ゴスペラーズ「HERE & NOW」インタビュー|ゆかりある若手5組が表現したゴスペラーズの“現在地” (2/2)

晴いちばんの現場での吸収力に驚き

──「アフタースランバー」は長崎在住の高校生ボカロP、晴いちばんさんによる提供曲です。

村上 彼のお母さんもゴスペラーズが大好きだと言ってくれていて。

安岡 最近、そういう話を本当によく聞くよね(笑)。ありがたいことだなと。

北山 ちなみに晴いちばんくんに関しては、珍しく村上さんからの強烈なプッシュがあったんですよね。

村上 彼がNHK Eテレの番組「沼にハマってきいてみた」の新しいオープニングテーマ曲を作るまでのドキュメンタリー番組を観たんですよ。まだ10代の少年が、番組のテーマソングを作る過程を追ったドキュメンタリーの主役になるってすごいことじゃないですか。いったいどんな子がどんな曲を作っているんだろう?と興味津々で観てみたところ、とんでもない才能の持ち主なのだなと思い知らされて。それで今回、ぜひ彼に書いてほしいと思ってメンバーに打診しました。

村上てつや

村上てつや

──実際に送られてきた楽曲を聴いてどう思いましたか?

村上 こういうR&Bベースの楽曲を作ったのは初めてらしくて、それにも驚きました。最初はざっくりしたデモが送られてきたのですが、最終的にはコーラスアレンジもほとんど彼がやってくれていて。こういうところの耳のセンス、吸収の速さ、びっくりの連続です。

北山 現場での吸収力にも驚きましたね。例えばイントロのフレーズとかその場で思いついていて。

村上 そうそう。「今、一番カッコいいイントロのフレーズってどんな感じだろう?」と言いながらリファレンス音源を聴いて、「あ、こういう感じならできるかも!」と、あっという間に自分のオリジナルフレーズに消化していたから。そんなことなかなかできないじゃないですか。

北山 Penthouseの浪岡くんもそうでしたが、スタジオでのディレクションも容赦ないんですよ(笑)。的確で鋭い指摘がバンバン飛んでくる。「こういうコーラスにするんだ」というイメージが頭の中に明確にできていて、「なんとなくこんな感じで」みたいな曖昧さが一切ない。

安岡 いい意味で自分の譜面に忠実というか。それは僕らにとってもトレーニングになったんですよね。一方ボカロPの彼にとっては、「自分が考えたメロディを生身の人間が歌う」という初めての経験がかなり刺激になったみたいですし。そうやってお互い「やれること」の範囲が大きく広がっていくのは、コラボレーションの醍醐味だと思います。

酒井雄二

酒井雄二

どこかのタイミングで歌いたかった、アカペラ一般公募の曲

──最後に収録されている「Asterism」は、2020年に実施した「アカペラ楽曲の一般公募」で集まった楽曲の中から今回新たに選出された市川舞子さんの楽曲です。

安岡 この曲は、当時の最終選考でも残ったんですよね。すごくいい曲だったのだけど、惜しくも選考から漏れてしまって。いずれどこかのタイミングでこの曲を歌えるといいなとずっと思っていたんですよね。今回は、いろんなクリエイターに楽曲提供をお願いするというコンセプトなので、「あ、だったらあのいい曲が残っているじゃないか!」と。それで、ご本人に連絡して歌わせてもらうことになりました。

安岡優

安岡優

村上 「あの曲、よかったなあ」と思っても、きっかけやタイミングがないとなかなかそれを形にすることは難しいんですよね。でも今回は、まず4曲が決まって「もう1曲どうしようか?」となったときに、曲調からしても「これしかない」というくらいバッチリとハマったわけです。

安岡 まさにこれは僕らのために書いてくださった楽曲ですし。コンセプトにも合致する。

村上 そうそう。

──アレンジには北山さんの名前もクレジットされています。

北山 メロディに対して英語詞が追いかける構造とか、具体的なアレンジの緩急……どこを伸ばして、どこを細かいフレーズにするか、どこを言葉でノせるか、などに関しては、もとのアイデアをほぼそのまま踏襲した形です。僕は歌い分けや、そのためのメロディの微調整などを軽く手直しした程度で、クレジットしてくれたのはスタッフの気遣いだと思いますね。

北山陽一

北山陽一

村上 とにかく、非常に完成度の高いデモでしたね。

北山 もし、再び市川さんに曲を書いていただく機会があったとしたら、もう僕の手直しは必要ないでしょうね。

安岡 実は僕らはまだ、市川さんにお会いしたことがないんですよ。今回のこのEPを引っさげたツアーには来てくださるそうなので、お目にかかれるのを今から楽しみにしています。

自ら煽られる仕掛けで次のモチベーションに

──これまでもゴスペラーズは、若手と積極的にコラボをしたり一般公募作品を取り上げたりしてきました。それはなぜなのでしょう。

村上 これだけ長く活動を続けていると、「自分たちのモチベーションをどうやって上げていくか?」がとても重要になってくるんですよね。そのためにも「最近、気になるアーティストいる?」「今度はどんな人とコラボしてみたい?」みたいな話は常にしているし、自分でも考えるようにしています。だって、自分が若い頃に聴いていた好きな音楽の話ばかりしていても仕方ないじゃないですか(笑)。音楽に驚かされたり、刺激を受けたりすることが何よりもうれしいことですし、自分たちもそうあり続けたいと思っていて。そういう意味では前回、セルフカバーのアルバム「The Gospellers Works 2」を出したのは大きかったかもしれないです。

安岡 そもそも、誰かから提供してもらった楽曲を歌うEP「HERE & NOW」も、誰かに提供した楽曲のセルフカバー集「The Gospellers Works 2」とは逆のことをやってみようという発想から生まれたものだったし。

村上 そういう、自分たちがフレッシュでいられるための仕掛けを意識的にやり続けていかないと、やっぱり活動が先細りしていってしまうと思うんです。こういう企画によって受ける刺激というものは、想像以上にたくさんあるんですよ。「旬のアーティストに曲を書いてもらったから、これで安心」じゃなくて(笑)。逆に「こうしちゃいられない」という気持ちにならない?

