“生きたもの”を大切にするコンサート
──コンサート中に自分の想像を超えるような瞬間はありますか?
高井 もちろんあります。指揮者の場合はオーケストラと向き合うので、大勢を相手にコミュニケーションを取る分、常に新しいものが生まれていくと思います。自分が想定したよりもはるかにいい音が返ってくると、グッとくるものがありますね。
飯田 舞台では“相手との交流”と僕らは呼んでいるんですけど、毎日同じセリフを同じタイミングでしゃべっていても、あたかも初めての掛け合いに思えるようなときがあって。相手のちょっとしたリアクションに感化され、ライブならではの面白さが生まれる。そういう“生きたもの”を大事に、みんなで同じ方向を見て今回のコンサートも作っていけたら、おのずといいものに仕上がるのではと思います。熱々のマグマが徐々に火口に向けせり上がっていくみたいな……。1曲の中でも、コンサート全体を通しても、そういうふうに盛り上がっていけたらいいな。
高井 編曲監修を務める山下康介さんのアレンジもすごく楽しみです。そのうえでどれだけオーケストラの魅力を引き出せるのかというところが、私の責任。そこはがんばるしかないですね。
飯田 コックさんみたいなイメージがあるよね、指揮者って。集めた食材をいかに料理するか、みたいな。
高井 まさに指揮者のことをシェフと言うことがあるんですよ。例えば料理をする際、同じレシピを使っても作り手次第で同じ味になるとは限らないじゃないですか。料理人の腕や個性の見せどころですよね。話を音楽に戻せば、楽譜は料理のレシピと同じです。そしてオーケストラというのは料理人や食材の集まりで、それぞれの個性がぶつかり合う場なんです。
飯田 似た者同士を掛け合わせたら普通においしいし、はたまた全然違ったものと合わせてみたら意外なおいしさがあった、とか。
高井 アレンジャーが提案してくれたレシピをもとに、どんなさじ加減でおいしく魅力的な曲たちを届けられるか……乞うご期待ということで。
──高井さんは普段クラシックを中心に指揮されていると思いますが、今回のようにミュージカルなど他ジャンルの楽曲で指揮を振れる機会をどう考えていらっしゃいますか?
高井 クラシック以外でも好きな曲はたくさんありますし、そのようなものに取り組める機会もとてもうれしいです。そしてアレンジも楽しみですね。初めての曲を振るときは、まずは譜面の情報をしっかりと読み込みます。特にミュージカルやポップスの曲はオリジナルのイメージが強かったりするので、原曲ではどう演奏されているのかを勉強しながら、最終的にきちんと自分のものになるようにしていきます。
飯田 僕もまずは譜面から当たっていきますね。あと、歌ううえで言葉からのイメージも大事で。「曲が最高潮になるサビの部分に一番伝えたいことが詰まっている」とか、「リズミカルな英語に対し、日本語には奥ゆかしさのようなものがあって、言葉の裏に大きな意味が含まれている側面がある」とか。俳優として、「音楽的に何を伝えるか」を常に考えています。日本語訳のミュージカルの曲の場合、オリジナルの言語のバージョンには作曲家や作詞家の意図が反映され、モデルとして一定の表現が求められるのかなと思います。そこは大事にしつつ、単なるコピーや偽物にならないように、自分らしさを探っていきたいです。
高井 オーケストラなど器楽の演奏では歌詞は登場しません。ですが、歌詞のない音楽も“言葉”のリズム感と無関係ではありません。「これがオペラだったらどんなシーンの表現なのか」とか、器楽だけの曲でも考えることがあります。
敷居も含めて楽しんでいただけたら
──クラシックのコンサートを「敷居が高い」と身構えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。そうした先入観をお持ちの方に何かを伝えるとするなら?
