“幸せな家族像”をイメージした「Two of Us」
──歌詞についてはいかがでしょう。同じ屋根の下で暮らす男性と女性のラブソングですが、相手の情けないところを受け入れつつ、一緒に幸せになろうと伝えている女性のほうが一枚上手な印象を受けます。
牧 映画「愛がなんだ」や「勝手にふるえてろ」のような、ちょっとダメな男とそれを全部わかっている女性が登場する映画をよく観ていたタイミングだったんですよ。僕は大分出身ですけど、九州男児ってそういう人が多い気がして。男が「俺についてこい」と引っ張っているように見えて、実は女性が引っ張らせてあげていて、喜ばせてあげているという。それは自分の母親を見ていて実感したことで、昔からずっと「敵わないな」と思っていたからこそ僕の曲に出てくる女性は強い人ばかりで。この曲でもそういう男女の関係性、僕の中にある“幸せな家族像”をイメージしながら歌詞を書きましたね。だからももちゃんに歌ってもらった2番の歌詞には「もしも自分がダメな男を好きな女性だったら、どう思うだろう?」という部分も入っています。女性からしたら「こんなんじゃねーよ」という意見もあるかもしれないけど、あくまで映画のようなものとして歌詞を見てもらえればと……。
林 でも「みんなそうやんな」って思いましたよ。
牧 本当に? よかったー。
林 結婚している友達に「最近どう?」と聞くと、「旦那、また靴下裏返しやねん」という話になるんですよ。だけど、やんや言いつつ、最終的には「それでも家族っていいものだよね」というところに行き着くから、「結局女性が強いおうちがうまくいくんだな」「愛があるおうちってすごくいいな」と私も実感していたところでした。だからこの曲の歌詞を受け取ったとき、「どこのおうちもそうやんな」と思ったんですけど、「離さないよダーリン」とか、Hump Backでは書かないような歌詞だったのでちょっと歌うときに照れました(笑)。同じ意味でも私はこんなに直接的に書くことはないので。
牧 野球で言うと、ももちゃんは剛速球を投げられる人だからね。例えば(忌野)清志郎さんの言葉はものすごくストレートだけど、「この人はもっと考えているんじゃないか」と思わせられるような深みがあるじゃないですか。それは声の中に言葉を補足するような何かが宿っているからで、ももちゃんもそういうものを持っているから、Hump Backは余計なことをしなくてもカッコいい。だけど僕は真逆の個性を持ったシンガーで、球は遅いけどいろいろな球種を投げられるから、また違う見せ方をしているんですよね。
林 私「ペンペン」もめっちゃ好きなんですけど、牧さんの書く歌詞ってロマンティックやなと思うんですよ。壁に飾ったら絵になる歌詞というか。だけど一見壮大な曲でも、実はすごくそばにあるもののことを歌っていたりしますよね。抽象的な言い方になっちゃいますけど、海を眺めているつもりが、手に持ってたビールの話やった、みたいな。
──そこがお二人の共通点であり相違点であるように思います。生活や人のことを歌っているのは一緒だけど、表現方法は違うという。
牧 うん、そうだと思いますね。僕、Hump Backの曲を聴いていると、意味が“理解できる”んですよ。ほかのアーティストの曲を聴いていても意味が“わかる”ことはけっこうあるんですけど、Hump Backの曲に関しては、ももちゃんがどういう顔で歌っているのかもわかるし、ももちゃんの感情と自分の感情がニアリーイコールになっているような感じがする。それは自分がよしとしているもの、目指しているものが近いということなんじゃないかと思っていて。
林 私もそう思います。
牧 ライブのやり方も歌詞の書き方もまったく違うから、この2バンドにあまり関連性を感じられないという人もいるかもしれないけど、感じられる人はすごく感じられると思う。なんか少年マンガの主人公とライバルみたいですよね。真逆の個性を持っているけど、同じものを志している仲間同士というか。だから僕はHump Backを好きになれたんだと思うし、僕にとって大事なことを教えてくれる存在だと思うからこそ、今一緒にいるんだと思う。
林 そうですね。同じ日に大きな場所でライブをしていたり、歌と向き合っている期間にフィーチャリングボーカルとして声をかけてもらえたり、バニラズに対しては「タイミングが合うな」と思うことが多いんですけど、きっと考えていることが近いから「今の自分はこういう時期やな」というタイミングが重なるんだと思います。
もう冠婚葬祭をともにしたい
──牧さんは、林さんのボーカルレコーディングに立ち会ったときにどんなことを感じましたか?
