Epifunnies 1stアルバム「non'non'」インタビュー|謎のバンドの本質に迫る (2/2)

音楽だけで戦いたい

──ここまでのお話からもわかるように、皆さんは「バンドは人間がやっているからこそ面白くなる」という感覚をとても大事にされていますよね。一方で、先ほどnireさんが話していた「音楽は景色を描くもの」という観点から考えると、「こういう人物が曲を作って演奏しています」という情報は邪魔になってしまうというジレンマがあるんじゃないかと。素性を明かさずに活動を始めたのは、人間らしさを排するためではなく、リスナーに余計な情報を与えず、純粋に音楽を楽しんでもらうためなのかなと、一連のお話を聞いて思いました。

nire 言っていただいた通りです。音楽性よりも見た目や雰囲気ばかりが先行するとか、「誰々がいいって言ったから一応チェックしておこう」みたいな風潮に違和感を持っていて。仰々しい言い方になりますけど、“時代へのアンチテーゼ”というか、「戦える武器=音楽だけで戦ってみようかな」という気持ちがあったのも、こういう活動の仕方を選んだ理由の1つです。

tato そのあたりは活動を始める前にみんなで話し合ったんですけど、Epifunniesというバンドの色をいったん無色にして、先入観なしで聴いてもらいたくて。

nire なので、4月に公開した「Strawberry Moon」の映像はほぼ楽器しか映してないんです。顔を出すこと自体に抵抗があるわけではないし、むしろ「謎の覆面ロックバンド」というふうに面白がられるのは、僕たち的には不本意で。

tato うん。そこは本質ではないからね。

生きづらい世界で喪失と希望を歌う

──「kit!」についても聞かせてください。おばあさまとの別れが制作のきっかけになったという話でしたが、昨年12月にEpifunniesが初めてリリースした楽曲でもあります。厭世的な感覚を抱きながらも、世界や自分自身にどこか期待しているような……対極のテンションを行き来している曲だと感じました。

nire おっしゃる通り、自分はかなり厭世主義で。だけど……「何かしなきゃマズい」という葛藤はあって。「そう思えるってことは、俺、もうちょっとやれるかも」みたいな感じで、「生きていいんだ」という希望が湧いてくるんですよね。

──Aメロで「遮光カーテン」と「世界の入り口」、「新調したスニーカー」と「捨てられ空気抜けた自転車」など対照的なモチーフが並べられていたのが印象的でした。

nire 一時期、明るいところで過ごすのがダメになっちゃって、遮光カーテンを閉めて真っ暗なところで暮らしていたんですけど、たまにカーテンの隙間から光が見えるんです。僕にはそれが、今自分が存在していない外の世界の入り口に見えた。ここから一歩外に出られるか……という覚悟が僕にとってはロックなんだと思ったときに、「この曲をアルバムの1曲目にしよう」と思ったんです。Bメロの歌詞にも自分の覚悟が表れているのかなと思っていて。

──そこを詳しく聞かせてください。

nire 火葬場で見た景色が正直きついと思うくらい強烈で。「煙突吐く白い息」という言葉は比喩でもなんでもなく、「これを歌わなきゃ」と思ったときに出てきた言葉だった。そのあと「壁に手を沿わせて歩いたら」という歌詞があるんですけど、壁は自分にとって人生のモチーフなので、このフレーズには「生きていこう」という覚悟が表れています。「気軽に死ぬなんて言えなくなってた」という言葉は、外の世界に出るための言葉だなと思いながら、スタジオでも自分の心の中で反芻しながら歌ってるんですけど……そのあとのサビ頭の歌詞もストレートに感じられるはずです。

──そうですね。「少し未来に期待して痛いだけ」という。

nire 歌詞は「もう今はこうとしか思えないっす」って感じ。これをちゃんと歌わなきゃという意地みたいなものがありました。

「“罪滅ぼし”のようなものです」

──「これをちゃんと歌わなきゃ」という感覚についてもう少し詳しく伺いたいです。nireさんにとって歌詞を書く行為とはどのようなものなのでしょうか?

