“天神ネオシティポップ”を掲げる福岡発の4ピースバンド・Deep Sea Diving ClubがTOY'S FACTORYよりメジャーデビューを果たした。
2019年に谷颯太(G, Vo)、出原昌平(Dr, Cho)、鳥飼悟志(B, Cho)、大井隆寛(G, Cho)によって結成されたDeep Sea Diving Club。ルーツもさまざまな4人の持ち味がほどよく混ざり合ったジャンルレスなサウンドが話題を呼び、昨年3月発表の1stフルアルバム「Let's Go! DSDC!」が「第15回CDショップ大賞2023」の入賞作品に選出されるなど、Deep Sea Diving Clubの名はバンドシーンにおいてじわじわと存在感を強めている。そんな彼らが満を持して送り出すメジャーデビュー作が、7曲入りEP「Mix Wave」だ。
このバンドの魅力を紐解くべく、音楽ナタリーでは福岡在住の谷、鳥飼、大井にリモートインタビューを実施。各メンバーが作詞作曲に携わったメジャーデビュー作「Mix Wave」の聴きどころはもちろん、互いの作家性についても語り合ってもらった。特集の最後には、取材に参加できなかった出原による約2000字のコメントを掲載する。
取材・文 / 天野史彬
ぶつかっても、みんなが前を向いている
──本日は残念ながら出原さんが欠席ということですが、谷さん、鳥飼さん、大井さんの3人に、このたびリリースされるメジャーデビューEP「Mix Wave」についてお話を伺えればと思います。まず、2019年に結成されてから現在までの3年半は皆さんにとってどのような期間でしたか?
谷颯太(G, Vo) 僕はDeep Sea Diving Clubを結成する前にもオリジナルバンドをいくつか経験していて。今までのバンドは衝突があったりして、あまりうまくいかなかったんですよね。もちろん、このバンドもメンバー同士でぶつかることはたくさんあるんですけど、大前提として、みんなが前を向いている。メンバー全員が高いレベルで音楽のことを考えているバンドだと思うんです。それに、昔では考えられないような大きなステージにいろんな人に連れてきてもらって、そういう舞台に見合うように、みんなで技術力を高めることができている。一緒にやっていて楽しいと思えるメンバーとバンドを組めてよかったです。
鳥飼悟志(B, Cho) 去年、「Let's Go! DSDC!」というアルバムを出したタイミングくらいから(参照:福岡発の4人組バンド・Deep Sea Diving Club、1stフルアルバム発売決定)、ベースという枠にとらわれずに、もっと広い視野でやっていかなければいけないなと思い始めたんです。アルバムでは自分の能力的な壁を痛感したんですけど、2022年は技術面のレベルアップに努めてきたし、今回のEPにもそういう成長が反映されたんじゃないかとも思います。
大井隆寛(G, Cho) 僕はオリジナルバンドを組むこと自体、Deep Sea Diving Clubが初めてだし、自分が携わった音楽を世に出すことも、このバンドが初めてのことで。バンドを組む前は音楽活動って苦労しながら泥臭くやっていくイメージがあったんですけど、3人に今までの経験を教えてもらったり、助けてもらったりしながら、想像していた以上にスムーズに音楽を出すことができていると思うんです。前は、オリジナル曲を出すこともハードルが高いような気がして、その気になれなかったんですけど、この3年半で、音楽を世に出すことに対してどんどん前向きな気持ちになれたなと思います。あとはプレイヤーとしても、このバンドをやってきたことで周りのミュージシャンがサポートメンバーとして誘ってくれることも増えて、そういう場に対応できる能力も、このバンドで培ってきたものなんだろうなと思います。
──Deep Sea Diving Clubは今、バンドとして、野心や目標などはあるんですか?
谷 バンド全員で共有している目標とかはないんですよね。ただ、俺は個人的に「夏フェスに出たい」とか「大きい会場で野外ライブをやりたい」という目標があります。具体的には、日比谷野外音楽堂でやりたい。
鳥飼 話し合いの場を設けているわけではないけど、上昇志向はみんな持っているんじゃないかな。「よりでかいステージに立ちたい」という部分で、意志の違いを感じたことはないです。
谷 そうだね。出原は「武道館でやりたい」とよく言うんですけど、俺は野音(笑)。そういう違いはあるけど、それぞれみんな、上を見ているという部分は一緒ですね。
──野外のライブというのは、谷さんにとって原体験として大きなものがあるのでしょうか?
