殻を破って脱皮したEve
──今年10月に公開された「ドラマツルギー」のMVもMahさんが動画制作を手がけていて、こちらにもひとつめ様が登場しています。
曲を書いている当初は2つの曲に関連性を持たそうとか、そういう考えは全然なかったんです。ただ僕はこのひとつめ様がけっこう好きで、「ナンセンス文学」以外でも動いている姿が観たいなと思って、Mahさんに引き続きMVの制作をお願いしたんです。
──トラウマだったのに、いつの間にか好きになっていたんですね。
はい(笑)。かなり好きになってます。
──2つのMVは現実の都市が舞台になっているところなども共通しています。
ひとつめ様だけじゃなくて、Mahさんの描いてくれたキャラクターが現実には存在しない非日常感が強いものなので、日常的なものと非日常的なものが合わさってるのが面白いなと思って、MVの舞台は渋谷とか下北沢とかにしています。
──アルバムのアートワークでもMahさんのイラストが使われていますが、ジャケットに出てくるこの少年にも元ネタがあるのですか?
この少年はEve、と言うより自分自身ですね。これまで作ってきたアルバムの収録曲はカバーとか、提供曲が多かったんですけど、今回初めて全曲オリジナルのアルバムを作らせてもらって。自分の内側の部分を見てもらいたかったし、ある意味僕が新しく生まれ変わるんだっていうことを表現したくて、殻を破ったと言うか、脱皮した、みたいな雰囲気の絵をお願いしたんです。ちょっとグロテスクではあるんですけど、ポップな感じに仕上げてもらいました。
──内側から顔を覗かせている存在はちょっと不気味な感じもしますね。
「ナンセンス文学」とか「ドラマツルギー」を作っている中で、自分のペルソナ的なことに気が付いたと言うか、自分の中にもう1人の魔物のような存在が潜んでいるかもしれないなって思うようになったんです。こういう気持ちになったことが僕自身興味深くて、これから自分の内面をもっと知っていきたいなと今はすごく思います。
「ナンセンス文学」「ドラマツルギー」はイレギュラー的存在
──オリジナル曲の中でも「ナンセンス文学」「ドラマツルギー」の2曲は、MVの再生数も多く、代表曲のようになってますが、Eveさん自身が書く曲の中にはもっと明るくてキャッチーな曲も多いですよね。今作の収録曲で言えば「ホームシック」「ふりをした。」の2曲は、Eveさんのルーツにあるギターロック的なサウンドが印象的でした。
どちらかと言えば今挙げていただいた「ホームシック」「ふりをした。」のような路線の曲を作ることのほうが多くて、これらの2曲は僕のアルバムの中の王道的な要素の中心核になるナンバーですね。むしろ「ナンセンス文学」とか「ドラマツルギー」はイレギュラー的な曲なんです。
──「ホームシック」はEveさんがTwitterで制作中のフレーズを公開していた曲ですよね。
そうです。夏に向けて作って、どこかのタイミングで公開したいな、と思っていたんですけど、「ドラマツルギー」を作るのが思ったより大変で、あと回しになってた曲ですね。夏には間に合わなかったけど、アルバムに入れられてよかったです。
──「ドラマツルギー」の制作は難航したんですね。
もっとすんなり書けるかな、と思っていたんですけど、想定外に苦戦した曲です。
──その理由ってなんですか?
なんだろう……改めて日を置いて曲を聴いたときに「やっぱりここは違う」「ここの歌詞は変えたい」っていう思いが生まれてきて。毎日ちょっとずつ変えていく作業がなかなか終わらなかったんです。最終的には期日がありますから「ここまでしか悩まない」って決めて仕上げたんですけど、思ってたより数倍も時間がかかった曲でした。
曲の作り方が変わった
──そもそも全曲自作のアルバムを作る際、Eveさんはどういうアルバムにしようと構想していたんでしょうか?
実はちゃんとしたビジョンがあったわけじゃなくて、最初はとりあえずしっかりと10曲くらい曲を完成させて、それを入れようってくらいの感じだったんです。ただオリジナル曲を作り始める中で、けっこう自分自身の中で気付きがあって。例えば自分は他者と比較をしてすごく葛藤するタイプなんだ、とか。歌詞の言葉がけっこう多くなりがちで、僕はメロディに言葉を詰め込むのが好きなんだ、とか。アルバムを作っていく中で自分を知ることができたのが、自分自身で収穫になったと思っています。
──アルバムタイトルの「文化」にはどういう由来があるんですか?
文化って普段は国とか、その地域ごとのものを表すときに使う言葉だと思うんです。でも実はもっとミクロな視点で考えたとき、例えば家族とか小学校とか、そういう小さなコミュニティの中にも文化があって、それぞれの人間の文化はそういう小さなコミュニティの中で形成されていく。僕は大人になって自分の文化と誰かの文化に違いがあって、そのことによってジレンマが生まれることもあるなって感じていて。今回アルバムを作るにあたって、僕は自分が当たり前だと思っていることをあえて歌詞にして書いてみたんです。もしかしたらほかの人には理解されない部分があるかもしれないけど、自分の中にある言葉を並べてみて、曲をまとめるときにふさわしくて、かつインパクトのある言葉を探したらそれが「文化」でした。
──すでに何曲かMVがYouTubeで公開されていますが、リスナーの反応はいかがですか?
皆さん僕が書いた歌詞をすごく考えてくれるのがうれしいですね。抽象的な言葉が多いから、解釈はいろいろあると思うんですけど、皆さんそれぞれが自分の中に落とし込んで何か感じてもらえたらそれでいい。それに「元気をもらえた」とかSNSで言ってくれる人もいて。曲を聴いて「がんばろう」って気持ちになってもらったりするのはもちろんうれしいですし、その人にとって何かを起こすキッカケになってくれたら、僕は一番うれしいんです。アルバムを作る前、僕はメロディを作るのが好きなんだって思い込んでて、歌詞はそんなに重要視してなかったんです。曲を書くときも曲先だったし。ただいろんな曲を作っていく中でだんだん歌詞が大事になってきて、曲と詞が一緒に出てくるようになってきた。アルバムを作る中で、曲の作り方まで変わってきて、僕自身すごく成長できた実感があるんです。
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等身大のひとつめ様を登場させたい
- Eve「文化」
- 2017年12月13日発売 / harapeco records
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初回限定盤 [CD+DVD]
2700円 / TEI-74 -
通常盤 [CD]
2160円 / TEI-75
- CD収録曲
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- fanfare(instrumental)
- ナンセンス文学
- ドラマツルギー
- ホームシック
- あの娘シークレット
- 会心劇
- ふりをした。
- 羊を数えて
- お気に召すまま
- paradigm(instrumental)
- 初回限定盤DVD収録内容
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- ナンセンス文学
- ドラマツルギー
- あの娘シークレット
- お気に召すまま
ライブ情報
- お茶会
- 2018年3月23日(金)東京都 新宿ReNY
- Eve(イヴ)
- シンガーソングライター、デザイナー。2009年10月にニコニコ動画に“歌ってみた”動画を投稿し、以降定期的に歌唱動画を公開している。2016年10月には初の全国流通盤「OFFICIAL NUMBER」をリリース。同年11月には自身がデザインを手がけたアイテムを販売するブランド「はらぺこ商店」を立ち上げた。2017年5月には作詞作曲を手がけたオリジナル曲「ナンセンス文学」を公開し、YouTubeで350万回以上(2017年11月現在)再生されるなど大きな話題を呼ぶ。同年12月、すべて自作曲で構成されたオリジナルアルバム「文化」を発表した。