BiSH「GOiNG TO DESTRUCTiON」リリース記念|モモコグミカンパニーが綴る“7年目のBiSH”&アルバム全曲レビュー

2015年3月に結成され、今年で7年目に突入した“楽器を持たないパンクバンド”BiSH。2020年から続くコロナ禍の影響により観客の前でなかなかステージに立てない状況と戦いながらも精力的に活動を展開し、8月4日にメジャー4thアルバム「GOiNG TO DESTRUCTiON」を発表する。

音楽ナタリーでは新作リリースを記念して、モモコグミカンパニー執筆による活動7年目の今、思うことにまつわるテキスト、そしてアルバムの全曲レビューを掲載。結成時より多数の楽曲の作詞を手がけ、これまでに2冊のエッセイを発表するなど、作家としての顔を持つモモコならではの視点で今のBiSH、そしてアルバム収録曲への思いを綴ってもらった。

文 / モモコグミカンパニー(BiSH) 構成 / 田中和宏

BiSH 7年目の今、思うこと

モモコグミカンパニー

先日いただいたファンレターに「BiSHは高校時代からよく聴いていて、ライブにも行って、私の青春でした」という文を見つけた。送り主は現在専門学生として日々忙しく過ごしているという。私はこの言葉を読んだとき内心驚いてしまった。「私の青春でした」という言葉はほかの長年やっているアーティストさんや、バンドさんに似合う言葉で、自分の所属するグループにこんな言葉を使われる日がくるとは思っていなかったからだ。しかし、考えてみればBiSHは今年7年目に入り、誰かの大人になる過程の大切な青春時代に寄り添ったグループであってもおかしくないのだろう。ただがむしゃらに毎日を奮闘してきたグループ活動での日々は決して無駄にはなっていないこと、きちんと声を届けられていたことを誇らしく思う。きっと私たちBiSHは、誰かの青春を支え、それと同時に支えられながらここまで歩いてきたのだろう。

近年は、インタビューでもよく「過去のターニングポイントはどこか」「BiSHのルーツは何か」「これまでの活動で楽しかったこと、苦しかったことは」と未来よりも過去に関する質問を聞かれることも多くなったように思う。一瞬に思えた6年間は見方によっては長い時間なのだ。過ぎ去った時間に比例して世間や周りからのBiSHへのハードルも昔より上がり、個人に期待されることも増え、メンバーのソロ活動も活発になっている。それと同時に、6人それぞれが心のどこかで“自分とは何者か”ということも突きつけられている時期であるかもしれない。私たちはグループでBiSHとして同じ道を進んでいるのと同時に、それぞれが異なる自分だけの道を歩んでいる。それは、同じグループにいても、比較しようのない本当にそれぞれの道だ。私自身にとって、メンバーのソロ活動は表立って活動しているどの芸能人やアーティストよりも一番刺激があり、また勇気をもらえる存在でもある。土俵や方向性が違っていたとしても、全員が戦っていることに変わりはないからだ。私たちは、人によってはグループとしてすでに完成しきったと思われているかもしれない。しかし、私はBiSHとして活動する日々で、完成したとはどうしても思えない。過去に感じた種類とは違っていても、今だって現在の苦しみも楽しさも日々存分に噛み締めている。毎日を生き抜くことに精いっぱいだ。過去に負った古傷や大舞台、過ぎていってしまったものよりも、何よりも、いつだって今が一番新しくて、鮮明で、命懸けである。

コロナ禍になり、ライブ形態も以前とは変わり、お客さんとの接触も格段に減った。ライブ直後に楽屋ですぐに汗をぬぐったあと、同じく汗をかいて、顔を真っ赤にしているお客さんと会場で直接今日のライブの感想を聞くことができた特典会は私たちにとってもかなり貴重な機会だったことを再確認し、懐かしく思う。そこでは、そのとき活動するうえで、糧になったような涙の出るくらいうれしい言葉もたくさんもらっていた。それらはメモにわざわざ残さなくても、いまだに心に刻み込まれている。お客さんのライブ直後の肉声を、思えばここ数年聴いていない。だから、ここ1年と少し、時が止まったような感覚に陥ることもあった。しかし、時は確実に進んでいる。コロナ禍に突入した頃に出した3.5枚目のアルバム「LETTERS」や、無観客で行ったライブも、私たちの見えていない場所でもしっかりと1人ひとりに届いているはずだと信じたい。

