ナタリー PowerPush - IsamU

社会経験が生きたリアルな詞世界 ミステリアスな新鋭に迫る

2011年にWEAVERの杉本雄治のソロ作品「facing you」に加藤イサム名義で楽曲提供したことがあったので、既にその卓越した音楽センスに注目していた人がいるかもしれない。またパッケージデビューの前に先行配信リリースされた「Only」「100回泣くこと」という2曲は、それぞれ女優の吉高由里子とタレントの福田彩乃が出演するPVが話題を呼んだこともあり、その存在が気になっていた人も多いことだろう。

ミステリアスな風貌のアーティスト写真を掲げ、アルバム「I am the same as you」でデビューする彼の名はIsamU。日常の中に散らばるキレイごとだけではないリアルな感情を丁寧にすくい取り、それをポピュラリティに満ちたグッドメロディに乗せて届けていく気鋭のシンガーソングライターだ。

音楽活動と並行して会社勤めをしているため、顔を隠してのデビューとなるIsamU。ナタリーは今回彼にインタビューを行い、気になるその素顔にグッと接近してみた。

取材・文 / もりひでゆき

「ちょっと距離を置きましょう」から曲作りへ

──IsamUさんが歌うことを職業にしたいと思ったのはいつ頃ですか?

歌手になりたい、音楽をやりたいと思い始めたのは中学生くらいから漠然と、ですね。当時、宇多田ヒカルさんがデビューされてすごく話題になっていたんですよ。年齢的に自分とそんなに変わらない人が活躍されているのを見て、自分もああなりたいなっていう憧れを持ったのがきっかけでした。おこがましいですけど、自分にももしかしたらできるのかもしれないなって思ったところがあったような気もしますね。

──そう思うようになる以前も音楽には触れていたんですか?

音楽は普通に聴いてました。基本はJ-POPでしたけど、宇多田ヒカルさんの影響で洋楽のR&Bを聴くようになったりとか。あとは幼稚園ぐらいからピアノもやっていましたし。でも、音楽をやっていきたいっていう強い感情はそんなになかったんですよね。

──音楽への道を意識し始めてからはどう動いたんでしょう?

高校時代はハモネプが流行っていたこともあって合唱部に入りました。まあそれも単に歌うことが好きだったからなので、大学に入るまでは特に何もしていなかった感じですね。で、大学に入ってから曲を作り始めました。

──そのきっかけは?

恋愛的なことでツラいことがあり(笑)。「ちょっと距離を置きましょう」みたいなことを言われてしまったので、そのツラさのはけ口としてテレコに向かって歌ったら、結構スッと曲ができたんですよね。それまでは、曲を作ることはすごく難しいことなんだっていうイメージがあったんですけど、この曲が完成したおかげで曲作りが楽しくなっていったんです。どんどん作ってましたね。

会社員としての経験が生きてる

──その曲をどこかで発表したこともありました?

基本的には自己完結的な感じでしたけど、たまーに友達に聴いてもらったりとか。その頃から路上ライブをやるようにもなっていたので、そこで披露したりはしてました。あとは何曲かまとめてデモテープを作って、レコード会社に送ったりもしてましたね。

──お、デビューのためにちゃんと動いていたんですね。

そうですね。具体的な話にまで進むことはなかったですけど、たまに1次審査を通ることはありました。自分は一般的なシンガーソングライターの方に比べると曲を作り始めた年齢が遅かったと思っているので、1次審査を通ったことでも自信にはなったんですよ。もしかしたらいけるのかもなっていう変な自信を持てたというか。ただそこから形になるまでが長かったので、正直しんどいこともありましたね。自分が抱いた自信は勘違いなんじゃないかな、とか思ったりして。

──思うように前へ進めないと自信も揺らぎますよね。

ずっとグラグラしてました(笑)。でも当時は就職するとは全く思ってなかったんですよ。就職する代わりに音楽をしたいという憧れがあったので。となると、それを実現するためには大学に通っている4年間しか時間がないわけなので、変な焦りも出てきますからね。今思うとなんであんなに焦ってたんだろうって思うんですけど。

──音楽で食っていくという気持ちが相当強かったんでしょうね。

そうだと思います。友達に、自分は歌手になるんだって宣言しちゃってたのも大きかったんですよ。自信はグラグラしっぱなしだけど(笑)、どうにかなるまではやめられないっていうプライドみたいなものがあったので、なんとか踏ん張っていた感じでしたね。でも結局は不安にかられたところもあったし、自分を信じきれなかったところもあって、普通に就職するのも大事だよねっていうマインドに変わっていったんですけど。

──今の時代、会社勤めをしながら音楽活動をするアーティストも珍しくはないですけど、IsamUさんにとってはかなり大きな決断だったわけですよね。

ですね。会社勤めをしながら音楽をやっている人がいることは十分認識してはいたんですけど、憧れの場所に憧れた姿のままたどり着きたいっていう気持ちがありましたからね。かなり葛藤しました。でも就職をしたからって音楽をやめなきゃいけないわけではないし、それまでも学校に行きながら曲作りやライブができていたので、きっと大丈夫だろうと。あとは自分の音楽をみんなにわかってもらいたいのであれば、みんなが普通にやっていることをちゃんと経験したいなっていう思いもあったんです。

──なるほど。会社員としての経験は、音楽をやる上で無駄にはならないだろうと。

はい。働いているというバックグラウンドが、曲や歌詞に説得力みたいなオーラをまとわせられたらいいなと思ったんです。実際に会社員としての経験が音楽に生きているなっていうのは今すごく実感してますからね。

デビューアルバム「I am the same as you」 / 2013/01/16発売 / 1980円 / A-Sketch / AZNT-2
1stフルアルバム「I am the same as you」
収録曲
  1. 負けんな!
  2. 100回泣くこと
  3. 代々木公園
  4. Drive
  5. インソムニア
  6. Only
  7. 蝙蝠
  8. 引っ越し
  9. ハッピーエンド
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IsamU(いさむ)

1985年生まれの男性シンガーソングライター。アーティスト名は「I am the same as you.(似た者同士)」という言葉から作られた造語で、「人と人の距離を縮め、いつでもあなたの傍にいたい」という思いが込められている。2011年にWEAVERの杉本雄治のソロミニアルバム「facing you」に加藤イサム名義で楽曲を提供したことを機にデビューのチャンスをつかみ、2013年1月に満を持してアルバム「I am the same as you」でA-Sketchからデビューを果たす。