nire “罪滅ぼし”のようなものです。「申し訳ない」と思ったことや、自分が見て「きれいだな」と思ったことを書いているんですけど、使命でもなければ、「誰かに届けて救ってやるぜ」みたいな感覚でもなく……。これまでの人生で自分が見つけた、そして音楽で描きたいと思った景色の美しさと、美しいものを「言葉にしてちゃんと残しておこう」と思っている自分に対する恥ずかしさがただそこにあるだけ。スタジオで歌っている最中も、懺悔じゃないですけど、すごく悲しい気持ちになります。だけど普通に1日過ごしていてそう思う瞬間ってないので、音楽をやっているときは自分の“本当の人生”を生きている感じがするというか。なあなあで生きている日常が嘘とは言いませんけど、2つの間の溝を埋めたり、時間を取り返したりするために曲を書いている気がしますね。

tato こう言われるのはあんまりうれしくないと思うんですけど、彼は、音楽以外はあんまり得意じゃないんですよ。

nire ははは。生きづらいなあとは確かに思う。

tato 僕も「生きづらいな」と思っているし、メンバーそれぞれ違う種類の生きづらさみたいなものを感じていると思うんです。でも奇跡的にうまいこと補い合えている瞬間がけっこうあるから、「生きづらさを抱えて生きるのも悪くないかもな」と思えている。

momo その感覚はわかるな。僕は人間的にも、演奏面でも、同じバンドにいたら嫌だろうなっていうタイプだと思うんですよ。一緒にやりづらいというか。

──えっ? そんなことないですよね?

tato まあ「やりやすい!」とは思わないですね(笑)。

nire ベーシストなのに、白玉(全音符か2分音符)で音とったことある?ってくらい、ベースラインがめっちゃ動くので。

YANYAN それで言ったら、俺のギターも歌いやすいってことはないんだろうな(笑)。

nire 本当に、「お前ら1回、真ん中に立って歌ってみろ」と思います(笑)。でもこの音像の中で歌えたときには「気持ちいい! 音楽だな!」という感覚になるし。歌いやすくはないけど、momoのベースもYANYANのギターも大好きです。

momo こんなふうに、このバンドはどうしようもない自分のことを肯定してくれる。自分にとってEpifunniesは、シェルターのような場所ですね。

YANYAN それにバンドって、曲をリリースすることで、メンバーだけのものではなくなっていく気がしていて。今すでに聴いてくれている人やこれからリスナーになってくれる人が、Epifunniesの楽曲を広めてくれたり、個人的に楽しんでくれたりする行為すらもバンド活動の一部だと思うので、いろいろな人に参加してもらいたいです。

nire 今回のアルバム、楽器陣がボコボコに殴り合っているけど、音自体はけっこう温かい雰囲気になったと思っています。耳を澄まして1つひとつを聴いてもらえたらうれしいです。あと、ぶっ壊れたラジカセを聴いてた頃の俺みたいなやつがいるなら……いや、いることは知っているから、このバンドの活動を通じてちゃんとその人たちのことを見つけたい。見つけたところで仲よくしたいわけではないし、寄り添うつもりもないんですけど、「俺らみたいなやつもいるから、勝手に自分を狭めないで」ということが伝わったらいいですね。

Epifunnies

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「今後の活動、どうしていく?」

──最後に、今後どのように活動していきたいと思っているのかを聞かせてください。

nire 今後の活動……どうしていく?

YANYAN 本当になんにも考えてないんですよね。

tato ライブはまだしていないけど、したくないというわけでもない。逆に言うと、自分たちの音楽を伝えるうえで邪魔になるなら、ライブをやらない選択肢もあると思う。

momo オファーをいただけたらライブをするかも。

YANYAN オファー、待っています。

nire 今、2ndアルバムを絶賛制作中で。自分たち自身が食らうような、つまり心に響くような曲ができ始めているので、まずはそのアルバムをしっかり完成させたいです。

tato うん。そこは大事。

nire それ以外に関しては、まあ、今度軽く飲みながら決めますか。

プロフィール

Epifunnies(エピファニーズ)

nire(Vo, G, Piano)、YANYAN(G)、momo(B)、tato(Dr)からなるロックバンド。素顔や詳細なプロフィールを公開していない。ブリットポップへのリスペクトを感じさせるサウンド、繊細な歌詞が特徴。2024年12月に始動すると同時にシングル「kit!」を配信リリースし、2025年4月に1stアルバム「non'non'」をアナログ盤および配信でリリースした。今後のライブ予定などは未定。