9本のガーベラの意味
──主題歌はH△Gと二式先生でやりとりしながらの制作だったそうですね。
二式 事前にデモをいただいて、歌詞も拝見して。初めて聴いたときは、「これが吸血鬼ちゃんの歌なんだ!」「きれいな曲!」「すごく考えて歌詞を書いてくださってる!」と感動しました。
Chiho あとがきに書いてくださっていましたよね? 「聴きながら作業してます」って。
二式 めっちゃいい曲だなと思って、仕事とか関係なく普通に聴きまくってました(笑)。オープニングの「青春のシルエット」は、「一歩踏み出すぞ!」って勇気が出る曲ですよね。めちゃめちゃストレートに“青春感”を感じました。
Yuta ありがとうございます。この曲は、奇をてらわずストレートな曲にしようと、けっこう衝動的に作りました。オープニングはアニメの幕開けを飾るので、「パカーン!」とまっすぐいきたいイメージがあって。
Chiho アニメを観ている人がワクワクするようなオープニングにしたかったし、私たちにとってはレーベル移籍後の第1弾の楽曲だからね。
Yuta そうそう。もちろん「吸血鬼ちゃん」に出会えたからこそ生まれた曲なんですけど、「僕たちH△Gの衝動もサウンドに乗せられたら」という裏テーマがありました。
──Chihoさんによる歌い出しも印象的でした。
Chiho 「シルエット」の「ト」で音を伸ばすんですけど、私自身は「若干力んでいるな」と感じていたんです。だけどこの曲で表現したい力強さを感じるテイクだったので、「これを残したい」と思い採用しました。「青春のシルエット」というタイトルは、月菜ちゃんの影がないことにもかかっていて。「目に見えなくても、みんなと同じ“青春のシルエット”がそこにあるはずだよね」と。
二式 エモい……!
──エモいといえば、オープニング映像のラストに9本のガーベラが映ることや、その花言葉が「いつまでも一緒にいてほしい」であることが、SNSで話題になっていました。
Chiho 私、そういうモチーフとかになかなか気付けないんですよ。気付ける方々ってすごくないですか?
Yuta 本当にすごい! 花言葉を知ると、よりグッときますよね。
Chiho 歌詞の中では「花言葉」という言葉は出てくるけど、具体的にどんな花言葉なのかは明言していなくて。最後に映像が伝えてくれる構成になっているのが素敵です。オープニング映像を作ってくださった方々が楽曲を丁寧に汲み取ってくださったことを感じて、とても感動しました。
「花火したの覚えてる?」「覚えてるよ!」
──エンディングテーマの「線香花火 feat.月菜」には、月菜を演じた声優・田中美海さんが歌唱に参加されています。Chihoさんと田中さんが交互に歌う構成になっていますね。
Chiho 「月菜ちゃんと歌えるの?」といううれしい驚きもありつつ、友達と会話するような、クラスの中にちょっとお邪魔させていただいたようなイメージで歌わせてもらいました。田中さんは歌が上手なのはもちろん、なんて言うんだろう……脳に直接届く声? というか……。
Yuta 言葉がスッと入ってくるよね。
Chiho そう! 私は声の具合で表現している部分も多いんですけど、田中さんの歌は言葉が強く届くのが印象的で。私と田中さんの声が並んだときに自分の歌の新しい一面を知れて、とてもいい刺激をいただきました。
Yuta せっかくのフィーチャリングということで、この曲の制作は「田中さんとChihoの掛け合いが聴きたい」というところからスタートしたんです。
二式 掛け合いで歌が紡がれていくのって素敵ですよね。キャラクター同士が少しずつ対話を重ねて、歩み寄って、一緒に青春の足跡をつけていくような。この曲も「吸血鬼ちゃん」にぴったりで、すごく好きなんです。
Chiho そう言っていただけてうれしいです。ここまでわかりやすいデュエットソングは初めてだよね?
