映画館の素晴らしさを体感してほしい
田邊 監督の言う「主題歌も映画の一部」という考え方にもすごく共感できます。試写会で完成版の映像を観たとき、音響も最高だなと思いましたから。刀と刀がぶつかり合うときの効果音やSE、挿入歌、1つひとつの完成度がすごく高くて、うちのメンバーもめっちゃ興奮してました。
耶雲 シーンごとに「時代劇風」「コメディ風」「官僚モノ風」とテーマを設けて音楽の作り方を変えたので、こだわりを感じてもらえてうれしいです。“画音半々”という言葉もありますが、僕は画よりも音のほうが重要だと思っているんですよ。これ、あんまり大きな声では言えない話ですけど(笑)。だって映画は暗闇で観るもので、“暗”と“闇”という漢字にはどちらにも“音”が入っているじゃないですか。
田邊 なるほど! おしゃれ!
耶雲 暗闇の中でスクリーンだけがポンと光っている。そのときに効果を発揮するのが音なんですよね。
田邊 確かに。
耶雲 あと、音を付ける作業をダビング、その作業をする部屋をダビングスタジオと呼ぶんですが、ダビングスタジオは映画館と同じような環境なんですよ。
田邊 へえ!
耶雲 今はスマホでも映画は観られますけど、やっぱり映画館で観てほしいなという気持ちがあります。
田邊 そうですよね。それこそ今日「エブエブ」を観に行ったのが今年初の映画館だったんですよ。
耶雲 お忙しいですもんね。
田邊 制作やライブがずっとあったけど、今日やっと行けて、「やっぱり映画館はいいな!」と大泣きしちゃいました。真っ暗な中で映画の世界に没入できるのがやっぱり最高だし、帰り際にも余韻が残っていて「誰かに言いたい!」という気持ちになったりして。映画館の尊さはここからより加速してほしいですし、ぜひこの「映画刀剣乱舞-黎明-」で映画館の素晴らしさを体感してほしいですね。
耶雲 そうですね。
田邊 うちのメンバーも試写会のあと、「VFXスゲー!」ってキッズに戻ってましたよ。ベースの辻村(勇太)は歴史好きなので、「この場面はこういう時代で」と帰り際に解説してくれて。
耶雲 体感しないとわからないよさってありますからね。僕もこの前、BLUE ENCOUNTの武道館公演を観たときに「やっぱりライブっていいな」と思いました。ライブ会場で聴く音楽とヘッドフォンで聴く音楽では、ライブのほうが音はクリアではないんだけど、ライブならではの魅力があって。要は、聴覚だけじゃないんですよね。もちろん視覚もあるし、お客さんの盛り上がりによって、会場の温度が変わっているのも肌でわかる。それが体験できたのがすごくよかったです。だから、音楽におけるライブ鑑賞と映画館で映画を観ることはイコールに近いんじゃないかな?
田邊 確かに。現場に行って体感するエンタテインメントという意味では近いですよね。
耶雲 行った人だけが価値を感じられるエンタテインメントは、きっとなくならないと信じています。
僕にとっての“黎明”をこの曲で描くことができた
田邊 「映画刀剣乱舞-黎明-」を観て、邦画でこんなに痛快なアクションシーンがある映画はなかなかないなと思いました。
耶雲 チャンバラなんて今はほぼないですよ。
田邊 しかも渋谷のスクランブル交差点でチャンバラやってますからね!
