ジャズシーンを中心にそれぞれ活躍中の腕利きメンバーたちが集まったポップバンド・CRCK/LCKS。変拍子やポリリズムを多用しつつも難解さを感じさせないキャッチーな楽曲を、極めてスキルフルな演奏で聴かせる彼らが、2枚目のミニアルバム「Lighter」をリリースした。
フロントマンである小田朋美(Vo, Key)は東京藝術大学作曲科出身のピアニスト / シンガーソングライターで、DC/PRGのメンバーやceroのサポートメンバーとしてもその名が知られている。この特集ではその小田と、CRCK/LCKSのリーダーである小西遼(Sax, Vocoder, Key, etc)、小田がサポートを務めるceroの荒内佑による座談会を実施。2バンドの魅力について互いに語り合ってもらった。
取材・文 / 柳樂光隆 撮影 / moco.(kilioffice)
シンセもできて、コーラスもできて、リズム感がある人
──まず小田朋美さんがceroのサポートをするようになったきっかけから聞かせてください。
荒内佑 サポートメンバーの編成を変えて管楽器をキーボードに置き換えたいって話になって、シンセもできて、女性でコーラスもできて、リズムに強い人の名前を挙げていくことになったんです。でも、そのときに候補が小田さんしか出てこなくて。
小田朋美 もともと編成を変えようっていう話があったんだ?
荒内 そうだね。
小西遼 オダトモがceroに入ったのはけっこうビックリだった。同じくceroのサポートをしてる古川麦さんとのつながりはあったけど、僕らはもともとロックバンド界隈とはつながりが強くなかったもんね。
荒内 DC/PRGでシンセを弾いていて、ソロで歌も歌っているから、ceroでもイケるのでは……って思ったんです。
小西 オダトモが参加しているceroのライブを観て納得しましたけどね。ピッタリだって。オダトモを飲み込めるceroの音楽性の広さがカッコいいと思いました。取り込み方がずるいしうまいなと。ちなみに僕が最初に「ceroはずるいな」と思ったのは高校生の頃で。池ノ上にボブテイルっていう、今はカフェなんですけど、昔はアンダーグラウンドなアコースティックの弾き語りの人が出てたお店があって、個性的なミュージシャンが集まってたんですよ。そこにボサツノバっていうアーティストが出てたんですけど、友達がceroのメンバーが選曲したミックスCDを持っていて、そこにボサツノバが入っていたんです。この人たちはこんなエグいものまでチェックしているんだって思って、そこからceroは気になっていますね。
荒内 たぶん、カクバリズムの通販の特典じゃないですかね。所属アーティストが順番に収録曲をセレクトするんだけど、橋本(翼)ちゃんがセレクトしたんじゃないかな。
小西 ボサツノバはCDも手売で、写経みたいなのが書いてある半紙に白盤(CD-R)が包んであるんですよ。そこにしか入っていない音源がceroのミックスに入ってたから「ceroってえげつないバンドかな」って思ってたら、めっちゃチルだった。
──でもceroって実はちょっとアングラ感もありますよね。「浅川マキが好きそうな人たち」っていうか。
荒内 浅川マキはみんな好きですよ。高城(晶平)くんとか、URCにいそうだもんね。
小西 オダトモにもそういう濃さというか、ある種の怖さみたいなものがあるよね。たまに怖いよ。いい意味なんだけど。
小田 怖いですか……(笑)。
サックスやって、ボコーダーやって、シンセもやる忙しい人
小田 ceroが最近ライブでやってる新曲の方向性は今のバンド編成に合わせて作られているから、音源も今までと全然違うものになりそうで楽しみだよね。
荒内 俺はLogicってソフトで曲を作るんだけど、最近トラック名に楽器の名前じゃなくて、「小田」とかメンバーの名前を書くようになった。
──バンドメンバーに合わせて曲を作るようになったってことですね。
荒内 アテ書きですね。今はリズムに特化した曲を多く作っているし、「そういうことがやりたかったからメンバーを変えた」っていうのもあります。
小田 ceroには「すでにキーボードの人がいるし、どうすればいいの?」って感じで入ったんですけど、最初にツアーのリハを何日かがっつりやったら、思ったよりも自分がバンドになじんでる感覚があって。KORGのMinilogueってシンセを買って、そこで初めて使ったんですよ。その楽器がceroにフィットして、“管楽器の代用”とは違うことができそうって手応えを自分の中に感じました。ceroはちゃんと遊びどころがあるんですよ。ポップなんだけど振れ幅があるから、やっていてすごく楽しいですね。
荒内 最初は管楽器の譜面を持って行って、「これを弾いてください」って渡してたんだけど、「やっぱりそれはいいや」って気持ちにどんどんなっていって、「じゃあ、新しいフレーズを作ってくれない?」ってなったんだよね。「ここからここは何か弾いてみてください」って任せちゃってます。
小田 ツインキーボードっていいですよね。ceroのツインキーボードに慣れて、クラクラ(CRCK/LCKS)に帰ってきたら、キーボードがもう1人欲しいって思っちゃうもん。小西がやってくれてるけど、常にキーボードが2つある状態がいいなって。
小西 僕もオダトモも作品を作るときは、いろんな音が頭の中に鳴っていて、足していきがちなんです。「とりあえず、入れるだけ入れよう」って考えながら音が増えていって、レイヤーも多くなっちゃう。そうするとリハのときに「イメージ通りにできないよね」みたいな。