Yuta そうだね。「だったら、今までH△Gがやってこなかったタイプの曲を作ってもいいかも」と思って、コード進行も今までにない感じに仕上げました。フィーチャリング楽曲だからこその“化学反応感”やチャレンジ要素の多い曲になりましたね。
二式 実はこの曲のデモをいただいたとき、ちょうど原作の最終回の原稿を描いていたんですよ。「花火したの覚えてる?」という歌詞にじわっときて、心の中で「覚えてるよ!」と返したりして(笑)。
Chiho・Yuta ふふ(笑)。
Chiho 一瞬一瞬を切り取ったような歌詞が多いですよね。それくらい、青春時代って輝きが凝縮された期間なんだなと、この曲を歌いながら実感しました。
二式 2番にある「時が止まって欲しい」という歌詞は、月菜ちゃんの気持ちとも重なりますよね。月菜ちゃんは大鳥たちと過ごした時間を宝物のように思っていて、「ずっとここにいたい」という気持ちから、「卒業したくない」「みんなと離れたくない」と駄々をこねちゃうシーンもあるんです。
「吸血鬼ちゃん」と先生は同じ成分でできている
──青春を描く姿勢と、個性を受容する温かな世界観。H△Gと二式先生の作家としての共通点が、会話を重ねるほど明確になっていきますね。
Yuta そうですね。
二式 私は、普段の月菜ちゃんとちっちゃい月菜ちゃんのギャップとか、キャラクターのかわいさを打ち出すイメージで「吸血鬼ちゃん」を描いていた節があったんですが、アニメの製作陣の皆様は、月菜ちゃんたちの青春もすごく大事にしてくださりました。海に行く回とかは、クラスメイトとのやりとりを膨らませてくださったりして。そんなアニメサイドに刺激を受けて、私も「じゃあ次の展開は」と考えることもありました。
Yuta すごい。アニメに影響を受けて、原作のクリエイティブが変わることもあるんですね。
──ご自身の作品の魅力を再発見するような感覚もあったのでしょうか?
二式 めちゃめちゃありました。私が初連載のド新人で、いろいろなことを学ばせていただいた立場だったから、というのもあるかもしれません。例えば、キャラクターデザインの方が新たに描き起こしてくださったアニメの月菜ちゃんのビジュアルとか、それこそH△Gさんが作ってくださった曲とか……アニメに携わってくださった方々からたくさん刺激を受けて、成長させていただきました。
Yuta 「吸血鬼ちゃん」のテーマソング制作は、僕らが音楽で伝えたいことを再認識するきっかけになりました。言葉を交わさなくても、好きな音楽が一致するとか、鳴らした音を聴いてもらうとか、そういうことで人と人はつながれる。音楽ってそういうものだと思うし、最近は海外でライブをする機会が多いこともあり「これって素晴らしいことだよな」と改めて感じていたところでした。そして「吸血鬼ちゃん」でも、「みんな違ってみんないいんだよ」という世界が描かれている。温かい作品との出会いによって、「自分はこういうことが伝えたいんだな」と再確認できました。それは、今回のコラボレーションがあったからこそ見つめ直せたことです。今日はありがとうございました。何回もありがとうって言っちゃってすみません(笑)。
Chiho なかなかお会いできないからね。今のうちに言っておきたい。「なんでこんなに優しい作品なんだろう?」と思っていたけど……今日お会いしてその理由がわかりました。先生が優しいからです。先生からは「吸血鬼ちゃん」と同じ成分が出ています。
Yuta もう本当に。僕も、今日は何度も「だからか!」と納得してました。
二式 そんなそんな……。
Chiho 今日はお会いできて本当にうれしかったです。
二式 私もうれしかったです。「吸血鬼ちゃん」の世界観を音楽で素敵に表現してくださって、そしてお二人ともまっすぐに言葉で伝えてくださって、本当にありがとうございました。
Chiho 先生が「吸血鬼ちゃん」を描いていなければこの2曲は生まれていなかったので……私たちの曲の“ママ”になってください!
Yuta どういうオチ?(笑)
一同 あははは!
プロフィール
H△G(ハグ)
2012年に愛知県岡崎市で結成された、青春期の「葛藤」や「胸の痛み」そしてその「蒼さ」を、言葉やサウンド、デザインで表現することを掲げる音楽グループ。メンバーは、ボーカリストのChihoを中心に多数のコンポーザーやクリエイターで構成される。「星見る頃を過ぎても」などのオリジナル曲やVocaloid曲のカバー動画を動画共有サイトに投稿して話題を集め、2017年7月にシングル「夏の在りか」でメジャーデビュー。同年リリースのボカロカバーアルバムは、音楽サブスクリプションサービスで累計4億回再生を突破した。2025年11月に、テレビアニメ「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」のオープニングテーマ「青春のシルエット」およびエンディングテーマ「線香花火」を収録したシングル「青春のシルエット/線香花火」を発表。近年はアジア圏を中心に海外で高い人気を誇り、2024年にはアジアツアーを成功させている。
H△G(ハグ) (@hag_official) | Instagram
Chiho(H△G) (@chiho_hag) | Instagram
Yuta(H△G) (@yuta_hag) | Instagram
二式恭介(ニシキキョウスケ)
マンガ家。KADOKAWAのマンガ雑誌「月刊ドラゴンエイジ」にて「ちゃんと吸えない吸血鬼ちゃん」を2021年6月号から2025年9月号まで連載。同作を原作としたテレビアニメが2025年10月よりTOKYO MX、関西テレビ、BS朝日、AT-Xで放送されている。


