ディズニープラス|みのオススメの音楽映画・音楽ドキュメンタリー作品5選

ディズニープラスは、ディズニーがグローバルで展開する公式動画配信サービス。名作映画はもちろんのこと、音楽映画や音楽ドキュメンタリーのラインナップも豊富で、The Beatles、Queen、エルトン・ジョンといったレジェンド、テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュら世界を席巻するアーティスト、BTS、NCT 127といったK-POPのスターたちが登場する作品を好きなときに楽しめる。

音楽ナタリーではディズニープラスが配信する上質な音楽映画、音楽ドキュメンタリー作品のラインナップの魅力を掘り下げるべく、音楽系動画クリエイター・みの(みのミュージック)にインタビュー。アメリカと日本にルーツを持つみのは、The Beatlesをきっかけに音楽にのめり込み、動画クリエイターのみならず、ミュージシャン、音楽評論家としても活動している。

本特集ではディズニープラスの配信作品の中から5作品をみのにピックアップしてもらい、それぞれのレビューや、みの目線での注目ポイントを話してもらった。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 須田卓馬

みのオススメ!ディズニープラスで配信中の5作品

  • 「QUEEN ROCK MONTREAL」
  • 「ザ・ビートルズ:Get Back」
  • 「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」
  • 「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」
  • 「BTS Monuments: Beyond The Star」

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Disney+(ディズニープラス)

音楽歴史オタクの道へと誘った音楽ドキュメンタリー

──みのさんは普段、音楽ドキュメンタリー作品は積極的に観るほうですか?

めちゃめちゃ観ます。YouTubeみたいなサービスでは曲単位で細切れに楽しむことが多いのに対して、ディズニープラスのようなサブスクの動画配信サービスは長尺でしっかり見せてくれますよね。音楽ドキュメンタリー作品をじっくりと腰を据えて観る場合は、ディズニープラスをはじめ、サブスクを利用することが多いです。

みの

──ではサブスク関係なしに、これまで観た中で特に印象に残っている音楽ドキュメンタリー作品は?

イギリスのBBCが1990年代に作っていた“ロックの歴史シリーズ”みたいな、VHS10巻セットが地元の図書館にありまして。僕はちょっと田舎に住んでいたので、自分が聴きたい音楽に即アクセスできる環境じゃなかったんですよ。そんな中で、そのドキュメンタリーを繰り返し観ることでアラカルト的にさまざまミュージシャンに触れられました。そのあたりの経験がもしかしたら、今の音楽歴史オタクの道に導く一旦を担っているかもしれないです。僕の音楽原体験を占めているものの1つが、音楽のドキュメンタリー作品ですね。

──音楽ドキュメンタリー作品やコンサートフィルム映画は数多く存在しますが、みのさんの思う「ドキュメンタリー作品にしかない魅力 / ならではの魅力」はどういったところでしょうか?

僕みたいな後追い世代にとってはストーリーの部分……過去の偉大な存在が現在のアーティストたちにどういった音楽的影響を与えたとか、当時の時代背景がどうやって音楽にダイナミズムを与えたとか、リアルタイムで体験していないと感じ取れない部分も多いと思うんです。あと、僕は今回BTSの作品を選出しているんですけど、BTSはリアルタイム世代だけど並走して彼らの活動を追ってきたわけではないので、「この人たちってどういうところから出てきたんだろう?」みたいな、そういう初歩的なことも含めて歴史を網羅できるところは魅力なのかな。ディスコグラフィを網羅したり、コンサートフィルム1本を観たりするのとは、理解の深まりがまったく異なりますよね。

──BTSもそうですが、ここ最近はアーティスト側も積極的に裏側を見せる時代になってきました。そういう裏側を知ってからコンサートフィルムなどを目にすると、以前とはまた違った視点で楽しめそうですね。

