「FUJI & SUN'23」後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)×三船雅也(ROTH BART BARON)対談|大自然の中で体験する音楽の楽しさ

5月13、14日に静岡・富士山こどもの国でキャンプフェス「FUJI & SUN'23」が開催される。

「FUJI & SUN'23」は世代やジャンルを超越したボーダーレスな音楽やカルチャーを富士山の麓で楽しめる野外フェス。アクティビティやワークショップも充実しており、その“コミュニティ感”も特徴的だ。

そんな「FUJI & SUN'23」の2日目、5月14日公演にASIAN KUNG-FU GENERATIONとROTH BART BARONの出演が決定した。ASIAN KUNG-FU GENERATIONは2日間を締めくくるヘッドライナーを担当。ROTH BART BARONは2年連続での出演となる。

音楽ナタリーでは以前より交流のあるASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo, G)とROTH BART BARONの三船雅也による対談を実施し、野外で演奏することの魅力から、今後の「能動的な」フェスのあり方についてまで、幅広くリモートで語り合ってもらった。

取材・文 / 金子厚武

「FUJI & SUN'23」

「FUJI & SUN'23」ロゴ

「富士山と学び、富士山と生きる。」をコンセプトとして2019年にスタートし、今年4回目の開催を迎えるキャンプフェスティバル「FUJI & SUN」。富士山を臨む開放感あふれる空間で、ジャンルや世代を超えたアーティストによる音楽ライブのほか、アクティビティやワークショップといったコンテンツを通して、日常を忘れさせる“贅沢な余暇”を提供する。

過去開催「FUJI & SUN」の様子。

2023年5月13日(土)静岡県 富士山こどもの国

OPEN 9:00 / START 10:30

<出演者>
SUN STAGE:never young beach / 折坂悠太(band) / ハナレグミ / EGO-WRAPPIN'(Acoustic set) / cero
MOON STAGE:ピーチ岩崎 / 吉原祇園太鼓セッションズ / TOP DOCA / THE SIDEBURNS with Martin kinoo / 優河 / 君島大空

2023年5月14日(日)静岡県 富士山こどもの国

OPEN 8:00 / START 9:00

<出演者>
SUN STAGE:ROTH BART BARON / ブレッド&バター / 木村カエラ / スガシカオ with FUYU / ASIAN KUNG-FU GENERATION
MOON STAGE:Lil Mofo / 寺尾紗穂 / 岡田拓郎+山内弘太 / マヒトゥ・ザ・ピーポー

「FUJI & SUN'23」タイムテーブル

公式サイト

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)×三船雅也(ROTH BART BARON)対談

ベルリンで録ったアジカンの「You To You(feat. ROTH BART BARON)」

──三船さんは制作の拠点を日本とドイツの2カ所にすることを3月に発表して、現在もベルリンにいらっしゃるんですよね。

三船雅也 拠点を海外にも設けるアイデアはコロナ禍前からずっとあったんです。ロットはこれまでもアメリカに行ったり、イギリスに行ったり、なるべく日本だけじゃなく活動を広げていこうというマインドがあったし、日本にはもう何十年も住んできたので、別の場所で音楽を作るのもいいなって。ゴッチとか、くるりの岸田(繁)さんとか、いろんな場所でレコーディングをしている先輩たちを見てきて、すごく影響を受けた部分もあるし、もっと言えば村上春樹さんも、坂本龍一さんも、池澤夏樹さんも、作品ごとに作る場所を変えていたわけで。その土地で得たものを音で表現するということを自分もやりたいと思ってたんです。

──なるほど。

三船 でもその矢先にコロナ禍になっちゃって。これが収まるには3年くらいかかるだろうから、この期間は日本でしか作れないものに向き合う期間にしよう、と切り替えて活動してきました。で、日本で3部作(2020年10月発表「極彩色の祝祭」、2021年12月発表「無限のHAKU」、2022年11月発表「HOWL」のアルバム3作品)を作ったから、次はいよいよ外に出るべきなんじゃないかなって。なので、準備は以前から着々と進めていて、アジカンの「You To You(feat. ROTH BART BARON)」にしても、僕のボーカルはデヴィッド・ボウイが使ったことでも知られるベルリンのハンザスタジオで録ったんです。

──じゃあ、三船さんが活動の拠点を増やしたことを、後藤さんは以前からご存じだったわけですね。

後藤正文 そうですね。すごくうらやましいというか、楽しそうでいいなって。僕もチャンスがあればベルリンに住んでみたいです。海外に行って、違うカルチャーに触れるだけで、不思議と曲が書けたりもするんです。それくらい、違う街に行くことは刺激になりますよ。

──ベルリンを選んだのはなぜだったのでしょうか?