牧 「すごい、なんでもできるんだ!」と思いました。こういう曲を作るときって、普通ならフィーチャリングしてくれる相手の人の音域をちゃんと把握して、その範囲内でメロディを作るようにするじゃないですか。だけど僕は今回初めてだったのでそういうこともわからず、「いつもよりちょっと低めに作ればいいかな」くらいの感覚でやっていたんです。で、作っているうちに「クライマックスに向けてもっとハッピーになりたいな」と感じたからラストに転調を入れたんですけど、そうすると、僕にとっては気持ちよく歌える音域でも、ももちゃんにとってはかなり高いキーになってしまって。
──林さんは牧さんの1オクターブ上を歌っていますからね。
牧 ももちゃんのことを苦しめてしまったなと思っていたんですけど、レコーディングでバチーンと歌い切っていたんですよ。あれはマジでカッコよかったし、痺れましたね。
林 もちろん高いところはがんばって出したんですけど、リズムの取り方、グルーヴ感が自分の中にはないものだったのですごく練習したんですよ。この曲、歌うのがめちゃくちゃ難しかったです!
牧 だよね。というのも、僕の曲って歌いづらいらしいんですよ。The Beatlesからの影響が大きいと思うんですけど、表よりも裏にアクセントを置くことが多いからリズムがちょっと独特で、新曲を出す度に学生時代の友達から「カラオケで歌ったんやけどさ、ムズすぎて歌えんのよ」という連絡が来るくらいで。だけどももちゃん、最初は苦戦していたもののすぐに習得していて。レコーディング中に「今、一気に曲ができあがったな」というのがパーンと見えた瞬間があったので、自分にないものを吸収するスピードが速いんだなと思いました。だからもしも僕が死んだときは、ももちゃんに僕の曲を歌ってもらおうかな(笑)。
林 縁起でもないです(笑)。
──そう思えるほど信頼しているということですよね。
牧 そうですね。仲のいいバンドはほかにもいっぱいいますけど、一緒に制作をしたことでもっと特別な関係性になったなと僕もメンバーも思ってます。親戚ができたような感覚で。
林 もう冠婚葬祭をともにしたいですよね。
牧 いいね。親戚だからこそ、「毎年一緒にライブやろうね」みたいな感じでいつでも仲良しこよしじゃなくてもいいと思うんです。自然体で、お互いに高め合えるような関係性でいたいなと。
林 そうですね。自分たちが必要やなと思うタイミングで一緒に何かできたらいいなと。牧さんの言うように自然体で、人生を歩んでいくにあたってそばにいられたらと思います。
──「Two of Us」は12月にリリースされるgo!go!vanillasのニューアルバム「FLOWERS」にも収録されます。牧さん、1年9カ月ぶりのフルアルバムはどんなアルバムになりそうですか?