そうですね。そういう意味では僕、モノ作りの裏側とか作っている瞬間を見るのが好きなんですよ。結果としての成果物だけじゃなくて、そのクリエイティブのプロセスにも興味があって。どんな機材を使っているのか、現場でどういう会話をしているのか、リラックスしているのか緊張感があるのか、あるいは帰宅したらどういうふうに休むのかとか、そういう覗き見みたいなことができるのもドキュメンタリー作品の魅力なのかな。

──今回みのさんがセレクトした作品の中にも、そういう場面は多数含まれていますよね。

「ザ・ビートルズ:Get Back」なんて本当に覗き見の極致というか。当人たちはすでにあの当時、自分たちは歴史的な人物なんだっていう確信もありそうだし、あえてそういう部分も全部記録に残してやろうみたいな、そういう意思すらちょっと感じますよね。

みの

ディズニープラスは古きよきに留まらない新しい切り口を提供してくれる

──みのさんの目から見た、ディズニープラスで配信されている音楽ドキュメンタリー作品の魅力はどういったところにありますか?

僕は90年代のいわゆる“ディズニー・ルネッサンス”と呼ばれる時代に育ったので、ディズニープラスが始まったときは「幼少期に触れた作品をもう一度ちゃんと観られる」という喜びがあったんです。そんな中で特に僕の関心を引いたのが、ポール・マッカートニーとリック・ルービンが対談する「マッカートニー 3,2,1」というドキュメンタリー。確か「ザ・ビートルズ:Get Back」と前後して配信されたと思うんですけど、いわゆる過去のレガシーみたいなコンテンツだけじゃなくて、非常に骨太で新しい作品も提供してくれる。そういうプラットフォームを作っていくんだという気概がある人たちがやっていることが感じられたので、そこから積極的に観るようになりました。先の「ザ・ビートルズ:Get Back」や、Queenのライブフィルムもあれば、BTSやBLACKPINKみたいに最近のアーティストのドキュメンタリーもあって、Wikipediaやミュージックビデオを1つ観ただけではわからない、深い部分の解像度が上がっていく実感がかなり強い。そういう点は大きな魅力だと思っています。

──みのさんが今回選んだ5作品について、セレクトした基準などはありますか?

どれも通底して、しっかり音楽が楽しい作品ということ。たまにライブ映像をぶつ切りで見せる作品もあるじゃないですか。そういう作品も観ていて楽しいんですけど、基本的には曲は曲としてしっかり聴かせてほしくて。そうやって音楽が大事にされている作品が、今回選んだ5つです。

みの

みのオススメ作品その1
「QUEEN ROCK MONTREAL」

「QUEEN ROCK MONTREAL」© 2007 Queen Productions Ltd, under exclusive license to Eagle Rock Entertainment Ltd

「QUEEN ROCK MONTREAL」© 2007 Queen Productions Ltd, under exclusive license to Eagle Rock Entertainment Ltd

「QUEEN ROCK MONTREAL」

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──ここからは選出した5作品の解説や見どころ、特に好きな点を聞かせてください。まず1本目はQueenのコンサートフィルム「QUEEN ROCK MONTREAL」。1981年のライブを収録したものです。

ファンによってQueenの推しの時期っていろいろあると思うんですが、そんな中で映像として観られるものに関して言うと、僕はこれこそ一番いいライブだと思うんです。もうちょっとハードな路線が好きな人は1975年ぐらいがいいのかもしれないし、あるいは後期のヒット曲が聴きたいという人は1986年ぐらいがいいのかもしれない。だけどヒット曲のカタログ的にもだいぶそろってきて、なおかつ演奏の集中力も超高いっていうところでは、この作品に勝るものはないんじゃないかな。

──「The Game」(1980年)という、初の英米同時1位を記録したアルバムを携えたツアーの映像ですし、バンドの勢いやミュージシャンとしての充実度も一番いい時期を追体験できますね。

おっしゃる通りで、そのちょっと前の、フレディ・マーキュリーがまだロン毛だった頃は基本的には本国イギリスと日本が人気の中心で、大ヒットを経てバンドとして頭ひとつ抜けた絶頂期がこの映像の時期。しかも、レストアされたことで映像もすごく鮮明。これぐらいの年代の映像をハイファイな状態で再生したときににじみ出る、鮮明なんだけどふわっとした温かみもあるっていう質感がまたいいんですよね。

「QUEEN ROCK MONTREAL」場面写真 © 2007 Queen Productions Ltd, under exclusive license to Eagle Rock Entertainment Ltd

「QUEEN ROCK MONTREAL」場面写真 © 2007 Queen Productions Ltd, under exclusive license to Eagle Rock Entertainment Ltd

──この作品の中で、特に注目してほしいポイントはありますか?

