音楽ナタリー PowerPush - wowaka(ヒトリエ)×山中拓也(THE ORAL CIGARETTES)
“ダンスロックバンド”の胸中
安いPVはバンドの価値を下げる
──映像にまでこだわるってインディーズ時代にはなかなかできないことですよね。
山中 いえ、僕たちはインディーズ時代に全然お金がなかったけど「PVは絶対大事」っていうのが当時からあったので、こだわって作ってました。安いPVなんて作ったらそのバンドの価値自体が下がると思ってたくらいで。お金はほんとなかったんですけど、知り合いに映像作ってる人がいて、5~6万とかで1本作ってくれるっていう話になった。「それなら物販がんばれば出せるかもしれない!」って思ったのが最初にPVを撮ったきっかけです。「逆恨み小僧」と「mist...」って曲のPVを最初に作ったんですけど、お金がなかったから2曲を1本のPVにドッキングさせてるんですよ(笑)。でもインディーズ時代に実はもう1本撮ってるんですけど、それはクオリティに納得ができなくてお蔵入りにしました。
wowaka インディーズ時代にその判断ができたっていうのも本当にすごい話だなあ。
山中 制作費は無駄になりましたけど、妥協したくなかったし。そのくらいPVって大事だと思うんですよね。
wowaka 僕の場合、1人でやってた頃はWEBでいろいろ探してこの人いいなと思った人にジャケットとかの絵を頼んでました。PVこそ最初は作ってなかったけど、音とジャケットと特設サイトを揃えて、音源を聴いてもらうっていうところを1つの作品として世の中に出すってことにはこだわってましたね。
──メジャーになって制作面でどのような変化が生まれましたか?
wowaka 無茶ぶりができるようになったかな。例えば「インパーフェクション」のPVを個人でやろうと思っても無理だろうって思うし。できることの規模を広げられるので、それが刺激になってさらに音楽に還元されるというか、自分ができる表現の幅も広がるなって。あとは関わってくる人がそれぞれの分野のプロフェッショナルなので、秀でたバランス感覚を持つ人とかこだわりを持ってる人とかと出会えて、自分の作品にまた還元できるっていうのもかなり大きいかな。ライブの本数がメジャーになってから増えたし、「大衆に届いてナンボ」って気持ちが自分の根底にあるからそこはブレることなくやっていきたい。
山中 僕の場合だと昔は「オカンに聴かせて『いいね』って言ってもらえる曲書かないと」くらいのノリでしたけど、今はより多くの人に聴いてもらえる音楽を作りたいし、なんか自分の芯を折らずにしっかり残したまま範囲を広げたいって思ってますね。
フェスとワンマンで違う見せ方がある
──現在の音楽シーンや自分たちの立ち位置についてどう感じてますか。
wowaka これは拓也くんのほうがわかってる部分も多いのかな。ヒトリエの場合はバンド結成の成り立ちも含め、普通とはちょっと違うところから始まってるんで、壁みたいなものを感じることはけっこうあるんですよ。イベントやフェスに出るようになったのはここ最近だからシーンの空気感とかわからないことも多いし、冷めた目線で見てるのもあるというのが正直なところです。バンドシーンの中にいる今の僕らのエネルギーになってるのは、自分たちが一番カッコいいと思ってやってることを誠実に続けていくことですね。それが正しいと信じてるし、僕らの強みだと思ってます。
山中 アーティストとリスナーの出会いってフェスがきっかけになることが多くなってきてると思うんです。そこに来るお客さんは楽しみたい人がほとんどだから、できるだけたくさん楽しい曲をやって盛り上げたほうがいいんだろうけど、一方でどうやって自分たちのやりたいことを隅から隅まで見せたらいいのかっていう葛藤があった。でもフェスでは楽しい曲をやって、気に入ってくれたお客さんがワンマンライブまで遊びに来てくれたら、そこでは隅から隅までしっかり見せればいいと思うようになった。
wowaka オーラルのライブや音源で感じたのはそのあたりのバランスのよさなんですよね。自然に体が動くくらい楽しませるっていうこととドロドロしたところを表現するっていうことを高いレベルで融合させてやってるなって。僕自身もそこを目指していたりするんですよ。ちゃんとエンタメをしたいし、その上で自分を全部見せて、会場の空気までひっくるめて音楽を表現したものをお客さんに観てほしいっていうのがライブをやってる理由なので、なんかそういうのをブレないように……わかったような口で言っちゃうんですけど、拓也くんとはやっぱり近いと思うんですよ。だから考えの浅い単細胞なバンドを見てるとムカつくなって思ったりも(笑)。
山中 けっこう言うんですね!(笑)
“ダンスロックシーン”について思うこと
──いわゆる「高速四つ打ち」とか「ダンスロック」と呼ばれるシーンについてはどのような考えを持ってますか?