谷 そうですね。例えば、福岡には今年復活する「Sunset Live」というイベントがあって。もともとはカフェの駐車場を使って開催していたイベントなんですけど、どんどん規模が大きくなって、今は野外イベントになっているんです。そういうイベントに行っていた体験は大きいと思います。ほかにも「CIRCLE」というフェスとか、地元の野外ライブが忘れられないんですよね。
同じキラキラでも
──Deep Sea Diving Clubはメンバー全員が曲を書くバンドで、新作「Mix Wave」にも、4人それぞれが作詞、作曲者としてクレジットされている曲が収められています。お互いの作家としての魅力や特色についてどのように感じられているのか伺えればと思うのですが、まず、鳥飼さんの作られる曲に関して、谷さんと大井さんはどんなことを感じていますか?
「Mix Wave」収録曲
- bubbles
[作詞・作曲・編曲:鳥飼悟志] - フーリッシュサマー
[作詞・作曲:鳥飼悟志 / 編曲:岩田雅之、Deep Sea Diving Club] - Left Alone feat. 土岐麻子
[作詞:谷颯太、土岐麻子 / 作曲:大井隆寛、土岐麻子 / 編曲:Hisashi Nawata、Deep Sea Diving Club] - リユニオン
[作詞: 谷颯太 / 作曲・編曲:大井隆寛] - Miragesong
[作詞:谷颯太 / 作曲・編曲:出原昌平] - goodenough.
[作詞:谷颯太、出原昌平 / 作曲・編曲:出原昌平] - ゴースト
[作詞・作曲:谷颯太 / 編曲:出原昌平]
谷 「鳥飼さんの曲は歌詞がロマンチックだね」って、チームのみんなでよく話すんですよね。きれいな言葉を上手に並べるなと思うし、それゆえに感じる底抜けの明るさがあるなと。鳥飼さんが選ぶ言葉のキラキラ感って、波打ち際の砂浜で何かが光っているみたいなイメージがあるんですよ。音に関して言えば、鳥飼さんはユーロビートやテクノポップ、UKガラージとかがすごく好きなイメージがあって、シンセの音像から、そういう音楽からの影響を感じることが多いです。
大井 鳥飼さんの曲は「意外」と言ったら失礼かもしれないけど、曲調や歌詞、雰囲気とかも含めて、すごくまっすぐな曲が多いなと思うんですよね。突き刺すような曲というか……心に直に訴えてくるような曲が多いなと思う。聴いた瞬間に一発で刺さってくる。今回の「bubbles」の歌詞の「君に出会えてよかった いつまでも煌めいて!」という部分なんかもバシッと入ってくる。
──ご自身としてはどうですか。
鳥飼 そうですね……(笑)。僕が普段読んでいる作家さんは、ロマンチックでキラキラしていてダイレクトな表現を選ぶ人が多くて。そういう人たちからの影響がもろに出ているのかな。
──どんな作家さんがお好きなんですか?
鳥飼 吉本ばななさんがめっちゃ好きで、ずっと読んでいます。
谷 好きよねえ。鳥飼さん家に行ったら、絶対に吉本ばななさんの本がテーブルに置いてある。
──では、大井さんの作る曲に関しては、谷さんと鳥飼さんから見るとどうですか?
谷 大井ちゃんの作る曲には、鳥飼さんのキラキラとは別ものというか……闇を1回も経過していないキラキラを感じるんですよね。大井ちゃんの作る曲を聴くと、いつも「この人は性格がよくて明るい人なんだろうな」と思う(笑)。あと、ボーカルの位置が楽器っぽいなと思いながら歌っていますね。きっと、普段からボーカルの声も楽器として聴いている人なんだろうなと思います。
鳥飼 僕からすると、大井ちゃんは「こういう曲を作る人だ」と形容しがたいんですよね。大井ちゃん節と言えるような作曲スタイルはあるんですけど、今まで大井ちゃんが作ってきた曲はどれも色が違うので、かなり引き出しの多い男だなと思います。そのうえで、ここ最近はどんどんポップネスに磨きがかかっているので、彼なりにポップを突き詰めていっているんだなと刺激を受けます。
大井 颯太くんが言った「歌が楽器の位置にいる」というのは、意識してやっていることではないんですけど、自分でもそう思います。僕はボーカルをやったことがないので、メロディを作るときも、全体で鳴っていて気持ちいい音を選ぶようになっているのかなと。あと、鳥飼さんが言った「ポップを突き詰める」という点は、今回のEPの「リユニオン」がまさにそうですね。
ポップに対する解像度が上がった
──続いて、谷さんの作る曲に関してはどうですか?