繰り返し観てしまうのは「Let Me Entertain You」なんですよ。この曲でフルスロットルになっていくわけですが、「We'll sing to you in Japanese(日本語で歌うよ)」というフレーズも日本のファンとしてもうれしいじゃないですか。あと、オープニングの「We Will Rock You」を速く演奏するバージョンとか、「Dragon Attack」もいいですよね。そのへんのハードな曲を繰り返し観ちゃうかな。ロジャー・テイラーのドラムソロもカッコいいですし。

──今日はこの取材に合わせて、みのさん所有の「フレディ・マーキュリーが日本公演で使用したタンバリン」を持ってきていただきました。

これは1975年のQueenの初来日公演で、僕の母がゲットしたものなんです。当時のセットリストでタンバリンを使う曲を調べてみると、たぶん2曲ぐらいなんですね。で、おそらく「炎のロックンロール(Keep Yourself Alive)」で使ったんじゃないかなと思って、当時の国内盤シングルも入手して。いずれこの2つを一緒に額装したいなと思っているところです(笑)。

みの所有のQueen「炎のロックンロール(Keep Yourself Alive)」アナログ盤、フレディ・マーキュリーが日本公演で使用したタンバリン。

みの所有のQueen「炎のロックンロール(Keep Yourself Alive)」アナログ盤、フレディ・マーキュリーが日本公演で使用したタンバリン。

──伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」を通じてQueenに興味を持った人が、最初に観るコンサートフィルムとしても「QUEEN ROCK MONTREAL」は最適かもしれませんね。

そうですね。Queenのライブをしっかり楽しむという意味では、映像でのネクストステップはこの作品でいいんじゃないかと思います。

みのオススメ作品その2
「ザ・ビートルズ:Get Back」

「ザ・ビートルズ:Get Back」©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

「ザ・ビートルズ:Get Back」©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

「ザ・ビートルズ:Get Back」

ディズニープラスの「スター」で配信中

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──続いて、2本目は「ザ・ビートルズ:Get Back」。1969年1月の“ゲット・バック・セッション”と呼ばれる新曲制作の様子に密着した映像作品で、全3編でトータル約8時間と、1970年に劇場公開された別編集のドキュメンタリー映画「レット・イット・ビー」(ディズニープラスでは「ザ・ビートルズ: Let It Be」というタイトルで配信中)から大幅にスケールアップしています。

これは衝撃でしたよね。だって、これまで世に出たあらゆるThe Beatlesの公式映画を足したものよりも長尺な映像が出ちゃったわけですから、とんでもないですよ。天変地異レベルの特大コンテンツだと思います。この映像のあとの結末(解散)はみんな知っているわけですけど、詳細な情報が補足されることで「こんな事実、知ってしまっていいのだろうか?」と思ってしまう、ファンには手に汗握るような作品かもしれないです。

──最初にこの3編を観終えたときはどういう印象を持ちましたか?

