5人の中でもっとも大衆に近いのは
──小籔さんは今回のアルバムではラップの曲も好きだというお話がありました。
小籔 「GDGD」が一番好きかもしれないです。あとは「トラップガール」とか、イッキュウ(中嶋イッキュウ / Vo)さんが1人で歌ってる「ジェニーガールクラッシュ」も好きです。こんなおっさんやけど、音楽的な好みは5人の中では僕が一番いわゆる一般大衆に近いのかなって思うんですよね。
川谷 それはそうかもしれない。
──バンドの中にいろんな目線の人がいることはプラスになっている気がします。
川谷 そうですね。イッキュウも新垣さんも偏ってるし、くっきー!(B)さんもめちゃくちゃパンク好きだし、僕が小籔さんの次ぐらいに一般的な感覚に近いのかも。そういう5人だからちょうどいい感じがする。
──「GDGD」はどんなイメージで作った曲ですか?
川谷 これはもう完全にK-POPっぽいものを作ろうと思って、ちょっとふざけながら作りました。「GDGD」って言ってるだけでキャッチーだし、1回聴いたらみんな歌えるんじゃないかな。
──「クラシックハイ」のコーラスの話もそうだし、その考えはアルバムを作るうえでベースにあったんですね。もちろん音楽的にいろんなことをやってはいるけど、歌メロなどシンプルにいくところはシンプルにいく。
川谷 アレンジとかコードに持っていかれすぎないようにしたというか。これまではバーッと全部作ってから歌をあと付けすることが多かったけど、今回は最初からメロとワードを決めて、それをもとに作るというやり方が多かったです。
──それこそ「トラップガール」はドラマの「トラックガール」をもじってタイトルを付けて、音楽的にもトラップにしてるわけですよね。
川谷 これはドラマの監督から、「『トラップガール』っていうタイトルで作ってください」と言われて(笑)。
──タイトルまで指定されるのは珍しいですね。
小籔 今回、タイアップが本当に多いですよね。ある意味柱がバンバンバンバンって決まってたから、どんな曲で間を埋めていくのか逆算しやすかったかもしれない。
川谷 最初は11曲で出す予定だったんですけど、急遽「トラックガール」の話が決まって12曲になったんです。前作も12曲だったし、減るよりはいいかなと(笑)。
中嶋イッキュウというフラットな存在
──タイアップが増えたのはジェニーハイの作家性が明確になってきたことの表れでもあるように思います。歌詞の主人公は女性が多くて、何かに立ち向かっていたり、ちょっと壁にぶつかっていたりするんだけど、そういう人の背中を面白おかしく押すというか。「グータラ節」だったり、典子シリーズもそうだったと思うけど、そういう曲たちが今はジェニーハイの色になっていて、それに紐付くタイアップも増えた。
川谷 それが時代に合ってるのかもしれないですね。「ハケンアニメ!」も「トラックガール」も女性が主人公だし。
──「完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの」もそうですよね。
小籔 今までのアルバムに女性に寄り添った歌詞がわりと多くあって、それがいろんな形で響いて、各方面の現場の偉いさんたちから会議で「ジェニーハイどうですか?」と言われるようになった。女性の味方をしたことによって、社会の女性から恩返しがあったというか(笑)。昭和のおっさんについての曲ばっかり歌ってたら、会長とか重役からの仕事があったかもしれないですけど、現場でバリバリやられてる女性たちに刺さったのはある意味ラッキーパンチで。それがタイアップの多さにつながったというのはちょっとあるかもわからんですね。
──さっき川谷さんが言った時代性も関係しているように思います。女性をエンパワーメントするというある種の時代性と、ジェニーハイの作家性がちょうど合致したのかも。