耶雲 今回の映画には、「刀剣乱舞」で見たことがないことをプロの力で全力でやるというテーマがありました。
田邊 なるほど、そうなんですね! スクランブル交差点でのシーンは登場人物が大勢集結するから、もちろん「刀剣乱舞」ファンの方にとって胸熱なシーンだと思うんですよ。同時にハリウッド映画級に手に汗を握るシーンなので、僕もアクション映画ファンとしてめちゃめちゃ興奮しました。で、スクランブル交差点でのシーンが特に印象的だったので、「DESTINY」のアートワークもスクランブル交差点の写真にしようと思って。
耶雲 へえ、そういうつながりが! このアートワークも素敵ですよね。ここにも1つの物語を感じる。
田邊 フォントも何パターンか候補があって迷ったんですけど、刀剣男士1人ひとりの葛藤や責任、決意、物語を思ってこの書体に至りました。強すぎず、弱すぎず、揺れているような人間味を、「DESTINY」という楽曲や、この楽曲に付随するコンテンツで表現したいと思ったんですよね。
耶雲 田邊さんは映画に造詣が深いのもあって、トータルディレクションの才能がありますよね。
田邊 いやいや。せっかちで効率が悪いのが嫌なだけですよ。
耶雲 タイアップの仕事ってリクエストもいろいろとあるじゃないですか。リクエストに応える能力と、自分で世界を作る能力の両方を持ち合わせているのがすごいなと思いました。今回の場合、サブタイトルの「黎明」は夜明けという意味なので、映画を観終わったあと、ここからまた何かが始まると感じられるような主題歌がいいなと思ったんです。それで田邊さんには「明日へとつながる希望」というテーマでお願いして。
田邊 そういえば「このワードを入れてほしい」という具体的なオーダーはなかったですよね。「新たな夜明けに」という歌詞は映像を観て自然と出てきたもので、まさに僕にとっての“黎明”をこの曲で描くことができたんじゃないかなと思っています。試写会のときにもお伝えしましたけど、僕はこの映画に「DESTINY」という曲をより愛せるきっかけをもらいました。映画館で観たらまたイメージが変わるんだろうな。
耶雲 ぜひ映画館で観てください。特に最初の時期は、周りはみんな「刀剣乱舞」ファンの方々が多いと思うけど(笑)。
田邊 隣に座った人に「この主題歌、俺が歌ってるよ!」って自慢したいな(笑)。
耶雲 そのときはメガネをかけましょう(笑)。さっき、「僕は映画監督にはなれない」とおっしゃっていたじゃないですか。劇伴を担当したいという気持ちはあるんですか?
田邊 その気持ちはすごくあります。それこそ高校時代なんて時間があったから、DVDを無音で再生して、それに合わせてギターを弾いていたので。
耶雲 すごい。劇伴、ぜひやってほしいですね。というか、僕がお願いすればいいのか(笑)。
田邊 売り込みをかけているみたいで恐縮です(笑)。
耶雲 役者はやらないんですか?
田邊 いやー、僕みたいな人間には無理ですね。実は以前、オファーをいただいたことがあったんですよ。それで事務所でカメラを回してもらって、試しに演技してみたんですけど、僕は本気なのに、カメラの向こう側にいたチーフマネージャーがずっと笑っていて。「これはダメだ、やめよう」と思いました(笑)。
耶雲 もったいない! 自分じゃない人を演じるのはきっと刺激になりますよ。
田邊 もったいないことをしましたよね。そのときはお断りしたけど、今はお話をいただけるのなら一生懸命練習させていただこうという気持ちでいます。
耶雲 僕はお願いしたいなと思ってますよ。
田邊 えっ!
耶雲 こればかりは役や作品との出会いだと思うので、「機会があれば」という言い方になってしまいますが。
田邊 そしたらのちほど、事務所からプロフィール資料を送らせていただきます(笑)。
プロフィール
BLUE ENCOUNT(ブルーエンカウント)
田邊駿一(Vo, G)、江口雄也(G)、辻村勇太(B)、高村佳秀(Dr)の4人からなるロックバンド。2007年、田邊、江口、高村によって地元熊本で結成され、2009年に3人の進学先である東京の音楽専門学校で辻村が加わり現体制となる。2010年に1stミニアルバム「the beginning of the beginning」をリリースし、この頃よりライブハウスシーンで頭角を現すように。2014年2月に初のフルアルバム「BAND OF DESTINATION」を発売した。同年9月にキューンミュージックよりEP「TIMELESS ROOKIE」でメジャーデビュー。2016年10月に初の東京・日本武道館単独公演を、2021年4月には神奈川・横浜アリーナ単独公演を開催した。2022年11月にテレビアニメ「コードギアス 反逆のルルーシュ R2」のエンディングテーマ「Z.E.R.O.」をシングルリリース。2023年2月にミニアルバム「Journey through the new door」を発表し、ライブツアー「BLUE ENCOUNT TOUR 2022-2023」ファイナル公演として日本武道館公演を行った。3月に「映画刀剣乱舞-黎明-」の主題歌「DESTINY」を配信リリース。
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耶雲哉治(ヤグモサイジ)
映画監督、映像ディレクター。2000年にCMディレクターとして活動をスタート。2007年より映画館で上映されたCM「NO MORE 映画泥棒」の監督を務める。2014年に映画「百瀬、こっちを向いて。」で初めて長編映画を手がける。その後も「MARS~ただ、君を愛してる~」「暗黒女子」「映画刀剣乱舞 -継承-」「ライアー×ライアー」とヒット作を生み出す。2023年3月に新作「映画刀剣乱舞-黎明-」が公開された。