僕は「言われているほど、そんなに仲悪くなかったんだ」みたいな、謎の安心感がありました。要所要所を切り取ったらオリジナル版のような、ちょっと暗くて終わりに向かっていくような作品にはなるんでしょうけど、意外と仲よさげに会話してる場面もあったりするから、一面的には捉えられないような状況だったんだろうなっていうのが伝わってきます。そして、そういう状況の中でも音楽的な実りは非常に大きかったんだなということに衝撃を受けて。あんな短期間にこれだけの名曲を生み出していたのかっていう、そこのヤバさですよね。ポール・マッカートニーがヘフナー社のベースをジャカジャカ弾きながら、「Get Back」を2、30分ぐらいで形にしていく場面がありますよね。“ロックの神を映像化した”みたいなシーンで、観ているだけで震えましたし、あらゆる面で「人として俺は絶対に勝てねえな」と自信喪失しました(笑)。

──わかります(笑)。

そんな歴史的な場面なのに、ほかのメンバーはあくびしながら演奏に加わっているわけじゃないですか。「今、目の前で生まれているその曲は、その後数十年と聴かれ続けることになるんだぞ」って、ジョージ・ハリスンやリンゴ・スターに語りかけたくなるくらいのリアリティを感じられます。

「ザ・ビートルズ:Get Back」場面写真 ©2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.

「ザ・ビートルズ:Get Back」場面写真 ©2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.

──そういう歴史レベルの名曲がどうやって生まれたのか、その過程を我々が目にする機会なんてゼロに近いわけですものね。

そうなんですよ。そこの種明かしはThe Beatlesに限らず、ほかの作品でもなかなか見られないと思うんですよ。そこを経て“ルーフトップ・コンサート”へと続いていくわけですけど、スタジオセッションではちょっと気の抜けた瞬間が多かったのに対して、“ルーフトップ・コンサート”では全員がマジになって集中している。職人が魂を込めたら一瞬ですごいものが生まれるっていう、そういう光景ですよね。かなり長尺な作品ではありますが、これはあらゆるロックファンにオススメしたいドキュメンタリー作品です。長尺なので、まずは「ザ・ビートルズ: Let It Be」から入るのもいいんじゃないかな。

みのオススメ作品その3
「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」

「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」© 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」© 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」

ディズニープラスの「スター」で配信中

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──3本目は「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」です。これは1969年にニューヨークのハーレムで開催された音楽フェスティバル「Harlem Cultural Festival」の模様を、当時の演者や観客など関係者の回想インタビューを交えながら紹介していく貴重な内容です。

これまでもアフリカン・アメリカンの方たちの音楽への貢献がたくさんあったことは、説明不要なくらい多くの人の知るところだったんですけど、最近は「いやいや、こういうのもあったじゃん!」みたいな見直しが起きています。その一端を担うのがこの作品なのかなと、僕は捉えています。

──1960年代末はアフリカン・アメリカンにとって、時代が大きく変わり始めた時期でもありますよね。それは音楽も同様で、ソウルミュージックやR&Bといったジャンルが新たなフェーズへ移行しつつあることがこの作品からも伺えます。

まったくおっしゃる通りだと思います。例えば1968年にキング牧師の暗殺が起こり、それを受けてジェームス・ブラウンがライブを通じて「暴動をするな」と呼びかけたり、「Say It Loud – I'm Black And I'm Proud」という曲を発表したのも同時期でした。で、同じ頃にスライ(Sly & The Family Stone)が「ウッドストック」(1969年開催の「Woodstock Music Art Festival」)に向けて台頭していくことになる。その流れを受けて開催された「Harlem Cultural Festival」は、アフリカン・アメリカンの中から盛り上げていくみたいな動きにおけるひとつの象徴とされるべきイベントだったと思うんですね。加えて音楽のメッセージの部分に関して、ソウル系ミュージシャンがよりそういった主張をするようになったのもこの頃。コミュニティ全体のアフリカ系のうねりとか動きみたいなのを感じられるという意味でも、シーンの過渡期的な魅力を味わえる内容なのかなと思います。

「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」場面写真 © 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」場面写真 © 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

──先ほどの「ザ・ビートルズ:Get Back」とはまた違った切り口で歴史を見せてくれるドキュメンタリー作品なのかなと。

しかも、そういう作品をクエストラブ(The Rootsのドラマー)が音頭を取って製作したというところにも意義を感じますし。この作品はとにかく、若き日のスティーヴィー・ワンダーの躍動感あふれるパフォーマンスと、スライの独特の存在感を放つステージに注目してもらいたいです。

