音楽ナタリー Power Push - anderlust

“旅の始まり”の1年を振り返って

詞を付けていくのって、絵を描く感覚と似ている

──2曲目に収録される「ヒカリ」はSONY「ハイレゾ級ワイヤレス」シリーズのCMソングとして使われているナンバーですね。

越野 はい。この曲は2ndシングルの「いつかの自分」と同じ時期にできた曲で。今回CMソングに決まったので、CMの世界観に合うように歌詞を変えたりしました。明日が見えず「どう生きていったらいいんだろう」と希望が薄らいでいる人が、誰かや何かに出会ったことで光を見つけて前進していく様子を歌った希望の歌になっています。

──「ヒカリ」も曲が先にあったんですか?

越野 はい。私、詞先で書いたことがないんです。「詞先もできるようになったらいいな」と思うんですけどね。曲に詞を付けていくのって、なんだか絵を描く感覚と似ているんですよ。使うのが視覚なのか聴覚なのかの違いというか。最初は模写みたいな感じで、曲の輪郭をなぞるように詞を書いていくんです。あと、メロディを考えたときに適当に付けた言葉をそのまま使うこともあるし。「Stay With Me ep. 2」のサビなんかはそうですね。

anderlust

──越野さんは、どういったシチュエーションで歌詞を書くことが多いんですか?

越野 最近は机に向かって書くことが多くなりました。PCを持って図書館やカフェに行ったり、スタジオに籠ったり。今回の作品で言うと「友達のふり」と「Stay With Me ep. 2」は何を伝えたいかをすごく意識して、何度も何度も書き直しました。

──「友達のふり」と「Stay With Me ep. 2」は、男女の心のすれ違いを描いた切ないラブソングですよね。「友達のふり」のサウンドでこだわったのはどんなところでしょう?

越野 どこか懐かしさを感じるような音作りをしていきました。

西塚 そうですね。最初に聴いたときにレトロな質感の音が合う曲だなと思ったので、僕はビンテージのベースを使ったり、真空管のDIを通したりして、温かみのあるサウンドを目指しました。

──越野さんの歌声も曲ごとに印象が変わるというか。「友達のふり」の切なさを感じるボーカルは印象的でした。

越野 ありがとうございます! 歌声の表現を変えることは、今回かなり意識したんです。「友達のふり」では、自分の一番弱い部分を前面に出すように……過去の失恋を思い出しまくったり(笑)、寒い季節の心細い気持ちをイメージしたりして。だけど、か弱すぎないように、芯を残すようにって。

──そういった歌声の表現については、小林さんからはディレクションがあったりするんですか?

越野 特にないんですよ。レコーディングの現場にもいらっしゃらないので。もちろん聴いてくれているとは思うんですけど、特に「もっとこうして」っていうような指示もないので……今のところは、たぶんOKなんだと思います(笑)。

──なるほど(笑)。では西塚さんは越野さんの歌声を、どう感じていますか?

西塚 リラックスしているときの柔らかい声もいいと思うし、アップテンポな曲で地声を張っているときの声もいいし、いろんな表情を持っていますよね。そもそも僕は以前から「いい声だな」と感じていたので、彼女の歌声はanderlustの大きな武器だと思います。

越野 やだ、にやける!(笑)

妄想が爆発しちゃう

──そして、通常盤の4曲目に収録されている「Stay With Me ep. 2」は越野さんが作詞作曲をされた曲です。この曲はいつ頃作ったものなんですか?

越野 ちゃんとした時期は覚えてないんですよ。この曲は、たくさんあるストックの中から選んできた曲です。私、ちょっとした遊び心から曲を作ることが多いんですけど、この曲はテイラー・スウィフトを意識して書いた記憶があります。

──そうなんですね。

anderlust

越野 彼女の「RED」っていうアルバムの中に「Stay Stay Stay」っていう曲が入っていて。その曲をイメージしながら書きました。それを今回、ブラッシュアップして。

──歌詞については?

