「カリスマ」特集|EVIL LINE RECORDSが手がけるプロジェクト初のアルバムの魅力をレビューで紐解く

2次元キャラクターコンテンツ「超人的シェアハウスストーリー『カリスマ』」のプロジェクト初となるアルバム「カリスマ ワールド」が9月21日にリリースされた。

「カリスマ」はYouTubeで配信される音声ドラマを中心にストーリーが展開するプロジェクト。音声ドラマでは“カリスマハウス”で共同生活を送る個性豊かな“カリスマ”7人が、“真のカリスマ”を目指す物語が描かれている。音楽原作キャラクターラッププロジェクト「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」を手がけるキングレコード内のレーベル・EVIL LINE RECORDSが運営している同プロジェクトでは、音楽コンテンツにも力を入れており、アルバムにはカリスマ全員が“七人のカリスマ”名義で歌う楽曲「神の領域リージョン」「カリスマっていいな」や、各キャラクターによるソロ歌唱曲などが収録されている。

音楽ナタリーでは「カリスマ ワールド」の発売を記念して、カリスマたちの歌声や楽曲の魅力をレビューで紐解く。

文 / ナカニシキュウ

「超人的シェアハウスストーリー『カリスマ』」とは

「超人的シェアハウスストーリー『カリスマ』」は、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」の運営チームが手がける2次元キャラクタープロジェクト。“真のカリスマ”を目指す7人の“カリスマ”たちによって繰り広げられる日常を描くコメディ作品で、小野友樹、山中真尋、福原かつみら人気声優がキャストを務める音声ドラマを中心に展開されている。

七人のカリスマは“カリスマハウス”と呼ばれる一軒家で共同生活を送っており、日々カリスマ性の向上に余念がない。一定の条件を満たすことで“カリスマチャージ”なるステータスが上昇するという世界観が設定されており、彼らは目下その蓄積を目的として日々を過ごしているようだ。カリスマチャージ量が100%に達することで“カリスマブレイク”を果たし、それに伴いカリスマは“ブレイク曲”という名のソロ曲を与えられることになる──というのが大まかな世界設定だ。

メインコンテンツである音声ドラマは、7人のうち数名あるいは全員が登場する会話劇として進行する。各キャラクターに「正邪のカリスマ」や「秩序のカリスマ」といった仰々しい二つ名が漏れなく付与されていることからも推察できる通り、それぞれ極めて偏った価値観や行動原理を持つ人物として描かれる。そのため基本的には7人全員がボケタイプのキャラクターということになるが、多くの場合、その話数でメインを張らない誰かが適宜ツッコミに回ることでコント構造を成立させている(場合によってはボケとツッコミが目まぐるしく入れ替わる高度な分担が行われることもある)。

そうした極端なキャラクター設定によって生まれる不条理な会話のダイナミズムがファンの心をとらえ、「この空気感がクセになる」と着実にその影響力を拡大中だ。YouTube公式チャンネルの動画再生数は2022年9月現在、累計で約1300万回に上っている。

「カリスマ」楽曲の一筋縄ではいかない魅力

同プロジェクトでは、音声ドラマのほかにキャラクターソングに相当する楽曲のリリースも精力的に行っている。カリスマたちの歌う楽曲群は、物語の世界観と呼応するように一筋縄ではいかない魅力にあふれた秀作ぞろい。誰もが一度は耳にしたことのある民謡やクラシックなどの定番曲を下敷きにしたアカデミックな作りの楽曲が少なからず存在し、完全オリジナルの楽曲も含め、一様にトラックのクオリティは高水準だ。これは、一風変わったコンセプトを高度な音楽性で届けることに並々ならぬこだわりを持つレーベルとして知られるEVIL LINE RECORDSならではの執着心の表れと見ていいだろう。

特筆すべきは、そんなハイクオリティなトラックには一見ミスマッチとも思えるふざけた歌詞と味付け過剰なボーカルが乗っている点だ。もちろんこれは完全に意図的なものであり、そのアンバランスさこそが一連の「カリスマ」楽曲群の最大のストロングポイントとして機能していることは言うまでもない。全般的に見ると、7人で歌う全体曲はハッピーなムードと脱力感を伴う“ズッコケ系”の楽曲が基軸をなしている一方で、ソロ曲に関しては比較的エッジの効いた音楽性で“やりすぎ感”を演出したものが目立つ傾向が見て取れる。

その意味で、やや例外的な存在と言えるのが新曲「神の領域リージョン」だ。七人のカリスマ名義で歌われる1曲ながら、どちらかというとこれまでソロ曲に採用されてきたコンセプトに近い手触りを感じることができる。サウンド的にはハードなシンセを基調としたEDMとなっており、歌詞や7人のボーカリゼーションについても完全にシリアステイストに振り切られているところが特徴的だ。「ソロ曲の世界観を7人で歌うところも見てみたい」と願っていたファンも少なくないと考えられる中で、そのニーズに全力で応えたものと見ていいだろう。作詞は及川眠子、作編曲はR・O・Nが手がけている。

しかしそう思ったのも束の間、もう1つの新曲「カリスマっていいな」はこれまでの全体曲コンセプトを忠実に踏襲したハッピーソング。楽曲タイトルから明らかなように、これは昨年5月に惜しくもこの世を去った昭和の大作曲家・小林亜星が手がけた、テレビアニメ「まんが日本昔ばなし」のエンディングテーマ「にんげんっていいな」を下敷きにした1曲だ。カバーや替え歌ではなくリビルドの手法が採られており、作詞、作曲、編曲はCHI-MEYが手がけた。軽快なハーフタイムシャッフルのビート感を含め、原曲以上にテレビアニメのエンディングテーマ然としたサウンドプロデュースがなされており、アルバムのラストを飾るにふさわしい大団円ムードを味わえる楽曲に仕上がっている。

なお、「カリスマ ワールド」のCD盤には全10編におよぶ寸劇トラックと、声優陣が早口言葉に挑戦するおまけトラック「ケツパラガス選手権!」が収められている。配信リリース版にはこれらが含まれないため、「カリスマ」の世界をより深く楽しみたいファンは要チェックだ。