fishbowlインタビュー|地元・静岡で聞く「王国」の魅力

静岡を拠点に活動するアイドルグループfishbowl。活動開始からまだ2年弱しか経っていない彼女たちだが、ukkaやリルネード、FRUITS ZIPPERをはじめ数多くのアイドルに楽曲提供しているプロデューサー・ヤマモトショウが作り上げる音楽が支持を集め、昨年の「アイドル楽曲大賞」インディーズ / 地方アイドル楽曲部門で1位を獲得するなど、すでに一定の人気と地位を得ている。

そんなfishbowlが地元・静岡をイメージした全11曲入りの2ndフルアルバム「王国」を3月24日にリリースする。これに合わせ、音楽ナタリーではメンバー4人にインタビュー。静岡県浜松市まで出向き、結成から現在に至るまでの変化、「王国」の聴きどころなどを聞いた。浜松のロケーションを生かした撮り下ろし写真、静岡の魅力をひと言で表したメンバーの手書きコメントと合わせてインタビューを楽しんでほしい。

取材・文 / 近藤隼人撮影 / Swimmy

「絶対に仲よくなれない」から家族のような関係へ

──結成3年目にしてすでに楽曲やライブパフォーマンスにおいて高い評価を獲得しているfishbowlですが、音楽ナタリーの特集には初登場ということで、まずはグループの特徴について簡単に紹介してもらえますか?

大白桃子 fishbowlは浜松、静岡、沼津、御殿場とメンバー全員が静岡県出身です。プロデューサーのヤマモトショウさんも清水出身ですし、本当に静岡づくしのアイドルグループなんです。

──4人ともfishbowlが初めてのアイドル活動なんですよね?

大白 はい。2年半前、母がテレビ静岡で流れているCMを観て「アイドルのメンバー募集をしてるよ」って教えてくれて。ちょうど進路に迷っていた時期だったので、とりあえず応募してみようと思った感じです。

久松由依 私も、家でテレビを観ていたときにそのCMが流れて、当時自分がやりたいこともなかったので「応募してみれば」と家族に言われてオーディションを受けました。

──2020年秋にテレビ静岡公認の「しずおかアイドルプロジェクト」が発足し、オーディションが開催されたわけですが、テレビ静岡でそのオーディションのCMが流れたんですね。

久松 めちゃくちゃうさんくさいCMが流れてました(笑)。

新間いずみ 私の場合も、母がそのうさんくさいCMを観たことがきっかけでオーディションを受けました。

木村日音 私は両親が勝手にオーディションに応募したんです。気付いたら審査に通っていて、すごい勢いでいろいろと進んでしまったので、最初はとにかく不安でした。

fishbowl

fishbowl

──今の話を聞く限り、皆さんアイドル活動をやりたくてオーディションを探していた感じではないんですね。

新間 広く浅くっていう程度で女性アイドルさんが好きで、歌って踊ることへの憧れはあったけど、まさか自分がアイドルになるとは思ってなかったです。

久松 私はもともとアイドルには全然興味がなくて。でも、ライブをするということに対しては興味があったので応募しました。

大白 私はアイドルどころか、歌うことにもまったく興味がなかったです。本当に何も考えずにオーディションに行って、歌もダンスもわからなかったので、オーディションでは何も披露しなかったです。ただオーディションに行っただけ(笑)。一応、課題曲はあったんですけど……アンケートの特技の欄にも「特になし」って書きました。

──それで合格するってすごいですね(笑)。

木村 私はK-POPに興味があって、ステージで踊ることに対してカッコいいなというイメージを持ってたんですけど、歌については興味がなく、特に考えたことがなくて。オーディションに行ったものの、歌わずに帰ろうかなと思ってたんです。でも、課題曲とさらにもう1曲歌わされて、「これはもう絶対落ちたな」と思ってたら、なんか受かってました(笑)。

──オーディションと聞くと熾烈な競い合いをイメージする人もいると思いますが、それとは真逆のゆるさが面白いですね。ただ、その温度感の中でも活動は本格的に始まっていくわけで、当時はどんな心境だったんですか?

