ハンバート ハンバート「愛のひみつ」インタビュー&阿佐ヶ谷姉妹との特番密着レポ|その“LOVE”はどこからやってきたのか

これが欧米のサウンドか

──音の向こう側に2人の日常が透けて見えてくるのが、そもそもハンバートの音楽の魅力でもありますよね。ハンバートの音楽は「お家でおとなしくしていましょう」というSTAY HOMEのお供にピッタリだと思われがちですが、今回のアルバム「愛のひみつ」はちょっと様子が違っていて、聴いていると、なんだか表へ飛び出したくてウズウズしてくるところがある。

佐藤 なるほど。

──そんな感じでありながら、帰るべき場所があることのありがたさをしみじみ教えてくれるアルバムになっているのも素晴らしかったです。それからマスタリングをグレッグ・カルビが手がけていることも目を惹きました。

佐藤 これはSTAY HOMEのおかげですね。エンジニアの永井はじめさんとマスタリングをどうするか話し合っていたとき「立ち会いが難しくて音を送ってやり取りするんだったら、別に日本にこだわることはない」と思い付いて。そしたら偶然SNSの広告が目に入ったんです。ロンドンのスタジオがSTAY HOME期間中、オンラインでのマスタリングを割引価格で引き受けるキャンペーンを行っていたんですよ。「これがやりたいなあ」と思っているところにちょうどいい広告が出てくる、あれはいったいなんだろう(笑)。で、結局はそのスタジオに頼まなかったんだけど、ボブ・ディランをはじめ、大好きなミュージシャンのアルバムでよく名前を見かけるグレッグ・カルビに頼んでみようと。それは今まで考えたこともなかった発想でしたね。

──どうですか、仕上がり具合に関しては。

佐野 これが欧米か、って感じ(笑)。

佐藤 (笑)。でもうれしかった、本当に。

ハンバート ハンバート

音楽は不要不急でも、一切なくなってしまったらマズい

──今年は春に行われる予定だったツアー「ローマの平日&休日」が中止になり、ライブができない状況が続きました。改めてライブのありがたみを感じていると思うのですが、この1年間を振り返ってどうですか?

佐野 意外とレコーディングに集中できたことがよかったですかね。

佐藤 充実してたね。

佐野遊穂(Vo, Harmonica)

佐野 でもライブをやりたい気持ちも当然あって、9月に日比谷野音のイベントでお客さんを前にして演奏できたときは「楽しい!」と盛り上がったんですが、帰宅してから「なんであそこで『みんなに会えてうれしい』とか言わなかったんだろう……」と反省しちゃって(笑)。そこでもブレーキかかっちゃったんだよね。「そういうことを言うのは私のキャラじゃない」って。

佐藤 ついついね。「みんなが言いそうなことを言う必要ないや」と思っちゃうんですよ。

佐野 それをちゃんと言葉にしなきゃ誰にも伝わらない、って曲を歌っているのにね。

──「ぼくらの魔法」の何気ない言葉の大切さを題材にした歌詞に「その通りだよなあ」って感動したんですから(笑)。

佐藤 あの歌詞は自分への戒めですね。本当にそう。でも半年ぶりにお客さんの前に立ったから、すごく戸惑いましたね。「お客さんが目の前にいる」という事実に圧倒されて、体がうまく反応しなかったんですよ。ひさびさに飲み会に参加した感じにも似ていて、「ずっと人としゃべっていなかったら、雑談する力も落ちてしまうんだなあ」ということもわかった。

──あちこちでいろんな方々が話していらっしゃいますが、こういう特殊な時期にアーティストはどういう役割を担っていると感じるか、その質問を2人にも投げかけてみたいです。音楽は不要不急の枠に入れられて、あと回しにされる仕打ちを受けていましたが。

佐野 普段から「自分たちがやっていることはなんらかの役に立っているんだろうか?」とよく考えるんです。基本的に好きだからやっているわけだし、それを応援してくれる人がいるけど、アンケートやSNSで「ハンバートのライブを楽しみにしてがんばっている」というコメントを目にすると、本当にありがたいなって……。

佐藤 うんうん、つまり自分たちが好きでやっていることを認めてくれるとうれしいなと。

佐野 うーん、そういうふうに言うとなんか違う気がする(笑)。

佐藤良成(Vo, G)

佐藤 コンパクトにまとめてみたんだけど。

佐野 単純に歌うこと自体が楽しいんだけど、誰も聴いてくれなかったら寂しいし、聴いてくれる人の存在を感じることでうれしさが増すんだけど、「私たちの音楽を何かの役に立てて欲しい」とは思わない。こっちも会えたらうれしいし、相手も同じようにうれしく思ってくれたら、それ以上何も言うことはない、という感じですかね。

