「1人でいいよ！」

──さて今回のミックスCDにはDJやついいちろう feat. tofubeats名義によるオリジナル曲「そりゃそうよ」が入ってますが、tofubeatsさんとのコラボはどういう経緯で実現したんですか？

曽我部（恵一）さんの「ロックンロール」のリミックスバージョンを聴いて、一緒にやりたいなと思ってお願いしたらOKだったんですよね。曲も自分用に作っていた曲をくれて、歌詞は書いてくださいって言われたんで自分で書きました。

──レコーディングは一緒に？

はい。すごい好青年っていう感じでしたね。レコーディングがすごい早くて。まあヒャダインさんやRAM RIDERさんとやったときも長くかかってないですけど。あんまりみんな僕に期待してないんですよ（笑）。

──そうですか？

粘ってすごいのが出る感じじゃないですもん。芸人が出すものなんて、最初が一番いいんですよ。だんだん飽きてきちゃうし。音楽的な能力もそんなに引き出したところでね、たいしたことないから（笑）。

──いやいや。仕上がった曲を聴いてみてどう感じました？

いやあ、よかったですよ。「そりゃそうよ」って感じで（笑）。思い描いた感じにはなりましたね。

──そして「PARTY」の初回限定盤には「おひとりさまフェスセット」っていうオリジナルグッズのセットが付いてます。これはどういった理由で作ることに？

よくイベントをやるんですけど、Twitterに「1人でも楽しめますか？」「1人で行ってもいいんですか？」「1人でも大丈夫でしょうか？」っていう質問ばっかり飛んでくるんですよ。だからそういう人たちに「1人でいいよ！ 楽しめるよ！」ってことをグッズでも表現したという。

──（笑）。

まずは1人で来た人同士がお互いのことをわかるように「おひとりさまバッジ」を用意して。お互いこれを見て「あっ」ってなるわけじゃないですか。でも、話しかけられないかもしれないでしょ？ だからこのパスケースに書かれている単語を指差して会話できるように、全部メッセージを書いたんですよ。「ONE？」とか「TOGETHER」とか（笑）。これだけで何1つしゃべらずにコミュニケーションが取れる優れものですよ。

──そんなしゃべらない人いますかね（笑）。

わかんない（笑）。まあ、あとtofubeatsくんと作った「そりゃそうよ」も、1人でも大丈夫っていうメッセージを込めてるんです。

虐げられる側の目線で作ってます（笑）

──今年の「YATSUI FESTIVAL!」は過去最大規模だと思うんですが、出演アーティストはどうやって決めてるんですか？

ミックスCDの入ってるアーティストさんたちと同様に身近なつながりが一番多くて。友達にイベントに出てもらうところから始まったイベントだし、そこは変わらないですね。曽我部さんとか、（西寺）郷太くんとか。お笑いに関してはもともと知ってる仲間ばかりで。すごく健全な感じだと思います（笑）。

──出演者のラインナップは、アーティスト、アイドル、芸人、文化人と本当に幅広いですよね。異なるカルチャーの橋渡し的な役割も担っているイベントなんじゃないかと。

そうなってたらいいですね。実際にNegiccoさんを郷太くんがプロデュースするきっかけは「やついフェス」だったらしくて。そういうきっかけが作れてよかったなあと思いました。去年、PERSONZに出てもらったんですけど、JILLさんがフェスきっかけで最近のバンドを聴くきっかけになったとか言ってて。あとレキシを観てファンになって、交流が生まれたり。世代が違うアーティストが競演する場所も多くないから、同じジャンルの中でも会ってない人たちが交流する場所になっているのは、自分としてもうれしいですね。

──「やついフェス」の今後の展望って考えてますか？

僕個人がいろいろ観たいっていう気持ちが強いんですよね。今は音楽、お笑い、文化人のトークみたいな感じだけど、マジックショーだったり、雑誌じゃないけど文章をフィーチャーしたり、あとはフードとか。場所の関係でフードは今は難しいかもしれないんだけど、やってみたいですね。