木村 fishbowlというグループ名を聞いたときもピンと来てなかったんですけど、初めて曲を聴かせていただいたときに「あ、これが自分たちが歌う曲になるんだ」と実感みたいなものが湧いて、やる気も出てきました。

木村日音

木村日音

新間 私も初めて曲をもらったときに「この状況って当たり前じゃないんだな」と感じました。

──歌って踊るパフォーマンスのスキルについては、すんなり身に付きました?

久松 全然すんなりじゃなかったです(笑)。ダンス経験者で覚えが早いメンバーもいれば、逆に遅いメンバーもいて。私の場合は本当にゼロからで、運動も全然できなくて。初めての振り入れのときに「あ、私ついていけない」と思っちゃうくらいダメダメでした。

大白 最初は1つの曲を覚えるのに1カ月ぐらいかかってました。丸1日かけて1曲だけをレッスンして、それでも覚えられないっていう。

久松 その頃と比べたら、今は振り入れがかなり早くなりました。

新間 自分たちでびっくりする。「え、もう終わったの!?」って。

──メンバー同士の関係性についてはどうですか? 2年前、テレビ静岡「アイドル観察バラエティ fishbowlのデビューしちゃってもいいですか?」のカメラが回ってる中で初顔合わせが行われましたが、その頃と比べてお互いの印象などに変化はあるのか。

久松 メンバーと初対面したときは「あ、絶対に仲よくなれない。合わないな」と思いました(笑)。家に帰ってから母に「私、ダメだ。誰とも仲よくできない。続かないかもしれない」と言ったのを覚えてます。

新間 私も「これはたぶん無理だ」と思いました。結成からもう2年くらい経ちますが、当時は2年も続くとも思ってなかったです。例えば学校のクラスだったら、一緒に行動する子を自分で選べるじゃないですか。それに対して、アイドルグループはお互いを選べない状態でメンバーが集められるし、最初は自分の性格を変えなきゃいけないのかと思うレベルで悩みました。今はそのままの自分でいいのかなと思えるような関係になれましたけど。

新間いずみ

新間いずみ

──確かにアイドルグループって特殊な集団ですよね。見ず知らずの人たちがいきなり毎日のように行動をともにするようになるという。

久松 でも、今ではびっくりするぐらいメンバーと仲がいいんです。プライベートで仲がいい友達よりも自分をさらけ出せるというか、友達を超えて家族みたいな感覚ですね。お風呂も一緒に入るし(笑)。

大白 家族にも見せてないところを見せてるよね。

──どこかのタイミングでグッと距離が縮まったんですか?

久松 いや、気付いたらこうなってました。メンバーの中でも特に大白とは仲よくなれないと思っていて。なんて言ったらいいんですかね……大白って表情が全然変わらなくてロボットみたいな感じだったんですよ。この子とはわかり合えないなって。

大白 そんなふうに思ってたの(笑)。

久松 今はホテルの部屋がいつも一緒で、めっちゃしゃべります。でも、そうなったきっかけが何かあるわけではなくて。

大白 時間だよね。やっぱり一緒にいる時間が長いから、自然と仲よくなったんだと思う。私は私で由依のことヤバいと思ってた(笑)。常にテンションが高くて、学年で一番目立つ子ってイメージだったから「このテンション感ヤバいな。絶対についてけないな」って。あまりに仲よくなれなそうだったので、大人しそうな雰囲気の木村日音にアプローチしました。初めて会った日の帰りの新幹線の中で「私、日音ちゃんと仲よくなれそう!」みたいにLINEしたんです(笑)。とりあえずにこの子を捕まえとこうって。

木村 (笑)。私も由依に対してすごく戸惑いました。「あ、やっほー」って親戚みたいな距離感で話しかけてくるから「え、誰……?」って。でも、そうやって親身になって近い距離感で接してくれるからすぐ仲よくなりました。

大白 由依は「今から歌を練習しよう」と積極的に提案してくれたり、「これからリハーサルだよ」と声をかけてくれたり、メンバーを管理しているというか、お母さん的な役割なんです。

久松 お母さん(笑)。

久松由依

久松由依

──だんだんとお互いの素が見えてくる中で、驚くことはありました?

