内澤崇仁(androp)×月川翔(映画監督) | 音楽と映像の理想的な作り方

経験があるから生み出せたシンプルなアプローチ

──そのandropのニューアルバム「cocoon」が完成しました。まずは内澤さん、タイトルの由来について教えてもらえますか?

内澤 2017年はandropにとって、新しい一歩を踏み出した年だったんですね。しばらくインディーズで活動していて、シングル「Prism」からもう一度メジャーレーベルとタッグを組んで。その後も「新しい挑戦をしたい」という気持ちで活動を続けてきたんですが、1音1音を重ねながら音楽を作り上げてきたことが、蚕が糸を出して繭を作る感じに似ているなと思ったんです。そこから「cocoon」というタイトルがいいなと。

月川 なるほど、最初から「cocoon」にするべく曲を作っていたわけではないんですね。今、内澤さんから挑戦という言葉が出ましたけど、アルバムを聴かせてもらって「アプローチはすごくシンプルだな」と感じたんですよ。

内澤 そう、削ぎ落としてますからね。月川さんがandropを知ってくれた2011年あたりはかなり音数が多くて、これでもかと詰め込んでいた時期だったんです。それに比べると今回は音を削ぎ落とした曲が多いので。そこは全然違いますね。

月川 シンプルなバンドサウンドですよね。映像制作に例えると「いくつもフィルターを入れて複雑にしたい」という時期を経て、「撮ったままの画でいい」という感じになったと言うか。

内澤 まさに。素材のよさを生かすためには、自信や経験も必要だと思うんです。「これでいいんだ」という確信がなければ、そういうシンプルなアプローチはできないので。バンドを組んで9年になるんですけど、1つ1つの音の強さを信じられるようになったし、ようやく「このままで大丈夫」と納得して出せるようになったんだと思います。去年はアコースティックライブも経験したし、表現の選択肢が増えたことも大きいですね。

月川 そう、いろんな経験を経たからこそ、このアルバムがあるんだと思います。andropが最初からシンプルな音を目指してたら「納得いかないな」と思ったかも(笑)。

内澤 ははははは(笑)。でも、ホントにそうですよね。

月川翔

月川 経験を重ねて、いろいろなことができる中で、シンプルなアプローチを選んだと言うか。大学生の頃Radioheadをよく聴いたんですけど、彼らもどんどん変化するじゃないですか。「Kid A」を聴いたときは「こんな感じになったんだ!?」と驚いたし。今回の「cocoon」はRadioheadで言うと「Hail to the Thief」ですよね。エレクトロニカに振り切ったあと、またバンドサウンドに戻ってきたと言うか。

内澤 すごい! 音楽評論家よりも評論家らしい(笑)。

月川 いえいえ(笑)。でも「cocoon」はただ昔に戻ったわけではないんですよね。サウンドはシンプルだけど、以前よりも一段高みに上っているので。アルバムの流れもいいんですよ。「Prism」でスタートして、「Joker」あたりでシリアスになって、「SOS! feat. Creepy Nuts」のような楽しい曲もあって、最後の「Ao」「Memento mori with Aimer」で切ない雰囲気になって、アルバムが終わるのが寂しい気持ちにさせられるっていう。

内澤 曲順もすごく考えましたね。今の時代はサブスクリプションなどで1曲ずつ聴かれることが多いけど、だからこそアルバムの流れを重要視したかったし、1つのストーリーとして聴いてもらいたいので。ライブのセットリストも同じですね。会場に来てくれる人たちの気持ちの動き方を考えながら、曲順を決めるので。

──「Hanabi」のように歌の強さをしっかり押し出した曲も、このアルバムの魅力だと思います。

内澤 もともと僕は斬新なアプローチの曲が好きで、いわゆるバラード、歌モノと呼ばれる曲がちょっと苦手だったんです。ゆったりしたバラードをやるときも、ドラムが高速でドカドカ鳴ってるとか、ヒネったアレンジをすることが多くて。でも最近は「この曲はしっかり歌を聴かせよう」と思えるようになったんですよね。「Hanabi」もギミックは全然使ってなくて、歌のメッセージを真ん中に置いて「これをしっかり聴かせるアレンジはどうあるべきか?」ということを考えながら作ったので。大人になったということかな(笑)。