wowaka まずカテゴライズの仕方がけっこう雑だなって思います(笑)。
山中 (笑)。“四つ打ちダンスロックバンド”って書かれ方をするのに関しては、どうだろうって思ったりするけど、でもその四つ打ちとかダンスロックそのものに抵抗はないですよ。オケの部分に四つ打ちが合うなら四つ打ちをやるべきだと僕は思う。世に出すってなったときには責任感を持って、作曲中に「このメロディには四つ打ち合わへんし、このギターのバッキングとかカッティングに合ってない」と感じるならやるべきじゃないし。だけど「なんでもかんでも四つ打ちやってりゃいいぜ」って言うバンドが実際にいたら「これ四つ打ちじゃなくてよくないか?」って自分からしたらすぐわかるんですよね、実際に四つ打ちの曲も作ってるから。フェスに来てるいわゆる“楽しみたいお客さん”を相手にウケる曲を作らなきゃっていう焦りがあるから高速四つ打ちに固執するのかもしれないですけどね。
wowaka ヒトリエにも四つ打ちの曲はたくさんあるけど、そうじゃない曲もたくさんある。制作中に曲自体が四つ打ちを呼んでいたり、そのビートでなければいけない理由を自分なりに見出せれば、制作過程の中で四つ打ちに戻ってきたりすることもある。今流行っているリズム、メロディ、曲の影響がないって言ったら嘘になるし、そういうのを踏まえて、いろんなものを消化して出してる結果が作品なので。
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- ヒトリエ 1stフルアルバム「WONDER and WONDER」 / 2014年11月26日発売 / 非日常レコーズ
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3672円 / AICL-2785~6
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3672円 / AICL-2785~6
- 通常盤 [CD] 3024円 / AICL-2787
CD収録曲
- 終着点
- インパーフェクション
- N/A
- 5カウントハロー
- ピューパ・シネマ
- 癖
- NONSENSE
- ボートマン
- なぜなぜ
- 我楽多遊び
- ゴーストロール
- センスレス・ワンダー
初回限定盤DVD収録内容
<LIVE at LIQUIDROOM 20140418>
- ワールズエンド・ダンスホール
- (W)HERE
- センスレス・ワンダー
- 踊るマネキン、唄う阿呆
- ローリンガール
- THE ORAL CIGARETTES 1stフルアルバム「The BKW Show!!」 / 2014年11月12日発売 / A-Sketch
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / AZZS-28
- 通常盤 [CD] 2700円 / AZCS-1038
CD収録曲
- 嫌い
- モンスターエフェクト
- ハロウィンの余韻
- STARGET
- 自動販売機の男
- 僕は夢を見る
- リメイクセンス
- 起死回生STORY
- 大魔王参上
- 透明な雨宿り
初回限定盤DVD収録内容
~唇ツアー2014の巻~
- 出会い街
- 机上の空論に意味を為す
- mist...
- 大魔王参上
- 起死回生STORY
- Documentary of first one-man gig
ヒトリエ
wowaka(Vo, G)、シノダ(G, Cho)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の4人からなるバンド。ボーカロイド楽曲でサウンドクリエイターとして高い評価を集めていたwowakaが中心となり、ネットシーンで交流のあったシノダ、イガラシ、ゆーまおに声をかけ、2012年より活動をスタートさせた。同年12月には「ルームシック・ガールズエスケープ」、2013年4月には「non-fiction four e.p.」と立て続けに自主制作盤を発表し、同年4、5月に初のワンマンライブを行った。同年11月に開催されたワンマンライブ「hitori-escape:11.4 -非日常渋谷篇-」にて、ソニー・ミュージックグループ傘下に自主レーベル「非日常レコーズ」を立ち上げることを宣言。2014年1月にメジャーデビューシングル「センスレス・ワンダー」を発表し、2月にレーベル第2弾作品となるミニアルバム「イマジナリー・モノフィクション」をリリースした。4月には東名阪3都市を回るワンマンツアー「マネキン・イン・ザ・パーク」を行う。11月に1stフルアルバム「WONDER and WONDER」を発表し、12月から2015年1月にかけて初の全国ワンマンツアーを開催中。
THE ORAL CIGARETTES(オーラルシガレッツ)
2010年に奈良で結成された4人組ロックバンド。メンバーは山中拓也(Vo, G)、鈴木重伸(G)、あきらかにあきら(B, Cho)、中西雅哉(Dr)。アグレッシブかつ緻密に構築されたサウンドでファンを増やしていき、2012年には「MASH FIGHT!」にてグランプリを獲得する。2013年8月、1stミニアルバム「オレンジの抜け殻、私が生きたアイの証」をリリース。2014年7月にメジャー1stシングル「起死回生STORY」、同年11月にアルバム「The BKW Show!!」を発表。アルバム発売後に開催したワンマンツアーは全公演ソールドアウトとなった。