アイドルの頂点目指す熱き物語「IDOLY PRIDE」その音楽の魅力に迫る3本立て企画

サイバーエージェントグループ、ミュージックレイン、ストレートエッジの3社によってメディアミックス展開されている大型アイドルプロジェクト「IDOLY PRIDE」。今年の1月から3月にかけて放送されたテレビアニメでは、芸能事務所・星見プロダクションで10人の新人アイドルが出会い、月のテンペストとサニーピースという2組のグループを結成し、新人アイドルの頂点を決める大会「NEXT VENUSグランプリ」に挑む姿が描かれた。本作にはキャストとして、神田沙也加、スフィアの戸松遥、高垣彩陽、寿美菜子、豊崎愛生、TrySailの雨宮天、麻倉もも、夏川椎菜、そして2017年に行われた「第3回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格したミュージックレイン3期生の相川奏多、橘美來、夏目ここな、日向もか、宮沢小春らが出演。各ユニットの音楽は沖井礼二(TWEEDEES)、北川勝利(ROUND TABLE)、利根川貴之(Wicky.Recordings)、大石昌良、kz(livetune)、Q-MHz、清竜人、さかいゆう、田中秀和(MONACA)、やしきんといった作家陣が手がけている。

音楽ナタリーでは「IDOLY PRIDE」の音楽的魅力を掘り下げるべく、沖井礼二、北川勝利、利根川貴之の3人の鼎談を実施。さらに作家陣にアンケートを通して「IDOLY PRIDE」の印象や提供曲のイメージを聞いた。また特集の最後には、月のテンペストとサニーピースのインタビューを掲載する。

取材・文 / 須藤輝(P1~2)

沖井礼二×北川勝利×利根川貴之 鼎談

沖井礼二(オキイレイジ)
制作曲
  • 星見プロダクション「The Sun, Moon and Stars」(作曲・編曲)
沖井礼二
Rickenbacker Model 4003S Firegloがトレードマークのベーシスト。1997年にCymbalsを結成し、リーダーとして個性的な作編曲及びベースプレイで注目を浴びる。2003年のCymbals解散後は、ソロユニットFROGや新井仁らとのバンドSCOTT GOES FORなどで活動し、現在はシンガー清浦夏実とのバンド・TWEEDEESで活動中。作曲家、音楽プロデューサーとしても才能を発揮し、花澤香菜、竹達彩奈、尾崎由香、RYUTistといったアーティストに多くの楽曲を提供している。
北川勝利(キタガワカツトシ)
制作曲
  • 星見プロダクション「Pray for You」(作曲・編曲)
  • サニーピース「Shining Days」(作詞・作曲・編曲)
  • サニーピース「SUNNY PEACE HARMONY」(作詞・作曲・編曲)
  • サニーピース「EVERYDAY! SUNNYDAY!」(作詞・作曲・編曲)
北川勝利
1993年にROUND TABLEとしての活動を開始。1998年にはミニアルバム「Feelin' Groovy」でマーキュリーレコードよりメジャーデビューした。2002年にNinoをボーカルに迎えたROUND TABLE featuring Nino名義での活動も並行してスタートさせ、2012年をもって活動を休止。現在は坂本真綾、花澤香菜、中島愛、やなぎなぎ、ワルキューレほか多数のアーティストの楽曲提供やサウンドプロデュースを行っている。
利根川貴之(トネガワタカユキ)
制作曲
  • 星見プロダクション「The Sun, Moon and Stars」(作詞)
  • 星見プロダクション「Shine Purity~輝きの純度~」(作詞・作曲)
  • 星見プロダクション「Pray for You」(作詞)
  • 月のテンペスト「Daytime Moon」(作詞・作曲)
  • 月のテンペスト「月下儚美」(作詞・作曲)
  • 月のテンペスト「The One and Only」(作詞・作曲)
※作曲はすべて坂和也との共作
利根川貴之
音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。CM、アニメ、ゲーム音楽などの制作のほか、でんぱ組.inc、妄想キャリブレーション、神宿、天晴れ!原宿、煌めき☆アンフォレントといったアイドルへの楽曲提供も行っている。(株)Wicky.Recordsの代表取締役であり、音楽プロデューサーチーム・Wicky.RecordingsのメンバーとしてDr.Usui、坂和也と共に活動中。2021年4月にWicky.Records初のアイドルグループを立ち上げることを発表した。

集められた3人

──「IDOLY PRIDE」の楽曲制作に携わる作家陣のクレジットの中に沖井礼二、北川勝利、利根川貴之という3人の名前を見たとき、意図的なものを感じたというか。このプロジェクトの裏に、明確な意図を持った人がいるんだろうなと思ったのですが、皆さんはそれを感じました?

