Awesome City Club「Get Set」特集|蔦谷好位置が連れて行く、これまでのACC像の向こう側 (2/2)

「これが欲しかった!」と思えるアレンジ

──そんな中で完成したアルバム「Get Set」ですが、蔦谷さんはどんな印象を持ちましたか?

蔦谷 すでに4回くらい通して聴かせてもらいましたが、すごく面白かったです。さっき話したオーサムらしさが詰まっているし、バラエティにも富んでいて。個人的には「you」の、「透明な糸に気づけない素振りで 測る僕らのスタンス 伴奏の無いダンスみたいだ」という歌詞がめちゃくちゃ響きました。

atagi うれしいです。ありがとうございます。

蔦谷 それから「雪どけ」は横山裕章くんのアレンジも秀逸ですよね。シンプルなピアノで始まり、その刻みがだんだん細かくなっていく。Bメロからドラムが少しだけ入ってきて、サビで「ドン!」となったあとに2番からアコギが入ってくるんです。こうやって徐々に音を重ねていくことで、雪が少しずつ降り積もっていく過程や、恋人たちの気持ちが徐々に昂っていく様子を表しているように思えて。僕は雪国出身なので、情景がありありと浮かんできます。

左からatagi、PORIN、蔦谷好位置、モリシー。

左からatagi、PORIN、蔦谷好位置、モリシー。

──冒頭曲「On Your Mark」は蔦谷さんのプロデュースですが、これはどのように決まったのでしょうか。

atagi 昨年11月くらいに、パラスポーツアニメ「アルペンスキー編」のテーマ曲のオファーをいただいて。デモが完成した段階で「この曲は蔦谷さんと一緒に作りたい」とスタッフに相談したんです。「勿忘」を作ってみて改めて思ったのは、やっぱり僕は「はみ出しの美学」が好きなんだなということでした。「自分たちのキャパの外側へはみ出すためにはどうしたらいいか?」を常に考えているというか。「この人とご一緒させてもらえば、自分たちでも気付いていないような僕らの魅力を引き出してくれる」と思わせてくれるような人との出会いを求めているんですよね。これもご縁だと思ったのですが、昨年「MUSIC FUN !」という番組で、蔦谷さんと対談させていただく機会をもらったんです。それ以来、「今のオーサムをはみ出させてくれるのは蔦谷さんしかいない!」と思うようになって。

──確かにこれまでのオーサムからははみ出した曲というか。イントロのハードロックっぽいギターからして驚かされました。

蔦谷 最初のデモはサビのメロディだけで。「これ、いいなあ!」と思いつつ、サビじゃなくてAメロにもできそうだなと思っていたら全体のデモが送られてきたんですよ。「パラリンピックの楽曲ということは、スポーツか……」と思って。曲名通り、位置についたときの緊張感と、神経が研ぎ澄まされて、世界の解像度がグッと上がる、いわばゾーンに入ったときの感覚。それをうまく表せないかなと。力強さを表すために休符も絶対に入れたくて。無音をどう入れようかずっと考えていたら「ギターリフだ!」と思い付きました(笑)。

モリシー ここ最近の自分の中にはないサウンドで、すごく新鮮でした。10代の頃の自分が盛り上がるような雰囲気というか(笑)。20代だと斜に構えて「こういうフレーズは弾きたくない」と言いそうですけど、それが35歳にもなると1周回ってめちゃくちゃワクワクするんですよね。自宅でギターを録音していたのですが、終始テンションが上がっていました。タイムマシンで10代の頃の自分に会いに行ってこの曲を渡したら、きっと感動すると思います。

atagi それでいて、どこかセクシーなんですよね。ファットだし、力強いし、オーサムでこれができるのかな……と一瞬怯むくらいのパワーがあるんですけど、でもどこか艶があるのが一筋縄ではいかない。

atagi

atagi

蔦谷 確かに、今までのオーサムにはこういうヘビーな楽曲はなかったと思うし、そういうところを引き出そうと思ってトライした部分もありますね。Aメロなんかはプリンスをリファレンスにしているところもあって。艶っぽくて、でもビートが強い、ミネアポリスなファンクサウンドを今風にできないか試行錯誤しました。あと、今回アレンジにKOHDくんという、関西を拠点に活動するエレクトロユニット・XYLÖZのメンバーに参加してもらったんですよ。まだ20代だけど非常に才能があるし、僕1人で完結するより彼の客観的な視点が入ったほうがいいなと。

atagi 映像が見えるアレンジだなと思いました。しかも、自分が持っていたイメージとめちゃくちゃリンクしていたのにびっくりして。Aメロはスタートラインに立ったアスリートが心臓をバクバクさせながら、時間が止まるような静寂の中にいる情景を描写して、Bメロではアスリートの内面的な部分……恐怖に向き合う心理を歌ってサビで爆発する、というようなストーリーを頭の中に構築していたんです。本当は、こういうディスカッションを事前にしてから作業に入るんですけど、それがなくともこれほどシンクロするような、「これが欲しかった!」と思えるアレンジに仕上げてくださって、ものすごくうれしかったですね。

