僕らがゴリラに憧れる理由
──ここからは各楽曲について聞いていきたいと思います。1曲目の「Gorilla Step」はYaffleさん提供のダンスナンバーですが、クールなサウンドに乗せて歌われる「Gorilla は多くを求めやしない わずかな水と強靭な beat だけ」というラインが強烈で面白かったです。
ヒガシ ありがとうございます(笑)。文字だけ見るとギャグみたいなんですけど、トラックと歌い方でそうは聴こえないように作るのが面白かったですね。シリアスになりすぎないのもよかった。この曲はダンスナンバーですが、自分たちしかいないクラブというテーマで作りました。僕らがどうしてゴリラに憧れるかということにもつながるんですけど、僕たちには孤独だったり、あるいは自分で自分のことを許せなかったり、そういう弱さがあって、自分が街から切り離されているように感じることがあるんです。ほかの人が踊っている音や声が聴こえて自分も同じ場所にいるはずなのに遠い世界にいるように感じる。この曲ではそういう景色をイメージしました。
──なるほど。この曲はエナジードリンク「ZONe」のコンセプトである“IMMERSIVE(没入)”をテーマにアーティストが新曲やミュージックビデオを作る企画「IMMERSIVE SONG PROJECT」とのタイアップソングですが、トラックも歌われている内容も“没入”というテーマにマッチしていますね。
ヒガシ いくつかデモを聴いてもらって、「Gorilla Step」と「ZONe」の世界観にどこか共通点があり。書き下ろしたわけではなく、自然とテーマにマッチしていました。
──アッパーなこの曲が1曲目ですごく入りやすいなと思いましたが、最初から1曲目にしようと考えて作っていたんですか?
ヒガシ 曲順はあとから考えましたね。
ニシ 全部作ってから2人でそれぞれ順番を考えてみたんですけど、だいたい一緒でうれしかったよね。この曲はキャッチーでいいですよね。
──続く「隔世 gorilla」もアグレッシブなサウンドで、トラックはLoyly Lewisことケンカイヨシさんが手がけています。
ヒガシ この曲は渋谷の街を無気力に暮らしていた青年が心の中にいるゴリラを覚醒させるというテーマで作った曲なんですが、この曲のニシのヴァースがすごくいいんです。現状存在するニシのラップでもっとも優れたヴァースだと思います。
ニシ やめい。
ヒガシ いや絶対そう。
ニシ すごく気に入ってくれてるよね。
ヒガシ いや客観的にみて素晴らしいです。ニシという人間の生きた手触りがもっともあるヴァースだなと思っていて、特に前半の「通るこの街 下りる夜の帳 忘れてる今朝のトーストの味」とか鬱々とした心の描写がリアルで刺さりましたね。
ニシ 覚醒をテーマにしつつ、昔を振り返るような哀愁のあるヴァースを書きました。この曲のヴァース、実は1回ヒガシくんから「もっと普通に自分のこと書いていいよ」って言われて書き直してるんですよ。これまで物語的なリリックしか書いてなかったから自分自身のことって書けなくて、Gorilla Attackでもヒガシくんが書いたヴァースに付け足すような感じで書いていたんです。ヒガシくんが100書いたものを120にするみたいな。でも自分で100書いていいんだってことをこの曲で教えてもらいましたね。
ヒガシ ニシは自分の感情を前面に表していくような楽曲をこれまで出してこなかったんですが、個人的にニシのそういう側面をもっと世に出したい気持ちがあったので、すごく喜ばしい曲になりました。
──「隔世 gorilla」のMVは今回、アートディレクターのYPさんが手がけています。ゴリラが渋谷の街をどんどん侵食していくような、そんな世界観に引き込まれます。このMVのコンセプトはお二人の中にあったのでしょうか?
