他者を肯定するリリックが増えた
──菅田さんとはTHE HIGH-LOWSの「日曜日よりの使者」のカバーでもコラボしていますね。
DJ 松永 これは2018年の「VIVA LA ROCK」でのパフォーマンスがきっかけですね。亀田誠治さん、ピエール中野(凛として時雨)さん、加藤隆志(東京スカパラダイスオーケストラ)さん、津野米咲(赤い公園)さんのバンド隊とクリーピーのコラボで「日曜日よりの使者」をカバーする機会があったんですが、それがめちゃくちゃよくて。それで今回、菅田くんと一緒に歌おうって、けっこうノリで決まっていった部分はありますね。
──「サントラ」の「首吊り台から」というリリックは、THE BLUE HEARTSの「首つり台から」のタイトルに由来していますよね。そこからの連想でもありますが、個人的にはクリーピーはブルハ的な存在になりつつあるのかなって。ブルハの音楽はリスナーの自己肯定を促すような側面があったと思うんだけど、同じような感触をクリーピーの音楽から感じる人は少なくないように思えます。しかも今回のアルバムに通底するテーマは“肯定”であり、今までのようにちょっとひねくれた形の肯定ではなく、明確に他者を肯定する音楽になってると感じました。
DJ 松永 特に「かつて天才だった俺たちへ」はそうだよね。
R-指定 今までは自分たちを肯定してたけど、今回は視点が外に向いたと思いますね。だから他者がリリックに出てくることも多くなったし、隣りとか周りにいる人に向けた歌詞が増えたように感じる。でも意識的にというより、自然にそうなっていって。
DJ 松永 「オトナ」もそうでしょ?
R-指定 まさに。「brother&sister 俺達はただ」って言葉も、俺と松永だけじゃない、もっと広い意味での“俺たち”なんですよね。
DJ 松永 テークエム(梅田サイファー)も入ってるでしょ?
R-指定 入ってる入ってる(笑)。テークはめっちゃ意識した。ADHDとかアスペルガーって言われるような人たちの歌なんで。
Rは生き物の中で一番すごい
──歌詞に「リュックの底からいつかのフライヤー」と出てくるけど、「ADHDの人のバッグにはクシャッとなった紙が必ず入ってる」というツイートがいっときバズってて、それを思い出しました。そして俺もクシャッとなった紙が入ってるタイプ。
R-指定 ははは! ありますよね!
DJ 松永 信じられない。
R-指定 バッグから旅行用の歯ブラシが3つぐらい出てくるからね。
DJ 松永 うわー考えられない。昔使ってたRの財布は、名刺とか領収書とかパンパンに詰めすぎて、球体になってたもんね(笑)。今の財布もそうなりつつある。
──「催促、契約更新、oh shit!生活生活生活!」という歌詞は染みましたね。
DJ 松永 でも高木さんはライターで生活できてるんだから、締め切りを守る人じゃないですか。ADHDの星ですよ!
──褒められた気がしないし、「おまえは人の顔色見ずに思った事をすぐに言う」というリリックのままの発言ありがとう(笑)。Rくんも自分のことを「俺は時間に遅れる」と歌詞で言っていて、遅刻を責められる前に先手を打ってる(笑)。
R-指定 俺はみんなで厳しく監視して襟を正し合うより、お互いがハードルを下げて、許し合う世の中のほうがいいなと思うんですよ。だから俺の考えだと、地球に戦争は起こらない(笑)。ただ戦争にはならないけど、文化は衰退して、ゆっくり破滅に向かって行って、全員が野垂れ死ぬ。即死はしないけど、ゆっくーり緩慢に死んでいく。
──……めちゃくちゃ壮大な話にしてるけど、遅刻しなきゃいいだけ(笑)。「ヘルレイザー」は曲と曲の間にトークが入る「かつて天才だった俺たちへ」のラジオ盤の中でも語られている通り、ライブに仮託した曲ですね。
DJ 松永 もともとトラックの仮タイトルが「ヘルレイザー」だったんですよ。
R-指定 放蕩者とかやんちゃみたいな意味で、映画の「ヘルレイザー」も好きやったし、それええやんって。映画の「ヘルレイザー」には封印を解くと究極の快楽を得られる箱が出てくるんですけど、今封印されてる箱ってやっぱりクラブやライブハウスですよね。だからその箱を開いて究極の快楽を得たいよな、つまりライブしたいなって。
──しかしこのリリックは下品ですね。
DJ 松永 超下品! 嫌だわー(笑)。
──「出会って4秒でまぐわう」とか、エロビデオの観すぎですよ。
R-指定 でも、こんだけライブやってなくて、お互い自粛してたら、ひさびさにライブが直接生でできるようになったら“1カ月禁欲企画”みたいな話になると思うんですよ。
──それもエロビデオの企画ですよね(笑)。
DJ 松永 それよりエロビデオっていう人もひさびさに会いましたよ(笑)。今はエロ動画でしょ。
R-指定 それは若作りしすぎちゃう? エロ本自販機とかあったやろ。
DJ 松永 それはもう言い伝えの、いにしえの遺物(笑)。
──話がそれてしまいましたが、6月には無観客配信ライブ「Creepy Nuts Online One Man Live Vol.1」がありました。感触はどうでしたか?
DJ 松永 やっぱり全然違いますね。もちろんコメントの反応はうれしいんですが、物理的に同じ空間を共有してる生の反応には勝てないし。ただ、配信には配信のよさがあると思うし、配信だからこそ俺らのライブが観れる人もいたと思うんで、そこは用途によって分けて考えていきたいですね。ただ今回のアルバムのRのフロウはみんな違うから、それをライブでも見せたいなって。
──これだけ幅があると、ライブでの再現性も気になりますね。
DJ 松永 できますから、うちのR-指定は。「みんなちがって、みんないい。」をライブでできると思いました? Rは天才なんで。
R-指定 ……あんまメンバーが両手放しで褒めへんよ。しかも隣におるのに(笑)。
DJ 松永 最近、R-指定って生き物の中で一番すごいんじゃないかって思ってるから。
R-指定 どういうことやねん(笑)。
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リタイア組が「大学に行きなよ!」なんて言えない