飯田 ミュージカルもそういったイメージをお持ちの方がいらっしゃいます。どうやったら敷居がなくなるんだろうと考えちゃいますが……実際に来ていただいたら客席に身を預けて楽しむだけなんですけどね。録音、再生されたものと違って、生の人間の息吹を感じながら、プロフェッショナルなパフォーマンスを間近で観られるのはとても素敵なこと。僕自身そこに魅せられてこの仕事に就こうと思ったわけだから、ライブの魅力を普及していく立場にいるのかなと思っています。
高井 音楽という偉大なる文化遺産をどうやって次世代につないでいくのか──。飯田くん同様に、私も音楽をやっているうえで作品や音楽という伝統文化の素晴らしさを、ひとりでも多くの方に伝えていくことが使命だと思っています。他力本願のようで申し訳ない気もするのですが、今回みたいに、飯田くんのような影響力のある方がオーケストラに入ってくださることで、多くの方がコンサートに足を向けていただくきっかけになったらうれしいなと正直に思います。そしてよく言われる敷居についても、それも含めて楽しんでいただけたらなと。例えばドレスコードのあるレストランなど、特別な空間に足を踏み入れる楽しみもあるじゃないですか。着飾る手間もかかるし、お値段も張るけれど、普段とは違う非日常の世界に行ける。そんな感覚でクラシックコンサートも楽しんでいただけたらいいのかなと思います。
飯田 いろんな仕事がAIに取って代わられるような世の中になってきましたが、僕はライブコンテンツはまだまだ大丈夫じゃないかと思っていて。生きた人間が奏でる音楽や紡ぐ言葉によって、その日集った大勢のお客様の心が動く。とにかく“生きている”ってことが大きいのではないでしょうか。
高井 舞台上にいる生身の人間の真剣勝負。その緊張感を味わうこともできますし、感情を共有できることの喜びにも大きな意味があるのではないかなと。
飯田 とにかく、その日その場所でしか共有できない瞬間に没入し、その時間だけは悩みや不安を忘れ去って楽しんでいただきたい。きっと何かしら心を豊かにするものがあると思うので、ぜひ会場に足を運んでいただきたいです。
高井 人々の心を豊かにしていく。それも私たちに課せられた使命ですね。
──改めてコンサートへ向けた思いを聞かせてください。
飯田 舞台上では1対50くらいになるのかな。オーケストラの方々が背後を力強く支えてくださるんだと思いますが、伴奏ではなく、ともに走る方の“伴走”になるといいな。一緒に前に向かって走っていく感じ。
高井 一緒に走りますよ!
飯田 先ほども話したように、まさに一緒に作る感覚。とにかく楽しみです。
公演情報
billboard classics YOSUKE IIDA Premium Symphonic Concert -MAESTOSO-
- 2026年7月3日(金)東京都 東京芸術劇場 コンサートホール
OPEN 17:30 / START 18:30 - 2026年8月8日(土)京都府 京都コンサートホール 大ホール
OPEN 17:00 / START 18:00
出演者
飯田洋輔
指揮:高井優希
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(東京公演) / 大阪交響楽団(京都公演)
編曲監修:山下康介
プロフィール
飯田洋輔(イイダヨウスケ)
福井県出身。東京藝術大学声楽科在学中に劇団四季入団し、20年にわたり在籍。「キャッツ」「オペラ座の怪人」「美女と野獣」「壁抜け男」などのミュージカルでメインキャストを務め、重厚感ある声と豊かな表現力で圧倒的な存在感を放った。23年末に劇団四季を退団後、ミュージカル「レ・ミゼラブル」でジャン・バルジャン役を演じ、“世界三大ミュージカル”すべてで主要役を務めた、世界でも数少ない俳優の1人に名を連ねる。現在は舞台出演に加え、音楽アーティストとして、昨年初シングル「Departure Bell」をリリース。その他TV出演など活動の幅を広げている。
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高井優希(タカイユウキ)
幼少よりピアノを学び、成蹊高等学校卒業後、東京藝術大学指揮科およびライプツィヒ・メンデルスゾーン音楽演劇大学指揮科を卒業。東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団といった国内主要オーケストラに加え、ローマ・イタリア管弦楽団など海外の楽団とも共演を重ねる。第4回黒海指揮コンクールでは第1位受賞。2021年3月までセントラル愛知交響楽団アソシエイトコンダクターを務めた。武蔵野音楽大学などで後進の指導にあたり、NHK「LIFE!」での指揮指導も務めるなど幅広く活動している。



