「FUJI & SUN'23」後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)×三船雅也(ROTH BART BARON)対談|大自然の中で体験する音楽の楽しさ (2/2)

それぞれの野外フェスへの心持ち

──野外フェスで演奏する際は、屋内のライブハウスやホールとは違って、音作りや心持ちの部分でどんなことを意識しますか?

後藤 ライブハウスみたいな狭い空間だと“点”がよく見えて、バンドで合わせるときに“縦”を気にして演奏したりしますけど、アリーナとかは縦でやると全然よくなくて、もっと大きいイメージでビートを捕まえないといけないんですよね。それが野外フェスになると今度は飛んでいった音が返ってこないので、「音が回る」ってことがないわけですよ。回る音に対してのシビアなコントロールはいらないから、わりと楽しく、開放的な気分で演奏できるのは事実です。ただフェスはだいたいぶっつけ本番なので、そんなに中音も作り込めないから、大らかな気持ちで出ていく必要があるというか、センシティブな感じだとフェスはよくなくて。「いつもと違う、いつもと違う」と思ってると、1時間くらい平気で経っちゃう。あんまりそういうことは気にせずに、「この場を楽しむ」っていうフィーリングでやるのが一番いいんだなって発見してから、フェスが楽しくなりましたね。

三船 ロットは去年からずっとツアー(「"HOWL" Tour」)をやっていて、3月に終わったんですけど、最近ヴェニューの1つひとつが大きい楽器の中だと思うようになって。1個1個違うアコースティックギターの中にみんなで入って、その響きの違いを楽しむ、そんな気持ちなんです。それは自分たちのツアーだから、緻密に作り込んだ音の世界がそこに空間として広がるわけだけど、野外フェスはその逆で、「お前程度で全部コントロールできると思うなよ」って言われる感じがある(笑)。

──あはは。

三船 天気も毎回違うし、お客さんの動きも変わるし、そういうコントロールできない状況の中で、自分の本当の力量が試される。その場所でのアクシデントを楽しむというか、「Let It Go」じゃないけど、されるがままになって、その空間を自分がうまく泳げたときは、どこまでも行けるようないい演奏ができる。それが屋内と野外の違いだと思います。僕、屋内でも天井が高ければ高いほど好きだし、天井がないとどこまでも行ける気持ちになって、会場によっては用意されてるサウンドシステムをある種超えてしまったように感じる瞬間もあったりして。そういうときは「このフェスの人たちの想像を超えられたな」と思って楽しかったりしますね。

後藤 フェスのほうが空間的には絶対に散漫ですよね。演奏してる側にとっては気が散る要素が多い。人が移動してたり、妙に明るかったり、暑かったり、大雨が降ったりもするわけで。ロットがホールとかでライブをやると、三船くんを中心にお客さんも演者も集中していくような空間になっていて、そういうことをフェスでもできたら最高ですよね。

三船 去年の「FUJI & SUN」のライブのときは最初霧がかかってたんですけど、演奏を始めたら晴れ間が出てきて、富士山が見えて、すごく楽しかったんですよ。予測不可能なことを大きな心で受け入れて、咄嗟に反応できる自分のセンスや、五感以上のものを問われているようで。でもそれが楽しいんですよね。

「FUJI & SUN'22」より、ROTH BART BARONのステージの様子。

「FUJI & SUN'22」より、ROTH BART BARONのステージの様子。

誰の真似をする必要もないし、自由にやってみるのがいい

──徐々に規制が緩和されて、ライブでの声出しが可能になりました。先ほども話に出ましたが、3月10日にファイナルを迎えたロットのツアーはいかがでしたか?

三船 今年に入ってからのツアーのムードは去年までとは全然違いました。僕はコロナ禍でもずっとツアーをやってきたので、その違いが露骨にわかるんですけど、ちょっと前まではみんなある種の覚悟をして、「風の谷にマスクをして行く」みたいな感じだったんですよ。

後藤 腐海に来るような感じだ。

三船 でも今年に入ってからはお客さんが明らかにリラックスして、体も動くようになりましたね。リアクションのない状態で演奏することに慣れてしまって、みんなの心の中で起こってる動きを感じ取りつつ演奏するっていうことを2年くらいやってきたけど、ようやくそれを外に出せるようになって、やっぱりこういうことをしないと人間は不安定になるよなと、当たり前のことを思ったりもして。日本ではまだ外でもマスクをしてるの?