木村 最初にヤバいなと思ったのは由依なんですけど、時間が経つにつれて「大白桃子ヤバいな」と思うようになりました。イカれてるって言うのかな……(笑)。人前で平気でゲップするし、それを芸にしちゃうし。

大白 私は逆に木村日音に対して、大人しくてしっかりしているイメージを持っていました。学級委員とか、図書委員みたいな感じ。でも実際はすごいポンコツで、「マジか」と驚かされることが毎日のようにあるんです。私服のスカートを前後逆に履いてたり、小さなポンコツの積み重ねがすごいんですよ。

木村 自分としては自覚がなくて、ポンコツな出来事を全然覚えてないです(笑)。

久松 あと、新間いずみについては、自分の意見を言えないタイプだと最初は思ってたんですよ。殻に閉じこもってる感じ。でも、メンバーの中で一番うるさいんじゃないかと思うくらいはっちゃけるときもあって。意見を言うときは言うし、しっかりとした芯みたいのを持ってるんです。

新間 たぶん、わがままってことなんだと思います(笑)。

ヤマモトショウの第一印象は「眼鏡が分厚い」

──結成当時、ヤマモトショウさんプロデュースのアイドルということに僕としては注目したんですけど、メンバーの皆さんはもともとショウさんのことは知ってたんですか?

新間 ショウさんのことは知らなかったんですけど、ふぇのたすは知ってました。友達に曲を勧められたことがあって。オーディションの段階ではショウさんがプロデュースするということは特に告知されてなくて、うさんくさいCMがきっかけでオーディションに行って合格したら「友達が言っていた人だ……!」と驚いた記憶があります。

木村 私はショウさんのことは全然知らなくて、初めてお会いしたときは「おお、眼鏡が分厚い」としか思ってなかったんですけど、曲を聴いて「え! こんなにかわいい曲を書くんだ」とびっくりしました。違う人が書いてるのかなと思うくらい(笑)。

大白 私もショウさんのことはまったく知らなくて、「え、誰だろう」って感じでした(笑)。ふぇのたすの曲が使われている「おんなのこきらい」という映画を観たことがあったので、存在を知って「へー」と思いました。

大白桃子

大白桃子

──全然ピンと来てなかったんですね(笑)。TikTokでバズったFRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」をはじめ、ショウさんが手がけるアイドルソングはどれも高い評価を得ていて、ヤマモトショウが作るアイドルソングなら間違いないという共通認識がアイドルシーンの中にある気がします。そんな人がプロデューサーであることは、ほかのグループからしたらうらやましい環境だと思います。

久松 それはめちゃくちゃ感じますね。活動していく中でいろいろなアイドルを知って、「ショウさんにこうやって曲を書いてもらえるってすごいことなんだな」と思うようになりました。fishbowlの曲は自分自身も本当に好きだし、友達も褒めてくれるんですよ。「アイドルっぽくなくて聴きやすい」って。そう言われるとすごくうれしいですね。

新間 「深海」という最初のオリジナル曲の音源を聴いたときに「ただ者じゃない」と感じました。ふぇのたすの曲をオススメしてくれていた友達に、今度は私がfishbowlの曲を勧めてます(笑)。とにかく自分もfishbowlの曲がめっちゃ好きですし、ショウさんがほかのアイドルさんの曲を作ってるとちょっと嫉妬しちゃいますね。

木村 「わたしの一番かわいいところ」がTikTokでバズったとき、私の友達もその曲を使って動画を撮っていて。横から「それ、私のプロデューサーの曲だから!」と自慢したい気持ちでした。ほかのアイドルさんのライブを観ていて「あ、この曲いい!」と思うと、だいたいショウさんが提供した曲なんです。

fishbowl

fishbowl

──「眼鏡が分厚い」という印象だけだった初対面時から、だいぶ認識が変わりましたね(笑)。「本当はもっと激しいロックを歌いたかった」「ぶりぶりのアイドルソングを歌いたかった」みたいなギャップは特になかったですか?

久松 fishbowlにはすごくかわいい曲もあればカッコいい曲もあるので、めちゃくちゃ満足しています。……なんか上から目線の発言になっちゃった(笑)。私はロックが好きなんですけど、最近ショウさんがロックバラードの曲を作ってくれて、すごくびっくりしたんですよ。fishbowlで活動しているといろんなことを体験できます。いつかガッツリしたロックナンバーも歌ってみたいです。

大白 私はもっと歌詞の意味がない曲も歌ってみたいな。fishbowlの曲はどれも歌詞の内容が練られていて深いんですけど、本当に何も考えてないような曲も歌ってみたいです。トンチキな曲(笑)。