小田 結果、すごく忙しくなるよね。「1人でいろんなことをやってる」みたいな、すごく忙しいバンドにしてもいいのかなって気もするけど。
小西 サックスやって、ボコーダーやって、シンセやって、って感じになってるから。それはそれで面白いんですけど、シンセがもう1人いたらいろいろ片付くんですよね。俺のシンセと小田のシンセを誰かに任せて。オダトモは今、キーボード3台弾いてるもんね。
小田 最近は、KingKORG、Minilogue、SV-1の3台。ボタンを押し間違えて全然違う音が出たりして、でも左手が塞がっているから直せなくて、みたいな感じですね(笑)。
荒内 俺が最初に小田ちゃんが演奏してるところをDC/PRGの映像で観たとき、当時の自分と全く同じセッティングだった。もちろん音色もよかったんだけど、どちらかというとプレイを重視しているって言うか、少なくとも機材マニアではないなと思って(笑)、スタンスは自分に近いかもと感じたんだよね。
──そう言えば井上銘(G / CRCK/LCKS)さんが言ってたんですけど、自分は引き算タイプの人間だから、クラクラをやるようになって小西さんみたいな足し算タイプの人を見て、アイデアを足していく面白さに気付いたって。
小西 曲を書いたり、アレンジをしたりするときに、銘はとにかく音を減らしていきますね。俺は取捨選択の“取”しかしない。銘が減らしてくれるから、俺は足していける。このバランスがいいと思うんですよ。俺は「オダトモにこういうことをやらせたい」と思ったり、「(石若)駿(Dr)がこういうドラムを叩いているのを聴きたい」とか、そういう欲でしか曲を書かない。銘は全体を見て「こういう曲が足りないよね」ってことを考えて曲を作る。だからアルバムには彼の曲がないとバランスが取れないだろうなって思います。
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コント風の寸劇を交えた初期ceroのライブ
- CRCK/LCKS「Lighter」
- 2017年7月5日発売 / APOLLO SOUNDS
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[CD]
1944円 / DDCZ-2159
- 収録曲
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- Get Lighter[作詞:小田朋美・小西遼 / 作曲:小西遼]
- パパパ![作詞・作曲:小田朋美]
- Non-Brake[作詞:小田朋美 / 作曲:小西遼]
- すきなひと[作詞:小田朋美・小西遼 / 作曲:小西遼]
- エメラルド[作詞:ミトモ珈琲二号店 / 作曲:井上銘]
- 傀儡[作詞・作曲:小田朋美]
- CRCK/LCKS 2nd EP「Lighter」リリース記念ライブ
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2017年8月12日(土)東京都 新宿MARZ
<出演者>
CRCK/LCKS / TAMTAM / and more
- CRCK/LCKS(クラックラックス)
- 2015年初頭にアメリカでの音楽留学から帰ってきた小西遼(Sax, Vocoder, Key, etc)を中心に、同年4月に結成されたポップバンド。DC/PRGのメンバーやceroのサポートなどで活躍する小田朋美(Vo, Key)、ジャズシーンで高い知名度を誇る井上銘(G)と石若駿(Dr)、カラスは真っ白やCICADAでの活動で知られる越智俊介(B)の5人からなる。2016年4月にミニアルバム「CRCK/LCKS」を発表して以降、複雑な構造ながらポップでキャッチーという斬新なサウンドで一躍話題に。2017年7月に2枚目のミニアルバム「Lighter」をリリースし、8月に開催される「SUMMER SONIC 2017」への出演が決定している。
- cero(セロ)
- 2004年に髙城晶平(Vo, Flute, G)、荒内佑(Key)、柳智之(Dr)の3人により結成された。グループ名のceroは「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略称。2006年には橋本翼(G, Cho)が加入し4人編成となった。2007年にはその音楽性に興味を持った鈴木慶一(ムーンライダーズ)がプロデュースを手がけ、翌2008年には坂本龍一のレーベル・commmonsより発売されたコンピレーションアルバム「細野晴臣 STRANGE SONG BOOK-Tribute to Haruomi Hosono 2-」への参加を果たす。2011年にはカクバリズムより1stアルバム「WORLD RECORD」を発表。アルバム発売後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退し3人編成になった。2015年5月には3rdアルバム「Obscure Ride」、2016年12月には最新シングル「街の報せ」をリリース。2017年4月には2度目の東京・日比谷野外大音楽堂ワンマン「Outdoors」を成功に収め、8月11日には東京・新木場STUDIO COASTで自主企画イベント「Traffic」を開催する。