レコーディングの違い
──「PHOENIX PRAYER」のレコーディング現場はいかがでしたか?
藍井 私、カラオケでもCö shu Nieを歌ったりするんですけど、そのときのイメージで歌いました。私らしさを入れつつ、でも、この曲をちゃんと色付かせるために、未来のようなしっかり芯のあるファルセットも目指して歌いましたね。
松本 歌入れの日、楽しかったですよね。
藍井 楽しかった!
中村 私、ディレクションの経験はあまりなかったけど、楽しかったなあ。
松本 エイルさんが最初から曲に対してイメージを持って歌ってくれている感じがして、「僕らの曲をめっちゃ聴いてくれてたんだろうな」と感じました。エイルさん、歌の高低を独特の暗号みたいな感じで紙に書いていましたよね。
藍井 そう、私、楽譜が読めないから、コーラスの部分を覚えるために線で図式化していて。あの図式は私以外の人が読んでも絶対にわからないと思うけど(笑)。
中村 それを知って、ボーカルディレクションのとき、私も手で「ここはこんな感じ」ってやったもん。あのとき、共通言語を持ったよね(笑)。音符が読めない中で、感覚で歌に向き合うのって楽しいだろうなって思う。自分の耳が頼りだよね。
藍井 うん、すっごい集中するけどね。あと、レコーディングのときは未来がずっと甘いお菓子を食べていたのが印象的だった。「こんなに甘いもの好きだったの!?」って。
中村 ね。レコーディングのとき、私が甘いもの好きなのを知って、みんなが甘いものを差し入れしてくれるから、自ずと甘いものが集まってきて。プリンに、シュークリームに、クッキーに、どら焼きに……全部、同じ日に集まるから(笑)。
藍井 甘いもの天国。
松本 逆にエイルさんは、録っているときはあまり食べていなかったですよね。
藍井 うん、食べると喉がカラカラしちゃうから。なので、食べる代わりにコーヒーを飲むかな。なんか、自分の歌を聴いていると眠くなっちゃって。
中村 ええ?(笑) 心地よくて?
藍井 いや……うるさくて。1回、レコーディング中に自分の歌をヘッドフォンで聴いていて、寝落ちしたことがあって(笑)。「今のテイク、どう?」って聞かれて「すいません、寝てました!」みたいな。それからコーヒーを飲むようになった。乾燥しないように水も飲むけど。
松本 眠くなるくらい、歌っているときに集中しているんでしょうね。テイクを確認するときには集中が切れて寝ちゃうんじゃないですか?
中村 そうかも。歌ってめちゃくちゃ体力使うもんね。
藍井 あと、めちゃくちゃ頭も使うよね。「ここで集中して、この抑揚をつけて、ここはこう歌って、ここでリズムキメて……」みたいな。そうやって歌っていると、あとでぐっすりと……。
中村 私は逆に、自分のレコーディング中はハイな状態だから。ほかの人が録っているときも目を光らせて頭使っていて、ずっとハイ(笑)。
藍井 未来は自分で曲を作るから、その曲をどう歌うかも頭の中にある状態だもんね。しかも、アレンジも自分でやるし。私はアレンジが自分でできないから、アレンジでどういう音が鳴っているかは完成してみないとわからなくて。だから、どう歌うかをイチから考えるのが当たり前になってる。
松本 僕らは完成に向けて構築しながら録るから、そこはまったく違いますよね。
透き通るような声がうらやましい
──藍井さんはCö shu Nieの「SAKURA BURST」を聴かれて、どんな印象を受けましたか?
藍井 「めっちゃカッコいい!」と思いました。頭から離れないのは、歌詞の「WARIKAN DARK」というところ。私もスタッフも「『WARIKAN』って、あの『割り勘』?」って驚きました。これが思いつくのがすごすぎる。あと、今回はお互い「コードギアス」の曲を歌っているので、「SAKURA BURST」の歌詞を見たとき、「あ、ルルーシュのことだ」ってわかりました。
中村 うれしい。
藍井 あとはやっぱり、声が美しすぎる。未来の声はすごく透き通っている。逆に私の声はローミディアムが強めなんです。私は自分の声がコンプレックスだし、ずっとピーンとした声に憧れがあって。私には、未来のような声って絶対に出せないんですよね。
中村 それは逆も然りよ。
藍井 ないものねだりかもしれないけどね。でも、例えばお店でCö shu Nieの曲が流れていても、未来の声はすごく聴き取れる。ハイが強い人の歌って、街頭で聴いても聴き取りやすいんだよね。でも、私みたいにローやミディアムが多めの成分の声って、流れちゃったり、混ざっちゃったりする。店員さんを呼ぶときもそう。「すいません」って言っても全然来てくれない(笑)。
松本 確かに、監督が呼んだら絶対に店員さんが来てくれます(笑)。
藍井 そう、だから、その透き通るような声がすごくうらやましいなと思って聴いていました。
中村 でも、声質も含めてエイルの母性につながっているんだと思う。雰囲気の温かさ、安定感って歌にとってすごく大切なことだし、狙って出せるものではないから。「PHOENIX PRAYER」のボーカルを録るとき、かなりハイ寄りのマイクを使ったけど、それでもエイルの中音域は死なないし。
松本 うん、あのマイクでしっかりローが出るのはすごいですよ。エイルさんの個性がまったく死んでなかった。僕、ライブを観たとき、エイルさんの声が本当に素敵だなって思ったんです。変な例えですけど、マンガとかで出てくる隣の家に住んでいる憧れのお姉さん、みたいな。
藍井 ありがとうございます。実は、もともと声はキンキンしていたんです。でも、ポリープが3つできちゃって、それを全部取って。
中村 え、いつの話?
