1994年放映のテレビアニメ「マクロス7」の劇中に登場する架空のロックバンド・FIRE BOMBERが、12年ぶりのシングル「BURN! BURN! BURN!」をリリースした。
1982年から続く「マクロス」シリーズにおいて、劇中に登場する歌手たちの存在は大きな意味を持つ。初代「超時空要塞マクロス」のリン・ミンメイに始まり、「マクロスプラス」のシャロン・アップル、「マクロスF」のランカ・リー&シェリル・ノーム、「マクロスΔ」のワルキューレといった歌手たちの歌声は、物語の重要なキーとなってきた。「マクロス7」のFIRE BOMBERは、福山芳樹が歌を担当する熱気バサラと、チエ・カジウラが歌を担当するミレーヌ・フレア・ジーナスがボーカルを務めるロックバンド。「BURN! BURN! BURN!」は、今年「マクロス7」が放送30周年を迎えたことを記念して書き下ろされた新曲で、シングルには表題曲に加えてバサラとミレーヌのソロ曲も収められている。30年の時を超え、FIRE BOMBERによる新曲がここに誕生した。
音楽ナタリーでは福山とカジウラにインタビュー。30年前の思い出と、12年ぶりに再集結した心境を存分に語ってもらった。
取材・文 / 北野創写真 / 須田卓馬
30年前の福山芳樹&チエ・カジウラ
──まずは「マクロス7」が放送30周年を迎えた率直なお気持ちをお聞かせください。
福山芳樹 当時は30周年を皆さんとともに祝う作品になるとは思ってもいなくて。しかも2024年はバサラ(「マクロス7」の主人公・熱気バサラ)が生まれた年なんですよね。「マクロス7」30周年とバサラの誕生日が一緒に来るとは思ってもいなかったですし、「マクロス7」はそんなに近い未来のお話だったんだと思って驚きました。もっと未来の話だと思っていたので。だってマイクが空中に浮かんだりするんですよ?(笑)
チエ・カジウラ 私もこういう日が来るとは思ってなかったですし、この作品が自分の人生のようなものになっている30年後というのは、まったく想像していなかったです。当時は、アニメの放送が終わればそれでひと区切りだと思っていたので。でも、30年経っても、こうやって何かしらでお呼びいただけるというのは、うれしいですよね。
──お二人はテレビアニメの放送当時、どんな気持ちで活動されていたのでしょうか? そもそもアニメキャラクターの歌唱パートだけを担当すること自体、その頃はあまり前例がないことだったと思うのですが。
福山 放送が始まった当時は作中では自分の名前が表に出ていなかったので、活動という意識もなかったですね。その頃の自分は、ハミングバードというバンドでデビューして3年くらいで、全然売れない中でもらった個人の仕事だったんです。放送が始まって半年くらい経った頃に、ライブ(1995年5月21日に東京・日本青年館ホールで行われたライブ「Let's Fire」)にチエちゃんと2人で登場して、僕たちが歌を担当していることを発表して。それからは僕のライブにも少しずつお客さんが来るようになりました。僕が本格的にミュージシャンとして生活できるようになったのは、その日からだと思います。
──カジウラさんは当時、まだデビューする前だったんですよね。
カジウラ そうですね。当時の私はデビューに向けて、1年くらいかけてずっとプリプロをやっていたのですが、そのチームで「マクロス7」の楽曲制作も担当する流れになりました。ミュージシャンも共通していたので、私の中では自分の制作の一環として、「マクロス7」のストーリーを念頭に置いたガールズポップを作った、という感覚で。別々のものというよりも、ミレーヌの年齢設定的に少し幼さを意識するくらいで(ミレーヌは14歳という設定)、分け隔てなく、一緒に作っていた感じでしたね。
当時のレコーディング
──その頃の楽曲制作に関するエピソードもお伺いしたいです。FIRE BOMBERの楽曲は、福山さんが歌を担当する熱気バサラとカジウラさんが歌を担当するミレーヌ・フレア・ジーナスのデュエット曲、バサラのソロ曲、ミレーヌのソロ曲の3種類に大別できますが、楽曲制作もバサラチームとミレーヌチームで別々に進めていたとか。
福山 そう、当時はチエちゃんと会ってもいなかったもんね。
カジウラ 会ったのはだいぶあとだよね。