越野 これも切ない歌なんですけど、友達から聞いた恋愛の話をベースに書きました。「彼のことを好きで好きでしょうがないけど、どうしたら嫌われずにいられるんだろう?」って泣きながら私に相談してくれた友達がいて。彼女の不安な気持ちをうまく表現できたらと思ったんです。「友達のふり」とはまた違う寂しさを盛り込んで。

──明るい曲調と切ない歌詞とのギャップが印象的でした。

越野 そうなんです。曲調は明るく、モータウンサウンドをイメージして書いていったんですけど、歌詞は切なくしたかったんです。それは小林さんとも相談して、小林さんも「それがいいと思う」と言ってくれたので、そこからは一気に書き上げました。でも最初の歌詞はすごく残酷になってしまって、いしわたりさんが「普通の人はこんな経験しないよ」って(笑)。私、どうしても妄想が爆発しちゃうみたいで。そこはいしわたりさんがうまく調整してくれました。

──そうだったんですね。

越野 そう、この曲は真吾さんがアレンジに入ってくれたんです。私の作ったデモをガッと直してくれたんですけど、最初に聴いたとき、すごくカッコよくなっていたから本当にびっくりして。もう、「これからもぜひたくさんアレンジして!」って感じです!

西塚 ……(笑)。

歌詞に対する意識

──そうして3枚目の作品が完成したわけですが、デビュー当初の制作の作業と比べて変わったことはあったりしますか?

越野 歌詞に対する意識が確実に変わりました。洋楽を聴いて育ったからかもしれないけれど、私は以前のほうが歌詞に重点を置いていなかった。これまでももちろん自分の深いところから言葉を生み出しているつもりだったけど、今は「深みが増したんじゃないかな?」って思います。

──その意識の変化には、何かきっかけがあったんですか?

越野 デビューさせてもらって、自分のファンの皆さんが「どうやって自分の音楽を聴いてくれているんだろう?」って考えたときに、皆さん歌詞をよく読んでいるなって気付いたんですよ。それからは、自分の歌詞に対する重点の置き方を改めました。

──そうだったんですね。では、西塚さんはいかがでしょう?

西塚 僕は当初、歌と同じくらいにベースの存在感を出そうと意識しすぎてトゥーマッチになってしまうことがあったんです。けれど、だんだん2人のバランスがわかってきたというか。無理をせず、自分の中にあるものを表現できるようになってきた感覚はありますね。

──では、2人のコンビネーションも変わってきた?

anderlust

越野 今はすごく安定していると思います。真吾さんが隣にいると、安心するような感覚があって。だからライブをしていても楽しいです。例えば自分が失敗しても、隣で真吾さんが楽しそうにしていたら「もう大丈夫だ!」ってなるというか(笑)。

西塚 昔からなんですけど、彼女MCで爆弾発言とか間違った発言をするんですよ。僕はそれを訂正する役割というか……だから僕は常にハラハラしてますよ(笑)。

越野 あざっす!(笑) いつ暴れ玉を投げてくるかわからないからね。

西塚 そうそう。でも、そういったところもライブ感があっていいと思いますよ。

ニューシングル「Scrap & Build」 / 2016年12月14日発売 / Sony Music Records
初回限定盤 [CD+DVD] 1620円 / SRCL-9234~5
通常盤 [CD] 1400円 / SRCL-9236
初回限定盤CD収録曲
  1. Scrap & Build
  2. ヒカリ
  3. 友達のふり
初回限定盤DVD収録内容
  1. ヒカリ Music Video
  2. anderlust プレミアム LINE LIVE Swallowtail Butterfly ~あいのうた~
  3. anderlust プレミアム LINE LIVE 若者のすべて
  4. anderlust プレミアム LINE LIVE いつかの自分
通常盤CD収録曲
  1. Scrap & Build
  2. ヒカリ
  3. 友達のふり
  4. Stay With Me ep. 2
  5. Scrap & Build ~Instrumental~
  6. ヒカリ ~Instrumental~
anderlust(アンダーラスト)
anderlust

シンガーソングライターの越野アンナ(Vo)と、ベーシストおよびアレンジャーの西塚真吾(B)によるユニット。2014年に「NYLON JAPAN」とソニーミュージックが主催したオーディション「JAM」のミュージック・パフォーマンス部門でNYLON賞を受賞した越野が、ライブを通じて知り合った西塚とともに立ち上げた。2016年3月に小林武史がプロデュースしたシングル「帰り道」でメジャーデビュー。8月には2ndシングル「いつかの自分」を発表した。12月に3rdシングル「Scrap & Build」を発表。収録曲の「ヒカリ」はSONY「ハイレゾ級ワイヤレス」シリーズのCMソングに決定した。