鮪さんが歌うバラードが好き
──「マーブル」は3月4日にリリースする初のベストアルバム「KANA-BOON THE BEST」に収録される新曲ですね。
谷口 この曲は、もともとバンドの今のことを描いた歌として作ろうとしていたんです。めしだ(飯田祐馬 / B)の脱退があったから、“別れ”をテーマにしていて。でも、曲を作り始めたタイミングでリクルートさんから「Follow Your Heart & Music」の話をいただけて、「マーブル」に対してもう1つ違うテーマが生まれたというか。本来ならミニマムなバンドだけの歌ということになっていたかもしれないですが、“挑戦”というテーマをいただいたことで、曲の内容がどんどん普遍的になっていったんですよね。このテーマがなかったら、ここまで大きくて芯の強い曲には仕上がっていなかったと思います。
──KANA-BOONの歴史において別れを歌った曲は多くありますが、「マーブル」はゆったりとしたメロディに等身大の思いを乗せた、これまでにはない別れの歌になっていますね。少しずつ前に進んでいくような、温かくて優しい曲になっているかと思います。
谷口 いろんなことがあって痛みや寂しさがすごく大きかった分、温かみや優しさといった対極の位置にある感情が膨らんだのかなという感じはしています。
古舘 KANA-BOONって世間的には疾走感のある曲のイメージが強いと思うんですけど、実は僕が7年くらい前に初めて聴いたKANA-BOONの曲はバラードの「眠れぬ森の君のため」だったんですよ。自分の中でKANA-BOONといえば、あの曲の印象がずっと残っています。今回「マーブル」がバラードだったので、初めてKANA-BOONの音楽を聴いたときの感じを思い出して、すごくエモーショナルな気持ちになりました。鮪さんが歌うバラードが好きなんですよね。鮪さんの歌声って、思春期や青春性みたいなものを思い出させてくれるんです。
谷口 僕も古舘くんの歌声に青春性みたいなものを感じていて。28歳になってもそのよさが変わらないのはカッコいいことやなと思います。曲の中で特に大きな背伸びをしないところはお互いの共通項かもしれないね。
意識して入れた“Sのスイッチ”
──MVでは夢を追いかける主人公の物語が描かれています。MV制作にあたって、鮪さんの中にどういったイメージがあったんでしょうか?
谷口 まず、僕の中には夕景のイメージがありました。快活な青空の下じゃなくて、かといって夜闇でもない、昼と夜の境の景色。優しくもあるけど、すごくおぼろげで、ちょっとギリギリな感じというか。あと、主人公像も提案させていただきましたね。夢を目指して上京してきたけど何もつかめていなくて、同世代の地元の友達は結婚したり子供ができたり、輝かしい人生を送っている。スタートダッシュに遅れて、1人置き去りにされているという……そこでの葛藤を表現できる人に演じてもらいたいなというイメージを持ったうえで、古舘くんにお願いしました。
──KANA-BOONサイドから古舘さんにこういうふうに演じてほしいというオーダーはあったんですか?
古舘 全然なかったですね。僕もあえて設定を決め込まないで挑みました。こうしよう、ああしようと考えると、硬くなりすぎちゃうような気がしたので。僕を選んでくれたということは、わりと素のままでいったほうがいい感じなのかなと。
谷口 うんうん。古舘くんは、もともと主人公のイメージに近い人やから。こっちもがっつりと決め込んだ演技じゃなくていいだろうなと思っていたし、事前に打ち合わせもしていませんでした。
古舘 でも、ラストシーンでKANA-BOONの皆さんと掛け合いをするところだけは意識して演じたというか、けっこう遊びの要素を入れちゃいました。主人公が監督としてKANA-BOONの皆さんに演技指導をするんですけど、それまでのシーンみたいに素でやると、年上の人に指導するのは無理だなと思ったんです。ちゃんとしゃべったことない古賀(隼斗 / G)さんと、こいちゃん(小泉貴裕 / Dr)さんにも強めに指導しなくちゃいけないし。これは演技というか、Sのスイッチを入れなきゃいけないなと。
谷口 そうやったんや。
古舘 演技に熱が入りすぎて、持っていたメガホンでメンバーの皆さんを叩きそうになっちゃったくらい。ギリギリのところで留まりましたね。
谷口 叩いてよかったのに(笑)。
古舘 あと、鮪さんがマーベル作品のファンというイメージが強くて、練習では何度も「マーブル」というセリフを「マーベル」と言っちゃっていたんですよ。
谷口 ははは(笑)。
古舘 もし本番、鮪さんの前で「マーベル」って言っちゃったら、アドリブで「それはあんたが好きなやつだよ!」と自分でツッコミを入れようと準備していました。なんとか「マーブル」と言えたんですけど。
谷口 僕は古賀の演技が面白すぎて、何回も笑いそうになっちゃって。ゾンビに噛まれてリアクションをするシーンがあるんですけど、古賀がもう……とんでもないんですよ。
古舘 そこも見どころだと思います(笑)。
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挑戦するタイミングはいつだっていい
2020年3月12日更新