ヒガシ 現実に限りなく近いんだけど、微妙に異なっているバーチャルな世界を表現したかった。その世界で僕たちの象徴であるゴリラを全面に押し出していくこと、これがクールなんだと世に宣言したかった。そういうコンセプトがシェアできていたので、ほぼお任せできました。彼は素晴らしいですね。
概念、あるいは神のような存在としてのゴリラ
──3曲目の「月」からはチルな感じになっていきますね。この曲はラブソングですが、「Gorillaみたいに 力強く でも優しく 欠けた月をみる あなたと欠けた月をみる 汚れていく暮らしを 笑いあえる Gorillaみたいに すべてを分け合える」とうまくゴリラを絡めているなと思いました。
ニシ こういうのやらせたらうまいんですよねー。
ヒガシ いやいや。人と人が一緒にいることっていいことばかりじゃないですよね。それぞれに調子がいい日と悪い日のバイオリズムがあるし。そういう不都合な面を直視しない曲や、目を逸らすための曲に僕は興味がなくて、むしろそういう面を愛おしく思えるような曲を作りたいと思っていて。作品全体としてコロナの影響はあまり受けていないんですが、この曲は一番受けているかもしれないです。家から出られないし、この先どうなるかわからないし、フラストレーションがたまりがちで生きることが難しくなっている。そういう時間を結局どこまでいっても他人である恋人と共に過ごしていくつらさを僕が歌って、ニシに落ち着けよって諭されるような楽曲になっています。
──人と生きることの辛さを歌った「月」に続いて収録されているのがデビュー曲の「Gorilla Anthem」です。この曲でもゴリラへの憧れを歌いつつ、ゴリラのようにはなれない人間の弱さが描かれています。
ヒガシ そうですね、そういう弱さだったり、あるいは過去への後悔だったり。「Gorillaみたいに生きられたら、こんな幸せなことはないな」というラインが元になって制作された1曲で、ユニット自体の指針となるような曲でもあります。
──顔出しもしていない謎のユニットの楽曲ながら、この曲のMVは110万回再生を突破しています。MVは渋谷で撮影されていますが、「街」もユニットのコンセプトになっていますよね。
ヒガシ そうですね、本当のゴリラはジャングルにいるんですけど、Gorilla Attackは渋谷にいるんです。コンクリートジャングルというか猥雑な街並みに僕は居心地のよさを感じていて。MVはこのユニットで表現したいものを水溜りボンドのカンタくんに伝えて作ってもらいました。
──鬱々とした「Gorilla Anthem」に続くのが開放的な「ゴリラ・バカンス」です。
ニシ この曲は俺が主導して、ゴリラがバカンスに行ったらどうなるのかなってテーマで作りました。歌詞を見てもらったらわかる通り、普通のバカンスじゃないんだろうなって……ジャンル分けできない変な曲ですね。
ヒガシ トラックを手がけたTepppeiさんには休日っぽい曲を作りたいというところまでは話していて、それで提示してもらったサウンドがすごくよかった。
ニシ 内容としては、ショッピングしてみたり、海に行ってみたり、かわいい女の子をナンパしたり、コンクリートジャングルから解放されて、とにかく何も考えずに楽しむという曲です。
ヒガシ 僕はゴリラの家でのオフの姿を描きました。対比が楽しい曲になっているかなと。
──6曲目の「Gorillaと雨」はどういうテーマの楽曲ですか?
ヒガシ 雨の日の街って匂いが強くなったり、雨の日特有の雰囲気があると思うんですが、この曲ではそういう雨の日の「GORILLA CITY」を表現したいなと思って。ケンカイが作ったトラックは、ブラスの音が印象的ですよね。
ニシ 収録曲の中でも一番2人が別々のことを歌ってる曲だよね。
ヒガシ うん、タッチも違うし。
ニシ 雨の日は家とか屋内にいることが多くて、それぞれが交わりにくい。そういう面とも重なっていて面白いなと思いました。
──そして7曲目の「Gorillaむかしばなし」で「紙芝居 “GORILLA CITY” これにて幕引き」とこの作品は締めくくられます。
ヒガシ この曲は「Gorillaむかしばなし」というタイトルが面白いなと思って、タイトル先行で作り出したんですよね。トラックは雲のすみかというトラックメイカーに和のテイストのある音で作ってもらって、あとは「むかしむかし あるところに」という歌い出しのみ指定して、それぞれが昔話とゴリラを掛け合わせたヴァースを書きました。僕のヴァースは桃太郎の世界にゴリラが迷い込んだものを描いています。おばあさんとゴリラが不倫してしまうという設定なんですけど(笑)。
ニシ 俺のヴァースでは浦島太郎の世界に生まれたゴリラが、浦島太郎の代わりに子供たちにいじめられている亀を助けるんですけど、勢いで殺しちゃうんですよ。そして残された玉手箱を開けたら、おじいさんのゴリラになってしまい、「俺悪くねえのに……」って思いながら死んでしまう。強さが裏目に出てしまうような物語ですね。
ヒガシ そうして2人がゴリラの昔話を描いたあと、カメラがグーッと引いていって「おしまい」と出るようなイメージですね。ここまではゴリラをゴリラのまま描いていたんですけど、最後は歴史をもっと大きな視点で見ている、大きな概念、神のような存在として描いています。
──なるほど、すごくはっきりイメージできました。長期的なビジョンは持たずに活動を開始したGorilla Attackですが、今後はどのように活動していくのでしょうか?
ヒガシ 一緒にまとまった曲数作ったら新鮮で楽しかったし、作りたい曲のアイデアも浮かんできたので、もっとガンガンやりたいよねってなりましたね。
ニシ うん。とにかく曲を作りたいですね。アイデアは無限にあります。
──基本的には今後も、強いゴリラとそれに憧れる弱い人間を描いていくんですか?
ヒガシ そうですね。2頭のゴリラ、あるいはゴリラに憧れる2人の作品を楽しんでいただければと思います。あとはやっぱりライブもやりたいですね。
──インターネットから飛び出してライブができたらいいですよね。
ヒガシ ホントですね。
ニシ そしたら素晴らしいですね。
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