佐藤 これはある人から言われたことなんですが、僕らの音楽を聴く楽しみって、仕事に忙殺される日々の中、ふと立ち止まる時間を作り、何か考えるきっかけを与えてくれるところみたいで。決して人の役に立っているとは思わないし、仕事を効率化させるような力もないけど、立ち止まって空でも眺めながらふっとひと息つく。そんな行為に近いというか、どうやらそういうものらしいと。確かに不要不急なものなんですが、そういうものが一切なくなってしまった世界はマズいなと思う。ちなみに僕は「みんなにとって僕たちの音楽は必要なんだろうか?」とか悩んだりすることは一切ありません。

──そういう2人の姿勢や美意識というのは、どんなときでも一定不変というか、何があろうがまったくブレない。そんな頼もしさを「愛のひみつ」からも感じられるわけで。

佐藤 変わらないんですね。マイペースってことなんでしょうかね。

──決して居丈高に「愛とはこれだ!」と主張していないし、2人らしいやり方でさまざまな“LOVE”の在り様を提示している。さらに「愛のひみつ」はこれまでの作品と比べると、思いの打ち出し方にパワフルさを感じさせるところも魅力的で。

佐野 アーティスト写真で着ている服も赤だしね。

佐藤 情熱的ですねえ。

ハンバート ハンバートと阿佐ヶ谷姉妹はそっくり?

──スペースシャワーTVでオンエアされる特番「ハンバート ハンバート 愛のひみつ SPECIAL」の内容についてもお聞かせ願えますか。ゲスト出演している阿佐ヶ谷姉妹とコントをやったり、かなりそそられるプログラムになっているようですが。

阿佐ヶ谷3姉妹

佐野 コントは私も参加して阿佐ヶ谷3姉妹になりました。あのピンクの衣装を貸してもらって。

──おー、それは楽しみ! もともと彼女たちのファンだったんですか?

佐野 好きだったし、彼女たちの本「のほほんふたり暮らし」を読んだら「かなり私たちに似ている!」と思ったんです。

──どういうところが?

佐野 関係性もそうだし、「たぶん出不精なんだろうな」と思えるところとか。あとは忘れ物が多いところも。

佐藤 仕事のとき、大事なものを忘れてくるところね。

佐野 阿佐ヶ谷姉妹さんも、あのピンクのドレスを3回ぐらい忘れたことがあるらしくって。

佐藤 遊穂もハーモニカを忘れてくるし、化粧ポーチや靴を持ってこなかったり、いつもバタバタするもんね。

佐野 あの本を読むと「私とおんなじだ!」と思っちゃう人が多いかも。だから阿佐ヶ谷姉妹さんはみんなから好かれているんだろうな。トークコーナーでもいろいろお話をさせてもらったら……。

佐藤 ますます好きになっちゃったね。僕らとホント似てるんですよ。生活と仕事が地続きで、ずっと一緒にいる間柄とか。「年に何日ぐらい一緒じゃない日があるのですか?」と聞いたら「長くて3日」と言ってた。それで「あ、僕らとほとんど同じだあ」って。

ハンバート ハンバート

──彼女たちが醸し出しているアットホームな雰囲気はハンバートの表現する世界に通じるものがありますね。あとは生活していくうえで、いろいろと不満をぶつけあったりしている様子も……。

佐藤 小競り合いね。

──そうそう、それが透けて見えてくるのも通じるところがあるなあって思ったりして。

佐野 私たちも小競り合いは多いよね。

佐藤 ざっくり言うと、俺が江里子さんで、遊穂が美穂さんに近い立場だね。

佐野 真面目なほうと、ぼーっとしてるほう(笑)。とにかく2020年一番の思い出は、阿佐ヶ谷姉妹さんとの共演になると思う。

佐藤 今年一番イキイキしていたかも。

──初のコントにチャレンジした年として、ハンバートの歴史に刻まれると。ライブパートでは「愛のひみつ」の曲もたっぷり披露されるみたいですし、指折り楽しみに待ちたいと思います。

佐藤 年末には「愛のひみつ」というタイトルにかけて、ワンマン「愛のふしぎ」も行いますし。にぎやかで楽しいライブにして、いい感じに年を越せるようにしたいですね。

ライブ情報

ハンバート ハンバート歳末公演「愛のふしぎ」
  • 2020年12月26日(土) 東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂) OPEN 17:00 / START 18:00
  • 2020年12月27日(日) 東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂) OPEN 16:30 / START 17:30
  • 生配信 配信日時:2020年12月27日(日)17:00~