川谷 インディゴとかゲスの歌詞は現代にまったく寄り添ってないですからね。
──そんなこともないと思いますけど(笑)。
川谷 ジェニーハイは「自分で歌うことの恥ずかしさ」と切り離されていて。しかもイッキュウがものすごくフラットだし、世間的な見え方としても、5人の中ではいい意味で一番特定のイメージがないと思うんですよね。だからこそ、どんな曲でも歌うことができるし、聴いてるほうもいろいろ考えずに聴ける。
──イッキュウさんのボーカルの表現力自体もさらに上がってますよね。今回曲調もすごく幅広いし、歌い手としていろんな要素を要求されたと思うんですけど。
川谷 「ジェニーガールクラッシュ」はアイドルのアルバムによく入ってるソロ曲みたいなイメージです。イッキュウもK-POP好きで、ダンスを習いたいという話を「PEAKY」の振付の人と話していたから、1人で踊る曲を作ろうかって。
──「ガールクラッシュ」というテーマ自体がK-POP的ですよね。でも「ガールクラッシュ」みたいなテーマも歌えるし、「GDGD」みたいなグダグダしてる女の人の歌も歌えるっていう、そこにもイッキュウさんのフラットさが表れてるなって。
川谷 そうですね。普段のイッキュウはわりとフワフワしてるときもあるけど、tricotのライブのときなんかはすごく強い女性になったりもする。そういうある種の二面性のようなものがちゃんと曲に出てるんじゃないかと思います。
ラストナンバー「贅沢」のクラシックっぽさ
──アルバムのラストを飾る「贅沢」もすごくいい曲ですね。
川谷 一応毎回の決まりごととして、バラードを最後にするというのがあって。1stは「まるで幸せ」、その次が「シャンディー」で、今回もバラードを最後に置こうかという話から作り始めました。でも今までで一番暗いかもしれないですね。普段の僕の感じが一番出てるというか。歌詞は小難しい部分もあるんですけど、そういう曲が最後に来る、ちょっと後味の悪い感じが、逆に続きがある感じになるかなって。
──大団円じゃなく、さらっと終わることによって、まだこの先もあるという感じが出てますね。
川谷 「まるで幸せ」が大団円の曲だったから、ライブでやるといつも「解散するのかな?」って感じになるんですよ(笑)。あと「贅沢」は最後にリットしながら終わってて、コードもちょっと暗いんですけど、それがクラシックっぽいかなって。
──この曲は新垣さんのピアノも印象的ですが、新垣さんとくっきー!さんの今回の制作中の様子はいかがでしたか?
川谷 くっきー!さんはとにかく「ベースが難しい」ってずっと言ってました。「贅沢」もバラードなのにめっちゃ難しいですからね。ちゃんと弾けるようになるまで時間がかかってましたけど、楽しそうでした。レコーディングに立ち会いましたけど、課長(ジェニーハイをサポートしているゲスの極み乙女、DADARAY、礼賛の休日課長)も前みたいに「ここは難しいからやめよう」と言うことがなくなってきて、くっきー!さんもそれにちゃんと応えていて。新垣さんの演奏はずっと難しいから、あんまり変わってないですけど、周りが変化したから変わったように聞こえるというか。
──そこは最初に話してくれた通りですね。でもやっぱり1人ひとりの個性がより明確になっていて、本当に「ここからがスタート」ぐらいの作品になってるなと思います。
川谷 今回ツアーでライブを10本やる予定で、「コヤブソニック」を入れたら9月だけでライブが7本もあるんですよ。僕ら今までそんなことなかったんですけど、このアルバムでちゃんとツアーを回れるのはすごくよかったなと思います。
ジェニーハイの“今”を覚えていてほしい
──最後に「コヤブソニック」のことも聞ければと思うんですけど、まず小籔さんにお伺いすると、今回4年ぶりの開催になるわけですが、今の思いはいかがですか?
