対する思いも含まれてますよね?

それが一番強いですよね。やっぱり僕の音楽に触れることで元気になってほしいですから。今、僕の音楽を聴いてくれてる人、バンドの頃から応援してくれてる世代の方って、しばらく音楽から離れていた方も多いみたいなんですよね。年齢を重ねて、家族ができたりすると、少しずつ音楽を聴く時間もなくなってくるというか。でも、僕が音楽活動を再開したことで、「何年かぶりにCDショップに行きました」とか「昔、よく一緒にライブに行ってた友人と再会しました」という声をもらうようになって。それはすごくうれしいことなんですよ、僕にとっても。音楽が持っているエネルギーを感じてもらって、ライブで一緒に遊んでるような感覚を味わう──それって生きていくうえでの張りになるじゃないですか。そういう場を提供できているという実感が持てることも素晴らしいですよね。

年を取るのもいいもんだな

──10月からスタートする「プテラノサウルスがやって来る。ヤァ!ヤァ!ヤァ!」も楽しみです。

僕も楽しみですね。そちらはもう、ガッツリとバンドスタイルでやるので。

──先ほどの「音楽が帰って来た」という話にもつながるかもしれないですが、ステージパフォーマーとしてブランクの影響はないですか?

ライブに関しても意外と早く戻れましたね。昔とは音楽性も違うし、ノリも変わってるんですよね、もちろん。だから会場に来てくれたお客さんも「どうやって盛り上がっていいかわからない」っていう雰囲気だったし。それがなんだか新鮮で、楽しかったんですよ。「どうしたらいいのかな?」っていう緊張感がたまらないというか(笑)。

──当然、ライブの質も変化しているわけですよね。

石月努

うん。なんて言うか、年を取るのもいいもんだなって思いましたね。「夜会」もそうだけど、昔だったら絶対にやれなかったライブをやろうとしてるわけだから……。でも、以前と変わらない部分もあるんですよ。皆さん、それぞれにいろんな状況だったり、環境に置かれてるわけだけど、音楽を聴いている瞬間だけは自分1人の世界に入れるし、ライブに来れば異次元、異世界に行くこともできる。僕も「ライブに来たときは日々のことを忘れて楽しんでほしいな」って思いますからね。

──なるほど。

ステージに立ってると、お客さんが楽しんでくれてるのがすごくわかるんですよね。皆さんのエネルギーが見えるっていうとアレだけど、あの感覚はすごく面白い。いろんなことがシンクロして、泣いてくださる方もいるし、笑顔になる方もいるし……。例えばセットリストが一緒でも、同じライブになることは絶対にないんですよ。そういう面も含めてライブって素晴らしいなって思いますね、ホントに。

アルバム「プテラノサウルス」/ 2013年6月5日発売 / 3100円 / 勇気レコーズ / URCL-1008
「プテラノサウルス」[CD] 3100円
収録曲
  1. プテラノサウルス
  2. I.S.
  3. RUSTY EMOTION
  4. Parade
  5. ありがとう。
  6. 最後の恋
  7. 銀ノ雨。
  8. Echo
  9. SNIPER
  10. 向日葵
  11. 365の奇跡
  12. ハレルヤ
石月努(いしづきつとむ)

1977年生まれ、愛知県出身。1992年にFANATIC◇CRISISを結成し、1997年にメジャーデビューを果たす。その後はバンドのフロントマンとして活躍する一方で、ほかのアーティストに楽曲を提供するなど精力的に活動。しかし2005年5月にFANATIC◇CRISIS解散以降は、デザインやアートのフィールドに活動の場を移す。2012年9月にDVDシングル「365の奇跡」のリリースを機に、約7年半ぶりに音楽活動を再開した。