ラブソングは歌わないけど、晴一さんの曲なら
──ポルノグラフィティの新藤さんが詞曲を手がけた「ゴースト」は、Bimiさんにとって初めてほかのアーティストから提供された楽曲ですが、どんな経緯があったんでしょう?
俺が俳優の仕事で「a new musical『ヴァグラント』」っていうミュージカルの主演をやらせてもらったとき、晴一さんが原案やプロデュースを担当されていて、そこから仲よくさせてもらっています。「軽トラ」の味変と同じようなテンションで「俺、アーティストもやってるのでライブ観に来てください」と言ったら本当に来てくれて、今ではギターを貸してもらったり、すごくお世話になってますね。その流れで「曲を書いてください」とお願いしました。
──ストレートなミドルテンポのバラードです。
晴一さんは言葉選びがロマンチックで情熱的なんですよね。そこに情緒が加わった歌詞を書かれる方で。俺も共通する部分があるので、なんのノイズもなくスッと歌えました。晴一さんは楽曲提供されてきた中で今回初めてギターを弾いたらしくて、かなり貴重ですよね。
──どんな曲がいいかリクエストはしたんですか?
「凌大が普段書いてるようなラップ曲は俺には書けんけ。どういう形で作りたい?」と聞かれたので「作詞作曲はすべてお任せします。俺に歌わせたい曲を書いてください」とお伝えしました。そうしたらラブソングが上がってきたので「晴一さん、ふざけてるな」と思いました(笑)。俺が歌うときのお客さんの反応って「ウォー!」って感じなので、「キャー‼」っていう反応が見たいからこういう曲にしたって言ってました。晴一さんぐらい才能のある方が作った曲じゃないと、基本ラブソングは歌わないので、俺をうまく動かしてくれたなと思います。おかげで曲の幅も広がって、なんでも歌えることをアルバムで証明できた。自分が小さい頃から第一線で活躍している人が、損得勘定じゃなくひと肌脱いで曲を書いてくれたのは自信になりますよね。リスペクトが増しますし、その気持ちをないがしろにはできない。くすぶってたときの自分が報われました。
──アルバムの中で「ゴースト」と「Nemo」のストレートな歌唱が際立っていますよね。
「Nemo」が先にできたんですが、「Nemo」の歌詞で俺が「眠らせてくれ」と書いていて、「ゴースト」では晴一さんが「眠らせてほしい」と書いてるんです。晴一さんは「Nemo」を聴いてたわけじゃないのに。感性が似てるんだなと思って、うれしくもあり恥ずかしかったですね(笑)。
──「Nemo」は4月28日に行われる27歳の誕生日ライブ(「Bimi Live Galley #04 -Dear 27th-」)のために作った曲なんですよね。
はい。27歳までの自分を供養するために書き下ろした曲なので、悲しい気持ちもありますが、いい曲だと思っています。この曲もちゃんとバラード調の歌い方をしてます。ほかの曲は勢いで歌ってる部分もあるんですが、「Nemo」と「ゴースト」はかなり丁寧に歌ってますね。
衝動が収まって余裕が出てきた
──そのあとに「27th-味変-」が収録されていますが、27歳になるにあたって味変しようと思ったんですか?
はい。もともとの曲はベランダでタバコを吸いながら作った、単音で素朴で物悲しくてローファイでチルな曲ですけど、そのときはインディーズでスタッフが少ない体制で活動してて。実際27歳に近付いてきた今はBimiのために動いてくれる人がかなり多くて、前みたいな孤独感はなくなってるんですよね。だから、前よりゴージャスな曲になりました。
──もとの「27th」は遺書のような曲だなと思ってました。
あの頃は本当に孤独だったので。今の自分が孤独を歌っても説得力がないんですけど。
──アルバムにはたくさんゲストが参加していますし。
そう、「どこが孤独やねん!」って話なので(笑)。1人で活動を始めて孤独に苛まれてた時期の曲を今だとこう歌えるよねっていう、ビルドアップをした感じです。
──そこには孤独ではなくなった現状への喜びはあるんでしょうか?
寂しさはなくなっていったんですが、お世話になった人にちゃんと恩を返さないとっていう気持ちが強くなってきました。そういう意味でも独りよがりだった自分とは決別しなきゃいけないと思ったので「27th」というお別れの曲でアルバムを締めました。
──「Nemo」は自分を供養する曲ということですが、同じく27歳の誕生日ライブのために作ったという「暴食」は活力を取り戻していくような曲だなと思いました。
そうですね。「Nemo」と「暴食」は真逆のイメージですね。「暴食」に「死にたがりのガリ 筋トレ倍の倍」って歌詞があるんですが、俺は死にたがってたけど筋トレしたおかげでメンタルが安定して。
──(笑)。「暴食」は新しい自分に向けての曲という位置付けなんですか?