みのオススメ作品その4
「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」

「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」© 2024 Disney and its related entities

「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」© 2024 Disney and its related entities

「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」

ディズニープラスの「スター」で独占配信中

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──4本目は「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」。オリヴィア・ロドリゴが1stアルバム「Sour」(2021年)の制作過程を振り返る、ロードムービー的テイストの映像作品です。

ちょっとレガシー系が続いたので、リアルタイムで触れている若きアーティストの作品もピックアップしてみました。オリヴィア・ロドリゴが登場したとき、自分と同じアジア系アメリカ人というバックグラウンドもあり、僕はすごく注目していて。ただ、音源は聴いていたものの、オリヴィアの人となりについてあまり詳しくなかったんです。そういう意味では、若いがゆえの感受性の豊かさがサウンドや歌詞に反映されている部分が本作を通して見えてきて、そのあたりが「Sour」という作品の理解にもつながっていく構成だと思いました。ただ、この作品が本当にすごいなと思ったのは、そういった作品のバックグラウンドの部分以上に、映像の美しさなんですよ。そこがほかの音楽映像作品と一線を画するところだし、もっと言えば映像だけでも勝負できる内容かなと。

──オリヴィアが「Sour」収録曲をいろんなロケーションで披露する、その映像に対する気合いの入れ方が尋常じゃないですよね。

めちゃくちゃ優秀なロケハンチームがいたんでしょうね(笑)。「drivers license」という楽曲を起点にロードムービーが展開されていくみたいな着想ですけど、映画「シャイニング」の冒頭みたいなアメリカの大自然を大々的にフィーチャーしていくという。その画の強さだけでも十分なのに、加えて音楽のよさにもしっかりスポットを当てている。かなり長尺で音楽を聴かせてくれる内容だったので……旬の素材だけで勝負する、めっちゃいい寿司屋みたいな作品ですよね(笑)。

──「Sour」というアルバムやその収録曲がどういう過程を経て完成させていったかも垣間見えますし、そこを通してオリヴィアのキャラクターも知ることができる。

ちょっと上品な感じがあって、大人しくて控えめ。でも、いざ歌い始めるとスター的なペルソナをちゃんと下ろしてみせるという、その二面性もしっかり見えて面白いですね。

「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」場面写真 © 2024 Disney and its related entities

「オリヴィア・ロドリゴ:ドライビング・ホーム・2・ユー」場面写真 © 2024 Disney and its related entities

──「Sour」収録曲で豪華なMVを複数制作して、それらをオリヴィアのモノローグでつなぐことで1本の豪華な映像作品に昇華していく、そんな節も感じられます。

確かに。めちゃめちゃお金がかかってそうですよね。でも、その若さで周りの人にこれだけ金を出させる説得力を持っているわけですから。飛行機の墓場みたいなところに行って「そこで演奏するんだ!」みたいなシーンとか、シチュエーションが1つひとつカッコいいんですよ。映像作品をあえて額縁に例えると、オリヴィアはそれだけいい額に入るだけの素材なんだなと思います。これだけの映像美で記録される価値があるんだなと。

みの

みのオススメ作品その5
「BTS Monuments: Beyond The Star」

「BTS Monuments: Beyond The Star」 © 2023 BIGHIT MUSIC & HYBE

「BTS Monuments: Beyond The Star」 © 2023 BIGHIT MUSIC & HYBE

「BTS Monuments: Beyond The Star」

ディズニープラスにて独占配信中

作品詳細&視聴はこちら

──最後は「BTS Monuments: Beyond The Star」。BTSの結成から10年間を振り返るドキュメンタリー作品で、コロナ禍以降の彼らの活動もフィーチャーされています。

