素のchelmicoが描く“自分らしさ”
──「COZY」にも「ただ息吸って生きてマジ偉い」というラインがありますよね。ちなみにこの曲は「SNSばっか見ちゃバカんなる 生きてるだけで万々歳」とSNS疲れについても警鐘を鳴らしているじゃないですか。少し前にRachelさんは、Twitterでも「10年以上ずっとやめたいと思いながらTwitterやってる」とつぶやいていましたね。
Rachel めっちゃチェックしてくれてるじゃないですか(笑)。「ISOGA♡PEACH」もそういう曲なんです。自分も気付いたらずっとスマホを見ているときがあって。「そんなに忙しくする必要、人類は果たしてあるんだろうか?」と言いたくて。
Mamiko スマホで仕事もできちゃうから余計そうなりやすいと思うんだけど、それを言い訳にしちゃダメだな、もっと外を見なきゃって思う。
Rachel でも難しいよね、スマホで音楽を作れちゃうんだもん。人類にスマホはまだ早すぎたんだな。振り回されすぎてる!
──(笑)。tofubeatsさんとのコラボ曲「Meidaimae」も、片思い中の主人公がスマホに振り回されている様子を描いていますね。
Mamiko そうそう。相手が誰に「いいね」しているかチェックしちゃったり、絵文字や文法にやたら気を遣ってしまったり。
Rachel まみちゃんと「この曲は2006年くらいのムードがいいよね」と話していて。ギャルいんだけどいじらしいみたいな。実際にリリックを書いてみたら、ギャルというよりは「奥手の女の子」みたいになっちゃったんですけど、最初はもっと強めの女の子を設定していました。
Mamiko 私たちの中に想像上の女の子がいたんだよね。映画「ローラーガールズ・ダイアリー」の主人公みたいな。あの頃の世界観というか。
──「Where you at?」では「レンタルビデオ 借りたDVD エターナルサンシャイン」というラインもあるし、映画をモチーフにリリックを作ることは多いですか?
Mamiko 映画ネタは多いですね。「bff」もそう。
──「bff」の「今度自分を卑下したら 許さないからね」というラインは、映画「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」から取ったのかなと思いました。
Mamiko そうです!
Rachel 初めてわかってもらえた、うれしい!(笑) あのセリフ、いいですよね。
──はい、大好きです(笑)。コロナ禍になって、自分らしくあることや、自己肯定感を持つことの大切さを多くの人が意識するようになったと思うのですが、「三億円」も「COZY」も、そして「bff」もそういうことがモチーフになっていますよね。
Mamiko そうですね。きっと今、こういう曲を自分たちが聴きたいから作っているんだと思います。
Rachel そうだね。「Miterudake」もそう。「こういうこと歌ってくれている人、まだいないなあ」と思うと、自分たちで書いちゃおうって。ほかのアーティストの方たちが描く、例えばガールクラッシュな女性とかイケてるし大好きだけど、自分はなれないと思うことも多くて。ちょっとモジモジしている「Meidaimae」の主人公の方が、素の自分に近いなと思うんです。
──そういう、ありのままの自分をデビュー当時よりもさらけ出している感じはありますか?
Mamiko ああ、ありますね。
Rachel 以前はもうちょっと明るい感じで書いていたかもしれない。ここまで内気で不器用じゃなかった気がする。
Mamiko そうだね。だんだん恥じらいがなくなってきたのかな(笑)。
Rachel それは確実にある!(笑) あと、いい意味での“あきらめ”というか。
Mamiko 「こういうのは自分には向いてないな」とかね。
Rachel そうそう。憧れることはあるけど。かと言って、何かに媚びるようなことはしたくない。それを統合すると、「Meidaimae」みたいな感じの女の子像になるのかなと思います。
敬愛するDJ FUMIYAとの制作
──「O・La」では、chelmicoにとって最大のルーツの1つであるRIP SLYMEのDJ FUMIYAさんとコラボが実現しましたね。
Rachel ずっと一緒にやりたいということは伝えていたし、FUMIYAさんからも「いつかやりたいね」とおっしゃっていただいていて。これまでなかなかタイミングが合わなかったんですけど、ここにきてようやく実現しました。
Mamiko FUMIYAさんの作る曲ってどこかラテンっぽかったりして、その感じがすごく好きなので、全面的に出していただきたいなと。「『JOINT』みたいな方向性か、あるいは『熱帯夜』みたいな曲もいいなって思ってます!」と伝えたら、トラックを3パターンも用意してくださって。その中の1曲が私たちのリクエストに寄せたトラックで、もう1曲がサンプリングされた超ヒップホップ、でもう1曲が「chelmicoに歌わせてみたかった」とFUMIYAさんが言ってくださったトラック。どれも本当にカッコよくて、全曲やりたいけどとりあえず1曲となったときに、「新たなchelmicoを見てみたい」という自分たちの気持ちと「そんなふうにFUMIYAさんが言ってくれるならやってみる?」みたいな気持ちの両方があって、3つ目のトラックを使わせてもらうことに決めました。
Rachel イントロのホーンがめちゃくちゃカッコいいよね。ディズニーのパレード感というか。それこそ「ダンボ」のトリッピーなシーンをイメージしながら、今自分たちが思っていることをリリックに落とし込みました。ほかの2曲でもラップしたいよね。
Mamiko やりたい!