いや、やり場のない衝動をぶつけながら書いたので、暴走モードの曲ですね。自分の好きなマキシマム ザ ホルモンっぽいラウド・シャウト系の曲を歌っていこうと。音楽を“食べまくって”どうしようもなくなってるイメージの曲です。1曲目の「辻斬り」には“暴食”をしたあとの、自分の精神状態が出てますね。ちょっとゆったりしたR&Bですけど、なんの誇張もすることなく出てきた言葉をつづって超ラフに作りました。けっこうストイックなラップだし、歌モノとしても耳に残る。「Bimiってどういうやつ?」と聞かれたときに「こういうR&B系の曲も歌うし、ラップもするよ」という名刺代わりの曲になってると思ったので、1曲目に選びました。以前はどちらかというと「なんでお前らは聴いてくれないんだよ」みたいな気持ちを込めた衝動的なラップだったと思うんですが、そういう勢いが収まった感覚があります。自分に余裕が出てきたっていうのもありますけど、余裕を持つことは諸刃の剣でもあるので、焦りはありますね。表現をするうえで新しい原動力を作っておかないと、と思ってます。
スターになれなくても
──27歳になったら、どんなBimiになりたいですか?
一度“墓”を建てて、そこからどう転がるかは自分でもまだわからなくて。27歳になって初めて生まれる感情もあると思うので、今はその感情にちゃんと備えられるようにしたいですね。新しい自分を見つけていかなきゃいけないと思ってるけど、独りよがりにならないように今いる環境にしっかり身を委ねたうえでカマせればいいなと思ってます。その時々の環境でやるべきことをやって技術を磨き続けていたら、俺が見たい景色には近付けるはず。自分の環境や一緒に目標に向かう人たちを大事にして、周りに軌道修正してもらいながら目指したいですね。そうやって続けてきた結果が今回のアルバムに出ていると思います。
──「R」ができたことで「Bimiってこういうアーティストだな」と改めて感じたことはありますか?
「なんでも作れるな」という手応えが自信になりましたね。Bimiというアーティストとして自信を持っているけど、作品として残さないとほかの人に伝わらないから。ちゃんとパッケージになったことで「こいつってなんでもできるタイプの人間なんだな」とわかってもらえるのかなと思います。あと、今後は自分のプライドだけで依頼を断ったりせず、ダサいことはしないけど、もっと柔軟にやっていきたいですね。27歳を前にして、いい意味で吹っ切れてます。もういつ死んでもいいっていうか。27才になるまでもずっと「いつ死んでもいいや」と思ってたけど、「今死んだらダサいままだな」という気持ちも生まれていて。今は成功するかどうかはあまり関係なくて、いい作品にしたいというところに意識が向くようになってる。人生のゲームが一度終わって、いい意味で燃え尽きたあとみたいな感じです。
──思い描いてた27歳と比べるとどうですか?
正直ちんけだなって思います。自分が思い描いていた27歳は“孤独なロックスター”だった。自分が思う孤独なロックスターはアイコン的に人気者になっても、本質を理解してくれないファンがいて、そこで齟齬が生まれて寂しさや孤独感で亡くなってしまう。そういう存在に憧れていたから、スターになれなかったことに対する寂しさはありますが、なれなくてよかったなとも思う。「今は今でいいかな」というマインドになれたのはよかったと思います。
──今のBimiさんには理解者もいるわけですし。
そうですね。俺以上に影響力のある人たちがBimiの活動に乗ってくれてる自覚があるので、アーティストとして面白いことがやれてる自信はあります。だから27歳で1回燃え尽きてるんだけど、この先もうまいこと転がっていくでしょっていう気持ちがある。
──4月から7月にかけてアルバムのリリースツアーが開催されます。
お客さんにはお酒をおいしく飲んでもらって、それぞれが主人公として楽しんでもらいたいですね。俺はライブにおいて別に主人公だと思ってないんで。だからあまり気負いせずにふらっと来てくれたらうれしいですね。楽しい時間を提供しますから。
──初日の石川と2日目の長野公演が終わったあと、27才の誕生日当日となる4月28日には、ツアーとは違う「Bimi Live Galley #04 -Dear 27th」というライブが行われる変則的なスケジュールになっています。
超楽しいツアーにしようと思ってるんですけど、「Galley」では“生前葬”をやるイメージです。演出も入ってもらってコンセプチュアルに見せるショーケースという感じですね。自分の曲が舞台の劇中歌になるイメージっていうか……芝居は俳優の仕事のときだけで十分なので、芝居はしないですけど(笑)。
公演情報
Bimi Live Galley #04 -Dear 27th-
2025年4月28日(月)東京都 Spotify O-EAST
Bimi Release Party Tour 2025 -R-
- 2025年4月26日(土)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2025年4月27日(日)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
- 2025年5月10日(土)静岡県 LIVE ROXY SHIZUOKA
- 2025年5月11日(日)愛知県 名古屋ReNY limited
- 2025年5月17日(土)宮城県 darwin
- 2025年6月6日(金)大阪府 BIGCAT
- 2025年6月8日(日)福岡県 DRUM Be-1
- 2025年6月14日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2025年6月15日(日)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2025年7月6日(日)東京都 Spotify O-EAST
プロフィール
Bimi(ビミ)
1998年4月28日生まれ、千葉県出身。廣野凌大として俳優活動を行う傍ら、2021年6月に配信シングル「Tai」でアーティストデビューした。2023年10月にはキングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSからメジャーデビュー。2024年3月に1st EP「心色相環」、2025年4月にメジャー1stアルバム「R」をリリースした。