小籔 最初はビッグポルノ(小籔とレイザーラモンによる音楽ユニット)の下ネタラップを流行らせるために始めて、当時は「ラップでフェスに出たいけど出られんから」という自分本位なモチベーションだったんです。でもいつからかミナミを歩いてると、「私の好きなんばっかり呼んでいただいて本当にありがとうございます」とか、すれ違う人から感謝されたりするようになって。それで「この人たちのためにやらなければ」みたいなモチベーションに変わっていったんです。でも続けてるうちに「毎年当たり前のようにミュージシャンの人と芸人の人に来てもらってるけど、これなんなん?」と思い始めたんですよね。俺がやると言わなかったら社員の人も休みやし、ミュージシャンの人も別に出たいと思ってないんちゃうかとか、それでちょっとしんどくなって。
──2014年に一旦終了して、2017年に再開したわけですよね。
小籔 そこからまた3年やりましたけど、正直2020年からの3年間「コヤソニ」がなかったのは精神衛生上よかったんです。でも今回またやらせていただくことになって。前は吉本新喜劇ィズっていう、新喜劇のバンドを広めるという体で復活したんですけど、今はジェニーハイが定期的に出れるフェスの場を確保するためというか……僕がこの4人に貢献できることがあるとしたらそれかなと思ったりもして。吉本新喜劇ィズは5人中3人がほぼ同時に赤ちゃんを生んで、子育ての方向性の違いで休止中なので(笑)、今回はジェニーハイのためのフェスみたいになってるんです。なので、ツアーももちろん来ていただきたいですけど、9月は毎年「コヤソニ」にジェニーハイを観に行こうと思ってもらえたらいいですね。
──初日はインディゴやゲスも出るから、川谷絵音デーみたいなところもありますね。
小籔 今まで1日に3組で出たことはあるんですか?
川谷 どうなんだろう……1日に3つはないかもしれないです。「コヤソニ」は前から出させていただいてますけど、今回のジェニーハイはフィーチャリングゲストが全員来てくれることになっていて。それって奇跡ですよね。普段のフェスだとゲストがいないか、いてもシークレットだったりするけど、今回は「この日に行けば絶対『不便な可愛げ feat. アイナ・ジ・エンド』が聴ける」とわかってるわけで。それもなかなかないことだなって。
──「コヤソニ」はジェニーハイのこの4年の成長を見せる場にもなるわけですよね。
小籔 Pがさっき言ってたようにアルバムごとに変化があるとするなら、今回のアルバムを聴いていただいて、「今こんなんなんや」って覚えていただきたいですね。身長を測って柱に線で記録するみたいに、ツアーとかフェスを観に来るたびに線を引いていってほしいです。P的にはいろいろ変えてるやろうし、それによって僕やくっきー!やイッキュウさんもおのずと多少は変わってるだろうし、逆にがっきー(新垣)の変わらない感じだったり、そんなんも含めて楽しんでくれるお客さんがおったらいいなと思います。
公演情報
ジェニーハイTOUR 2023「クラシックファイブ」
- 2023年7月14日(金)埼玉県 戸田市文化会館
- 2023年7月23日(日)千葉県 市川市文化会館
- 2023年7月29日(土)大阪府 グランキューブ大阪(大阪府立国際会議場)
- 2023年8月25日(金)宮城県 東京エレクトロンホール宮城
- 2023年8月29日(火)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
- 2023年9月2日(土)石川県 本多の森ホール
- 2023年9月8日(金)広島県 上野学園ホール
- 2023年9月10日(日)福岡県 福岡市民会館
- 2023年9月20日(水)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)
- 2023年9月26日(火)東京都 東京国際フォーラム ホールA
プロフィール
ジェニーハイ
バラエティ番組「BAZOOKA!!!」の知名度を上げるために始動したプロジェクト。音楽番組や音楽フェスなどへの出演を目標に、小籔千豊(Dr)、くっきー!(B / 野性爆弾)、中嶋イッキュウ(Vo / tricot)の3人で結成された。オリジナルメンバーのアプローチを受け川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女、ichikoro、礼賛)がプロデューサー兼ギタリストとして加入したのち、小籔の推薦でピアニストの新垣隆がキーボーディストとして参加し現体制となる。目標であった音楽番組やフェスへの出演も重ね、2021年9月には初のアリーナ公演も開催。映画「ハケンアニメ!」主題歌となる「エクレール」には、同作に群野葵役で出演する高野麻里佳がゲストボーカルとして、また劇中アニメに出演する梶裕貴、潘めぐみ、高橋李依、花澤香菜が掛け声で参加している。2023年3月にはyamaとのコラボ曲「モンスター feat. yama」を配信リリース。6月には3rdアルバム「ジェニークラシック」を発表した。
ジェニーハイ プロフィール | Warner Music Japan