Cö shu Nie|信頼して音楽を伝える ニューノーマル時代のバンドの形

コロナ禍以降、音楽界のニューノーマルとして主流になった配信ライブ。自分たちを「ライブが資本のバンド」だと語るCö shu Nieが、ライブハウス・Zeppで撮り下ろしたさまざまなアーティストのワンマンライブ映像と生配信トークで構成されるシリーズオンラインコンテンツ「Dive/Connect @ Zepp Online」に出演する。約1年ぶりとなるフルサイズのワンマンに、3人はどのように挑んだのか。無観客の会場で感じた困惑、観客との間をつなぐ信頼関係などについて、今抱えている思いを明かす。

またテレビアニメ「呪術廻戦」第2クールのエンディングテーマで1月に先行配信がスタートした「give it back」の制作秘話や、バンドとしての在り方についても話を聞いた。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 中野修也
スタイリング / Jun Ishikawa
ヘアメイク / 太田夢子(earch)
衣装協力 / MEGMIURA、333 STUDIO(中村未来)
WIZZARD、MASU、APOCRYPHA.(松本駿介)
Name.、Vans(藤田亮介)

無観客でも見えたお客さんの姿

──Cö shu Nieは昨年12月に無観客配信ライブ「A coshutic Nie Vol.1 in Billboard Live TOKYO」なども行っていますが、現状の配信ライブに対しての手応えはいかがですか?

中村未来(Vo, G, Key, Manipulator) ライブができること自体を幸せに感じています。私たちはずっとライブで自分たちの存在を表明してきた、ライブが資本のバンドなので。無観客でも「届いていればいいな」と思うし、そのために1本1本に入魂してやっています。実際、観てくれた人たちの反応を見ると、「強かった」「熱量が伝わった」と言ってくれる人たちもいて、しっかりと音を作れば画面越しでも伝えることはできるんだなと思ったんですよね。

松本駿介(B) 僕らが最初に配信ライブの形で演奏したのが「THE FIRST TAKE FES」(2020年11月にYouTubeで配信されたオンラインライブ)でした。お客さんがいない状況のライブが初めてだったので、最初は「どういう感じなんだろう?」と不安だったんですけど、思った以上にお客さんの姿が見えたんですよ。

──いなくても「見えた」?

松本 はい。中村が言ったように、Cö shu Nieはライブが資本のバンドで、お客さんとぶつかり合うように空間を共有していくことを大切にしてきました。「THE FIRST TAKE FES」のときは無観客でしたけど、去年の2月にツアーが中止になる前までの気持ちをちゃんと残したまま演奏できたと思いました。ただビルボードでの「A coshutic Nie」の場合は、今までとはまったく違うスタイルのライブだったんです。中村はグランドピアノを弾くし、僕も全部座って弾くし。今までそんなことをしたことがなかったので、正直あまり余裕がなくて。あのときは配信ライブの難しさを感じました。まだまだ回数を重ねていかないとわからないことが多いなって。特にビルボードではMCもあったし、「どういう感覚で観てもらえているんだろう?」って。

──新しい試みだからこそ不安もありますよね。

中村未来(Vo, G, Key, Manipulator)

中村 でも、そこはもう信頼するしかないんですよ。配信ライブは観てくれる人に対しての信頼ありきでやっている感覚があります。有観客のライブだと私が深くまで潜れば一緒に潜ってくれるし、もっと深くまで潜ってくれる人たちもいるけど、配信だとそれが実際に見えない。でもそんな状況の中でも、私たちは「それでも、一緒に潜ろう」という気持ちでやっているから。その先に関してはもう、信頼するしかない。

藤田亮介(Dr) そうですね。それにやっぱりこのご時世でもライブができるというのは本当にうれしいです。

松本 本当にそう。今までのライブとは感覚がまったく違う部分もあるけど、それでもやっぱり音楽を演奏して届けることができるのは、本当にうれしい。1曲やるたびに毎回「ああ、ありがとうございます」と思う。「この場所があることがうれしいなあ」と。

──観ている側としても、それは実感します。

藤田 無観客の緊張感も楽しめるものだし、それに「ここは、どういう伝わり方をしているんだろう?」とか、普段のライブではなかなか僕らにはわからないことも、配信を見てくれた方が書いてくれるコメントを通してわかることもあって。それもうれしい一面です。僕は有観客のときは、お客さんとアイコンタクトを取って熱量を共有していく感覚があるんですけど、配信ではそれができないのかと思いきや、自分がちゃんと熱を込めて演奏したら、それも伝わる。縮こまってやっているよりは、お客さんがいることをちゃんとイメージをしてやらないといけないんだろうなとも思いましたね。

──中村さんは“潜る”という言い方をされましたけど、ライブにおけるCö shu Nieとお客さんの関係性は、言葉にするとどういうものでしょう?