牧 前回の「PANDORA」は自分の心のインナーな部分を描いたアルバムだったんですけど、今回はフィドルやトランペット、ピアノなどを演奏してくれるゲストアーティストを呼んで、「この人のエネルギーが俺らの曲に乗っかったら絶対最高じゃん」という部分ですべての物事を進めていったんですよ。「人の感情から出てくるものだけで音楽を作る」というテーマがあったからデジタルなものは入れていないし、ゲストのアーティストを呼ぶときもその人と会話をして、相手の人となりも理解したうえで声をかけることを大切にしました。血の通ったもの、あったかいものがたくさん詰まったアルバムになりそうですね。
go!go!vanillasツアー情報
go!go!vanillas「FLOWERS」TOUR 2023
- 2023年1月17日(火)神奈川県 KT Zepp Yokohama
- 2023年1月20日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2023年1月21日(土)大阪府 Zepp Osaka Bayside
- 2023年1月26日(木)長崎県 DRUM Be-7
- 2023年1月27日(金)大分県 DRUM Be-0
- 2023年1月29日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
- 2023年2月4日(土)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2023年2月5日(日)宮城県 SENDAI GIGS
- 2023年2月11日(土)北海道 Zepp Sapporo
- 2023年2月17日(金)愛知県 Zepp Nagoya
- 2023年2月18日(土)愛知県 Zepp Nagoya
- 2023年2月26日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
- 2023年3月9日(木)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2023年3月11日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- 2023年3月12日(日)香川県 高松festhalle
- 2023年4月7日(金) 長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2023年4月8日(土)新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
- and more
Hump Backツアー情報
Hump Back 「HAVE LOVE TOUR 2022」(※終了分は割愛)
- 2022年10月6日(木)神奈川県 KT Zepp Yokohama
<出演者> Hump Back / 10-FEET - 2022年10月10日(月・祝)福岡県Zepp Fukuoka
<出演者> Hump Back - 2022年10月12日(水)宮崎県 FLOOR
<出演者> Hump Back / SIX LOUNGE - 2022年10月13日(木)熊本県 Django
<出演者> Hump Back / HERO COMPLEX - 2022年10月20日(木)岩手県 Club Change WAVE
<出演者> Hump Back / THE BAWDIES - 2022年10月21日(金)青森県 青森Quarter
<出演者> Hump Back / THE BAWDIES - 2022年10月23日(日)北海道 Zepp Sapporo
<出演者> Hump Back - 2022年11月6日(日)愛知県 Zepp Nagoya
<出演者> Hump Back /ドミコ - 2022年11月17日(木)福井県 福井CHOP
<出演者> Hump Back / THE 2 - 2022年11月18日(金)新潟県 EARTH
<出演者> Hump Back / THE 2 - 2022年11月20日(日)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
<出演者> Hump Back - 2022年11月25日(金)徳島県club GRINDHOUSE
<出演者> Hump Back / KOTORI - 2022年11月26日(土)香川県 高松オリーブホール
<出演者> Hump Back / KOTORI - 2022年12月1日(木)広島県 広島CLUB QUATTRO
<出演者> Hump Back / BBHF - 2022年12月4日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
<出演者> Hump Back
プロフィール
go!go!vanillas(ゴーゴーバニラズ)
牧達弥(Vo, G)、柳沢進太郎(G)、長谷川プリティ敬祐(B)、ジェットセイヤ(Dr)による4人組バンド。2013年1月に7inchシングル「人間讃歌 / アクロス ザ ユニバーシティ」、7月に1stアルバム「SHAKE」をSEEZ RECORDSよりリリースした。2014年11月にはビクターエンタテインメント内のレーベルGetting Betterよりメジャーデビューアルバム「Magic Number」、2015年4月にメジャー1stシングル「バイリンガール」を発表。2020年11月にはツアー「ROAD TO AMAZING BUDOKAN TOUR 2020」を開催し、最終公演ではバンド結成当時からの夢の舞台である東京・日本武道館のステージに立った。2021年3月にニューアルバム「PANDORA」を発表。2022年10月に林萌々子(Hump Back)をフィーチャリングゲストに迎えた楽曲「Two of Us feat. 林萌々子」を配信リリースした。12月には「PANDORA」から1年9カ月ぶりとなるフルアルバム「FLOWERS」をリリースする。2023年1月からは全国ツアーの開催が控えている。
go!go!vanillas (@go_go_vanillas) | Twitter
Hump Back(ハンプバック)
2009年に結成されたスリーピースロックバンド。大阪出身の林萌々子(Vo, G)、ぴか(B, Cho)、美咲(Dr, Cho)の3人からなる。