沖井礼二 感じましたね。「集められたな」という。

──約20年前、皆さんがCymbals(沖井)、ROUND TABLE(北川)、Roboshop Mania(利根川)として活動していた当時はおそらく考えてもいなかったであろうアニメのシーンできっちり仕事をしているという点で、感慨みたいなものは?

利根川貴之 ありますね。「IDOLY PRIDE」からめっちゃ離れそうですけど、まさか沖井さんと北川くんの曲の歌詞を僕が書くことになるとは思いませんでしたし。3人ともほぼ同じタイミングでデビューして、北川くんはROUND TABLEをずっと続けていますけど、それを考えると不思議なご縁でございますね。

沖井 利根川くんと北川くんが97年、僕が98年にデビューしてるから、もうすぐ25年経つんだよ。

利根川 ひゃあ。

沖井 ただ、「集められた」といっても再会という感じじゃなくて。みんなそれぞれに自分の個性とか嗜好性とかを貫いてきた結果、今ここにいるわけで、なんでも屋みたいな人は誰もいないんだよね。もしかしたら僕たちの楽曲を聴いて育った人たちが今ディレクターとかプロデューサーになっているのかもしれないけれども、それはそれで自分たちの蒔いた種が芽吹いてきたということでもある。僕は昔も今も同じスタンスで音楽を作っているし、OKとNGのラインは自分の中で設定しているし、やりたくないことはきっとやらない。そのうえで3人がまた一緒のステージに立っているというのは、かつて僕は利根川くんのバンドでベースを弾いていたこともあるけれど、感慨深いものがあるっちゃありますね。

左から利根川貴之、沖井礼二、北川勝利。

──沖井さんがおっしゃるところの「一緒のステージ」というのがアニメというのも、昨今の状況からすれば不思議ではないのかもしれませんが、その道は北川さんが切り拓いてきた部分が大きいのではないかと。

沖井 北川くんはなんて言うかわからないけど、北川くんがアニメに合わせていったわけじゃないと思うんですよ。アニメの中に、我々が作ってきたような音楽が求められている部分があったんだろうなと。ただ、やっぱりそのパイオニアはこの人(北川)だし、偉業だと僕は思います。

──北川さんは以前、折しも今年配信が解禁されたChappieの楽曲「Everyday」がきっかけでアニソンに関わるようになったというお話をされていましたよね(参照:花澤香菜「claire」特集)。

北川勝利 はいはい。そうか、あの曲を聴いたFlyingDogの福田(正夫)さんが、アニメ「ちょびっツ」のオープニング主題歌(「Let Me Be With You」)とかを発注してくれたんだ。

沖井 今思い返せば事件だったんだろうね。

それぞれのスキルをぶつけ合う格好になった

北川 10年近く前に花澤香菜さんのソロプロジェクトが動き出して、そのときはものすごく再会感があったんですよ(2013年2月にリリースされた花澤香菜の1stアルバム「claire」に北川と沖井がともに参加)。でも今回は、その再会を経て例えばゲーム音楽の仕事とかでお互いに呼んだり呼んでもらったりという流れがあって、この「IDOLY PRIDE」という作品でまたそれぞれのスキルをぶつけ合う格好になっただけというか。結果、楽曲もすごくいいものがそろったし、そこは面白いし楽しいと思います。

沖井 ふと気が付いたんだけど、20年前に僕たちのCDを買ってくれてた人たちって、たぶん休みの日はレコード屋に行ってレコードを掘ってた人たちじゃないですか。その人たちの中には、2010年代以降、ゲームとかアニメのほうに行った人も少なくないと思うんですよ。時代によってヒップなもの……っていう表現がもはやヒップじゃないけど、ヒップなものは変わっていくので。レコード屋はどんどんなくなっていくけれども、ゲームとかアニメはあの頃とはまったく別のものに成長しているわけだから。そこには市場という、なんとなくぼんやりしたものがあるけれど、それを支えているのは人なんですよ。そこに我々がいられるというのは、とてもラッキーなのかもしれない。