中村 それはまだ言葉にできないような気がしますけど……強いて言葉にするなら“愛”ですね。それに尽きると思います。

信頼できる。だから潜れる。

──「Dive/Connect @ Zepp Online」でのライブはすでに収録されたということですが、いかがでしたか?

中村 テンションが上がりましたねえ。もう大変なくらい(笑)。

──大変でしたか(笑)。

中村 テンションが上がりすぎてしまって。ライブを観ていただければわかると思うんですけど(笑)。でも特別な演奏になったと思う。もう二度とない形のライブだと思います。

松本 僕は懐かしい気持ちになりましたね。「THE FIRST TAKE FES」も武道館も、演奏したのは2曲だったし(1月3日に配信されたイベント「Sony Music AnimeSongs ONLINE 日本武道館」)、ビルボードはアコースティックだったし、フルライブがひさしぶりだったんです。なので「1時間通して弾けるのかな?」ってちょっと不安だったんですけど、いざ演奏が始まると戻ってきた感覚があって。セットリストも中止になったツアーからあまり変えずに“続き”という感覚でやったので、そういう意味でも戻ってきた感覚がありましたね。

──自粛以前の物語も引き継いでのセトリなんですね。

松本 そうですね。それプラス自粛期間中に作った新曲もちょっと交えつつという感じです。

藤田亮介(Dr)

──藤田さんはどうでしたか?

藤田 フルのライブはほぼ1年ぶりだったので、僕も「叩き切れるのかな?」という緊張感はあったんですけど、すぐに思い出しましたね。去年の2月にツアーが中止になりましたけど、それまでの記憶がなくなることはないので。あのときのお客さんの光景だったり、3人で音を出す楽しさだったり、「ああ、こんな感じだったな」って。ちょっと感動しました。

──ライブの記憶ってずっと頭にこびりつくものですか?

中村 うん、もちろん。特にお客さんのキラキラした目とか、陶酔している表情とか。人間の感情って強く記憶に残るじゃないですか。めちゃくちゃ覚えています。それがあるから無観客の配信ライブでも信頼できるんですよね。

──記憶がフロアを埋めてくれるというか。

中村 そう。だから潜れるんです。

松本 ツアーで回ったその土地土地の雰囲気の違いとか覚えているものですからね。配信ライブはそういう思いがギュッと詰まって、僕らにはパンパンのフロアが見えてくる。だから寂しくはないんです。

ライブで育つ

──Cö shu Nieの音楽は、音源は音源として濃密に作り込んでいると思うのですが、そうやって生まれた曲をライブアレンジにしていくときには、どういったことを意識しなが作っていくものなのですか?

中村 音源は音源のベストを考えているので、音源を出す段階でライブアレンジはあまり考えていないことも多々あるんですけど、ただ、ライブで育っていく曲も多くて。

──特にライブの中で育った曲というと?

松本 「PERSON.」かな?

中村 そうだね。「PERSON.」は16歳の頃に書いた曲なので、やってきた時間が長いのもあるんですけど。この曲はいろんなアレンジがあって、ピアノボーカルのバージョンもあるし、ギターボーカルも何パターンかあったり、「another person.」とか「ö=person」とかいろいろ曲名を変えながらも、表現はすごくシンプルで。今でも最初に書いた歌詞を変えずにそのまま歌うことができる曲なんです。そのぶんその言葉に対しての私の感じ方や表現の仕方が変わることで、音のムードが変わっていったりもするんです。

──なるほど。

中村 それとは逆に歌詞が変わっていく曲もあって。例えば「迷路」という曲は、演奏していくうちに歌詞も変わっていきました。これもライブで育った曲だと思いますね。