大井 最初に彼が組んでいた、冴えないブルーというユニットを知ったときから、叙情的な曲が多いなと思っていました。鳥飼さんとは違う意味で、聴いた瞬間に刺さるメロディや言葉選びが多いですね。
鳥飼 颯太くんは、まずサウンド面で言うと、メンバーの中で一番歌が中心に置いてあって、シンガーソングライター的な作曲スタイルだなと思います。そこは前から一貫しているんですけど、作詞に関しては、どんどん変化している気がするんですよね。もともと、たくさん言葉を知っているし、前はそれを生かした散文チックなスタイルが多かったんです。1つひとつの文につながりはないんだけど、総体として意味が通じてくる、みたいな。でも「Left Alone feat. 土岐麻子」くらいから文と文のつながりが絶妙な塩梅で出てきているなと思っていて(参照:Deep Sea Diving Club「Left Alone feat. 土岐麻子」インタビュー|常に新しいことに挑戦したい4人が土岐麻子と奏でる最新型シティポップ)、今回の「ゴースト」では、それがかなり高い精度で出ているんじゃないかと思います。
──そうした変化は、谷さんご自身は意識されているんですか?
谷 そうですね……昔は全然面白くない曲を作っていたんですよ。
鳥飼 (笑)。
谷 中学生くらいの頃ですけどね。当時は4つくらいのコードで曲を作って、そこにソツのない歌詞を乗せていたんです。それからだんだんとギミックにハマるようになって、鳥飼さんが言ってくれたような、散文的なものになっていったんですよね。思ったことをメモに書いて、あとからバーッとつなげる。その頃の歌詞は人に「日記みたい」と表現してもらったこともありました。聴いている人に“空白”を受け取ってもらおうとしていたんですよね。でも、途中から「それって、あんまりよくないよな」と思い始めた。端的に言うと、ポップではない。
──なるほど。
谷 うちのバンドで明確にポップを目指すようになり始めた時期……「Left Alone」を作った頃から意識が変わり始めたんです。ずっと聴いていたBUMP OF CHICKENのような、話し口調の歌詞を書くように意識し始めて。昔も書いていたことはあったんですけど、「今だったら、もっと上手に話を紡げるんじゃないか」と。その意識のもとに書いたのが、「Left Alone」と「Miragesong」。そこから「ゴースト」は、自分がやってきたことの集大成のような歌詞になったと思います。この曲は、散文的な部分もあり、物語的な部分もあるという歌詞を目指したんですよね。空白もありつつ、物語がある、自分っぽいスタイルがバンドのおかげで作れているんじゃないかと思います。
──「Left Alone」の制作時期はバンドにとってターニングポイントとなった。
谷 そうですね。東京で録った3部作「フーリッシュサマー」「Left Alone」「Miragesong」の3曲は、曲を経るにつれてよりポップへの気持ちが高まっていったというか、作っていく中でポップに対してのメンバー全員の解像度が上がっていった感じがするんですよね。
鳥飼 僕は、去年1年間で「ポップにもいろんな種類があるんだな」と思ったんですけど、だからこそ、それを突き詰めていくのはすごく楽しいことだなと気付きましたね。ポップって、多くの人の心を動かせるジャンルだと思うんです。それが音楽の価値として、すごく重要だと感じています。
──大井さんは“ポップ”という言葉に関してはどう捉えていますか?
大井 僕は、独りよがりじゃないことがポップなのかなと思っていて。ポップの中にも自分のためだけに書いた曲とか、身内に向けて書いた曲もあると思うんですけど、僕としてはそうじゃなくて、みんなに聴いてもらって幸せな気持ちになってもらえるような曲がポップなのかなと思ったりしますね。
──この取材には不参加ですが、出原さんが作られる曲に関しては皆さん、どのような印象がありますか?
谷 出原はめっちゃ器用なんですよね。バンドの中で一番の頭脳派というか、司令塔みたいなやつなんです。全体のバランスをとることもうまいんですけど、同時に、意外とワイルドな一面もあって、野性的、本能的でもある。特に最近はそういう部分がどんどん出てきているので、バンドに新しいスタイルが生まれていく予感がして面白いなと思います。
大井 出原さんは、見ていていつも「トリッキーだな」と思うんですけど、そういう部分は、昔から好きだった音楽の影響も出ているんだろうなと。例えば「Happy Feet」(1stフルアルバム「Let's Go! DSDC!」の収録曲)とか、今回のEPに入っている「goodenough.」のような曲は、ルーサー・ヴァンドロスを好きだった頃の感覚がサウンドに生かされているんだろなと思うし。
鳥飼 出原は、作ろうと思えば整った曲も作れるやつなんですけど、技巧の道も通ってきているし、その振れ幅が彼の魅力だなと思います。基本は「きれいに作ろう」と意識して作っていると思うんですけど、たまにふざけるというか、枠をはみ出しにくるときがある。僕個人としては、はみ出したものを作っている出原のほうが輝いていると思うんですよね。なので、「どんどん来いよ」って感じですね(笑)。
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