蔦谷 あの時期のオーサムは、ディスカッションの時間なんてとても作れないくらいエグいスケジュールだったもんね(笑)。とにかく、今話したようにアレンジの部分ではKOHDくんに助けられた部分は大きい。音色を差し替えてくれたり、判断に迷ったときに一緒に考えてもらったり、自分が気付かないところを気付かせてくれるという意味で貴重な存在でした。

3人で活動することの心強さ

──「自分が気付かないところを気付かせてくれる存在は貴重」というお話がありましたが、そういう意味においてオーサムはグループで活動していることに心強さを感じることはありますか?

atagi ありますね。僕みたいな後ろ向きの性格の人間が1人でやっていたり、あるいは同じような性格のメンバーとバンドをやっていたりしたら地獄だと思うので(笑)。2人がこういう性格で救われています。

蔦谷 あははは。バンドではPORINちゃんが引っ張っていく感じ?

PORIN いや、わたしはけっこう気分屋かもしれない(笑)。根アカではあるんだけど。

atagi 根アカの気分屋やね。

PORIN そう。だから扱いづらいと思います(笑)。

atagi そんなことないよ。僕はいつも助けてもらってる。

──モリシーさんが一番安定しているんですか?

モリシー そう言われがちなんですけど、そんなことないですよ(笑)。でもまあ、一番楽観的なタイプではあるかもしれない。3人の中ではもっとも何も考えていないです。「どうにかなるんじゃなーい?」って感じ(笑)。

モリシー

モリシー

atagi でもそういう人が必要なんだよ。

PORIN そうそう。モリシーは平和の象徴ですね。ハト!

──(笑)。では最後に、蔦谷さんとタッグを組んだ感想を改めて聞かせてもらえますか?

PORIN 蔦谷さんって、めちゃくちゃ前向きですよね。お話をしているとポジティブオーラがすごくて。歌録りのときもそうでしたけど。

atagi なんかフレッシュな感じがありますよね。初めてご一緒しましたけど、たぶん蔦谷さんは毎回こんな感じで、フレッシュにレコーディングしているんだろうなというのを感じました。

PORIN そうだね。朝の空気みたいな感じ。

蔦谷 本当に? 今年46歳だけどうれしいな(笑)。今度また「勿忘」を超えるような大ヒット曲を一緒に作れたら最高ですよね。

atagiPORINモリシー ぜひ!

左からatagi、PORIN、蔦谷好位置、モリシー。

左からatagi、PORIN、蔦谷好位置、モリシー。

公演情報

Awesome Talks - One Man Show 2022 -

  • 2022年4月2日(土)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年4月3日(日)大阪府 Zepp Namba
  • 2022年4月10日(日)東京都 Zepp Divercity(TOKYO)
  • 2022年4月15日(金)北海道 Zepp Sapporo
  • 2022年4月17日(日)宮城県 チームスマイル‧仙台PIT
  • 2022年5月1日(日)福岡県 Zepp Fukuoka

プロフィール

Awesome City Club(オーサムシティクラブ)

2013年に東京で結成された男女ツインボーカルのグループ。ポップス、ロック、ソウル、R&B、ダンスミュージックなど、メンバーそれぞれの幅広いルーツをミックスした音楽を発信している。2015年4月にデビューアルバム「Awesome City Tracks」をリリース。メジャーデビュー5周年となる2020年にレーベルをavex / cutting edgeに移籍し、2021年2月にフルアルバムとしては3枚目となる「Grower」をリリースした。同作に収録されている、映画「花束みたいな恋をした」のインスパイアソング「勿忘」が各ストリーミングサービスで上位にランクインし続け、関連動画を含む総再生数は10億回を突破。同年12月に「NHK紅白歌合戦」への初出場を果たした。2022年3月には4thアルバム「Get Set」をリリースし、同年4月より約2年ぶりとなる全国ツアー「Awesome Talks One Man Show 2022」を行う。

ヘアメイク / 久慈愛(LUCK HAIR)スタイリスト / 池田未来(インザピンク) (PORIN)トップス 20900円 / サイクルバイワイエムオービー
(モリシー)シャツ 33000円 / ブルーナボイン
上に着たシャツ 19800円 / ワンジー

(atagi)パンツ 24200円 / イールプロダクツ

蔦谷好位置(ツタヤコウイチ)

1976年生まれ、北海道出身。agehasprings所属の作曲家、音楽プロデューサー。YUKI、ゆず、エレファントカシマシ、米津玄師、Chara、JUJU、絢香、back number、Official髭男dismなど数多くのアーティストのプロデュースを担当するほか、映画やCM音楽なども幅広く手がけている。また2018年には自身の変名プロジェクトであるKERENMI(ケレンミ)を始動。Official髭男dismの藤原聡を迎えたコラボ曲や、テレビ東京系ドラマ「電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-」の劇伴や主題歌を担当するなど、ビートメイカーとしても活躍している。