chelmicoインタビュー|超「gokigen」な2年ぶりフルアルバム完成、あきらめを知ったRachel&Mamikoが描く“自分らしさ”

chelmicoが約2年ぶり、通算4枚目となるフルアルバム「gokigen」をリリースした。

前作「maze」ではさまざまな分野からゲストアーティストを迎え、カテゴライズ不能な、文字通り“混ぜこぜ”のアルバムを作り上げたchelmico。本作は朋友トラックメイカー・ESME MORIやryo takahashiをはじめ、インディーズ期にコラボ経験のあるTSUBAME(TOKYO HEALTH CLUB)やTomggg、レーベルメイトのtofubeats、そして彼女たちが愛してやまないRIP SLYMEのDJ FUMIYAなど、まるで初心に立ち返るような座組でありながら、サウンドもリリックも非常に攻めた内容に仕上がっている。

音楽ナタリーでは、Rachelの妊娠・出産やMamikoのソロ名義「鈴木真海子」としての音源リリースなど個人でのトピックが続いていた彼女たちに、それらの経験が「gokigen」にどう落とし込まれているのか話を聞いた。

また特集の後半には、彼女たちと親交のあるAマッソ、大童澄瞳、岡田康太、友保隼平(金属バット)、森本晋太郎(トンツカタン)からのコメントと、それぞれが「聴くと“gokigen”になれるchelmico楽曲」をテーマに構成したプレイリストを掲載する。

取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 草野庸子

RachelとMamiko、それぞれの近況

──前作「maze」のリリース後にRachelさんは、妊娠・出産を経験されました。コロナ禍ではいろいろと不安も多かったのではないでしょうか。

Rachel そうですね。コロナ禍では出産のときに立ち会いもできないし、そもそも世の中がどうなっていくのかまったく見通しが立たない状況で新しい命を迎えることは、とても不安だったし大変でした。でも、そんな中でもまみちゃんやスタッフ、友人たちがサポートしてくれる安心感がありました。

──そんなRachelさんを、Mamikoさんはどんなふうに見ていましたか?

Mamiko まずはとにかく、おめでたいことだなって。Rachelから電話で妊娠の報告を受けたときは鳥肌が立ちました(笑)。とはいえ、本人は喜びと不安が日替わりで訪れている感じで「どうしよう……」というときもあったし、しばらくは「大変そうだな」と思って見ていました。でも、やっぱり強いですよ、Rachelは。精神的にもそうだし、体もタフだなって。

Rachel (二の腕の力こぶを見せる)

Mamiko あははは。基本的には楽しそうにしているのが伝わってくるというか。やっぱり「お母さん」という意識もあるから、よりそう気構えているのかもしれないけど。つらいことがあったときは、それも共有して「大丈夫、大丈夫!」と言い合っています。chelmicoをやっていることで、彼女に後悔とかさせたくなかったので。

Rachel ありがとう。

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──子育てをしていく中で、社会との関わり方などにも変化はありましたか?

Rachel やっぱり子供と関わることによって、今までは見えてこなかったことが見えてきたり、避けて通ってきたことに直面したりする感覚はありますね。普通に生活することの難しさも実感しました。今作に入っている「三億円」では、まさにそういうことについて歌っているんですよ。こういうリリック、今までの自分だったら書かなかっただろうなと思います。

──一方Mamikoさんは、ソロ活動を充実させていました。ソロアルバム「ms」には、chelmicoとはまた違ったMamikoさんの魅力が詰まっていますよね。

Mamiko ありがとうございます。もともと生っぽい静かな音楽とか、空間を生かした録音の仕方が好きなので、そういうのを自由気ままに作る1人の時間も楽しかったです。ライブなどにもちょこちょこ出させてもらっていたんですけど、サポートメンバーを率いて1人でステージに立つ人って本当にすごいなと改めて思ったし、いつもRachelが隣にいてくれることのありがたさ、心強さに改めて気付きました。chelmicoのライブって楽しいなとも思いましたし、ソロはソロの楽しさももちろんあって「どっちもできる自分はなんてラッキーなんだろう!」って。

Rachel 「ms」には、「R」という私と私の子供についての曲があって。聴いたときはもう、涙の海に溺れかけました(笑)。たくさん聴いてるし、子供にも聴かせてる。