酒井 いや、まさにそう。自分たちの弱点も見えてくるんだよね。

村上 そうそう。安心どころか、煽られているんですよ。自ら煽られる仕掛けを作って、次のモチベーションにつなげている(笑)。それが「正しい原動力」じゃないかなと。

安岡 「もっとがんばらなきゃ」ってね。そういううれしいプレッシャーをたくさんもらっているんです。

黒沢薫

黒沢薫

──J-POPシーンにおける「ボーカルグループのパイオニア」として、その意思を次の世代に残したい、そのためのフックアップを常にしたいという気持ちもありますか?

北山 それはどうだろう。僕らがデビューした頃は、まだアカペラという言葉も浸透していなかったし、全員がマイクを持って歌うボーカルグループは基本的にアイドルしかいなかった。そういう中で試行錯誤してきたので、その背中を見ていてくれたクリエイターが今どんなことをやっているかに興味があるし、その人たちから刺激をもらい、それで自分たちは何をできるか常に考えていたいんです。なので、「フックアップしていますよ」というよりも「仲間が見つかってうれしい」という気持ちのほうが強いかもしれない。

黒沢 それに、僕らもブレイクするまでいろんな人からいろんな場所に呼んでもらっていたんですよ。そこでうまくいったり、失敗したりしながら大きくなってきた。なので、自分たちもさまざまな場所で出会ったジャンルの違うクリエイターと、「せっかくだから何か一緒にやりましょうよ」という気持ちが常にある。そういう意味では、僕らが先輩たちにしてもらってきたことの恩返しをしている意識なのかもしれないですね。

──では最後に、本作を携えて9月から行われる全国ツアーへの意気込みをお聞かせください。

村上 ようやくコロナ禍も落ち着いてきて、マスクを外したり声を出したりしながらライブを楽しめる雰囲気になってきたと思うんですよ。そんな中、このフレッシュなEP「HERE & NOW」を届けにたくさんの会場を訪れることができるのをとてもうれしく思っています。とはいえ、まだまだ油断は禁物。僕らがツアーをスタートする9月頃はいったいコロナがどうなっているのか……未知数なことはたくさんありますが、どんな状況であれ僕らの「HERE & NOW」をしっかり表現したいと思っていますので、ぜひ遊びに来てください。

ゴスペラーズ

ゴスペラーズ

ライブ情報

ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”

  • 2023年9月9日(土)東京都 J:COMホール八王子
  • 2023年9月15日(金)埼玉県 さいたま市文化センター
  • 2023年9月16日(土)千葉県 東金文化会館 大ホール
  • 2023年9月18日(月・祝)静岡県 沼津市民文化センター
  • 2023年9月23日(土・祝)鹿児島県 宝山ホール
  • 2023年9月24日(日)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
  • 2023年9月30日(土)栃木県 佐野市文化会館
  • 2023年10月1日(日)神奈川県 神奈川県民ホール
  • 2023年10月6日(金)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2023年10月7日(土)奈良県 なら100年会館
  • 2023年10月9日(月・祝)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2023年10月21日(土)広島県 上野学園ホール
  • 2023年10月22日(日)山口県 KDDI維新ホール
  • 2023年10月28日(土)愛知県 アイプラザ豊橋
  • 2023年10月29日(日)岐阜県 バロー文化ホール
  • 2023年11月4日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2023年11月5日(日)大阪府 フェスティバルホール
  • 2023年11月11日(土)福島県 いわき芸術文化交流館アリオス
  • 2023年11月12日(日)茨城県 水戸市民会館
  • 2023年11月18日(土)岡山県 岡山市民会館
  • 2023年11月19日(日)鳥取県 鳥取市民会館
  • 2023年11月22日(水)福岡県 福岡サンパレス
  • 2023年11月23日(木・祝)大分県 J:COM ホルトホール大分
  • 2023年11月25日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2023年11月26日(日)京都府 ロームシアター京都
  • 2023年12月2日(土)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)
  • 2023年12月3日(日)愛媛県 西予市宇和文化会館
  • 2023年12月8日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
  • 2023年12月10日(日)福井県 フェニックス・プラザ
  • 2023年12月14日(木)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2023年12月16日(土)北海道 コーチャンフォー釧路文化ホール(釧路市民文化会館)
  • 2023年12月22日(金)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
  • 2023年12月23日(土)宮城県 仙台サンプラザホール

プロフィール

ゴスペラーズ

北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優の5人からなるボーカルグループ。1994年にシングル「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、多数のヒット曲を送り出す。他アーティストへの楽曲提供やプロデュース、ソロ活動など多彩な活動を展開する。2022年7月には提供曲のセルフカバーアルバム「The Gospellers Works 2」をリリースした。2023年8月23日には5組のアーティストから楽曲提供を受けたEP「HERE & NOW」をリリース。9月より全国ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2023 “HERE & NOW”」を開催する。