HYDE|「ANTI」を経て突入した新時代

いいタイトルが付くと完成度が上がる

──今回の歌詞は、「東京マラソン」にちなんで走ることが大きなテーマになっています。そのテーマもなんですが、従来のHYDEさんの歌詞には出てこなかったような単語が出てきていて新鮮でした。具体的には「シューズ」とか。

うん。それは僕も書いていて感じました(笑)。でも「シューズ」とかはDepeche Modeの曲(「Walking In My Shoes」)の重い歌詞にも出てくるような単語だし。僕は普段は使わないから、みんなのイメージからしたら「あれ?」と思うかもしれないですけど。

──「東京マラソン」側から何か歌詞に対するリクエストはありましたか?

特になかったです。ただ、相手から「こういう感じの曲を」というオファーがあったとしても、僕はそのオーダーよりももっと深いものを作れる自信があるんです。例えば、企業の人が曲に対して深い部分まで考えるよりも、音楽のプロであるアーティストが深く考えるほうが完成度が上がるというか。

──それはこれまでのキャリアに裏打ちされる部分もあるでしょうね。普段、HYDEさんが歌詞を書くうえで意識していることはありますか?

一番は言葉とメロディがうまく流れるかどうか。あとは言葉の意味が伝わるかどうかなんだけど、言葉とメロディのどちらを取るかといったら、確実に僕はメロディ。メロディが流れないのに、キレイな言葉を選んでも仕方がない。

──言葉選びにおけるルールはありますか?

「BELIEVING IN MYSELF」のミュージックビデオのワンシーン。

英語詞だったら言葉は簡単なほうがいいと思ってるし、日本語は歌詞全体が理解できなくても、1曲の中でワンワードは飛び込んでくるような曲にしたいと思ってるんです。全体的に細かい意味を理解してもらおうとは思ってなくて。「BELIEVING IN MYSELF」だったら、例えば「先へ踏み出すよ」といったフレーズだけでも聴いている人に刺さればいい。全部を理解させようとなると、フォークソングみたいな感じになっちゃうから(笑)。

──今回は「自分を信じていたい」といったストレートな言葉もありました。

ね? 僕もこんなクサいことを言うようになったんだなと自分で思いました(笑)。ライブのMCでも言ってるような内容で、それが歌詞になった珍しいケースですね。

──珍しい、というのは音楽で表現するものと、ご自身が発せられるメッセージをこれまでは切り分けていた部分があるんですか?

そうですね。今まではそこをつなげようと思ったことはなかった。

──以前もおっしゃっていたように素直になられたということでしょうかね。個人的に「まだ知らない僕に会いにいきたい」と言った言葉も耳に残りました。

僕は走ること自体はそんなに好きではないし、苦手なほうだけど、1周走り終えると「これまでの僕じゃないな」「僕でもできるんだな」と思うんです。自分を疑って、やらなかったり、ごまかしたりして走らないほうが楽だけど、それを超えたときにひと皮剥けたような気持ちになる。例えばフルマラソンだったら40km以上走るわけでしょ? それを走り切ったり、それまでの自分のタイムを超えられたりしたら、“次の自分”に会えるわけじゃないですか? そういう言葉は、走ってる人には伝わるんじゃないかなと思って。

──アーティストとアスリートは近い部分があると言われますよね。自分の限界を常に超えていかなきゃいけない。例えばいいライブができたら、それを超えていくというのが次の課題になってくる。

そうですね。だから自分の活動ともリンクさせやすかった。

──タイトルはHYDEさんが決められたんですか?

「BELIEVING IN MYSELF」のミュージックビデオのワンシーン。

作詞も一緒にしたAliと何度かやり取りして付けました。彼から「BELIEVING IN MYSELF」という言葉が出てきたときに、これならタイトルになると思ったんです。この曲に関しては、曲を象徴するようなタイトルがないとダメだと考えていて。常にそうなんですけど、タイトルを安直に付けたくなかった。タイトルが決まったあとに歌ってみたら、グッとくる部分がありましたね。「やっと曲がまとまった」という感じでした。

──普段からタイトルが決まると曲が締まる?

そうそう。いいタイトルが付くと完成度がグッと上がる気がしますね。

自分が書いたものは死ぬ前に燃やす

──ところで普段の作詞スタイルはどんな形ですか?

MacBookを使ってますね。昔は手書きだったけど、手書きはもうないかな。曲を聴きながら書けるし、漢字わかんなくても出てくるし、録音もすぐできるからね。

──譜割を考えるとなると便利ですよね。毎回緻密に音に対して組み合わせていくんですか?

緻密に調整するときもあれば、言葉を優先してメロディを変えることもあります。自分が作曲している曲は、多少メロディが変わっても自分の責任だから。

──言葉によってメロディや音も変わっていくんですね。作詞にあたってPCを使い始めた時期は覚えてますか?

「BELIEVING IN MYSELF」のミュージックビデオのワンシーン。

覚えてないなあ。でも、10年くらい前? GarageBandでの作曲は2005年くらいに始めたかな。まあ、歌詞を手書きしていた頃のほうが、落書きとかもあって面白いところはあったと思いますけど。

──確かに手書きは味はありますよね。以前、デヴィッド・ボウイの大回顧展「DAVID BOWIE is」や細野晴臣さんの展示イベント「細野観光」に行ったとき、手書きの歌詞やメモが残っていて面白かったのを思い出しました。

うん。でも、僕は自分が書いたものは死ぬ前に燃やすつもり。価値としてはすごいものあるとは思うけど。

──でも、自分の痕跡は残したくない?

そういうものはね。まあ、PCがメインになって面白い部分は減ったけど、使ったほうが作業が早いから。それには敵わない。とにかくPCによって音楽制作のスピードは変わりましたね。そう言えば、最近だとYouTubeで楽器の弾き方とかも学べるじゃない? あれは素晴らしいと思う。ツールを使える人も増えたし、以前よりアーティストになりやすい環境になったと思う。

──発表の場も多様化してますし。

ね。昔は身近にギターを教えてくれるような人がいなくて、挫折する人もいっぱいいたと思うけど、今は動画で学ぶことができるし。Fコードの押さえ方のコツとかもすぐ知れそうだよね。

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HYDE流“令和ソング”