あたらよはあなたに寄り添う、初の音源集「夜明け前」インタビュー

自信作がそろった「夜明け前」

──ここからは「夜明け前」について聞かせてください。切なさや悲しさが滲む楽曲が中心になっていて、統一感のある作品に仕上がっていますね。

ひとみ 私たち「10月無口な君を忘れる」以外にストックの曲がなかったんですよ。今後どういう曲を作っていくか、どんな方向性に進むかが見えていない中でEPの制作が始まって。なのでテーマやコンセプトというより、とにかく1曲ずつ作って、その結果、作品として通じるものがあったという言い方が正しいかもしれません。

たなぱい 制作はかなり大変でした。みんな必死でしたね。

ひとみ 今できることをすべて詰め込んだというか。ただ、デモをみんなに送る前の段階でボツにした曲もかなりあるんです。曲を送るとみんながアレンジし始めるから、あとで「その曲はやっぱりやめにしよう」なんて言ったら労力が無駄になるじゃないですか。そう思うと、「これならイケる」という自信作しか送れなくて。

あたらよ

──ひとみさんの中で厳選された楽曲が収録されているんですね。ほかの皆さんは「10月無口な君を忘れる」と同じように、歌詞をしっかり咀嚼したうえでアレンジしてるんですか?

たなぱい そうですね。例えば「ピアス」は自分の心を代弁してくれてるような曲で。

ひとみ そうなんだ(笑)。

たなぱい 別れの曲なんですけど、「僕よりもっといい人 見つかるはずだから」という歌詞があって。その言葉に対して女性のほうは、「もっといい人が簡単に見つかるんだったら、そもそもあなたと一緒にいなかった。好きだから一緒にいるのに」と思ってるんですよ。

ひとみ 「だったらそのいい人とやらを 連れてきてよ」って歌ってるからね。

たなぱい 「ピアス」は女性目線の曲ですけど、立場を入れ替えると男性も同じようなことを言われることがあると思うんです。女性にフラれて、しかも「あなたにもっと合う人がいるはず」と告げられことって、ありそうじゃないですか。そうやって自分を主人公に置き換えて聴くと、さらにブッ刺さるんですよ。

──すごい。めちゃくちゃ共感してますね。

ひとみ うれしいですね。ここまで深く歌詞を読み込んでくれたうえでドラムを叩いてくれるので、私が望んだところに望んだ音が入ってくる感覚があって。頼もしいです。

たなぱい 切ない感情を歌ってるときはそういう音色にしたいし、「ふざけんな!」という歌のときは強い音で叩きたくて。たまに「今、違うことを考えてたでしょ」と言われることもありますけど(笑)。

ひとみ たなぱいは考えすぎちゃうことがあって、それも音に出るんですよ(笑)。

まーしー (笑)。「8.8」も思い描いたサウンドが作れたかなと思ってます。

──「8.8」は、恋人と別れた女性が8.8畳の部屋で切ない思いに包まれている姿を描いた曲ですね。

まーしー 主人公の心を表わすために、ガラスが割れるような音を入れていて。アコギのストロークも左右で少しだけ互い違いになっていて、そうやって男女のすれ違いを表現してみました。

──映画やドラマの演出に近いスタンスですよね。アレンジに関して、ひとみさんから方向性を示すこともあるんですか?

ひとみ いえ、基本的には任せています。私が送るデモはシンプルな弾き語りなのですが、各々が感じたままに好きにアレンジしてもらっていて。私のほうから「この曲はこういう思いがあって」と説明しすぎると、それ以上広がらないと思うんですよ。私が想像していない側面から楽曲を捉えて、アレンジしてもらうことで音楽の幅も広がるんじゃないかなって。