そして、今回また新しくアルバム「GOiNG TO DESTRUCTiON」をあなたに届けるために世に放つ。このアルバムは今までの総括や振り返りでも、完成形でもなく、ただBiSHの等身大の今を突き付けられるものだと私は思っている。今までもらった思いも全部抱えて力に変え、前進するために破壊して、また未完成のまま歩き、新しい何かに出会うためにこの曲たちがある。

「GOiNG TO DESTRUCTiON」
全曲レビュー

モモコグミカンパニーから読者へのメッセージ

今回はありがたいことに、私の目線のアルバムレビューを書かせていただきましたが、これはあくまで、私が感じたことであり、もっともっと皆さんそれぞれの聴き方があると思っています。あなたの感じたことと照らし合わせて、違うな、一緒だなと楽しんでもらえたらうれしいです。そしてよかったら、私にも教えてくださいね!

01 CAN WE STiLL BE?? [作詞:松隈ケンタ×JxSxK / 作曲:松隈ケンタ]

過ぎ去った時間があって今があるように、今がなければ未来もない。いつだって今が命懸けで、どこかに行き着くためには立ち止まることはできない。だから出会った僕らは手をつなぎ寄り添って今を一緒に生き抜いていく。不器用だけど力強い結束と意思を貫き通し、アルバムを引っ張ってくれている。

02 in case... ※テレビアニメ「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」オープニングテーマ [作詞:JxSxK / 作曲:松隈ケンタ]

「未完成」は、未知の可能性を含んでいるわくわくしたものだ。答えのすぐにでない難解な物事や、乗り越えられなそうな壁だって、見方を変えれば楽しみながら立ち向かっていけそうだ。クセになるラップ部分や、ライブでの「ゴジラ」のニュアンスも含んだ振り付けもぜひ見ていただきたい。

03 STACKiNG ※テレビアニメ「キングダム」第2クール オープニングテーマ [作詞:竜宮寺育 / 作曲:松隈ケンタ]

わかるようで、いや、わからない。だけど、わかる。そんな「サラバかな」(2015年発表の1stアルバム「Brand-new idol SHiT」収録曲)のような“BiSHあるある”の歌詞は、この曲の独特な世界観を前面に引き出している。その中に潜む確固たる熱いものをぜひ感じていただきたい。いつも、メンバー個々の個性に寄り添ってそれぞれを生かしてくれている大喜多正毅監督のミュージックビデオにも注目。

04 BE READY ※スマートフォン向けゲーム「ラグナドール 妖しき皇帝と終焉の夜叉姫」主題歌 [作詞:JxSxK / 作曲:松隈ケンタ]

「これぞ、王道松隈サウンド!」と私が“勝手に”思っている1曲。BiSHの個性をいつも最大限に引き出してくださる松隈さんには本当に脱帽である。後半のリンリン、アイナの思い切った叫びは本当に気持ちがいい。随所にあるユニゾンを誰と誰が歌っているのか予想しながら聴くのも楽しそうだ。

05 ZENSHiN ZENREi ※フジテレビ系「レンアイ漫画家」オープニングテーマ [作詞:松隈ケンタ×JxSxK / 作曲:松隈ケンタ]

「DEADMAN」(2016年発表のメジャー1stシングル)を彷彿とさせる、潔い曲の短さ。この曲をライブでやっていると、中盤でもさらに体が動くようになるから不思議だ。疲れてなんていられない、もっと前へ前へ!と背中を押されまくるエールのこもった1曲。BiSHが全身全霊で届ける、愛嬌満点(?)の愛をぜひとも受け取っていただきたい。