Mamiko うれしい。ホント、メンバーも増えて最高!という感じです。

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伏線回収のようなアルバム

──では新作「gokigen」についてお聞かせください。Rachelさんは、本作について「ぶっちゃけ作るの大変だったよん!」とコメントしていましたよね。

Rachel 「楽しかった!」と手放しで言えるかというと嘘になります(笑)。今までのchelmicoでは言ってなかったようなことを言ったり、やっていなかったことをやりたかったりしてかなり試行錯誤しました。「chelmicoがこれ言っていいの?」とか、そのあたりを悩みながら今回はラインをちょっと攻めたところに引いています。あとはとにかく、スケジュールが大変だった(笑)。いろんな人を振り回してしまうことにプレッシャーを感じていましたし、子供の面倒を見ながら曲を書くのも難しくて。

Mamiko 私もソロを同時進行でやっていたからスケジュール調整に苦労しました。でもサウンド面では「Roller Coaster」や「moderation」など、フックの部分でただ踊るみたいな箇所もありますし、声にもオートチューンがかかっていたり、曲構成にこだわってみたり、「まだまだchelmicoには伸びしろがあるじゃん!」と思って、作りながらワクワクしていましたね。

──Mamikoさんは、「ラップを始めた時からこれまでの伏線回収のようなアルバム」とコメントしていました。

Mamiko 例えばtofubeatsは昔からの仲で、Rachelがミュージックビデオにも参加したこともあって。Tomgggもchelmicoのインディーズ時代に「Love Is Over」のリミックスをしてくれたし、TSUBAME(TOKYO HEALTH CLUB)さんは楽曲提供だけじゃなくインディーズ時代に私たちが主催したライブに遊びに来てくれたこともあるんです。Pistachio Studioももちろん古い付き合いだし、chelmicoの歴史をたどると絶対に登場するような人たちと、ここに来てやっと一緒に曲を作ったことを「伏線回収」という言葉で表現したんですよね。しかも、それを狙っていたわけじゃなくて、たまたまこういう形になったんですよ。

──曲が呼び寄せたというか。

Mamiko そう。でも、こうして話していて思ったのは、コロナ禍で全然会えてなかったから会いたくなったのかなって。「最近、みんな何してるんだろう?」という気持ちになったというか。

Rachel 同窓会みたいな(笑)。

Mamiko そうそう。「じゃあ次、誰と曲を作る?」という話になったときに、パッと思い付く人たちだったんですよね。

chelmico
chelmico

生きているだけでえらいよ!

──さっき話に出た「三億円」が、アルバムの中で最初にできた曲だったんですか?

Rachel そうです。当初は「逃げ出したい」がテーマだったんですよ。コロナ禍で家の中にずっとこもっている時期が続いて、「もういいよ、出してよここから!」みたいな。

Mamiko でも「逃げ出したい」だとちょっとネガティブな要素が強すぎるかもしれないと思って、いろいろ考えていく中で「お金があったらすべて解決するのにね」という結論にたどり着いて(笑)。

Rachel 例えばオリンピックを開催する・しないとか、「FUJI ROCK」をやる・やらないとか、そういうアーティスト同士での意見の対立もSNSで顕在化したじゃないですか。実際に会ってもそういう話題になることがあって、「なんでこんなことになっているんだろう?」と考えたとき、みんなお金が欲しいんだなと思ったんです。お金があればオリンピックを止めることも、あるいはみんなが納得する別の開催の仕方もあったわけじゃないですか。それで「全部お金のせいだな!」と思って書いたんです。もちろん、それだけじゃなくてたくさんの課題があるのですが、今回はお金をフィーチャーしました。

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──この曲の歌詞には、「何が幸せか私が決める」というラインがあります。コロナ禍でさらに格差が広がっていく中、「幸せとは何か?」について多くの人たちが考えていることを代弁しているなと思いました。

Mamiko 世界中が一斉にコロナ禍になって、今までの幸せってどんなだっけ?みたいな感じになってしまったじゃないですか。私はそれに対して「もういいよいいよ、あんた生きているだけでえらいよ!」って思うんですよ(笑)。

Rachel 本当にそう。