利根川 やっぱりゲームとかアニメというものが増えて、なおかつそれらのコンテンツの中で個々のキャラクターにストーリー性が求めるようになったぶん、キャラソンやイメージソングみたいなものがどんどん枝分かれしていったと思うんですよ。そういう状況で、もしかしたらCDは前ほど売れなくなってしまったのかもしれないけど、音楽の必要性は増したし、多様性も出てきたんじゃないのかな。だから僕らがやってきた音楽が受容されるような土壌にもなっていると思うし、もちろん僕らより下の世代もどんどん出てきていますよね。しかも今はそれがサブスクで、1つの端末でいろんな音楽が同時に入ってくる。

──そこには文脈も註釈も新旧もないですよね。

利根川 そう。ある意味フラットに評価されちゃう怖さはあるんですけど、いろんな人に聴かれるチャンスは広がったというか。

沖井 1つの端末で全部聴けるっていうのは、確かにそういうことだよね。

利根川 残念ながら僕がやってたバンドはサブスクに入ってないんですけど(笑)。

利根川くんは通訳

──利根川さんが予想した通り「IDOLY PRIDE」から少し離れてしまいましたが、この作品の下に「集められた」うえで、ご自身の役割や参加する意義みたいなものは考えましたか?

沖井 自分を呼んでくれたことが、すなわちその意義だと思っていて。一応、キャラクターや設定、楽曲に求められるムードについては説明を聞いたけれども、僕の場合はエンディングテーマだったこともあってか、「沖井さんをください」みたいな。だから丸投げと言ったら言葉が悪いけど、任せてもらった感じで。だからこそやりやすい部分もあるし、逆に「これに似た曲を作ってください」みたいに言われると、ちょっと気持ちが落ちるところがあるじゃないですか。たぶんそれはみんな一緒じゃないかな。

利根川 僕は設定とかストーリーをめっちゃ見て作るタイプというか、そこから何をどうやって引き出すかを考えるのが好きというか……。

沖井 そう、利根川くんの感情移入がすごいんですよ。僕が曲を作るときも、設定とか情景をうまく飲み込めないところは利根川くんに相談していたし……だから利根川くんは通訳だ。

利根川 そう、通訳ですね。僕は0から1を生み出すというよりは、すでにある1をできるだけ大きくしようとするタイプだとなんとなく自分では思っていて。逆に2人は0から生み出せる作家なので、僕は作詞あるいはディレクションという形で2人と会話しながら作っていったという感じですね。

北川 僕は最初、星見プロダクションの10人で歌う曲という説明を受けて、だけど途中で5人ずつのグループに分かれてとか……「絶対に言っちゃダメですよ」と注意されたんですけど。

一同 (笑)。

北川 そういうちょっと話が飲み込めなかったところはありつつも、とにかくアイドルグループがいくつもあって、各グループにはそれぞれ違う作家が付いているイメージなんですよね。そこで僕が担当するサニーピースというグループは太陽と月で言ったら太陽なので、そういう方向性で作ってくださいと。

沖井 北川くんの場合はサニピというグループの楽曲だけど、僕の場合はさっきも言ったように10人で歌うエンディングという話だったので、そこの入り口は違うと思うんですよ。だからたぶん「沖井さんをください」みたいな感じじゃなくて……まあ、実際に先方からそういうワードが出てきたわけじゃないんだけど。

北川 沖井くんの耳にはそう聞こえたんだ(笑)。

沖井 じゃあ僕も「沖井をあげなきゃな」と(笑)。

北川 確かに、僕の場合はシナリオをいただいて「第何話のこういうシーンで流れます」とか、その場合に必要なテンポ感とか汲んでほしい意図とか、わりと細かい指定がありました。でも、その欲しい感じはちゃんと共有できたし、その中で自由にやらせてもらいましたし、やりやすかったですね。

沖井 北川くんは劇中歌だもんね。逆に、例えばオープニングを担当した清(竜人)くんはどういうオファーの仕方をされたのか知りたいかなって。

北川 いいオープニングだったよね。