06 NATURAL BORN LOVERS [作詞:アイナ・ジ・エンド / 作曲:松隈ケンタ]

壮大でエモーショナルなサウンドに乗った、生まれたてのような素直な愛をひしひしと感じられる、実にアイナらしい言葉たち。信じること、愛を伝えることは時に怖い。けれど、それらを見て見ぬふりをするわけにはいかない。「優しい世界」にするにはどうしたらいい? この曲に手がかりが潜んでいる。

07 I have no idea. [作詞:竜宮寺育 / 作曲:松隈ケンタ]

この曲はアルバムの中でも特に異彩を放っている。とにかく頭を空っぽにして聴いてみてほしい。BiSH内でもお気に入りに挙げるメンバーが多く、ライブでやったら盛り上がりそうとみんなで話していた。ライブで声出しができるようになったら、“あの部分の歌詞”を恥ずかしがらずに一緒に叫んでみましょう!

08 WiTH YOU [作詞:モモコグミカンパニー / 作曲:松隈ケンタ]

自分の作詞でもあり、個人的にはかなり思い入れが強い。作詞する際、これまでのようにデモを聞いてからではなく、デモを聴く前に今回の“破壊アルバム”に残したい言葉をメモに残した。その言葉たちがうまく当てはまり、生き生きと輝きだしたのがこの曲だった。とにかく、あなたに!聴いてほしいのです!

09 狂う狂う [作詞:セントチヒロ・チッチ / 作曲:松隈ケンタ]

メンバーで作詞をした4曲のうち、私はこの曲は不思議なデモ音源で作詞がしづらいなと後回しにしていた。しかし、チッチは「聴いたことのないメロディで面白そう」と言って、楽しそうに作詞をしていた。クセになるメロディで好奇心を忘れずに未知の世界に飛び込む楽しさを教えてくれる1曲。

10 MY WAY [作詞:松隈ケンタ×JxSxK / 作曲:松隈ケンタ]

「他人と違っても、少し不器用でも、大丈夫。そのまま自分を信じていけ!」と背中を押してもらえる、優しくて力強い1曲。自信をなくしていたり、今を迷っていたりする人にぜひとも聴いていただきたいと思う。BiSH内でも歌詞に共感するメンバーが続出。余談だが、この曲のデモタイトルは「モモコはモモコ」(笑)。

11 Beginning, End and Beginning [作詞:アユニ・D / 作曲:松隈ケンタ]

ゴリゴリの重低音にさらにアユニ・Dの力強い言葉が加わり、アルバムの中でもとにかく強気。突如現れるキャッチーなフレーズはBiSHのルーツを彷彿とさせ、聴いていくと破壊からまた希望が生み出されるとんでもない瞬間を目の当たりにした気分にもなる。歴史と血がめぐるヘビーな1曲、心して堪能あれ!

12 STORY OF DUTY ※「Call of Duty:Mobile」タイアップソング [作詞:アイナ・ジ・エンド / 作曲:松隈ケンタ]

長引くコロナ禍の中で、先の見えない不安を覚えていた頃にこの曲を出したのを覚えている。そんな真っ暗に思える状況下でも、どこかに「切り開く方法はある」と勇気をもらえた。軍艦島で撮影したMVはメンバーそれぞれが必殺技を使っている。あなただけの必殺技もきっとあるはず、一緒に戦おう。

13 BROKEN [作詞:JxSxK / 作曲:井口イチロウ]

作曲は「Primitive」「My distinction」も手がけてくださった井口イチロウさん。時が進んで、昔より大人になったはず。それなのに、簡単なことはどんどん難しくなっていき、大切なものほど手を付けられなくなってしまう。弱さ、不甲斐なさ、焦り、7年目に入ったBiSHだからこそ、きっと歌うことのできる等身大の今の叫び。

14 STAR ※読売テレビ「ボクとツチノ娘の1ヶ月」主題歌 [作詞:アユニ・D / 作曲:松隈ケンタ]

アルバムの最後を締めくくるのはこの曲。ライブでイントロが流れた瞬間に空気が一気に優しくなるのをいつも肌で感じている。思いの詰まった「空」をきっと誰しもが持っているのではないだろうか。屋上の空の下で撮影したシンプルで愛のこもったリリックビデオも併せてご覧いただきたい。