buzz★Vibes|華やかに絶望を歌うファンクナンバー

タイトルに背中を押してもらった

──森久保さんが担当した歌詞の面では、今回特に工夫したことはありますか?

森久保 今回はドラマ自体に印象的な台詞や要素がたくさんあったので、その世界観の中から、「この言い回しは使いたいな」とか、「こんな雰囲気にしたいな」とか、そういうアイデアが自然と出てきました。例えば、「アイデンティティが無いデンティティ」「ユーデンティティはダレデンティティ」という歌詞はまさにそうですね。それにサビにいく前のカウントダウンの部分は、せっかくカフカが主人公の作品なので、ドイツ語の「Vier, Drei, Zwei, Eins」にしています(フランツ・カフカはチェコ出身のドイツ語作家)。作品自体にそういう遊び心をくすぐられるような雰囲気があったんですよ。カフカを見ていて、「この人、なんでこんなに絶望してしまうんだろう?」と感じることもそうですよね。きっとそれは、普段からみんながそういう気持ちを隠してしまうから、嫌なことがあったときにも自虐で逃げてしまう、ということに対する風刺になっていると思うんですけど、「カフカの東京絶望日記」では、それがユーモアたっぷりに表現されていて。「違和感があるなら、真っ向から向かって行ってみてもいいんじゃない?」というメッセージを面白く表現しているように感じたので、今の世に刺激になる存在かもしれないなと、いろいろと想像をかきたてられました。

──「何かからちゃんと立ち上がるためには、目を背けずに、一度ちゃんと絶望する必要があるんじゃないか」というメッセージが、あくまで面白く、楽しく表現されていると。

森久保祥太郎

森久保 そう思うんですよ。非を認めたり、痛みを認めたりすることって大変なことなので、どうしても目を背けたくなりますけど、「そこから始まることもあるんじゃない?」ということを、ユーモアのある形で表現できたらいいなと。そういえば、初めてラジオの生放送で「ZETSUBOU FUNK」をオンエアしたときに、Twitterでリスナーの反応を見ながら番組を進めていたら、「(楽曲としては)全然絶望してない!」という反応をもらったのも面白かったです。「そう! そこがポイントだよね!」と(笑)。

Shinnosuke カフカ本人は絶対聴かないでしょうね、こういう曲(笑)。最初に祥ちゃんから「ZETSUBOU FUNK」というタイトルが上がってきたときは、「それで大丈夫?」と聞いちゃいました。

──確かに、とてもインパクトのあるタイトルだと思います(笑)。

森久保 自分の中で、メロディを聴いたときに「ZETSUBOU FUNK」という言葉がうまくハマった感覚があったんですよ。そこで、これからまだまだ切り開いていきたいbuzz★Vibesの新しい一面を表現できたらいいなと思ってタイトルにしました。

Shinnosuke このタイトルが出てきたことで、サウンド面でも「もっとやり切ったほうがいいな!」と背中を押してもらうような感覚がありましたね。

──その結果、今回は皆さんがワイワイ楽しんで演奏しているような雰囲気が、楽曲に詰まっているような作品になったということですね。

Shinnosuke buzz★Vibesの場合、ここまで人力のグルーヴに寄せた曲はこれまでなかったので、そういう意味でもすごく楽しかったです。

森久保 コーラスにしても、ただコーラスとして引っ込んでいるのではなくて、まるでファンクバンドのライブのように、ボーカリストと一緒になって踊っているような雰囲気も出たような気がします。今回はミュージックビデオも、この曲のそういう楽しさが詰まっているものになったと思っていて、MVを撮りながら「ライブでもこんなふうに生バンドで演奏したいな」ということが見えた部分もありました。「Lantis Presents Original Entertainment Paradise -おれパラ- 2019」でのライブも楽しみにしていてほしいですね。

キャンプファイヤーのような雰囲気で

──一方、カップリングの「Earth goes round」は、「ZETSUBOU FUNK」とは正反対のやや落ち着いたムードが印象的な楽曲になっていると思います。この曲はどんなふうに制作を進めていったのでしょう?