三船 ちょっとシリアスな話になりますけど、アメリカは政治的にも経済的にもこの10年で住みにくい場所になってしまった印象があるんですよね。あとロンドンにも行ってみたんですけど、わりと日本に似ていて、新しい挑戦より歴史が優先されてしまう部分を感じたりもして。どちらの国も音楽は好きだし、訪ねるのも好きだけど、住まなくてもいいかなと思ったんです。ベルリンは80年代の後半に1回ぶっ壊れて、歴史がゼロになって、それこそコロナ前はいろんなベンチャーの若い人たちがどんどん世界中から集まっていて。何か新しい爆発が起きそうな可能性をすごく感じたので、それでベルリンを選びました。

後藤 ドイツは芸術に手厚い国っていうイメージもあるし、いいんでしょうね。テクノ系やノイズ系のアーティストも多いですし。

三船 めっちゃいます。

後藤 大きな都市なら暮らすのもそんなに大変じゃない気がするし……「いいなあ」としか思わない(笑)。遊びに行きたいですね。

三船 絶対来てください。ここでしか作れないものがある気がする。日本のみんなにまた新しい地平を見せられたら楽しいなと思いながら、今すでにいろいろ作っていて。ホントにゼロからだったので、友達もいないし、身寄りもないし、心細かったんですけど、ようやく季節も春になって、ミュージシャンの友達もできたりして、今は10代のバンドを始めた頃に戻ったような気持ちです。

富士山に存在する人間には到底作れない地場

──ロットは昨年の「FUJI & SUN」にも出演していますが、どんな印象でしたか?

三船 ひと言で言うと、すごくきれいで穏やかなフェスでした。空が抜けていて邪魔するものが何もない、ポカーンとした空間の中で、集中して音だけが点になって存在してる感じで。自分の出番のあと、Salyuさんのライブのときは、藁が敷いてあるところに寝転がって、夕焼けの中で富士山を見ながら聴いてたりして、心地いいフェスティバルだと思いました。

「FUJI & SUN'22」より、ROTH BART BARONのステージの様子。

「FUJI & SUN'22」より、ROTH BART BARONのステージの様子。

──眼前に富士山があるわけですよね。

三船 そうですね。ドイツに来て思ったんですけど、ああいうシンボリックな力強さのある山はベルリン近辺にはないんですよ。富士山はマグマがうごめいてるような、人間には到底作れない地場みたいなものがすごくあって、僕はこっちに来て、それを少し失ったんだなって。こっちにも別の形ではあるんでしょうけど。

──後藤さんは静岡のご出身ですが、会場の富士山こどもの国は馴染みがありますか?

後藤 名前を聞いたことがあるくらいなんですけど、富士サファリパークの近くにあるのは知ってます。富士サファリパークは静岡県民なら誰でも馴染みのある場所なので。富士山の麓でフェスをやるっていうのは、静岡県民からするとスペシャルですよね。これまではずっと富士山を山中湖のほうに取られてたというか、静岡と山梨は戦争のない領土問題を抱えていて、富士山がどっちのものかはずっとうやむやになっていて(笑)。どっちのものでもいいですけど、静岡のフェスはそんなに多いわけではないので、そういう場所で演奏できるのはすごくうれしいです。

実質的なヘッドライナーは岡田拓郎

──ラインナップに関してはどんな印象ですか?