福山 確か「SECOND FIRE!!」(1995年10月リリースの2ndアルバム)のレコーディングで、昼間にチエちゃん、夜から俺が歌うときにすれ違ったのが最初の出会いでした。江戸屋レコードのスタジオ(SOUND aLIVE)に行ったら落書きされたバンが停まっていて。
カジウラ Charさんのレコーディングスタジオね。懐かしい。その頃は私がペインティングした機材車でよく移動していたんですよ。私のソロ曲もSOUND aLIVEで作っていたから、当時はずっとあそこに通っていて。14時くらいから朝の6時くらいまでレコーディングをする生活でした。
福山 じゃあ、あのスタジオの常連だったんだ。
カジウラ そう。SOUND aLIVEはマルチトラックをアナログで録れるから。でも、FIRE BOMBERの楽曲もあそこで録ってたんだね。私、すっかり忘れてた。
福山 ミックスもあそこでしているはず。江戸屋のスタジオは三菱の32チャン(32チャンネルのマルチトラックレコーダー)を使っていて、ほかのスタジオの機材と互換性がないから、あそこで録ったらあそこでミックスするしかなかったんだよね。
カジウラ そうだ! いろいろ大変だったよね。
福山 今はどこにも三菱の機材がないから、マルチがかけられなくて困っているらしい(笑)。俺も聴きたいんだけどね。
劇伴なし、全部歌で作る
──お二人は歌唱だけでなく楽曲制作にも直接関わっています。カジウラさんはM.Meg名義で、テレビアニメのエンディングテーマ「MY FRIENDS」をはじめとしたミレーヌのソロ曲で作詞を担当していました。
カジウラ ミレーヌの年齢設定に合わせること以外は、自分自身の制作とそんなに違いはありませんでした。ただ、FIRE BOMBERの楽曲では当初、私の名前を伏せるというお話だったので、作詞は別名義を使うことになって。その頃の私は、本当に寝る時間もないくらいずっとレコーディングをしていたのですが、フラフラになっていたときに、いきなり契約書をポンと渡されて「作詞の名義、どうする? 今決めて」って急に言われたんです。私はあまりよく考えず咄嗟に、「うーん、じゃあ『魔女っ子メグちゃん』で!」って、その場の流れでM.Megになりました(笑)。
──それがあのペンネームの由来だったんですね。福山さんもテレビアニメの序盤に登場したバラード「MY SOUL FOR YOU」など、複数の楽曲で作曲を担当しています。
福山 音楽プロデューサーの佐々木史朗さん(※現在は株式会社フライングドッグ代表取締役社長)から「せっかく歌うんだから曲も作ってみたら?」と言われて、最初に書いたのが「MY SOUL FOR YOU」でした。それを含む最初のアルバム(1995年6月リリースの1stアルバム「LET'S FIRE!!」)に入っている曲はレコーディングが突貫作業で、2日で6曲録ったんですよ。
カジウラ それは大変だ。
福山 初めての歌の仕事だったので、とにかくがむしゃらにがんばって。オープニングテーマの「SEVENTH MOON」だけは別日に録ったんですけど、あの曲はレコーディングスタジオに行ったその場で初めて楽曲と歌詞をもらったんです。夜の12時くらいにスタジオ入りして、朝までかけて録りました。しかも「SEVENTH MOON」は、シングルCDのフルバージョンとテレビ放映用の89秒バージョンでオケも歌も違っていて、別録りだったんですよ。先にフルバージョンを歌ってからテレビバージョンを録ったので、テレビバージョンのほうがうまく歌えている(笑)。チエちゃんの話を聞くと、そっちもさぞ忙しかったんだろうなと思うけど。
カジウラ すごく忙しかった。ミレーヌ単体の曲はチームで普通に作っていたけど、バサラと一緒に歌っている曲はこちらも同様、その場で「ここも歌ってもらえますか?」っていうことも多くて。
福山 CDになってないところもけっこう歌ったもんね。
カジウラ そうそう。オンエア上だけで使う歌の録音もあったから。
福山 Aメロだけ歌っているバージョンとかね。当時はマルチで納品というのがなかったみたいで、「ベースと歌だけ」「歌だけ」とか、「バサラの歌だけ」「ミレーヌの歌だけ」とか、1つひとつトラックダウンして劇中で使っていたそうなんです。本当に気の遠くなるような作業だったと思います。
畠中雄一(株式会社ビックウエスト / 「マクロス」シリーズプロデューサー) 当時アミノテツロ監督は「マクロス7」を制作するにあたって「劇伴なし、全部歌で作る」という方針を立てたので、各シーンを歌で表現するために、いろんなバージョンの歌を作る必要があったんです。だからこそあれだけ素晴らしい49話+3話になったんだと思います。
