DEVIL NO ID|“MV監督”市原隼人から見たDevillmaticな3人

「サバイバー」で再び原点に

──「サバイバー」を聴いたときの印象は?

衝撃的でした。「上田さんはまたすごい曲を作ってきたな!」って。それぐらいすごい曲を聴いて、どういうビデオにしようかかなり考えました。それで、彼女たちが常に戦い続けた結果として今があって、「サバイバー」という曲もまだまだ通過点で、さらに上を目指すために彼女たちはもう一度原点に返らないといけないんじゃないかという結論に自分の中で行き着いたんです。そこで3人には“DEVIL”らしく悪魔の格好をしてもらって、ストーリー仕立ての作品にすることにしました。

──ビデオの撮影場所に選ばれたのは台湾でした。

「サバイバー」ミュージックビデオ撮影時の様子。(Photo by Sugiyama Hajime)

台湾は古い文化を今も多く残している街で、世界中からたくさんの人が集まって来ながらも古くからの形を変えないというところに魅力を感じたんです。なので、撮影場所も台湾らしいところというよりも廃墟が多くて(笑)。「なんで台湾まで行ったんだ」って言われるかもしれないけど、あんな廃墟は日本にはないですから。廃墟には人々の生活とかカルチャーの匂いがわずかに残っていて、それと同時に哀愁が漂っているところがすごく好きで。何もないように見える空間だけど、そこには物語があるんです。

──ということは、撮影の直前にロケハンをやったんですか?

そうです。「もう寝なくていいですから、いろんなところに連れて行ってください!」ってお願いしました(笑)。

──DEVIL NO ID側からリクエストは?

前回撮らせてもらった「BEAUTIFUL BEAST」もそうでしたけど、いつも僕のアイデアを尊重してくれるので、その分しっかりしたものを作らなきゃと気合いが入りました。

──「サバイバー」はホラー要素の強い作品になりました。

そうなんです。パンチがあるものにしようと思って。最初はかわいい悪魔のパーティみたいなアイデアも浮かんだんですが、自分は映画出身だし、今回はどこかに映画の香りを残したいなと思って。あと、彼女たちの持ち味はダンスなので、それはしっかり収めようと意識しました。

──ダンスシーンは、カメラを固定させてキレイに収めるのではなく、手持ちのカメラを使うことであえて手ブレを生かしているのが印象的でした。

そうなんです。「どうやって撮ろうかなあ」って考えた結果、迫力と疾走感あふれる映像を撮りたかったので自分で機材を「買っちゃえ!」って(笑)。それを使って撮影しました。

──ああいう撮り方はダンスシーンだと珍しいですよね。

普通は固定カメラで撮るのですが、それだと味がなくなってしまうのでもっと感情の部分を突いていきたいなと思ったんです。手持ちだと作り手の気持ちがより乗っかっていくんです。そういう思いも全部自分たちのものにしてくれる魅力がDEVIL NO IDにはあるので、「3人を信じてみよう」と賭けに出たところもあります。

──確かに3人のダイナミックな部分がより引き出されているように感じました。

彼女たちは今、この瞬間を生きてますから、「BEAUTIFUL BEAST」の頃とはまた違う人間になってました。彼女たちはスポンジみたいにいろんなものを吸収できる人たちなんです。

市原隼人

大切な時期の3人と出会えてうれしい

──3人はどういうキャラクターなんですか?

まず、hanaちゃんはグループの中で一番自分の世界を持ってるかもしれない。彼女の周りだけ時間がゆっくり流れているかのような、自分だけが理解している時間を過ごしている人。あと、彼女が起こす風はすごく柔らかくて、みんなを引き込む力がある。僕はそういう彼女の柔らかさが好きですね。

──mionさんはどうでしょう?

1つひとつの現場やダンスに対して感情が一番出やすいタイプだと思います。あとは負けず嫌いだし、人の気持ちに対して敏感ですね。その結果として、さっきお話したようにいろんなものを吸収することができるんだと思います。

──リーダーのkarinさんは?

DEVIL NO IDのリーダーとしてグループのことを一番俯瞰で見ていますね。すごく優しいお姉ちゃん的なところがありつつ、アーティスト気質も強い。そんな彼女の背中をhanaちゃんとmionちゃんはしっかり見ているんだと思います。奇跡のような3人ですね。これで1人でも違うキャラクターだったらぶつかり合ってしまうと思います。

──見事な正三角形を描いているわけですね。ところで、撮影現場では3人に演技指導をしたそうで。

いやいやいや! そんな大したものではないです。

──でも市原さんの役者としての経験が生きている部分は大いにあるんじゃないですか?

市原隼人

なんでも楽しんでやってほしいんです。でも、楽しむためには本気で泣かないといけないし、本気で悔しがらないといけないし、本気で笑えないといけない。僕はそのための空間を提供することしかできないので、彼女たちはすごくがんばってくれたと思います。

──3人とも鬼気迫る演技を見せていますね。

彼女たちは音楽もすごいんですけど、演技もすごい。彼女たちは今がすごくいい時期なんです。いろんなことを吸収して、すべてに対して真っ直ぐに向き合える。小さい頃ってなんでもキレイに輝いて見えるじゃないですか、でも、大人になっていくにつれて物事を色眼鏡で見るようになったり、何かの枠にはめようとする自分が出てくると思うんです。だけど今の3人はそれぞれの個性が前に出てきていて、それを隠すことなく「これが自分たちのやりたいことなんだ!」って自然と主張できている。そんな大切な時期の彼女たちと出会えてすごくうれしいです。

──「こうしたらもっとよくなるよ」みたいなアドバイスぐらいはしたんじゃないですか?

いやいや! ないです!(笑) それはあくまでも3人からあふれ出るものだし、誰かから押し付けられたことをやるような人たちじゃないし、自分たちの内側から湧き出るものを待つことしか僕にはできないんです。