後藤 簡単に言えば、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」とかとは明らかに違うメンツですよね。呼ばれるとしたらソロとかかなと思ってたら、アジカンで呼んでもらえて、少し意外だなと思いつつ、でもすごくうれしいです。

三船 今年のメンツ、ヤバくないですか? スガシカオさんとか、木村カエラさんとか、ずっと第一線でやり続けてる人たちがいて、その人たちと同じ空間で歌えることがすごくうれしい。その一方で友達もたくさんいて、岡田(拓郎)くんにしてもそうだし……。

──過去にロットの曲に参加している優河さんもいますよね。岡田さんはロットにも参加しているし、魔法バンドとして優河さんの作品やライブにも参加しているわけですが。

後藤 岡田出ずっぱり説があるよね。ネバヤンのサポートメンバーでもあるし。

三船 すでに岡田がMVPなんじゃねえかって(笑)。

後藤 実質的なヘッドライナーは岡田拓郎だよね(笑)。

三船 個人的には折坂(悠太)くんをちゃんと観る機会がこれまでなかったから、すごく楽しみです。良質な音楽がたくさんあるフェスだと思いますね。

ストーリーの作り方も含めてフェス

──三船さんは昨年出演されて、場の空気感やコミュニティ感についてどう感じられましたか?

三船 ラインナップももちろん大事ですけど、僕はむしろそこに集まる人たちがフェスを作るんだと思っているんです。最近はキャンプに慣れてる人もいっぱいいると思いますが、「FUJI & SUN」ではキャンプ道具をDIYで作ってらっしゃる方の小さなブランドのショップや、古くなったキャンプ道具のリサイクル品をセカンドハンドとして売ってるショップがあったりして、小さい経済で、DIYで作ってる人たちの出店がすごく楽しくて。僕も例に漏れず、ここ数年はキャンプに行ったりしてたので、「あ、これ欲しかったやつだ」って普通に買ったりもしました。演奏があるから気は張ってたんだけど、願わくばお客さんとして、なんの使命感もなく、ダラダラここにいたいと思っちゃいましたね。「僕もここに混ざりたい」っていう、そういう空気があるんですよ。

後藤 フェスはラインナップどうこうだけでやろうとしてもうまくいかないんじゃないですかね。キャンプ由来なのか、土地由来なのか、いろんなパターンがあるとは思うけど、ちゃんとコミュニティを作っていかないと、なかなか人は集まらないと思う。アジカンが縁もゆかりもない場所でいきなり「フェスをやります」って言っても限界があるし、場所とかコミュニティに対する動機付けの部分とか、ストーリーの作り方も含めてフェスだと思うんです。そこに集まる理由がないと続いていかないし、土着の祭りになっていかないというかね。どこにでも祭りがある時代だから、東京の人たちが地方にインフラから何からごっそり持っていったとしても、根付くかどうかは非常に難しい時代なんじゃないかな。

──ちなみに、後藤さんはキャンプはされますか?

後藤 僕は基本的にインドアなので、キャンプはあんまり……「旅館がよくね?」みたいな(笑)。バーベキューとかは楽しいっちゃ楽しいですけど、頻繁には行かないですね。

三船 じゃあ、今度一緒に行きましょう(笑)。

後藤 アジカンだったら(伊地知)潔がキャンプ得意だから、潔のレコメンドでやっときゃ大丈夫だろうっていうのはある(笑)。三船くんは1人でも行くの?

三船 1人でも行くし、大学時代の友達がめちゃめちゃ道具を持ってて、そいつに誘われたときは手ぶらで行ったりとか。あと、こっち(ドイツ)がキャンプ大国なんですよ。こっちは何もないところに行って、勝手にキャンプして、自然を感じて帰ってくるって感じだけど、日本はキャンプする場所の予約から始まるわけじゃないですか? 「周りに迷惑をかけないように音は小さく」とかもそうだけど、自然を感じに行くのに社会性が必要で、ルールを作っちゃう日本のキャンプは日本人らしいな、と思いながら。こっちはホントにほったらかしで、薪がバーッとあって、勝手にバーベキューしてよくて、老若男女みんなサバイバル能力が高い(笑)。

後藤 確かに、外国の映画を観ると子供たちは夏にやたらキャンプに行くもんね。それに比べて、日本は全部用意されてる場所が多い。

三船 便利だし、初心者にはすごくいいと思うけど、なるべく他の人の手が入らないようにするのはドイツと違うなと思います。

過去開催「FUJI & SUN」の様子。

過去開催「FUJI & SUN」の様子。

──「FUJI & SUN」に来る人たちは、サバイバル能力高めの人たちが多そうですよね(笑)。

三船 そうかもしれませんね。「FUJI & SUN」のコミュニティは頼もしかったですね。