カジウラ アニメを観ていたら、急にアカペラの歌が流れたりもして。こちらはそんなこと聞いていないので「えーっ!」ってなりました(笑)。
福山 自分の歌のアカペラがテレビから流れてきたときのショックはすごかったよね。俺も「えっ! 恥ずかしいんだけど……!」って(笑)。
流動的だった“バサラっぽさ”
──お二人は当時、FIRE BOMBERの楽曲を歌う際に“バサラらしさ”や“ミレーヌらしさ”を意識されていたのでしょうか。
福山 僕は全然なかったです。最初に1、2話分の台本と、熱気バサラの設定資料をもらったんですけど、出身地や「辛い物が好き」とかは書いているのに、肝心のどんな歌を歌うかは書いていなくて(笑)。そのときは楽曲のデモもまだ上がっていなかったし、バンド名から「激しい曲になるのかな?」って想像していたくらいでした。アミノ監督も佐々木音楽プロデューサーも、作詞家のK.INOJOさんも、音楽ディレクターのトンさん(林敏明)も、たぶん、まだ誰もバサラの歌がどんなものかわかっていない中で歌っていたので。
──逆に言うと、アニメの物語が進行していく中で「バサラらしい歌」をつかんでいったんですか?
福山 そうですね。後半は「バサラはこういう感じだよね」というのがみんなもわかるようになって、「もっとドカーンと歌おうよ!」みたいな感じになっていきました。監督からも「こういう場面でこういう曲が欲しい」という発注書が作曲家陣に送られてくるようになって。僕もそれに合わせて曲を書いて提出したりしていましたね。「POWER TO THE DREAM」とかはそれで採用された楽曲で。
──アニメ最終話のクライマックスで使われた「TRY AGAIN」も福山さんの作曲でした。
福山 「TRY AGAIN」は自分が監督からの指示書とは関係なく、バサラっぽさをイメージして作った曲を送ったら、使ってくれたんですよ。レコーディングはしたけどアニメには使われず、CDにだけ収録された楽曲もあったので、「TRY AGAIN」もそうなるのかなと思っていたら、最終話で使われてすごく感動しました。
──実際にアニメの放送をご覧になるまで、どの曲が使われるかは知らされていなかったんですね。
福山 そうなんですよ。指示書に書かれていたものとは全然違うシーンで使われるので。例えば「LIGHT THE LIGHT」は、“バサラが「売れ線のバラードを作ってほしい」とお願いされて書いてみたものの「こんなのはロックじゃねえ!」となって書くのをやめる曲”になるはずだったんです。でもすごくいい曲ができあがってしまったので、結果的には感動的なバラード曲として使われることになって。それくらい、当時は流動的に制作を進めていたんだと思います。
ミレーヌの気持ち
──カジウラさんはミレーヌらしい歌声を意識していましたか?
カジウラ あまり記憶が定かではないんですけど……ミレーヌの年齢設定が低かったので、ちょっとかわいめの声を出そうかな、と思いながらやっていました。今振り返ると、自分のソロアルバム(1995年9月リリースの1stアルバム「LOOPHOLE」)とそんなに違いはなかった気もします。
畠中 「マクロス」シリーズは楽曲を先に作って、それに合わせてコンテを書いたりするのですが、「マクロス7」の場合はお二人の歌声からキャラクターを作り上げていった部分が多かったみたいですね。
カジウラ これはさっき佐々木さんに聞いて初めて知ったんですけど、バサラとミレーヌは声優さんよりも歌唱担当のほうを先に決めたらしくて。だから私たちの声に似ている声優さんを探した、というお話でした。30年経っても、まだまだ知らないことだらけなんだなと(笑)。
──ちなみにカジウラさんが楽曲制作する際も、監督からの指示書を参考にしていたのでしょうか。
カジウラ 私の場合、指示書みたいなものはあまりなくて、「ミレーヌはバサラのことが好きなんだろうな」というイメージだけで作っていました。だから作品を意識するというよりも、ミレーヌの気持ちを意識して作った感じですね。きっとバサラはストーリー的にも重要な立ち位置だから、指示書があったんだと思う。
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12年ぶりに「俺の歌を聞け!」