藍井 「IGNITE」(2014年8月発売のシングル表題曲)という曲を歌ったあと。手術のあとは3日間しゃべっちゃダメ、3週間歌っちゃダメ、ひそひそ話は絶対にダメっていう時期があって。そのあと、声が変わっちゃったんだよね。「ラピスラズリ」っていう曲があるんだけど、その曲から声は変わってる。ロー気味になって、ピーンとした成分がなくなっちゃった。
中村 その声を生かす音楽はいっぱいあるよ。
私が作るものに出るのは、私の人生なんだと思う
──話を聞いていると、本人がコンプレックスだと思っている部分が、実は周りから見ると得も言われぬ個性になっていたりするのかなと思いました。Cö shu Nieのお二人にそういう部分はありますか?
松本 僕の場合は、世界で活躍しているベースプレイヤーを見ると、手は大きいし指も太いし、「持っている楽器が違うんじゃない?」というくらい、パワーの違いを感じることがあって。もちろん指が細くてうまい人もいるんですけど、そもそも体の大きい人を見ると、「生き物として違うな」と感じたりしますね。そういう意味では、体が大きい人には憧れます。指、あと3倍くらい大きくならないかなって(笑)。
中村 体格差はどうしてもね。私の場合は、私が作っている音楽がいわゆるダークファンタジー的なものと親和性が高くなったのって、やっぱり私の人生、生きてきた道ゆえだと思うんですよね。なので、違う生き方をしてみたいという気持ちはあるかな。そのうえで音楽を作ってみたい。今でもいろんなジャンルの曲を作ろうとするし、もっと世界が広がればいいなと思うけど、結局人は1つの人生しか生きることができないから。私の音楽は全部、私からしか生まれない。だからこそ、違う人生から音楽を作り出せたら楽しいだろうなって思う。
藍井 どういう人生だったら、今と違う音楽が作れると思う?
中村 そうね……私、学生時代はずっと1人だったけど、そういうタイプじゃなければ「みんなでパーティしようぜ!」みたいな音楽を作れたのかな。例えばルイス・コールみたいな人を見ていると、めちゃくちゃ楽しそうに、面白い音楽を作っている。ああいう姿を見ると、「うわっ、おもろ!」と思うんだけど、「これ、今の人生の私ができる?」と思っちゃう(笑)。やりたいし、私もどこで変わるかわからないけど、ルイス・コールの音楽はルイス・コールの音楽だし。やっぱり心根って音楽に出るんだよね。サウンドから、リズムから、歌から、全部にその人の人生が出る。そう考えると、私は日本で生まれて、日本で育ったことがルーツとして大きいし、私が作るものに出るのは私の人生なんだと思う。それは強みであり、魂でもあるけど、やっぱりないものねだりをしちゃうときもあるよね。
藍井 ちなみに私も、学生時代は1人でお弁当食べてた(笑)。
中村 (笑)。何かに無償で受け入れてもらえた過去があるかどうかって、のちのちの人生に響いてくるような気がするよね。
藍井 それは思う。人格に影響するよね。
中村 ただ、今の私たちにはファンの人たちがいて、受け入れてくれて、楽しんでくれて、それがすごく幸せで。それは後天的にもらった愛だけど、そこで育つものもあるなって思う。
藍井 こんなに愛情をもらっているんだったら、幼少期や学生時代に愛情をもらっていなくても、今、十分幸せだなって私も思うな。
中村 幸せだよね。
藍井 うん。結果的にこんなに愛をもらえるのならね。
中村 その気持ちがあるから、ずっと音楽を届け続けたいです。
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音楽愛を試された10年だった