森久保 まず最初に「ZETSUBOU FUNK」とは正反対のバラードにしようという話になって、そこからシネイド・オコナーのような雰囲気にしたい、というアイデアが出てきました。大きなサビが繰り返し重なっていくような曲にしたいという話をして。

Shinnosuke そのうえで、終盤に向けて大げさに盛り上げることもできるタイプの曲なので、そうなりすぎないようにバランスを考えていきました。

森久保 この曲はデモを作ってもらう段階でも、何テイクも考えてもらいました。最初はアウトロをもっと盛り上げるようなバージョンもあったんですけど、それは「buzz★Parade」(2018年3月発売のミニアルバム)の「BRAND NEW UNIVERSE」でもやったので、今回は違う方向性に振ってみようと。

Shinnosuke

Shinnosuke そこで、ストリングスの本数をカルテットに一気に絞っていきました。

森久保 この曲は、バンドでできる最低限の人数で、キャンプファイヤーのように車座で集まって演奏しているような雰囲気のものにしたいと思っていましたね。

──そうすることで、この曲ではコーラスがより際立って聴こえるようにも感じました。1つの曲の中でいろいろな種類のコーラスが楽しめると言いますか。

森久保 その部分はまさにその通りで、この曲は、コーラスが大きなポイントですね。これはコーラスで参加してくれたウルトラ寿司ふぁいやーのしょーりん(Vo)くんやJぺい(Vo)くんとも話していたことで、彼らからアイデアを積極的に出してもらいました。

Shinnosuke 1番と2番で、全然違うものが入っていたりして、その雰囲気はアカペラをやってきた人たちならではのものですよね。「Earth goes round」は曲自体がフレーズを淡々と繰り返していくタイプのものなので、そのコーラスのバリエーションがあったことで、曲が進むごとに雰囲気を変えてくれるような魅力が加わったと思います。

森久保 自分のフェイクのパートは、最後のセクションまで淡々と進んでいく中で、最後に「解放ー!」という感じで歌っていったので、自分にとっても面白い経験になりました。歌詞に関しては、もともとはGuns N' Rosesの「November Rain」のように壮大に盛り上がっていくものをイメージしていた曲が、音を間引いたことでキャンプファイヤーやキャラバンのような雰囲気を連想するようなものになっていったので、それを作詞を担当してくれたRUCCAさんに伝えて、歌詞を書いていただきました。その結果、古くからある歌のような、まるで民族のお祈りのような雰囲気の曲になったと思います。

Shinnosuke その結果、シングルのエンドロール的な雰囲気も生まれた気がしますね。

いろんな人たちの魅力が集まる、実験の場

──今回のシングルについて、お二人自身はこれまでとの違いを感じる部分はありますか?

Shinnosuke 今回は、これまでよりもおしゃれなものになったのかなと思いますね。

森久保 今までのbuzz★Vibesの作品にはビカビカした、チャラっとしたイメージもあったと思いますし、僕らはそれを狙ってやっていたんですけど、今回はまた違う雰囲気の作品になればいいなと考えていたんですよ。実際、今回はジャケットもこれまでとはまた違う雰囲気になっていると思うんですが、そもそもbuzz★Vibesは「いろいろなことで遊べる場所でありたい」と思って活動しているユニットなんです。なので、ウルトラ寿司ふぁいやーのような人たちと出会ったら、彼らと一緒に音楽ができるような場所でもあってほしいし、作詞家の方に歌詞を頼むこともできる場所であってほしいし、楽曲はもちろんShinnosukeがすべて担当してくれるし。そうやって、いろんな人たちの魅力が集まる実験の場のようなものにしたいと思っていて。まさに今回も、そういう作品にできたのかなと思っています。

──なるほど。いろいろなアイデアを自由に試して、遊べる雰囲気を大切にしたいと。

Shinnosuke そうですね。例えば、今回のジャケットやアーティスト写真、MVの雰囲気にしても、おじさんがピンクをテーマにするのっていいなと思うんですよ。そうやっていろんなアイデアを試せることが、buzz★Vibesのよさなのかなと思うので。

森久保 確かに、40歳を越えたらピンクが似合わないとね。

Shinnosuke そう、カッコいいと思う……と、ひとまず自分たちで言っておきます!(笑)

buzz★Vibes