自分がBTSに関して明るくなかったので、学ぶために選んだところが大きかったですね。そういう意味で接してみたら、いい意味で裏切られた部分がたくさんあって。例えば、ここまで作品のクリエイティブに自ら関与している人たちだということも、僕は知らなかったんですよ。加えて、パフォーマンスの部分もまったく手を抜かず、一流のエンタテイメントを提供しようと奮闘する人たちの群像劇みたいな、そういう連続ドラマ感もあって。特に僕みたいにBTSのことをふわっとしか知らないという人は、これを観ておけば入り口としてはまず間違いないと思いました。

──今や世界的スターとなった7人が随所でプライベートの様子も見せつつ、エンタテインメントにどれだけ本気で取り組んでいるかがしっかり伝わる。特にコロナ禍以降の流れを通じて浮き彫りになる、彼らの真摯な姿勢には心を動かされました。

そうですよね。特にこの作品の終盤に登場するラスベガスでの有観客ライブは、「ザ・ビートルズ:Get Back」における“ルーフトップ・コンサート”みたいに、ある種のカタルシスを感じる瞬間です。

──この作品を通じて最も意外だなと感じた場面は?

先ほどプライベートの様子を見せるという話がありましたけど、ステージ上ではばっちりメイクをキメた非常にショーアップされた存在の彼らが、オフステージでの素の表情をここまで見せるんだというところは意外でした。

──コロナ禍での巣篭もり生活の場面やそこでの食事シーンなどは、親近感が強かったですよね。

食事を出前してもらって、お酒を飲みながらビデオゲームで遊ぶみたいな(笑)。完全に僕らと一緒で安心しました。

「BTS Monuments: Beyond The Star」場面写真 © 2023 BIGHIT MUSIC & HYBE

「BTS Monuments: Beyond The Star」場面写真 © 2023 BIGHIT MUSIC & HYBE

──それと、本作を通じてARMY(BTSファンの呼称)の存在の大きさも実感させられます。

そういう意味では、“推し文化”の文脈みたいなところに注目して観てみると、また違った面白みのある作品だと思います。きょうびの推し文化って非常に東アジア的だと僕は思っていたんですけど、それが欧米市場にスッと浸透していく景色はけっこう不思議に映って。そこが翻訳可能だったってことが、僕の中では驚きでした。だって、スタジアムの客席でみんな球体のペンライトを振っているわけですから。

──特に印象に残ったシーンはありますか?

プールがある家で合宿をしているとき、半分遊んでいるような状況下で「この言葉は歌詞にハマる / ハマらない」というやりとりがあるんですけど、そこは彼らの創作に対する姿勢が一番見えた部分かな。そういう熱量は作品にも反映されると思うので、僕はものすごくリアルでいいなと思うんです。とにかく、この作品を通じていろんな収穫がありましたし、同時にK-POPをしっかりと追っていきたいと思いました。5月に出たRMさんの2ndソロアルバム「Right Place, Wrong Person」もチェックしたいなと思いましたし、興味がより広がった気がします。

──今回ピックアップしていただいた5作品以外にも、ディズニープラスではさまざまな音楽ドキュメンタリー作品が配信されています。今後チェックしてみようと思っている作品は何かありますか?

BTS以外にもK-POPアーティストの作品が配信されているので、そのへんはいずれ観てみたいですね。あとはテイラー・スウィフトのコンサートフィルム(「Taylor Swift | The Eras Tour (Taylor's Version)」)も気になっていますし、「ファンタジア」のようなディズニーの素晴らしい音楽作品も豊富なので、いろいろチェックしてみたいと思います。

みの

プロフィール

みの

自身の敬愛するカルチャー紹介を軸にしたYouTubeチャンネル「みのミュージック」を運営中。チャンネル登録者数は現在、45万人を突破している。Apple Musicのラジオプログラム「Tokyo Highway Radio」でホストMCを務めているほか、ロックバンド・ミノタウロスでは1月に約2年ぶりとなるEP「評論家が作る音楽」をリリース。また2021年5月発表の書籍「戦いの音楽史」は度重なる重版でロングセラー本に。2024年3月には著書「にほんのうた 音曲と楽器と芸能にまつわる邦楽通史」を上梓した。