後藤 してる人が多いかな。今は花粉も関係があるかもしれないけど。

三船 もともと日本の人はマスクをよくしてたしね。でもライブとかフェスは何かを解き放ちに来る場所だと思うから、その晴れの舞台でそんなに社会性を身に付けなくてもいいよっていう、いつもロットのライブではそういう空間作りを意識していて、「撮影はオッケーだけど、周りの人には気を使ってね」とか、なるべくみんなの自主性に任せるようにしています。その中でみんなが少しずつオープンになって、心を開いていく様子がツアーを通じて見れたのにすごく喜びを感じたし、それが今回のツアーの醍醐味でした。「FUJI & SUN」でライブをするときは、もっとオープンマインドな世界になってるといいな。

──「声」はロットのライブにおいて非常に重要な要素ですもんね。

三船 そうですね。みんなで声を合わせるとかね。そうやってみんなからそれぞれの感情が伝わってくる瞬間が僕にとってライブをやっていて特に楽しい瞬間なので、いろんなものが取っ払われたこの先の世界が見てみたいし、そこで何を鳴らすのか、というのが今音楽で一番やりたいことかもしれないです。

後藤 アジカンも今年に入っていくつかのフェスに参加させていただいて、お客さんみんな声を出して歌っていて、開放的な気分になりました。ただ、マスクにしろ声出しにしろ、個人の選択だと思うので、ここからは能動的に自分が何をしたら楽しいのかを、それぞれが考えてほしい。誰の真似をする必要もないし、自由にやってみるのがいいと思います。どうしても隣の人を気にしちゃう雰囲気があって、それは僕らがそういう育ち方をしてきたからですけど、フェスの現場に集まる人とか、それこそキャンプをする人とかって、能動的な意思がないとそういうことはやらないわけだから、その人たちが集まる場所っていうのは、すごく素敵な場所になると思うんですよね。フェスって封建的なものではないし、むしろそれぞれが能動的じゃないと空間自体が成り立たないと思うんですよ。だから、声を出す出さないも、マスクをするしないも含めて、みんなが能動的に判断して、それぞれのあり方を認め合いながら、素敵な場所を作っていけたらすごくいいですよね。自分もその一端でありたいなっていうのは、最近ますます思います。

──今日お話をお伺いして、「FUJI & SUN」が非常に楽しみになりました。

三船 ゴッチともひさびさにお会いできますね。

後藤 同じ日に出演するから、何か一緒にやれたらいいですよね。

三船 ぜひ。すげえ楽しみ!

「ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 Special Concert "More Than a Quarter-Century"」に三船雅也がゲスト出演した際の様子。(Photo by Tetsuya Yamakawa)

「ASIAN KUNG-FU GENERATION 25th Anniversary Tour 2021 Special Concert "More Than a Quarter-Century"」に三船雅也がゲスト出演した際の様子。(Photo by Tetsuya Yamakawa)

プロフィール

後藤正文(ゴトウマサフミ)

1976年生まれ、静岡県出身。1996年にASIAN KUNG-FU GENERATIONを結成し、2003年4月にミニアルバム「崩壊アンプリファー」でメジャーデビュー。2004年にリリースした「リライト」を機に人気バンドとしての地位を確立させる。2010年には自身主宰のレーベル「only in dreams」を発足し、バンド活動と並行してGotch名義でソロ活動も展開。2018年、新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞「APPLE VINEGAR -Music Award-」を立ち上げた。文筆家としても定評があり、著作に「ゴッチ語録」「凍った脳みそ」「何度でもオールライトと歌え」「INU COMMUNICATION」などがある。

三船雅也(ミフネマサヤ)

東京都出身のシンガーソングライター。ロックバンドROTH BART BARONの中心人物。ROTH BART BARONとして海外の大型フェスに出演するなど、国内にとどまらず精力的に活動している。4thアルバム「けものたちの名前」がASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が設立した音楽アワード「Apple Vinegar Music Award」の大賞を受賞。2021年にはアイナ・ジ・エンドとの2人組ユニット・A_oとして発表したポカリスエットのCMのタイアップソング「BLUE SOULS」が話題になった。2023年3月、東京に加えてドイツにも制作の拠点を設けることを発表。7月には自主企画「BEAR NIGHT 4」を東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で開催する。