音楽ナタリー Power Push - T.M.Revolution 西川貴教×「ゴースト・イン・ザ・シェル」

神山健治監督版「S.A.C.」シリーズに傾倒 西川貴教の考える“魂の所在”

枯れ専の女性にはたまらないと思いますよ

──魅力的なキャラクターが多く、群像劇としても楽しめる作品です。

「ゴースト・イン・ザ・シェル」よりバトー。

9課は特に、精鋭がそろっていますし。若い男性が出てこない稀有な作品でもありますよね。枯れ専の女性にはたまらないと思いますよ(笑)。僕としてはアメコミヒーローとも異なる濃いおじさんたちがたくさん出てくるところがいいんですけれども。

──西川さんは男性陣の中で誰に一番共感しますか?

それぞれが個性的で似通った人がとにかくいないんですけれども、トグサはすごく魅力的ですね。ほぼ生身ですし、唯一配偶者がいて子供もいる。ほかのメンバーがどんどん義体化してある種の超人的な能力を手に入れていく中で、そことの境界にいるという。バトーやイシカワたちと我々普通の現代人とのハブになっている、インターフェース的な存在がトグサのような気がします。作品の世界観と我々をつなぐ役とも言えるかもしれません。

──なるほど。たしかにトグサには親近感を覚えます。

かと思えば、キャラクターたちが人間離れしていけばいくほど、タチコマがものすごく人間っぽく見えたり。ルックス的には一番かけ離れた存在なのに、オイルの涙を流したりするところも面白い。そういう裏腹さもまた魅力なのかなと思いますね。情報量が多くて、コアなファンが大勢いる作品ですけど、すごく敷居が高いというわけでもないじゃないですか? 設定されている年代も、「銀河英雄伝説」みたいに何万光年も遠いお話でもないですし。遠いようで近い、微妙なバランスが非常にいいところなのかなと思います。

──遠くない未来だからこそ、いろいろ考えさせられる部分が大きい。先ほどおっしゃった魂の定義にしてもそうですね。

西川貴教

そうですね。いつか死を迎えるとき、自分は何を選択するのかとかね。死を尊厳とするのか、そうでなく脳だけでも生きながらえることを選ぶのかとか、いろいろ考えることはありますね。「もし身体が不自由になっても、義体化の技術が進んでいれば家族にも不自由を感じさせることがない生活を送れるようになるのかな」とか。そこに対する希望みたいなものもありますし。そうなってほしい部分と、いざそれが目の前に来たときに自分がどういう選択をするのか、みたいなことも考えます。あと、素子の所在っていうのもあるじゃないですか。ネットの中に情報として残る素子……それも魂と呼ぶのか。大きな枠組みで言えば、我々は宇宙の一部だったりするけれど、代謝するように生を与えられて死を迎えなければいけないときに、「自分たちの短い命と記憶はどうなるのか?」とか、そういうことを考えずにはいられない作品ですね。

生きるということはなんなのか

──エンタテインメントとして楽しむだけでなく、未来について考えさせられる作品だと思います。さて、いよいよ4月7日より「ゴースト・イン・ザ・シェル」が公開されます。

「ゴースト・イン・ザ・シェル」より。

まだ内容がわからないのでなんとも言えないですが、観てみたいです。「予告編の最後に映るシルエットはクゼなのかな?」という感じですよね。ただ、アクションとかビジュアルばかりが注目されがちですけれども、「攻殻機動隊」は本当に「生きるということはなんなのか」といったテーマを押井さんは押井さんの、神山さんは神山さんの言い回しで描いた作品だと思うんです。セリフ1つひとつの中にもそういう要素が内包されている。そこが大事だと思います。

──この作品は日本人が生んだものですし、神道にも詳しい士郎正宗さんですから、そこに基づいた世界観が描かれているといいですね。世界にはキリスト教など、さまざまな宗教観がありますから。

そうなんですよね。さまざまな宗教観がありますから、僕らが思う死に対する概念にしても……例えばキリスト教の方は亡くなると神のもとに帰るというはっきりとした概念があったり、日本では神道というものがあって、神様がいるところに仏教が入ってきて、という流れがあったり。そういう民族の意識みたいなものがこの作品の背景にさまざまな影響を及ぼしている部分を大事に描いてもらえていればいいなと思います。

西川貴教
「ゴースト・イン・ザ・シェル」特集
映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」2017年4月7日全国公開
映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」
ストーリー

電脳技術が発達し、人々が義体(サイボーグ)化を選ぶようになった近未来。脳以外は全身義体の“少佐”が率いるエリート捜査部隊は、ハンカ・ロボティックス社の推し進めるサイバーテクノロジーを狙うテロ組織と対峙する。上司の荒巻大輔や片腕的存在のバトーと協力し、捜査を進めていく少佐。やがて事件は少佐の脳にわずかに残された過去の記憶へとつながり、彼女の存在を揺るがす事態に発展していく。

スタッフ / キャスト

監督:ルパート・サンダース

原作:士郎正宗「攻殻機動隊」

出演:スカーレット・ヨハンソン、ビートたけし、ジュリエット・ビノシュ、マイケル・ピット、ピルウ・アスベック、桃井かおりほか

T.M.Revolution(ティーエムレボリューション)
T.M.Revolution

1970年滋賀県生まれの西川貴教によるソロプロジェクト。1996年5月にシングル「独裁-monopolize-」でメジャーデビュー。キャッチーな楽曲と激しいライブパフォーマンスで人気を集め、「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」などのヒット曲を連発する。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から滋賀県初となる大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を毎年開催。ほかにも舞台やミュージカルなど幅広い分野にて精力的な活動を展開している。2013年には水樹奈々とのコラボシングル「Preserved Roses」「革命デュアリズム」を発表。2016年にはデビュー20周年記念のベストアルバム「2020 -T.M.Revolution ALL TIME BEST-」をリリースし、47都市で全51公演を行うツアー「T.M.R. LIVE REVOLUTION'16 -Route 20-」を実施した。また5月13日、14日には、20周年を締めくくる「T.M.R. LIVE REVOLUTION' 17-20th Anniversary FINAL」が開催される。


2017年4月6日更新