──今は渋谷が拠点になってますが、アイデア次第では別の場所で開催する可能性もありますか？

うーん……やっぱり渋谷が来やすいと思うんですよね。いくつか僕もサーキットイベントとか出演させてもらってるんですけど、1つひとつの会場の場所がわからないとか遠いっていう理由で足が遠のく人もいると思うんですよ。それを考えるとTSUTAYA O-EAST近辺って迷わないし、来やすいじゃないですか。そういう意味で最適なんです。でもできないことも多いし、これ以上規模を大きくすることはできないから、キャパ的に。だから悩みどころですよね。むしろいいところがあれば教えてほしいくらいです。

──ちなみにご自身としては「YATSUI FESTIVAL!」だけにしかないこだわりってどんなところだと思いますか？

お笑いに関して、見せ方も扱いも最高の状況にしたいっていう思いは強いですね。ライブの転換中のステージという見え方にはしないというか。音楽のライブと並列で観てもらいたいっていう気持ちでやってるんですけど、これがなかなか難しいんですよね。過去にお笑いだけに丸々時間を用意して、完璧にお笑いライブをやる形も試みたんですけど、お笑い好きな人は観に来るけどほかに広がっていかないんですよ。

──なるほど。

だからライブとお笑いを交互にやるようにして、司会に「ここからはお笑いコーナーだよ」って感じで場をしっかり作れば、お笑いを観たことのない人たちに観せることができるのかなって。転換中のステージっていう発想ではなくて、ひとつの表現として一番それがいいのかなと今は思いますね。1個1個がちゃんと素晴らしいものになるようにという意識はしてます。だから芸人には毎回イベントが終わったあとでやりづらくなかったかどうか聞きますね。

──ほかのイベントでの経験がやっぱり影響してますか？

そうですね……ライブの転換中にコントとかやることになって、サウンドチェックしてる中でステージに立ったり。だけど「やついフェス」の場合は、お笑いをやってるときは絶対音を出さないでくれってお願いしてます。だってコントやってるのに、ギターの音がビンビンしてたら笑えないじゃん（笑）。その扱い自体がもうコントみたいな感じなっちゃうし。DJをやってて音を絞らされることもあって、それだったらただのBGM係じゃんっていう。そういう扱いがイヤで。だいたい虐げられる側の人間なんでね（笑）。

──ははは（笑）。

だから虐げられる側の目線で作ってます（笑）。まあ絶対全部はできてないと思うんですけど、こういう発想で作っていって、みんなが気持ちよくパフォーマンスしてくれたら最高ですよね。

新しい出会いを探しに来て

──最後に読者にメッセージをいただけますか？

「やついフェス」は全部は観られないかもしれませんけど、なるべく観たことないものを観て楽しんでほしいですね。せっかく150組以上も出るわけですから。触れたことのないジャンルとか、なんか名前だけ知ってるっていうアーティストを観てみたり。新しい出会いを探しに来てほしい。ミックスCDもそういうところがあって。僕の年齢になるとみんなあまりフェスに行かなくなるし、若くて新しいアーティストも聴かなくなるし。そういう人に「わっ、このアーティストいいな」って思ってもらいたいんです。若い人にはミックスCDを聴いて、銀河鉄道とか人間椅子とか僕らが聴いてきたバンドに触れてもらいたくて。

──お話を聞いてるとやついさんってキュレーターみたいですよね。そういった役割を担っている意識はありますか？

あんまりないんですよね。さっきも言ったんですけどミックスCDにしても、フェスにしても友達にお気に入りの曲を入れたテープあげてる感じなんですよ。

──とおっしゃいますけど、フェスはかなり大きな規模に拡大してますよね。

そうなんですよね。でもあんまり自分としてはプレッシャーを感じたり、気負ったりはしてなくて。なんて言うかね、金の匂いのする人が全然寄ってこないからだと思うんですけど。

──ははははは（笑）。

もう陣営がずーっと変わってないんです。あと誰かにお墨付きをもらうんじゃなくて、自分たちが誰かにお墨付きを付ける側になるまでがんばろうっていうのがずっと思ってきたことで。何かで成功した人とか、なんか名前がある人を呼んできて、この人のお墨付きとか、この人も薦めてるとかっていうのをもらおうとは思ってない。というか好かれないんですよ、そういう人に（笑）。だから、これからも変わらないですよ。