「gokigen」は自分たちでもリピートする仕上がり
──アルバムの中で、ほかに思い入れのある曲というと?
Rachel どの曲も大好きですが、「moderation」に関してはTSUBAMEさんが今のモードというか、いっときのブーンバップのモードから今はRave Racersの一員として、すごくソリッドでビートの速い曲をやっているんですよ。chelmicoもそのトラックに引っ張られて新しいフロウや表現が出てきたので、以前とは違う化学反応を起こすことができたかなと思います。
Mamiko 私は「ISOGA♡PEACH」が大好き。マジで一番聴いているかもしれないです(笑)。
Rachel 私も。自分たちの曲を何度も聴き返すことってそんなにないんですけど、「ISOGA♡PEACH」は普段使いしてる(笑)。
Mamiko なんかね、泣ける。歌詞だけ見るとすごくつらいのに、サウンドだけ聴くとピコピコしててすごくかわいくて。
Rachel 歌詞、かわいそうだよね。「もうこれ以上、chelmicoちゃんをいじめないで!」って気持ちになる(笑)。
Mamiko そうそう。自分たちと切り離して、小さくてかわいいchelmicoちゃんへの応援ソングなんです(笑)。いっぱい聴かれてほしいな。ライブでやっても楽しそうだし。
Rachel あと、今回アルバム全体のディレクションはryo takahashiくんがやってくれています。彼にとってchelmicoのディレクションは初なんですけど、その色も出ているのかなと。カッコいいビート強めというのがryoくんの得意分野なので。
Mamiko 「ms」も一緒に作ったし、その流れでずっと今やっているので、ryoくんとはめちゃくちゃ会ってますね。
Rachel ミックスは今回から土岐彩香(フジファブリック、米津玄師、CHARAなどを手がけるエンジニア)さんにお願いしていて。以前は曲ごとに違うエンジニアさんにお願いしていたんですけど、今回はほとんど土岐さんがやってくれているので、そこでもアルバム全体の統一感が出ていると思います。
Mamiko 私たち、毎回アルバムを出すごとに最高傑作を更新しているつもりだけど、今作はその中でも「自分で聴くアルバム」という感じに仕上がりました。シンプルにトラックがめっちゃカッコいいから何度も聴いちゃうのかも知れない。
Rachel そうかも。「このビートを聴きたい」と思わせてくれる曲がたくさん詰まっているというか。
コロナ禍で一番面白いユニットになるんじゃないかな
──そんなアルバムを引っさげての全国ツアーが3年ぶりにありますよね。
Rachel 具体的にはこれから内容を詰めていく段階ですけど、やっぱり曲が増えれば増えるほど面白いライブが作れるようになるので、そういう意味でベストセレクション的なセットリストになると思います。もちろん、アルバムの曲はたくさんやるつもりですけど。
Mamiko 前回のツアーからけっこう期間が空いちゃったし、はじめましての人も、この3年の間にファンになってくれた人もいると思うので、それも込みで楽しみです。
Rachel やっぱりコロナ禍になってから初のツアーなので、コロナ禍対応のchelmicoフォルムに変えていく過程が自分自身もすごく興味がある。たぶんコロナ禍で一番面白いユニットになるんじゃないかな。
Mamiko 確かに!(笑) かなり面白いかも。
Rachel あとフェスとかでchelmicoを観た人たちに「一番楽しかった」と言わせたい。それでハマってくれたら絶対にツアーにも来てほしい。かなりビルドアップされているはずだから。基本的にコロナ禍のライブって面白くないじゃないですか(笑)。
Mamiko ね。本来ライブって声を出しに行くようなものですから。
Rachel 「イエーイ!」とか「ウォー!」とか言いたいのにさ、みんな一生懸命我慢してさ。その中でもみんなが楽しめるようなサポートをしたい。そのための場所を確保するつもりなので、楽しみにしていてください!