月川 それもあるのかも(笑)。andropの楽曲はもともと歌とメロディが強いし、ギミックが多いというイメージは全然ないですけどね。「Joker」が主題歌になってる「伊藤くんA to E」のプロデューサーと話したときに「内澤さんは小さい頃にCarpentersを聴いてたみたいだよ」と聞いて、すごく納得したんですよ。温かくて、すごく響く歌が根っこにあるんだなって。

内澤 Carpentersは両親が好きで、僕も小さい頃にずっと聴いていたんです。英語だから歌詞の意味はわからないんだけど、メロディを聴くだけで情景が浮かんできて。その影響はあると思いますね。

月川 時代に関係ない、普遍的な魅力がありますからね。それは「Hanabi」からも感じました。

androp「cocoon」
2018年3月7日発売 / image world / ZEN MUSIC
androp「cocoon」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
4212円 / UPCH-7399

Amazon.co.jp

androp「cocoon」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / UPCH-2152

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CD収録曲
  1. Prism
  2. Arigato
  3. Joker
  4. Hanabi
  5. Sorry
  6. Catch Me
  7. Sleepwalker
  8. Kitakaze san
  9. SOS! feat. Creepy Nuts
  10. Proust
  11. Ao
  12. Memento mori with Aimer

bonus track

  1. Tokei(album ver.)※通常盤のみ収録
初回限定盤DVD収録内容

studio live

  • Catch Me
  • Proust
  • Hanabi
  • SOS!
one-man live tour 2018 "cocoon"
  • 2018年4月28日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2018年5月3日(木・祝)宮城県 電力ホール
  • 2018年5月12日(土)福岡県 福岡国際会議場
  • 2018年5月26日(土)大阪府 NHK大阪ホール
  • 2018年6月3日(日)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
androp(アンドロップ)
androp
内澤崇仁(Vo, G)、佐藤拓也(G, Key)、前田恭介(B)、伊藤彬彦(Dr)の4人組ロックバンド。2009年12月に1stアルバム「anew」でデビュー。2011年2月にメジャー第1弾作品となる3rdアルバム「door」をリリースした。2014年3月には東京・国立代々木競技場第一体育館で行われた初のアリーナ単独公演を実施。2016年3月に自主レーベル・image worldを設立し、10月には4thアルバム「blue」を発売。2017年2月からはユニバーサルミュージック内のZEN MUSICとタッグを組み、シングル「Prism」をリリース。さらに初のコラボ楽曲「SOS! feat. Creepy Nuts」の発表、東京・日比谷野外大音楽堂での初の野外ワンマンライブなど精力的な活動を展開した。内澤は楽曲提供も多数行っており、これまでに柴咲コウ「EUPHORIA」「ラブサーチライト」、Aimer「カタオモイ」「twoface」などを手がけている。2017年2月公開の映画「君と100回目の恋」では、劇中バンドのThe STROBOSCORPが歌う「アイオクリ」を作曲した。2018年1月には映画「伊藤くん A to E」の主題歌として書き下ろした「Joker」をシングルリリース。3月に約3年ぶりのアルバム「cocoon」を発表し、4月より全国ワンマンツアーを行う。
月川翔(ツキカワショウ)
1982年8月5日生まれの映画監督。東京芸術大学大学院映像研究科修了。在学中は、教授である黒沢清や北野武のもとで「心」など4作品を制作する。ウォン・カーウァイ、ソフィア・コッポラらが審査員を務めた「LOUIS VUITTON Journeys Awards 2009」にて審査員グランプリに輝き、「グッドカミング~トオルとネコ、たまに猫~」で「SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2012」のミュージックShort部門シネマティックアワード・優秀賞を受賞した。これまでの監督作に「君と100回目の恋」「君の膵臓をたべたい」、ドラマ「ダメな私に恋してください」などがある。4月には菅田将暉と土屋太鳳のダブル主演作「となりの怪物くん」が公開。その後は竹内涼真と浜辺美波出演の「センセイ君主」、秋には「響 - HIBIKI -」の公開も控えている。