たけお 難しいですけどね(笑)。さっき話に出ていた「ピアス」のベースラインにしてもすごく考えて……。それが正解かはわからないけど、感情は込められたと思います。

素直に出てきたものを1つひとつ形に

──曲調の幅も広いですよね。「祥月」「晴るる」のようなアッパーなサウンドの曲もあって。

ひとみ 「祥月」と「晴るる」は、まーしーがデモを作ってくれたんです。ドラム、ベース、ギターが入った音源をくれて「好きなように歌詞とメロディを乗せて」って。

まーしー ひとみみたいな歌詞は自分には書けないですから。バンドとしてやりたいことを形にしたんですけど、メロディと歌詞はひとみに任せたいと思って。ロック寄りの曲でそれまでの作品とジャンルが違うんですけど、「全然イケるよ」と言ってくれて。

ひとみ 「めっちゃロックになっちゃったから、難しかったらボツでいいよ」と言われたんですけど、まーしーが作るデモって情景がすごく浮かぶんですよ。だから「祥月」も「晴るる」も、メロディや歌詞がスッと出てきました。

──ライブ映えしそうな曲ですよね。「夏霞」は、ひとみさんとまーしーさんの歌声が絡み合うのもポイントだと思います。2人で歌うアレンジにしたのはどうしてですか?

ひとみ 「10月無口な君を忘れる」では一部をまーしーに歌ってもらったんですけど、ファンの方から「まーしーさんの歌をもっと聴きたいです」という声がかなりあって。私もまーしーの歌声が好きだし、ガッツリ半分ずつ歌う曲があってもいいなと思ったんです。「夏霞」はピアノのフレーズが合いそうだなと思って、自分で弾きました。

──「嘘つき」も別れを描いた曲です。やはり恋愛における負の部分は、ひとみさんのソングライティングにとって大事な要素なんですね。

ひとみ そうだと思います。基本的に私はハッピーな歌詞が書けなくて。どちらかというと悲しいこと、切ないことで心が動いたときのほうが歌詞や曲が浮かぶ。なので自然とそういう曲が増えるんですよね。今の時点では、無理して明るい曲を書く必要はないかなと思っていて。素直に出てきたものを1つひとつ形にすることが、このバンドらしさにつながるんじゃないかなと。

ファンに音楽を直接届けたい

──「10月無口な君を忘れる」のヒットによって、活動の規模もさらに大きくなっていくと思います。それぞれ今後の目標はありますか?

ひとみ 今は難しいですけど私たちはバンドなので、お客さんのところに音楽を直接届けたいですね。状況が落ち着いたら全国ツアーをやりたい。

たけお うん、ホントにライブをやりたいですね。大勢の人の前で演奏したいです。

たなぱい 失恋ソングを聴きたいときって、寂しいときや悲しいときが多いと思うんです。自分たちの曲を聴いてさらに深みにはまって、たくさん泣いて、スッキリしてほしいなと。ひとみもよく言ってるんですが、聴き手に寄り添える音楽を作っていきたいし、「悲しいときはあたらよの曲が聴きたい」と思ってもらえるバンドになりたいですね。

まーしー ライブでも悲しさや切なさを共有して、「またがんばろう」と思ってほしくて。聴いてくれる人を少しでも救えるようなバンドになることが目標です。

あたらよ
ひとみ(Vo, G)、まーしー(G)、たなぱい(Dr)、たけお(B)の4人からなる“悲しみをたべて育つバンド”。グループ名は“明けるのが惜しいほど美しい夜”という意味の可惜夜に由来している。2020年11月にYouTubeに楽曲を投稿し始め活動を開始する。初のオリジナル曲「10月無口な君を忘れる」は、ひとみのエモーショナルな歌声と、恋人たちの別れの場面を切り取った歌詞がリスナーの共感を呼び、YouTubeでの再生回数は2550万回を突破(2021年10月現在)。2021年3月に本楽曲が配信リリースされると、LINE MUSIC、Spotify、TikTok、AWAなどで1位を獲得した。8月にはYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」に出演。現在「10月無口な君を忘れる」「夏霞」のパフォーマンス映像が公開されている。10月には「10月無口な君を忘れる」を含む7曲入りの音源集「夜明け前」を配信リリースした。